25 (突入作戦)
作戦 前日…。
組員の皆さんは ミハルカンパニーの敷地から 黒塗りの高級車で出て事務所の隣の県のホテルに宿泊。
こちらが いつも使っている防弾トラックは、迷惑を掛けない架空の引越し屋に偽装して 別ルートを使いホテル前で合流し、明日の昼のカチコミに備える。
作戦当日…。
ナオ達は 遠方から武装警備の仕事を依頼され、作業塔の屋上のぺリポートにあるエアトラに乗る。
乗るメンバーは 機長のハルミ、撃つ事が滅多に無い警備を担当する武装警備員が2人…そして、オレ、ユキナ、グローリー、ユイの荒事部隊。
そして、冬月組の若頭のリッカと、若頭補佐の岸島の外交部隊の合計 9名だ。
中は コックピットしか窓が無く、床は2重構造で 表面は等間隔に穴の開いた金網の様になっており、椅子が 穴を通してボルトで固定されている。
これは、ボルトを外して椅子を外し、代わりに荷物を入れて貨物機として運用する為の機構で、本来、エアトラは 空の貨物自動車の名前の通り、貨物機だ。
椅子も 軍用機にある 折り畳みの椅子では無く、旅客機用のしっかりとした椅子になっていて、座ってみると非常に座り心地も良い。
「縛りプレイですかあぁ…何と マニアックなぁ!!(≧▽≦)」
「ハイハイ…大人しく僕に縛られてろ」
そう言い グローリーは、椅子に座れないユイの身体をラッシングベルトで床に固定する。
『本日はご搭乗 頂きありがとうございます。
副機長のコパイです。
皆さんの快適な空の旅をサポートさせて頂きます。』
スピーカーから聞こえる人工音声は、この機体を動かしているAI『コパイ』…。
生まれは 2000年とオレと同い年の自己学習型AIで、人類が記録しているすべての航空事故を学習している。
とは言え、ロールアウトした2000年には 1年間で20回近い小事故を起こし、機体の損失がその年で3回起こしている欠陥機だ。
が、そこは自己学習型…機体が全損したデータも回収して自分の経験値に組み込み、1年目にこそ事故も多発したが、2年目には10回、3年目には5回…と減って来て、今では機体損失は無く、トニー王国以外だと100機程度運用されているはずだが、小事故が年1程度で、ある程度の経験を積んだ機長位の性能を出せている…。
ただ、機体の整備が悪いと離陸を拒否し、飛んでいる最中に機体の調子が悪くなると すぐに緊急着陸をするなど 航行に問題無いレベルでも過剰に反応すると言う問題もまだ残っているのだが…。
まぁ…整備不良が常態化して事故るよりはマシなのだろうが…。
で、今では時間は遅れるし、不時着も それなりにするが、どんな悪天候でも 乗客に負傷以上の怪我をさせないと言う認識が生まれている。
「よし、チェック項目完了…。
コパイは?」
『乗員の皆さんのシートベルトの着用を確認。
離陸準備OK…。』
「よし、手早く行くぞ…。」
窓が無いので見えないが プロペラ音が発生し、風の音が聞こえる。
音は 防音素材でも使われているのか チヌークと違い、イヤーマフを使って無くても そこまで煩くない。
周辺への騒音に気を使って一気に上昇し、機体の翼がゆっくりと傾け、斜め上にプロペラを向けた中間モードで 速度を上げて上昇し、雨が機体に打ち付けられ、雲を抜けたて 空力効果を十分に得た段階で、更に翼を水平に傾けて、速度を重視したプロペラ機モードになる。
翼の角度を変える事で この3つの形態に変形出来るのがティルトウイング
機であるエアトラの特徴だ。
「よし、目標まで20分…各員準備」
「「了解」」
この機体の巡航速度は時速500kmで、空の高速道路である 空路を使う必要があるが、オレらが 時間を掛けて高速道路に乗り、ようやく到達した場所にも すぐに到達してしまう。
オレは股下で挟んでいたリュックを持ち上げ、すぐに背負えるようにし、機長席のミハルは 自動操縦に任せつつ、タブレット端末で、何かの操作をしている…多分、何かしらの仕込みだろう。
「さあて…ここからは私語は禁止だ。
パンパンパン…パンパンパン…。
こちら、エアトラ ミハル機、機体にトラブル」
パンは 準緊急事態と言い、緊急事態のメーデーの前の段階だ。
ミハルが管制官に航空英語で伝える。
『了解しました、エアトラ ミハル機 状況は?』
「機体のAIコパイの判断で降下を始めた。
AIは 気流による空力の問題が発生したと言っている。
くっそ、操作を受け付けない…AIに制御を取られた…私が操作すると墜落すると判断されたらしい…降下ポイントは…川…何処の?
