10 (脱法ストック)
「さてと…。」
マトイは ナオに最適化された アミュレット リボルバーの設計を参考にウージーマシンピストルを調整して行く。
アミュレットのトリガープルの重さは 驚異の200g…。
本来、人を撃つ銃は 暴発の可能性も考えて 2㎏~3.5㎏に設定するのが普通やが、アミュレットは 200g…。
これは、実弾 射撃競技で使われる数値で、トリガーを引く距離が短い為、発射タイムが短くなり 命中精度も各段に上がる為、ガチの競技選手だと数gまで詰める事もある。
が、何かをトリガーに引っ掛けてしまえば 簡単に暴発する危険性があり、不確定要素が多い実戦には向かない。
ただ、セレクターを引き戻すだけで 簡単にセーフティが掛かるウージーマシンピストルなら 撃つ直前まで セーフティを掛けさせておけば 暴発の可能性を極限まで減らせる。
しかも ナオは セーフティが無く トリガープルが軽い 競技用の銃を普通に使っていた為、暴発には非常に敏感で、素のウージーマシンピストルを撃たせた時は、撃つ直前に セーフティを解除し、撃ったらセーフティを すぐに掛ける…。
その動作が本人の癖として 既に自動化されているので、非常にナオと相性が良い。
カバーをネジで閉じて調整は終了…。
セレクターの上に 縁起と慣習から手前から安全単射連射の赤い刻印が見える。
次に上部のピカティニーレールに ダットサイトを装着…下部のピカティニーには レーザーサイトを取り付ける。
後は、ストック…いや…サブマガジンホルダーを付ける。
これで本体は 完成や…後は ナオが この銃を撃ちながら身に着いた癖を適宜 銃に取り込んで 補整を掛けてやれば、この銃は射手の相棒となり、最強の銃になる。
まぁ…それは もう少し使いこんでからの話になるやろうが…。
「撃ち終わったなぁ…感想は?」
リボルバーで 全弾 撃ち終えて 戻って来たナオに聞く。
「コイツの性能の その先が見えた気がする。
今まで限界だと思っていた所が 実はリミッターが付けられていて、今回リミッターを外されて フルスペックで扱えた…そんな感じ。」
「そか…良かったぁ…。
それが 個人調整ぇされたぁ銃の感覚や…。
さっ次はコレや…ウージーマシンピストル…持って見ぃ」
「軽るッ…1.5㎏程度…?」
「弾入れないでぇ1.65…。
銃の大半の素材はぁ炭素繊維強化プラスチック…耐熱性、熱伝導性、耐久性、どれもぉトップクラスの素材やぁ…かと言ってぇ極端なぁ高級素材と言う訳ぇでも無いぃ…。
普通のスチール製と比べてぇ2倍程度の値段が掛かってるかな…。」
「良い仕事をするには 金が掛かるんだな~。
あっこれは?」
ナオがウージーマシンピストルの後ろに取り付けたサブマガジンホルダーを指す。
「コイツを付けて見ぃ…」
ウチは 30発のロングマガジンをナオに渡し、ナオがマガジンを取り付ける。
「あ~マガジンを利用した簡易ストックか…PP-2000…。
おっ良い感じ…。」
「そっ」
ナオのマガジンは すべて 底部が重く、衝撃吸収用のゴムが付けられている。
その為、スピードリロードして マガジンが地面に落とした時の衝撃を軽減してくれるので、遠慮なく落とせる。
その為の機構なんやが、何故かストックの代わりに使った場合、ピッタリと肩に馴染む。
想定外の使い方や~。
「構えるよ~」
ナオが コッキングレバーを引いて 薬室内に弾が無い事を確認して壁に向かって構える。
「ナオのライセンスはぁ ハンドガンのみやろ…。
日本の法律だとぉストックを付けた場合、サブマシンガン扱いになってしまうぅ…。
そこでぇ、予備のマガジンを入れられる ホルダーを後ろに取り付けるぅ事でぇ実質のストックを ハンドガンのライセンスで扱えるって事にぃなるんやぁな~。
この機構のベースはぁロシアのPP-2000からぁ、それを中国がぁ サブマガジンホルダーとして改造してぇ売り出したわけやなぁ
ユーザーからの通称は『マガジンストック』…。」
「なるほど…メーカー側は ストックとして使う事は 想定外な訳か…。
脱法ストックだな…。」
「そ、自衛隊も規制逃れの為にコイツをよく使ってるなぁ~。
そんじゃあ…200mのレンジで撃ってきぃ…今日はぁ奮発してぇ12マガジン、360発出したる…。
4マガジン撃ちきったら、戻ってき、弾入れたる。
最初の4本がぁセミ…次、バースト、最後がフルや…良いなぁ」
「ああ…分かった。」
ナオはそう言うと、受け取ったマガジンを防弾ベストに差し込み、シューティングレンジに向かって行った。
「さあ良いかなぁ~なんか問題は?」
全弾撃ち尽くして受付に戻って来た所で マトイがナオに聞く。
「今の所は…これ以上は、現場で撃ってみないと 分かんない。」
「そっか…ウチの方でも映像記録を解析して見るぅ…。
後、詰める箇所が 2ヵ所ある…明日も来いぃ
そんじゃあ 返却お願いしますぅ」
「はいよ…。」
オレは ホルスターごと 銃とマガジンをマトイに渡し、タブレット端末に映されている書類を確認して返却用のサインをする。
「はい どーも」
マトイが そう言うと、QRコードが描かれたシールを2丁のグリップ部分のくぼみに張る…サイズはピッタリで、シールを張る事を想定されていた みたいだ。
「QRコード?」
「そ、それは 管理用のコード…。」
マトイがQRコードを スキャンして ディスプレイを こちらに向ける。
そこには 銃の登録番号 銃の名前に、射手の名前と、貸し出している会社である ミハル警備の会社名と住所、電話番号。
最後に管理者である的射銃砲店の名前と電話番号、銃を管理しているロッカーの番号が書かれている。
「なるほど…名札って事ね…。」
「そっ…そんじゃあ 仕舞って来るぅから…もう少しぃ待ちぃ」
そう言ってマトイは防弾ガラスのドアの鍵を開けてロッカールームに入り、QRコードに描かれた16番のロッカーを開けて スポンジが敷かれている中にホルスターに入った銃を丁寧に入れ、ドアを閉めて挿さったまま だった鍵を抜き、防弾ガラスのドアを開けて出る。
「ほいな…ロッカーの鍵や…自分で管理しぃ。
銃渡す時ぃは ロッカーの鍵と引き換えやぁ…。
部屋の鍵にでもぉ付けて置きぃ…。」
「分かった…。」
オレは財布に繋がっている キーチェーンに部屋の鍵と一緒に繋げた。
「後は、防弾チョッキとマガジンポーチ、ダンプポーチもやなぁ…後ヘルメット…。」
「まだ あるのか…。」
「採寸はぁもう 終わっているからやぁ…後はぁ試着して終わりぃ…。
さっ更衣室に行くでぇ」
マトイと一緒に男女共用の更衣室に入り、6番のロッカーから装備一式を出し、試着を始めた。
全部が終わった頃には 既に昼になっており、周りは昼食タイムになっていた。




