04 (親父のギャング銃)
的射銃砲店
「おっ…ナオ、射撃練習かぁ?」
受付のテーブルの上で銃の組み立てをしているマトイがナオに言う。
「ああ…」
「悪いんやけどぉ少し待ってて来んないか?
今ぁ手ぇ離せないんや…」
「別に構わないが…」
誰の銃だ?
手に持てるマシンピストルサイズだと言う事は、銃身長の制限をモロに喰らっている一般の客じゃないはず…。
「誰だ?このギャング銃の射手は?」
オレが受付に近寄ってマトイに聞く。
「おっ この銃ぅ知ってるんかぁ?」
「ああ…TEC-9だろ。
アメリカのギャングが使っている」
「せや、厳密には その後継機のぉAB-10の45口径 改造仕様やなぁ…。
まぁウチも TEC-9の愛称で登録するつもりやけどぉ」
「それで射手は?」
「ユキナやぁ、前回の戦闘でM3グリースが撃たれたやろぉ…」
「ああ…弾は 出たらしいが…」
「5.56mmを掠った上ぇ、とっさにM3グリースで思いっきり敵を殴ったらしいぃ。
基礎フレームが 許容範囲を超えて曲がったんよぉ。
まぁM3グリースはぁ、多少 破損してもぉ弾だけは 出る様に設計されているんやけどぉ…真っすぐ飛ぶかは、もう怪しいなぁ…。
とぉ言う訳でぇ、この度、銃がぁお亡くなりにぃなりましたぁ」
「それで新しい銃か…。」
「そぉまだぁ色々な所にぃ在庫ぉ残ってるんやけどぉ審査を無理やりぃ通すんのが 面倒でぇユキナに銃を変えて貰ったんよ」
「何処が問題だったんだ?」
「セーフティ周りもそうやけどぉ、オープンボルト方式って所が、キツかったなぁ。
アレって…簡単にぃフルオート改造出来るんもんでぇ正規銃ではぁもう使われて無いんよ。
元々、この銃もオープンボルトでなぁ…ギャングがフルオート改造して殺しまくるんで、クローズドに変えられたんや…まぁあんまし、意味ぃ無かったんやけどぉ…」
「これ、シンプルブローバック方式だよな。
随分と簡単な構造だけど、コレでちゃんと動くのか?」
見た限り、仕組み自体は 理解出来るが、こんなにシンプルで撃てるのかと疑ってしまう位、パーツ数が少ない。
「動くねぇ…これはぁM3グリースの親戚筋やから、めっちゃ安くてぇ整備性も良いぃ…。
本家はぁ大量生産が出来るぅプレス加工やけどぉ、こっちは 職人の削り出しぃやから精度も良ぉなぁてる」
ストックは M3グリースでおなじみの伸縮式ストックが取り付けられ、最後に ピカティニーレールを無理やり取り付けて、その上からダットサイトを乗せる。
銃身には サプレッサーやロングバレルなどを取り付ける為のスクリューキャップが付いていて、それをキャップでカバーして完成だ。
「完成やなぁ…それにしてもぉ遅いなぁユキナのヤツぅ…午後にぃ顔出すって言ってたんやけどぉ」
「あ~悪い悪い…道が混んでいてな。」
的射銃砲店のドアを開けて、ユキナが入って来る。
「限定解除はぁ出来たんか?」
「ああ、これ…」
ユキナが免許を見せる。
「ほな良かたぁ…それじゃあ、ウチからのぉプレゼントやぁ…。
射手が死ぬよりぃはマシやがぁ、今度はぁ大事にしぃ…銃を粗末に扱うとぉ、ここでって時でぇ嫌われるでぇ…」
「分かってる…ありがとう…TEC-9はもう撃てるのか?」
「ああ、大丈夫やでぇ…弾用意するからチト待ちぃやぁ…」
「頼む」
「それとナオぉ鍵…」
「あ~はい」
オレはマトイにロッカーの鍵を渡す。
「そう言えば、ユキナは 何でTEC-9にしたんだ?