え~機体の速度低下中…そのまま、川に緊急着陸する。
管制側は 周辺のパイロットに天候の警戒を…緊急着陸後、すぐに連絡を入れる。
30分連絡が途切れたら救助をまわして欲しい。」
私は機体の状況を管制官に伝える…これで向こうには 私の音声記録が残る。
例え墜落しても この記録を元に調査が始まるだろう。
『了解しました…幸運を…。』
「ああ…それじゃあ切るよ…交信終了。
ふう…よーし、終わったぞ 作戦開始だ。」
「「おう」」
機体のトラブル?もちろん嘘だ。
機体の高度がドンドン落ちて行き、高度100mを下回る。
管制のレーダーからは 機体を捉えらえなくなり、通常、この状況なら墜落を疑われる状態だ。
だが、トラブルが起きると すぐに不時着をするエアトラの特性上、珍しいが良くある事だ。
そして 進路を変更して速度を上げて、匍匐飛行で ロシアンマフィアの事務所に向かう。
「降下時間は1分…その後、進路を戻して川に緊急着陸させる。
冬月組へ…攻撃を許可…作戦を開始する。」
『了解』
「攻撃の許可出ました」
「よし、行くぞ…。」
「はい…」
近くて待機していた 黒塗りの高級車を5台が加速し、1分もせずに現場に辿り着き、防弾の車を盾にして降りたヤクザ達が、M3グリースを窓ガラスに狙いを付けてトリガーを引き、実弾を撃ちこんでいく。
防弾ガラスは白くヒビが入り、敵が窓から撃てなくした所で10人がゴム弾で詰め所の敵を無力化…。
出入口のドアの蝶番を実弾で破壊して、ドアを開けて中に9人が進入…。
10人目は大量のM3グリースのマガジンを入れた 折りコンと使ったマガジンを入れる空箱を台車に乗せて後に付いて行く。
1階のドアの蝶番を破壊し、中に敵がいないかを確認して次の部屋に行く。
次、次、次…階段を上がって2階の廊下の角に辿り着き、バイク用のミラーを取り出し、顔を出さずに廊下を確認すると すぐさま、大量の弾幕が放たれ、鏡が粉々に吹き飛ぶ…。
「よし、引き付けた1階に行くぞ…」
ヤクザの指揮官がそう言い、部下は1階に撤退…防衛ラインを構築する。
それと、合わせて 外に引っ越し用のトラックが辿り着き、中から出て来た戦闘訓練を受けていない組の者が ゴム弾を撃ち込んだ 人の拘束や 制圧した部屋の中にある 目に付いた書類、ノートパソコンなどの記録媒体を片っ端から 折りコンに積める。
これは 敵の弱みを握って 外交戦を有利に運ばせる為の手だ。
「敵が階段を降りて来るぞ!!」
降りて来た瞬間のマフィアを片っ端からゴム弾を食らわせ…無力化…。
訓練の成果が出ている…そして、M3グリースを持つ戦闘部隊が守りつつ、敵兵を拘束して回収…近くの部屋に放り込む。
折りコンに積めるだけの書類を入れた回収部隊 トラックに詰め込みに一度戻る。
それと同時に再度2階に上り、またバイクのミラーで確認するが…また すぐに撃ち抜かれて、大量のライフル弾が撃たれる。
そして、また撤退…とこれを繰り返して こちらに敵の注意を引き付ける。
パタパタパタパタパタパタパタ…。
「来た…。」
ヘリコプターのプロペラ音…エアトラだ。
超低空飛行で飛んで来たエアトラは、事務所の空中で静止し、ワイヤーを降ろす。
再度、2階に上がり、バイクのミラーで確認…上に注意が行って向こうの階段で上に向かおうと背後を向けている。
「よし…。」
2人のペアが ゴム弾をばら撒く様にして廊下に弾を放ち、マフィアを無力化…ワンマガジン撃ちきった所で次のペアと交代して、敵を撃たせない為に間隔を長くもって撃って行き、その間にドアを破壊…突入して行く。
今の所 軽傷はあれど、死者0…行ける。
自分達は最大限の警戒をしつつ、次々と部屋を制圧して行った。




