12 (業務提携)
「よし、来たな…。
それじゃあ 装甲を外そう。」
倉庫の中にある弾痕だらけのトラックを見ながらミハルが言う。
トラックは 普通のトラックのフレームの上から装甲を後付けした感じで、ボルトで しっかりと固定されている。
ナオや 手の空いている作業員で まずは それを外す…。
「外した装甲は エアトラに乗せて『竹島行き』、新しい装甲は それ…。
次の装甲は 少し軽くなったけど 強度は変わらない…。」
竹島…日本の領土問題になっている島で、現在、トニー王国の空母が駐留していて 実効支配状態にある場所だ。
その他に尖閣諸島や北海道の北になる 北方地域、南なら最南端の沖ノ鳥島などが 第二次世界大戦 終戦直後のドサクサに紛れて 不当占拠されたが、すべての島が他国から日本への侵攻の防波堤代わりになっており、強硬手段が取り難い自衛隊を支える為に実質の駐留が黙認されている。
『竹島行き』と言うのは、トニー王国の船は 小型核分裂炉で動いている為、非核三原則がある 日本の港には入港出来なく、一度 通常の船で竹島まで荷物を運ぶ必要があるからだ。
そう言った事もあり、あの島は トニー王国との物流拠点になっている。
「装甲は トニー王国製なのか?」
「え?ああ…トニー王国が開発中の新素材の装甲…。
実際に現場で撃たれて見て 性能や問題点が無いかを確認するんだ。」
「他国が開発してる装甲のテストか…。
本当に手広く やってるんだな」
ナオがトラックに取り付けてある弾痕だらけの装甲を見ながら言う。
「まぁな…命を張るから安くして貰ってるし…。
実際、結構良いものだしな…。
さっき連絡したら 新素材の防弾チョッキと最新の訓練システム機材をくれるって…。
これも またテストだな…3セット貰えるから、ユキナ、グローリー、ユイ、ナオの実戦チームに入れる。」
「それも 現場で撃たれてこいって事か…よっと。」
ナオが ボルトを外し、落ちる装甲を私が支えて降ろす。
「そう言う事…被弾した場合 傷口のデータも送る事になってる。
まっ、わざと撃たれろって事じゃないから…。
向こう側も実戦での実績が欲しいから、ウチら見たいな民間企業に安く売ってくれる訳さ。
さて、これで全部か…よっと」
私がトラックの荷台の扉を開ける…。
「おお…キャンピングカー?」
ナオが言う。
中には 両脇に長椅子のベット、奥には エアコンなんかの空調設備…天井には 照明と、ここで最低限の寝泊りが出来る様に造られている。
「ここって 泊まりが多いからな…。
従業員のメンタルを気にして造ったんだけど…。」
そう言いながら 私は コンテナに乗り、壁に手を当てて装甲が凹んでいないか調べる…。
「よし…装甲側で全部 受け止めているな…。
とは言え、後付けに次ぐ、後付けだし、そろそろ これも限界かな。
新車を買って設計レベルからカスタムしないと…」
今後の戦闘では 移動出来る簡易拠点が必要だ。
モニタによる指揮機能に…出来れば 前線で簡単な手術が出来るような無菌室が欲しい…。
それを考えると、それなりのサイズになって来るだろう。
「なんか、ミハルって金使いが荒いよな…。
採算 取れているのか?」
「去年、大儲けして その金で新しい機材の投資をしたんだ。
本当にナオには 感謝しているよ…。」
「オレ?」
「そう、205人の遺体回収と処分、校内の特殊清掃…。
しかも 学校を すぐに再開させないと行けないから 1週間以内の特急料金で…あの時はキツかったな~」
突発的に発生した為、緊急性の無い仕事は 全部キャンセルして、武装警備員も全員 現場に投入したが、苦労に十分に釣り合うだけの見返りを貰っている。
「オレが死ぬつもりで 頑張った成果で金儲けをするのか…。」
ナオは 新しい装甲を持って来ながら言う。
「そう、何か事件が起きれば それを利用して 儲けるヤツが必ず出てくる。
殺しや自殺が起きれば、必ず遺体が残るからな…。
食いぶちに困って自殺した貧困者でも 遺体になれば 結構な金額になる。
てな訳で、ウチの特殊清掃 部門なんかは、治安が悪化すれば するほど儲けられる訳だ…。
それに、悪い事ばかりじゃない…ナオの様な人材も見つけられるしな…。」
現場の惨状を見て、殺った人間が ただ者じゃない事は すぐに分かった。
それで、犯人を調べて見たら ナオキからよく聞かされていた 息子のナオトなのだから 本当に驚いた。