もっと良い銃はあったってのに…」
「あ?いや、これ親父の銃だからな。
昔、これで カチコミに行ってたんだ。
流石にもう銃をぶっ放す歳でも無いんで、貰って マトイに細かい所を改造して貰った。」
「親父の銃か…」
「ほい、ナオは 30発ぅ…ユキナは150発やねぇ…。」
「やっぱり少ないな…」
オレは電子書類にサインをする。
「それだけぇ練習を減らしてぇも、大丈夫になったって事やぁ…。
感覚ぅ維持するだけぇなら、週1で十分やからなぁ…。」
毎日ウージーマシンピストルを撃っていたオレだが、最近は週1のペースまで 落ちて来ている。
これは 銃自体が オレの手に馴染んで、合格点を安定して出せる様になったので、後は 銃の感覚を忘れない様にする為に週1での射撃訓練となっている。
ちなみに 殺し専門のオレ達とは違い、危険度が低い一般武装警備員は、月1で射撃訓練をし、合格点を出す事を義務付けられている。
まぁ銃のパーツの消耗と弾のコストを抑える為だな。
「まぁ本番前はぁ制限無しで撃って良いからぁ、当分、出動は 来ぃひんだろうしぃ…。
それと今日は 分解整備ぃやってみよか」
「オレがか?…分かった。」
「あっマトイ、アタシの銃の設定は?」
銃を握ったユキナが言う。
「そのまま やでぇ…ただぁ 銃が変わったからぁ 細かい違いが 出てるはずぅ…特にオープンからクローズドはぁ違和感があると思うでぇ」
「分かった。」
バンバンバン…。
「はい、ナオ、合格点 クリアやぁ…良い点 出てるでぇ」
「まぁ50m以内ならな…次、200m狙撃行くよ」
バンバンバン…。
「はいぃクリア…なんや、当たるやん」
「そりぁ人の何処かに当てるだけならな。
頭を狙っているのに中々当たらない。」
「有効射程って言うのはぁ敵のどっかに当たるか やからなぁ…。
ナオは 十分な性能を出してるぅ…。」
「だと良いんだけど…さて分解か…ユキナは?」
「良い点出してるでぇ…これ見てや」
「おっ凄っ」
ハイスピードカメラで取っているってのに、筋肉質の腕と肩で反動を完全に受け止め、45口径のハイパワー弾と使っているってのに殆ど銃にブレがない。
「オープンボルトやと 発射までに僅かなタイムラグがあるからぁ、ちゃんと姿勢を維持せんと当たらんのやなぁ…。
だから、クローズドになるとぉ、途端に命中率がぁ良くなるぅ。」
「あっ…」
ユキナが唐突に言う。
如何やら リロード時に銃をひっくり返して、排莢部に手を突っ込もうと したらしい。
M3グリースの場合、コッキングレバーが無く、排莢部に直接指を突っ込み、前に行ったボルトを引き戻す 仕組みになっているので、単純に今までの癖で間違えたのだろう。
左手でコッキングレバーを引き、マガジンの装填が完了…撃ち続ける。
「後は慣れかなぁ」
銃を撃ち終えたユキナは、マガジンを外して残弾を確認し、シューティングレンジのドアを開けて出て来た。
「ほな感想は?」
「ああ良いよ…連射速度も丁度良い…毎分400か?」
「そや ろうなぁ」
「後、トリガープルを3㎏まで落として…多分、違和感が それで消える。」
「分かったぁやっておくぅ」
「それじゃあ、よろしく」
ユキナは 受付に銃を返し、返却用の電子書類にサインをして、出て行く。
「それじゃあ、ちょ待てな」
マトイは ユキナの銃をしまう…夕飯の時にユキナに渡すのだろう…鍵はポケットに入れる。
「さて、分解やぁシッカリしぃや」
シンプルブローバックの基本構造は 知っている為、オレは簡単に分解して可動部分を掃除して油を挿して行く。
実際、少し厄介なのはトリガー回り位で、そこまで難しい構造の銃じゃない。
「なあ、なんでオレが整備をするんだ?
いつも、マトイがやってるだろ」
「別にぃウチが やっても良いんやけどなぁ。
作戦が 長引けばぁ銃を分解してぇ掃除する必要が出て来るぅだろうしぃ、それにぃ」
「それに?」
「自分の道具はぁ自分でぇ最終点検して欲しい。
もちろん、ウチは ミスせぇへん。
せやけど、ウチやて人やから、もしかしたら 何かしらミスしてるかもしれん。
ウチのミスでぇナオが死んでもぉ ウチは、泣いてやる事位しか出来へんからな…。」
「射手が最終確認をするから、死んでも自己責任って事か?」
「そこまでぇいーへんけどなぁ…。
少なくともぉジャムって死ぬ時はぁやり切れんだろうなぁ」
「分かったよ…まぁ必要な事だからな。」
オレはそう言うと、今度は ウージーマシンピストルの組み立てを始めた。




