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第10話 騎士への道にしがみつく

「な、なんじゃとぉ? その青年を騎獣にして騎士を目指すとぉ?!」


「い、いえいえいえいえ……何を考えているのです、ミス・ブリランテ……」


 

 オレのことについて真っすぐ迷いなく校長と担任のフラットに宣言するカノン。

 そして二人は予想通り頭を抱えた。


「私は真面目です。校則では学校保有の騎獣もしくは、自身が所有する騎獣を持ち込むことも許されるとのこと! オレは私の騎獣として登録したいと思います!」


 それに対してカノンの取った行動は開き直ることだった。

 騎獣の定義で「人間はダメ」と記載されていないという一点でゴリ押しする。


「いやいや、しかし……言葉もよく話せない、素性も分からない者をこの学校内に置くわけには……」

「私が面倒を見ます! オレに関することの責任の全てを一切私が持ちます! 部屋は私の部屋に――――」

「女子寮じゃろ! ダメに決まってるじゃろ! 他の生徒や保護者の耳に入ったら――――」

「オレは私の騎獣だから問題ありません!」

「ならんならん!」


 問題あるに決まっていた。そもそも女子寮に素性もよく分からない、会話も満足にできない男を由緒正しい王国魔法学園の敷地内に、ましてや女子寮に入れるというのも前代未聞に加え、さらには人間を騎獣とするなど、ありえない。

 だからこそ、カノンがどう言おうと校長が頷くわけが無かった。


「だいたい、オレがいいって言ってくれてるのに、何で人間が騎獣じゃ駄目なんですが! タカラとゴルドにも勝ったのに!」


 だが、カノンもくらいつく。校則や騎士の規定に騎獣の種族に制限が設けられていないのだから、オレは認められると退かない。

 すると……


「ガウガウ、ゴウガウガウ」


 状況分からぬオレはマイペースにゴルドに歩み寄って吼えた。


「ガウッ!? グルウウ? ガウガオウ!」

「ワオン、バウ、バババウ!」

「ファオン!」


 驚いた様子を見せるゴルド。ゴルドも何かをオレに吠え、互いに意思疎通していた。


「え? オレ、ゴルドと会話できるの!? 他の獣の言葉も分かるの?」

「え、そ、それは本当かい!?」

「……なんじゃと?」


 何と、獣語でコミュニケーションするオレとゴルドの様子に驚くカノンたち。

 すると……


「バウバウ、ガオウン、ワウワウ」

「バオン? ガウガウ、ワオン」

「グル、ガウル……」


 意思疎通できている、と思われるオレとゴルドを眺めていたら、唐突にオレがタカラに振り返り……


「ゴルド、タカラ、ニジューマルスキ」

「え……」

「タカラ、ゴルド、スキ。カノン、ニジューマルスキ」

「……?」

「ゴルド、サミシイ」

「……ッ!?」


 最低限の単語ではあるが、それでも皆が衝撃を受けた。

 本当に会話できているのか? と。

 ただ、何よりも、タカラ自身が……

 

「ゴルドが……寂しい……か。そう言えば確かに……最近は、授業と餌の時間以外は……」


 思い当たることがあったようで、狼狽えた表情でゴルドを見る。

 

「そうだ……最近、カノンの進級の問題もあったし、僕も最近はカノンのことばかり……ゴルド……」

「くぅ~ん……」

「……そうか……そうだな……ゴルド……」


 切なそうに鳴くゴルドに胸を揺さぶられ、


「そうだな。僕がもっとしっかりしていれば……君にそんな顔をさせることなく、何よりもカノンと彼にも負けることは無かった……ごめんな」


 タカラは微笑みながらゴルドの頭を優しく撫で、そして抱きしめた。



「信じられん。獣の言葉が分かるとは……知能の高い騎獣は儂らの言葉を理解するが、ワシらは彼らの言葉を分からぬからな……」


 

 校長も他の生徒たちも驚く中、カノンは苦笑した。

 そもそもオレは母であるフェンリルは人の言葉をしゃべれるのに、獣語で話をしていたのだ。

 確かにこういうことができても不思議ではなかった。

 すると……


「へ~、すごーい……そうだ! ピィ――――ッ!」


 その場に居た女生徒の一人が何かを思いついたかのように指笛を鳴らした。

 すると、校舎の裏から大きな翼を羽ばたかせた鳥獣グリフォンが向かってきたのだ。



「クアアアアアッ!」


「よしよし。ねぇ、オレくん! この子は私の騎獣なんだけど、この子と会話できる? まず、この子の名前はなーんだ?」



 どうやら、オレを試そうとしているようだ。とはいえ、一気に言われたオレは首を傾げると……


「ガオガ、ウォウウォウ」

「ガウヲ?」


 ゴルドが急にオレに話しかける。すると、オレは……


「ナマエ?」

「っ!? そう、名前! え、っていうか今……ゴルドが通訳したの?」


 まさか、ゴルドが獣語でオレに人語を通訳するという奇妙な光景が起こった。

 その様子に一同が呆気に取られる中、オレはグリフォンに向かい……


「ガルル、ガウォウウォウ」

「ッ!? クア、コココオ、クケー」


 と、グリフォンも俺に話しかけられて驚いた様子で言葉を返している様子。

 そしてオレは……



「ナマエ……『ツクネー』……」


「うそっ!? せ、正解! え、カノンちゃん、教えてないよね?」


「お、教えてない教えてない!」


 

