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03 (もう1つの せんじょう)

 数日後

 ナオ(オレ)は、白い化学防護服とガスマスクを着せられ、『ミハル清掃』と側面に書かれたワンボックスカーの助手席に乗せられる。

 他のメンバー2人は、その後ろの席で、更に後ろには 清掃用具が積まれている。

「それで、現場の仕事ってのは?」

 オレは隣で運転をしているミハルに聞く。

「今回の仕事は 特殊清掃…つまり、死体の始末だ。

 この2人は、アンタが殺した機動隊の死体を処分してくれた この道のエキスパート…。

 まぁ…アレには、従業員の大半が参加したけど…」

「そこまでは、装備から分かる。

 聞きたいのは 現場の状況だ。

 殺しか?」

「いや…対象は、70代男性の生活保護 受給者、死因は孤独死…。

 そうだな…最初から説明しよう…。

 私は 不動産業も やっているんだが…」

「本当に手広いな」

「まぁね…。

 不動産での利益の出し方は、土地を買って、そこに家を建てて、人を住ませて、家賃で儲ける。

 ここまでは 大丈夫か?」

「ああ…」

「で、ミハル不動産が取り扱っている建物ってのは、生活保護 受給者の為の家…いわゆる『ナマポハウス』ってヤツだ。」

「生活保護ビジネスか…」

「まぁアレ程、ヒドくは 無いんだけどな。

 建物はしっかりしているし、狭いけど エアコンに風呂、ネット回線も付いている。

 一人暮らしとしてなら、そこまで 不自由はない。」

「じゃあ、なんで 生活保護 自給者をターゲットに?」

「家賃で儲ける条件は『空き家を極力 出さない事』『家賃滞納者を出さない事』…この2つだ。

 これが バイトなんかの非正規労働者だと、毎月の収入が一定じゃないから、滞納する可能性が出て来る。

 だけど生活保護 受給者なら、毎月滞納が無く 国がちゃんと家賃を振り込んでくれるから、安定収入が期待 出来る。

 ちなみにウチだと、孤独死した時の死体の始末や清掃、簡易葬式のサービスもやっているから、年配の生活保護 受給者が生まれると、市から ウチの不動産を紹介してくれる体制が整っている。」

「家賃は?」

「土地にもよるけど、3万から4万位かな。

 後、死体の始末、清掃、葬儀が別料金で30万…これも国から出てる。

 不動産に役所に受給者…誰もが得をするシステムだ。」

「本当に しっかりしているんだな…。」

「まぁ低所得者を救うには、政府と利害関係を結んで 既得権益化してしまうのが 一番 手っ取り早いからな。

 おっそろそろだな。」

 駅からは離れているが、近くにバス停があるアパートで、3部屋 2階建ての合計6室…。

 その201号室が孤独死した老人が住んでいた部屋だ。

「老人が死んでから、おおよそ2日…。

 エアコンは 付けっぱなし、死後48時間が過ぎているから、死体は既に腐敗が進んでいると思われる。

 ナオは 今回は あくまで慣らしだから、現場を観察しながら 言われた事だけ手伝っていれば良い。

 それじゃあ、ガスマスクを付けて手早くやろう…。

 ナオは私の後ろから付いて来て」

「了解…」

 ミハルがガチャリとスペアキーを使ってドアを開ける。

「突入…」

 清掃員が写真を取りながらオレは後に付いて行き中に入る。

 玄関を入ってすぐ横には、トイレと風呂が一体化したバスルームがあり、反対側には洗濯機と冷蔵庫、それに流し台がある。

 それと 中身が入った大きなゴミ袋が、3袋積まれている。

 奥の8畳位のサイズの部屋には、エアコンの音がしており、丸型の警光灯の豆電球が ()いたままだ。

 そして ベッドには 毛布を被った老人が寝転がっている。

「寝たまま死んだ みたいだな。

 死亡確認を取って…」

「了解…」

 清掃員が毛布を取り、肌が青白く一発で死体だと分かる老人の脈拍、呼吸の有無、目を無理やりこじ開けて、ライトを当て瞳孔が動くか確認をする。

「本人の死亡を確定…14:30…お疲れ様でした。」

 証拠の写真を取って、清掃員2人が手を合わせ、ミハルは 指を組んで祈る。

「う~ん…」

「ナオも手を合わせろ…」

「オレは どの神も信じちゃいない。

 祈ったら嘘になる。」

「そっか…なら良い…死体袋を出してくれるか?」

「分かった。」

 オレは 死体袋を狭い部屋の中で広げる。

「死体は2人で丁重に入れる事。

 腐敗の度合いによっては 骨折する事もある。

 今回は腐敗の度合いは まだマシだな…エアコンが付いていたからか…。」

 老人の死体は、身体の中にあった糞尿が垂れ流しになっており、ガスマスクのお陰で(さいわ)い異臭はしない。

「身体が少し膨らんでいるだろう…。

 これは体内で発生する腐敗ガスだ。

 時間が経つと どんどんと膨らんで行く、夏場とかだと、(ウジ)が湧く事もある。」

「まずは、窓を開けたり、換気扇を回して換気か?」

「いや…このままで行く。

 死臭は酷く残るから、換気をすると ご近所に迷惑が掛かる。」

「行くよ」「はい」「「せーの」」

 清掃員2人が老人を持ち上げ、死体袋の中に入れる。

「それじゃあ、ナオは袋の脚を…私は頭を持つ」

「了解…」

 オレとミハルは死体袋を持って2人で階段をおり、ワンボックスカーの荷台に袋を固定する。

「これ…警察による現場検証とかは良いのか?」

「部屋に取り付けられているセンサーで、死亡の確認が取れていたからな。

 一応、事件性があるかもしれないから、写真を取って後で警察に提出する事になっている。

 今は、よほどの事件性が無いと検視なんてしないから、死体は火葬しちゃって大丈夫…。

 事件性があった場合は、後日事情聴取かな…さて、本格的に清掃するぞ」

「ああ…」

 オレがそう答えると、ミハルと一緒に部屋の清掃に向かった。


 数時間後…。

「やっと終わった~」

「時間通りだな…さあ、火葬場まで直行だ。」

 オレ達はワンボックスカーに乗って火葬場まで行き、死体袋を従業員に引き渡す。

「これで、仕事は終わりだな…」

「いや…最後に会社に戻って車と私達の洗浄…ガスマスク外してみ…」

「うわっ…」

 死臭か?…それに糞尿をぶちまけた様な臭いもしている。

 発生源は勿論、荷台だ。

「仕事してれば その内、臭いには慣れるけど、今度は 自分の臭いに気付かなくなる。

 帰ったらシャワーで徹底的に身体を洗う…良いな」

「分かった。」

 オレ達は人を殺す仕事をしている。

 だが、オレ達が敵を撃ち殺して それで終わりでは無く、後に それを始末してくれる業者が必ず来る。

 ここは もう1つの戦場だ。

 オレはそんな事を思いつつ、ミハル警備の寮に戻るのだった。

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