22 (ボトムアップ)
午後、CQB訓練室…。
「おっ来たな…良いタイミング…。」
ナオ達がCQB訓練室に入って来た所で ミハルが言う。
つい先ほど 私と ユキナ、グローリーでやっていた 部屋の内装の設置し終わった所だ。
キャスターの付いたベニヤ板の壁で囲まれた部屋に ナオとグローリーが偵察で得た写真や映像を元に、ロシアンマフィアの事務所を可能な限り再現した。
まぁ…配置されているのは どれも安物の家具だが…再現度としては これで十分だ。
「それじゃあ…ユキナとグローリーは 敵役、廊下で待ち構えて 撃って 組員さん達は それぞれ 自分達の考えで突入して見て…。
ナオはこっち…。」
私は ベニヤ板の室内を見渡せる見張り台に 上りながらナオに言う。
「「了解」」
「おう」
2人は そう言うと、2階の廊下に向かい、ナオが見張り台に上って来る。
ベニヤ板の部屋は 天井の高さもあり、1階ごとに横に分かれた3分割で再現されている。
「突入、突入!!」
組員の隊長の指示で 突入が始まり、組員が1階から1部屋ずつ順番に突入し、M3グリースの電動ガンで 敵が描かれたベニヤ板にBB弾を瞬時に当てていく…。
「おお…いつも主観だったけど客観で見ると良い動きしてるな…。」
私の隣のナオが言う。
組員の皆が 味方の死角をカバーする形で常に動き、その動き方は 既にヤクザの動きでは無く、統率された正規軍の動きになって来ている…訓練の成果はあった見たいだ。
だが、問題は ユキナとグローリーの2人がいる2階の幅の狭い廊下だ。
組員さん達が 階段から上がって廊下に入った所で、2人が撃った弾を受けてあえなく全滅。
本番では これ以上の弾幕が予想されるので、やっぱり地形が悪い。
かと言って 1階の天井にC4を設置して爆破し、2階の床を崩しても、今度は3階に行けなくなる。
「やっぱり無理ですね…」
部屋の外に出た 一人の組員が言う。
「盾役にライアットシールドを持たせて突っ込ませるか…」
私がつぶやくと「とはいっても相手はライフル弾だからな…。
ユイが使っていた ライアットシールドも大部分は防げていたが 何発か貫かれて装甲に当たっていたみたいだし…あまり過信する事も出来ない。」
隣にいるナオが言う。
あ~ちゃんと破損したシールドや装甲を見ていたのか…。
「うーむ…如何するか…。」
「あっなら上からなら如何だ?」
「上?近くの建物から狙撃出来る所は無いぞ…。」
「いや…目標は3階だから 屋上の階段を降りればすぐ…。
しかも、注意が下に向いているなら、敵の後ろを付ける。
挟み撃ち作戦だ。」
「確かにそうだが、如何やって上に行く?
壁を上るにしても敷地内に入った時点で 気付かれるぞ…。」
「なら…レンジャーらしくパラシュート…いや、あれは 精確に降りられ無いからヘリボーンか…。
エアトラを事務所の真上でホバリングさせて、そこから懸垂下降で降りる。
事務所の屋上には エアトラを着陸させる程のスペースは無いが、ロープは 降ろせるからな…。」
「……確かに それが出来れば 有効だな…。
ただ、問題も多い…まず、組員の皆さんは 当然ながら ラペリングが出来ない。
出来るのは私と、ユキナ、後はナオも出来るのか?」
「ああ…習った。」
「で、訓練も難しい…ラペリング自体は作業塔の屋上から降りれば良いだろうが、ミスって尾骶骨でも折ったら、作戦に参加出来なくなる。」
ヘリボーンを考えなかった訳じゃない…が、ナオはともかく、私もユキナも もう何年もやっていない。
事前の練習をしないで、安全に着地 出来るとは到底 思えない。
「なら、背中にバックパックを背負って 背中から落ちる。
もしくは 高反発の尻クッションをバックパックの下に取り付けるかだな…。
普通なら脚から着地するのが早いんだけど、ホバリングしていても風の影響で 1~2mは上下するからタイミングによっては 足を怪我する事もある…足にクッションは 入れられ無いからな…。」
「なるほど…既存の装備に こだわる必要もないか…。
分かった…如何 降ろすかは これから決めるが、上から攻める案は採用…。
そこから詰めて行こう。
よ~し、次は 部隊を2手に分けて…上と下からの挟み撃ちで…。」
「「はい!!」」
そう言うと、組員の皆さんは配置に着いて再攻撃を始める。
「おっ…まだ やれるけど、かなりキツくなって来ましたね…。」
「ええ…連係も ちゃんと出来ているし…。
あっHit…お見事。」
ユキナが肩を撃たれて戦闘不能。
「僕もだ…。」
次の瞬間 グローリーの腹部に当たる。
「よしっ取ったぞ…。」
組員の皆さんが 2人を初めてキル出来た事で喜んでいる。
「まぁ望みは出てきたかな…。」
「とは言っても、向こう側の被害が多い…。
やれたとしても 殆ど 刺し違えになるだろうね。」
グローリーの言葉にユキナが返す。
「だろうな…ん…窓か…。」
グローリーはガラス窓を見る。
「窓?」
「そう窓…あれを撃てないかな?」
「あのガラスは防弾よ…。
そりゃ、同じ個所に何度も命中させていれば貫けるかもしれないけど…。」
「いやいや…貫けるかは ともかく、窓に撃ち続けていれば わざわざ窓を開けて撃ってこないでしょう?
つまり、窓を撃っている間に別部隊が1階から突入すれば 被害を大幅に減らせる。」
「とはいっても、そうなると今度は 廊下側に戦力が集中するよね…。」
「まぁな…でも、2階に行かずに1階で防衛ラインを構築するのは如何でしょう?
ようは この地形は守りに有利になっている訳だから、相手に攻めて来て貰う感じで…。
向こうが この地形を理解しているなら、2階に防衛ラインを構築したまま動かないなら、上からの突入部隊がバックアタックを仕掛けられますよね。
で、上を攻撃しようとすれば 下から押し上げる。」
「良いわね…やって見ましょう。
それじゃあ…今度の作戦は…。」
グローリーの提案にユキナが答えて、組員の皆さんが動く…。
こうやって、現場を 疑似体験しながら自分達の意見を出し合って あれこれやって見て最適解を見つける。
私が欲しい人材は、上官の命令を忠実に実行するのではなく、時に上官に意見出来る人材だ。
そして、私は部下からの意見を聞いて話をまとめて、現実で作戦が出来るまで、練り込む。
それが、私の理想の部隊だ。
そして…結果は…。
「良いね…無傷とまでは行かないけど、大分犠牲者が減った。」
敵役が2人とは言え、完敗…。
ナオが見張り台を降りて、敵役に加わっても組員側が勝ているが、犠牲者は減らず半壊…20名中、10名程度は毎回犠牲になる。
そうなると例え、このロシアンマフィアの事務所では 勝てたとしても次の攻撃に備える戦力が無くなるかもしれない。
「やっぱり私が出る事になりそうかな…。」
私はそう つぶやき、訓練を見続けていた。