 ちゃんと正解した。その瞬間、周囲からどよめきに似た歓声が上がる。

 そして……


「じゃあ、これ、もう一個。この子、最近あまり元気が無いの。どうしてか分かる?」

「……ゴルド」

「ガウガウゴウゴウガウゴウガルルルガウガウウ」

「ン」


 そして、またゴルドに通訳してもらった後に、オレはグリフォンに尋ねる。

 すると……



「ン、ツクネー、オナカ、コドモ、イル……カラダ、バッテン」


「……うぇ?」


「「「…………え?」」」


「ツクネ、ママ。パパ……『モモニ』」


「え!? モモニ? ぼ、僕のグリフォンが!? え!?」



 オレの言葉に、偶然その場に居た別の男子生徒が驚愕の声を上げる。


「え、うそ、子供? え、ツクネー、妊娠してるの!?」

「し、しかも、相手は僕の騎獣のモモニ?」

「ちょ、君イイ! わ、私のツクネーに何してくれてるの!?」

「いや、ぼ、僕も初めて知ったし! え、っていうか本当?!」


 興味本位で試したことが、まさかの事態に。

 そして、この一部始終を目の当たりにした校長は、当初断固反対であった姿勢から……


「こ、これは……すごいのぉ」


 オレに興味を示した。

 そして……


「ねえねえ、別にいいんじゃないかな? オレくんが居ても」

「ああ……なんか、別に悪いやつではなさそうだしな」

「私も彼に私の騎獣が何を言ってるか教えて欲しいし!」


 校長だけでなく他の生徒たちもオレに興味を示し、その上で「別にいいんじゃないか?」という意見も出始めた。

 さらに……



「校長。彼が騎獣として認められるかどうかの最終的な判断は王国側に委ねられるとは思いますが、僕からも彼をこの学園に置くことを認めてもらいたいと思います」


「ぬっ!? なんじゃと! 君まで……」



 ゴルドに寄り添いながら、タカラも清々しい表情で校長に嘆願した。



「タカラ……」


「カノン。僕とゴルドは騎士としての戦いで君と彼に負けた……僕らはどうしてももう一度君たちに挑まねばならない。超えたい。そしてその時まで君たち二人は僕のライバルとして今以上に高みに登って欲しい。そのためにも、彼にも君にもいなくなってもらったら困るんだよ」



 カノンの友としてだけでなく、騎士を志すライバルとして、そのライバルとこれからも高め合うためにも、オレにここに居て欲しいとタカラも告げた。


「校長! いかに生徒たちがこう仰っても、やはり保護者たちの――――」

「ふぅ……よかろう」

「校長!?」


 校長を諫めようとした女教師だったが、その前に校長は生徒たちの熱意に押される形で頷いたのだった。



「カノン・ブリランテ」


「は、はい!」


「いずれにせよ、最終的に騎士団に採用されるかどうかの裁量は王国側にある。王国側が人を騎獣と認めなければそれまでであるし、常識的に考えてその可能性の方が高いであろう。それでも君は彼と共に騎士を再び目指すというのであれば……乙女騎士団に入団を認められるのではなく、認めさせるだけの成果を示すのじゃ。彼と共に」


「ッ!」


「少なくとも今日、君たちは彼らに、そしてワシらを認めさせた。ゆえに、彼をここに置くことを許可しよう!」



 認められるのではなく、認めさせる。

 その言葉に、カノンはやけに納得してしまった。

 開き直ったり、屁理屈こねたり、とにかく頭を下げるのではない。

 自分とオレがやろうとしているのは、前例のないこと。

 ならば、それは……



「もちろんです! 私はオレと共に、学校だけじゃない、世間も世界も認めさせます! ね、オレ!」


「~?」


「オレ、私と、これからもニジューマルカツ! ニジューマルガンバ!」


「??」


「ニジューマルカツ! そうすれば、オレと私、ニジューマルツガイ!」


「ん! ニジューマルツガイ! カノン、オレ、ニジューマルツガイ!」


「うん!」



 カノンの言葉の意味の全てはオレには伝わったわけではないが、それでもこれからも一緒に頑張ろう。そうすれば自分たちは良きツガイになると宣言したカノンに、オレも嬉しそうに呼応して抱き着いた。


「あ~、それと……いくら彼が騎獣とはいえ男の子なんじゃから、不順異性交遊はダメじゃぞ?」

「それはまだしません!」

「……まだ?」


 まだ? ならばそういうこともいずれ? と皆が思ったが……



「よーし、オレ! 夢の果てまで私に付き合ってね!」


「ニジューマルツガイ! コウビ、バッテン?」


「交尾は……うん……そのうち~ね♪」


 

 もう、この二人がそれでいいのならと、生徒たちはあまり強く茶々を入れるようなことをしなかった。

 それに、自分たちが何を言わなくとも、



「さーってと、まずはお父さんに手紙書かないと! 学校やめて花嫁修業とか言ってたけど、ツガイができましたって♪」



 学校も、周囲も、世間も、国も、そしてカノンの家族すらも今後のカノンの障害になることが分かっており、カノンもまたそれを承知の上でこの道をオレと共に進もうとしているのだ。

 ならば、もう何も言うまいと……



「じゃあ、オレ、部屋に行こっか! 騎乗させて、オンブ!」


「オー!」


 

 おぶわれた一人の乙女騎士候補生とその騎獣の行く末を皆が見守った。




ありがとうございました。本作「中編」という感じで、ここで一区切りさせていただきます。

少しずつ今まで書いてないジャンルにも挑戦したいと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。


また、最後に下記の「☆☆☆☆☆」でご評価いただけましたら嬉しいです。


では!!!!

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