02 (社員研修)
「はぁはぁ…」
迷彩服姿のナオは 道が無く足場が悪い 山の中をP-90を持って歩くいて行く…。
オレの周りには M4アサルトライフルを持っている180cm近くある屈強な男達が オレを囲う形で周りを警戒していて 一緒に歩いている。
「さあ頑張れ戦友…合流ポイントまで後1kmだ。」
部隊の指揮官が言う。
出発前には平気だった 20㎏のリュックの重みが、出発から10時間も経過した今となっては かなり重く感じる…。
とは言え、周りの男達は 40㎏の荷物を持ったまま 普通に動けている。
実際、かなりの手加減をされている。
「ペースは大丈夫か?」
指揮官がオレに聞いてくる。
「ええ…もっとペースを上げても…。」
「いや…時速2kmのペースを維持し続けろ。
オマエの目的は 早く目的地に着く事じゃない、安全に確実に目的地に たどり着く事だ。」
「了解しました。」
今回の訓練内容は お荷物輸送…。
オレは 山奥の小屋に囚われていた要人役で、今 ここにいる レンジャー訓練を受けている部隊の人達が、オレを救出…。
オレは この部隊に護衛されながら 敵の追撃に気を付けつつ、20km先のヘリコプターが来る合流ポイントまで、時間内に 届けられ無くてはならない…と言う訓練だ。
「よし、合流地点まで辿り着いた。
各自 周囲を警戒しつつ休め、ナオ…お荷物としては非常に運び易かった。
立派な荷物になれるぞ…。」
「ありがとう ございます。」
お荷物にも最低限、お荷物になれるだけの訓練が必要で、護衛し易い立ち位置を意識しつつ 無理をせず、ゆっくりと確実に足を目的地に進め、敵役の教官が発砲音を鳴らしたら すぐに伏せて、指示があるまで 決して起き上がらない。
これを守って貰えるだけでも、かなり護衛がし易くなるらしい。
そして、指定時間に1分も遅れる事が無く 正確にチヌークヘリコプターが 着陸する。
「搭乗時間は1分だ…急げ!!
それ以上だと携帯式防空ミサイルを撃ち込まれる可能性が高くなる。」
中から教官が出て来て言い、オレ達は即座にチヌークに乗り込み、椅子に座る前に急上昇を始めた。
「うわっと…。」
ホバリングをして空中に静止しているヘリコプターは、回避が難しく対空ミサイルなどの攻撃により容易に破壊されてしまう。
なので、制空権を確保していない状況では 着陸時間を短く取る事で撃墜の確率を下げている。
まぁもちろん、これは訓練で実際に撃ってくる事は無いが、支援を受けられない特殊部隊では これが普通だ。
「さて、諸君…よく要人を運んで来てくれた。
お礼にキミ達には、レジャーを用意している。」
教官がそう言うと、テキパキと部隊員が渡された装備を装着し、一番早く終わった隊長がオレに装備を付けてくれる。
「レジャーって まさか…スカイダイビングですか?
バディ無しで?」
「飛び降りれば自動でパラシュートが開く、私はこれから別の駐屯地に向かわなければ ならないので着陸している時間が無いのだ。」
パラシュートが開く為のフックをワイヤーに掛けて、前後の隊員が装備のトリプルチェックをし、パラシュートが開かない不安を払拭して行く…一番先頭はオレで次が 隊長だ。
座学で習った通りで 装備の付け方に問題は無いが、やはり数をこなしていない為、不安だ。
後部ハッチが開き、外の景色が見える…隊長はオレの肩を持ち、落ちないようにしてくれている。
「高度300m…目標まで5、4、3、2、1、降下、降下!!」
隊長が 迷っていたオレを後ろから押し、それを合図に オレは走ってチヌークから飛び降りた…。
よし、パラシュートは開いた。
背筋を伸ばして足は下に…そして、着地は背中から落ちるような感じでと…。
オレは 背中のバックパックから着地し、足や尻は 骨折していなく無事…。
地面の有難味を感じた所でパラシュートが上から落ちて被さって来る。
「うわっと…。」
他の隊員は 無防備の状態から いち早く立ち直り、M4を構えて 周辺警戒を始めている。
「うまく着地が出来たな…その後の対応は 全然だけど…。」
隊長が そう言うとオレ達は パラシュートを回収して迎えの車に乗った。
翌日は身体を休める為、座学を行い、その次の日には 近接戦闘訓練の為、駐屯地を出て別の施設に向かう。
建物の外観は 物流倉庫と言った感じで、中に入って見ると ベニヤ板で出来た家があり、天井が無く、上から全体を見れる様になっている。
そして、詰め所には 拳銃からアサルトライフルまで、色々な国の様々な銃がガンケースに収まっている。
「銃がこんなに…。」
「全部エアガンだけどな…。
キミの会社からの注文は 9パラが使える銃だから ここの棚だな…。
一通り試して 使う銃を決めてくれ…。」