色々と手をまわして 引き取ろうとしたのも、そう言った興味が大半だ。
「マッチポンプは していないよな…。
葬儀屋が仕事が少ないからと言って殺して死体を作る様な事は…。」
「まぁしてないな…。
こっちが 殺した相手を隠蔽する為には 使っているけど…。」
「なるほど…トラックで危ない武器を輸送して、武装警備員が人を殺し、殺した死体の処分は 特殊清掃員がやると…。」
「そ、複数の専門の会社を統合する事で、全体としての収益を上げるやり方…業務提携の基本だよな」
「はぁ…物騒な業務提携だな…。
と言う事は 火葬場とかも 決まっているのか?」
「まぁウチは それ専門の葬儀会社も運営している。
こう言った表に出来ない遺体を 死者に敬意を払って ちゃんと処分してくれる」
この会社は 証拠隠滅の為に ぞんざいに扱われている遺体を見て、ちゃんと火葬し、丁重に葬ろうと考えられて 私が造った会社だ。
私の所 以外にも、いくつもの裏の会社から遺体を受け取って葬り、余計な事を聞かず、記録も残さず処分してくれる所がウリだ。
「敬意ね…生きているなら まだ分かるが、肉の塊になっちまったら 別に死体の処分方法なんて拘らなくても良いだろう。
人だと判断出来ないレベルまで ミンチにするか、薬品で死体そのものを溶かしちまうのが一番 手間が無い。」
ナオが言う。
はぁ…やり方が完全にマフィアだな…。
「確かに 効率で考えるなら それで良いんだが…あ~ナオには どう説明するかな…。
死者の魂に失礼とか、遺体が損壊すると 私達が不快になるから…とか?
ここら辺になると宗教観になっちまうから、ナオには 理解されないだろうしな…。」
ナオは 人への共感能力が無い為、猿の死体と人の遺体に感覚的な区別は 無いのだろう…これを精神的な理由を無しで 理屈で説明するのは かなり難しい。
「まぁな…それと、火葬は本当に その敬意とやらを払っているのか?
人への火炎放射器の使用は『特定通常兵器使用禁止制限条約』で非人道兵器だとされているが、死ねば 焼却処分は 人道的で敬意を払っているのか?」
「良く知ってるな~。
確かに重度の火傷はガチでヤバイからな…。
そう考えると火葬は非人道的か?まぁ理屈は通ってるが…。
まぁ本質的には 加熱殺菌なんだよな。
遺体が腐って 病気をばら撒かない様に…元々、火には病魔を追い払うって価値観があった事も大きいんだが…。
実際、戦地で遺体が放置されると感染症が問題になって来るからな…。」
「う~ん 衛生管理から生まれて定着した文化か…。」
「まぁそうなるかな…それなら理解出来るか?」
「ああ…オレには 精神的な事は 分からないが…衛生問題なら理解出来る。」
「そうか…。」
装甲の取り付けが終わり、次は窓だ。
窓は銃弾で撃たれた箇所が 真っ白になり、前方が かなり見にくくなっている。
警察に止められたのも 弾痕もあるが、窓が真っ白で前が見えないと判断されたからだ。
実際、ユキナも速度を落として細心の注意しながら走って訳だから文句も言えない。
所が ユキナは 実際に警察に試乗させて かろうじて窓が見える事を確認させ、さっき撃たれたばかりで これから修理工場である会社に持って行く事などを話す。
まぁ…法的根拠が『交通への危険があり、他人に迷惑を及ぼす おそれがある車両』と言う現場の最良のが効く曖昧な根拠だった為、結果的に厳重注意で済んだ。
基本的に警察は こじ付けてでもドライバーから罰金を取る者だが、ユキナの体格と、何より車に大量のライフル弾を撃ちこまれているのも関わらず、ドライバーには 一切の負傷が無く、銃を携帯している 時点で 警察は強気に出れない。
明確に違反をしている訳でも無く、自分が殺される危険もあるからだ。
そんな事を思いつつ、防弾ガラスも ボルトを外しての張り替えになる。
弾は~貫かれて無いな。
私達は他の整備師と並行して 車を修理して行き、業務時間近くになった所で、修理が終わった。
さて、作業塔の屋上には ヘリポートがあり、エアトラと言う ティルトウイング機がある。
そのエアトラに ナオ達で 装甲を積み込み、ミハルが機長席に乗って 後部ハッチが閉まり、オレ達が階段とエレベーターがある退避用の建物の中に入った所で プロペラが回転をし始め、ご近所に迷惑にならない様に最速で垂直離陸して飛び立ち、上空で翼を前に傾ける事で前に進み、プロペラ機として竹島まで時間外労働で飛んで行った。