びっくり飛び出て土星のブルーサファイア
ゆらゆらと揺れる感覚が伝わる。
まるで揺り籠に揺られているようだ。
深い夢から覚め、意識が覚醒していくのが分かる。
薄っすらと目を開けると、青空が広がり、正面には巨大な塔が建っているのが見える。
「目が覚めたか?」
耳元で声が聞こえ、ハッとして顔を声のした方向に向けると、マイクさんの美しい顔が目の前にある。
「あれ……私はたしか……」
フェニックスの魔石をオタマトーンに入れ、自分の火傷を治療する為に、まじかる☆ヒーリングシャワーをしたところまでは覚えている。
まてよ……気を失う前に、ウィンドウに『まじかる☆ドレスの耐久値が28%です。【魔法少女】を維持できません』『変身を解除します――』の文字が見えたような……。
嫌な汗が出てくる。そしてこの状況、マイクさんにお姫様抱っこされてる!? と言うより私、服着てないじゃん!? あれれ??
私は服や下着を着ておらず、代わりにマイクさんが羽織っていた外套に見を包んでいた。状況が読み込めず固まっていると、マイクさんが察したのか、フェニックスを倒したあとの事を説明してくれた。
「フェニックスが倒され、マジカルガールの変身が解けた。俺はホノカがマジカルガールだとは薄々きづいていたが、メアリーは知っていたようだな」
今日の探索の前に車の中で、メアリーさんに捕まり質問攻めされ、押し切られるように私が魔法少女だと自白してしまった。隣にルルデミアが居たが助けてはくれなかった。
「あはは……バレてしまいましたね……」
「正体を隠す理由は理解できる。奇抜な衣装に特殊な力。ホノカを狙う者は跡を絶たないだろう」
「いずれはバレると思っていたけど、案外早かったです」
長くパーティーを組んでいれば隠し通すことは難しいと思っていたが、何だかんだで今日まで隠してきた。まじかる☆ドレスの限界を迎えて、変身が解けてしまったのは想定外だったけど。
「ホノカの変身が解けて大騒ぎだった。メアリーとスドウとJDSTの連中は、ホノカがマジカルガールだと知っていたようだが、ATLANTISの連中は大騒ぎだった。あそこの代表の娘だとはな」
「そうですね。ATLANTISは母が作ったハンタークラン系企業ですね。母は私が魔法少女のポーターをしていると知っていますけど、私が魔法少女本人だと知ったら驚くでしょうね」
ふとマイクさんに視線を向けると、青い瞳と目が合う。マイクさんの美しいホワイトブロンドの髪が、私の頬をくすぐる。まるで時が止まり、私とマイクさんの周りに美しい色鮮やかな花が咲いているようだ。
急に顔が熱くなる。
この状況はかなりヤバい。真っ裸の私をお姫様抱っこして、私はこれからどうなるの? きゃーっ! どうしよう!?
あんな事やこんな事を妄想するけど、勿論そんな経験は無いし、テレビや雑誌の知識しかない。胸が熱くなりナヴァラトナの宝石が出て来ようとして疼く。そして、胸から宝石が出ようとしたした瞬間、突然、奈々子ちゃんが私の顔を覗いてきた。
「良い雰囲気のところで申し訳ないですが、61層の塔の扉が開きません」
「わっ! 奈々子ちゃん!」
『土星のブルーサファイアが発現しました』
驚きのあまり、抑えていたナヴァラトナが胸から飛び出しきた。
くるくると回転しながら弧を描き、落下する土星のブルーサファイアをルル様はキャッチすると、ルル様は自身の胸に押し当てる。
「よし、これで後3つでナヴァラトナは揃うな」
ルル様は特に私にも目もくれず、塔の閉ざされた門に向う。
「穂華ちゃん……胸から宝石を生み出すのは人前で避けた方が良いかと」
「え?」
視線を下ろすと、外套がはだけ、胸が露わになっていた。
「すまない不可抗力だ」
「……マイクさん。降ろして下さい。もう歩けますので」
あー! 恥ずかし過ぎて死にそう!! どうしてこうなったのよ!