他の隊員は それぞれバラバラな アサルトライフルを使い、部屋の中に突入し、死角をカバーしながら ベニヤ板の敵を 効率良く排除して行く。
「皆、銃が違うんですね…。
銃は 統一していないんですか?」
「一応、主要な国の銃は 全部扱えるようにしているが、作戦で使われる銃は 射手の癖に合わせて専門家が調整をしたカスタム銃になる。
だからベースの銃もバラバラなんだ。」
「なるほど…。」
一般的に量産品の銃は 誰が撃っても それなりに当たる様に出来ているが、個人の癖を織り込んでカスタムされた専用銃は、命中精度が飛躍的に上がる。
基本、デリケートな任務が多い特殊部隊は、専用銃と高精度の弾薬が必須となっている。
これだけ金を掛けられるのも 少数精鋭だからだ。
オレは、そんな事を思いながら銃を確認する。
まずはMP5K…。
当時のサブマシンガンはオープンボルト式の為 命中精度が悪く、大量の弾をばら撒いて当てる使い方が主だったが、MP5シリーズはクローズドボルト式になり、命中精度が各段に上がり、近距離なら狙撃も出来る銃になった。
ただ、コレ…設計が古いから重いんだよな…。
なら、軽い銃なら良いかと言うと そうでも無く、フルオートに対応している ハンドガンのグロック18Cは、小さく軽い為、反動で銃が上に上がり、銃の命中精度が下がる。
「やっぱり、シンプルブローバックが確実かな。
この銃にします。」
オレが選んだのは ウージーマシンピストル…。
ウージーシリーズで有名なIWI社のウージープロを中国の軍事メーカー『ノリンコ』が再設計した銃で、それを日本の拳銃を製造しているミネベアの中国支店がライセンス生産で製造している。
今後、警察や自衛隊の拳銃枠が この銃に変わると言われている。
使いやすさ 補修パーツの入手性から考えても この銃がベストだろう。
「それじゃあ、スタート地点に付いて…使い方は?」
「大丈夫です。」
オレは タクティカルベストとダンプポーチを装着してBB弾の入ったマガジンを入れ、銃にも装填…コッキングレバーを引いて初弾を装填する。
オレが向かったのは、連携を鍛えている他の隊員とは違く、1人用のコースだ。
ブザーが鳴ってベニヤ板の建物に突入し、各部屋にいるA4の紙に描かれた敵の頭に狙いを付け、セレクターを親指で押し込んでフルオートにセットし、セーフティを解除…。
バースト撃ちで紙の敵に穴を開け、親指を引いてセーフティを掛けて 次の部屋に向かう。
1…2…3…4…5…6…リロード…。
バースト撃ちは1回で3~4発吐き出されるので、30発のマガジンだと6回を目安にリロードをする。
撃ち終わったマガジンはダンプポーチに叩き込み、次のマガジンを装填して撃つ…それの繰り返しだ。
最後の敵の部屋を通過してゴール…タイムは…所見にしては上々…。
隊長が2階から降りて 敵の的を確認しながら「まだまだ遅いな…」と言う。
「遅いですか…。」
「そう、改善点は2点…律儀に鼻を撃っているが、これは 得点競技じゃないんだ…敵に 当たれば良い。
それと空マガジンをダンプポーチに突っ込んるが、スピードリロードで構わない。
これでタイムが縮まるはずだ。
それじゃあ もう一回。」
「了解…」
数回コースを周っただけで スピードが格段に早くなり、タイムも良くなって来ている。
最初は 両手で構えてしっかりと撃っていたが、隊長が スピードリロードを許可した事で、撃ち方が大幅に変わって来ている。
具体的には 左手に次のマガジンを持ち、右手の銃を左手の甲で支えて銃を安定させる やり方だ。
リロード時には マガジンはそのまま落とし、左手のマガジンを すぐに装填し、そのまま 片手で敵を撃ちながら左手は 次のマガジンを抜き、また甲で支える感じになっている。
「良い腕だな…。」
近接射撃に対しては A評価を出しても良いだろう…。
シューティングレンジでの成績もナオが担当する200m以内なら十分優秀…。
山岳訓練でも、問題を起こさなかったし、エアボーンも自分で飛び出し、綺麗に着地が出来た。
特殊部隊の基準には まだまだ だが、一般部隊なら かなり優秀な人材ではないか?
後で私の部隊と組ませて動かしてみるか…。
そう思い私は ナオの評価表に記入を始めた。
テーマ:訓練
ナオの処遇
(警察に拘束される可能性を危惧して、別の管轄である自衛隊にナオを預けて、訓練期間中に 手続きを進める。)
↓
レンジャー部隊を混ざって訓練
(レンジャー部隊は 優秀な為、成績不振が続く隊員は精神を思い詰められて自殺してしまう。
その為、あえてお荷物を入れて、部隊員にお荷物を守らせる形を取る事で、メンタルの緩和をはかる。
これは、現代戦だと 精神を追い詰める事に戦術的なメリットが あまりないから。)