あまりの恥ずかしさにうずくまる。
早くこの場から逃げたいけど、他の男性人は気まずいのか近寄ってこない。これは……見られたかもしれない。
「奈々子ちゃん……」
「知らない幸せもあります」
「あ“ーーー!」
羞恥心で死にたくなるとはこの事だ。
恥ずかしさのあまり悶ていると、萬田さんが私の肩に手を置く。
「穂華ちゃん。恋華には黙っておくわ♡」
「……助かります」
遅かれ早かれ母にも私の正体はバレるだろう。しかし、今回の事は他言無用でお願いしたい。ルル様にも釘を刺しておかねば。
私の正体がバレたのでもう隠す必要性が無いので、私は秘密の呪文を唱える。
「らんらんらぶはーと♡まじかる☆ドレスアップ!!」
キラキラした虹色の粒子が辺り一面に溢れ出し、私の周りが星とハートで埋め尽くされていく。そして、POPな効果音と共に身体にジャストフィットする可愛らしいデザインの魔法少女風衣装が次々と装着されていく。
「まじかる☆が〜る♡ ストロベリーほのりん☆彡」
みんなの視線が痛い。
「うおー! やっぱり十条さんって本物の魔法少女だったんだ! うおー!」
末留さんは何やら興奮している。この人は口が軽いから心配だ。
「魔法少女殿はあの十条グループの関係者だと知った時は驚いたが、間近で魔法少女に変身するところを見ると、これはまた……」
中村さんが含みをもたせて何やら言っているが、聞きたくない。裸を見られて死ぬほど恥ずかしいのに、変身も見せて恥ずかしくて恥ずかしくて、しばらく休みが欲しい。早く伊豆の温泉に浸かってお酒を呑みたい。……酔えないけど。
「ルル様、やはりこの扉開きませんよ」
柳瀬さんとルル様が塔の入口で何やら話し込んでいた。
「ふむふむ。安心せよ、鍵ならある」
「皆を集めるのだ」
ルル様に呼ばれ全員が塔の入口らしき場所へと集まった。塔の外周はどのくらいあるか分からない。塔が大き過ぎて、上も横も霞んで見える。
そんな塔の入口らしき場所には巨大な扉が存在し、侵入者を誰一人とて通さないという印象がひしひしと伝わる。
「皆集まったな」
ルル様がひとりひとり顔を見て確認する。
「ほのりんよ前へ」
む。私か。
ルルの横に立つと、ルル様は話しを続ける。
「この塔は世界樹ユグドラシルへと続く道だ」
「ユグドラシルってのは神話に出てくる9つの世界に繋がる木ってやつか?」
ケルビンさんがルル様に問いかける。
たしか、私もユグドラシルについては、うる覚えだけど何となく知っている。ケルビンさんが言ったとおりにユグドラシルとは9つの世界に繋がっている場所だと言われている。
もしかして、神話って実在するの? この塔を登った先に世界樹ユグドラシルが見れるのかもしれない。
「左様。ここから先は只管上を目指す事になる。モンスター達も1段階レベル上がったと思った方がよい」
「ねぇルル様♡ここの塔がヤバいのは分かったけど、中にはどうやって入るの?」
「ほのりんよ、まじかる☆ボックスから金のメダルを出すのだ」
金のメダル? 何だっけそれ?
記憶に全く無い私は言われたとおりに、まじかる☆ボックスを漁ると、確かに金のメダルがあった。早速取り出して見てみると、思い出した。伊豆修善寺ダンジョンの60層のデスボールを倒した時に宝箱から手に入れた金のメダルだ。これを何に使うのだろうか?
「この金のメダルは世界樹ユグドラシルへと続く塔の鍵となる。しかし、入る為には1人1枚必要だ」
あ〜、そんなレアアイテムだったんだ。売ろうか迷ったレベルのキーアイテムじゃん!! 売らなくて良かった……。
少し焦ってしまった私だったが、そんな私を無視して奈々子ちゃんが手を上げる。
「その金のメダルを手に入れる為にはどうしたら良いでしょうか?」
「いい質問だな。須藤も行った事がある、修善寺ダンジョンの6層のボスを倒す必要がある。その為に、予め話しておいた修善寺ダンジョンソロクリアが必至となる」
みんながざわめく。
「なるほどな。だから新しく出来たダンジョンをソロでクリアする必要があったのか。大方ソロでクリアしないと入手不可能のキーアイテムなのだろう。普通にパーティーでクリアしたら絶対に入手不可能なアイテムだ」
へーそうなんだ。あの時は奈々子ちゃんが途中で離脱してから、ひとりで攻略したんだっけ。となると、最後のデスボールさえソロで倒せれば、他はパーティーを組んでも良さそうね。
「ほのりんさんはソロでクリアしたんですよね? 私も自分の実力を確かめたいので1層から攻略します」
周防院さんは私にもの凄い勢いで近づき、両手を握りぶんぶん振り回す。圧に押され、なすがままの私。
「ふん。ソロで攻略できないならレイドに連れて行く事はできんな」
「言うじゃねぇーか。ATLANTISの実力を見せてやるぜ! なぁ萬田、末留!」
「そうね♡」
「任せて下さい!」
周防院さんやる気満々だし、マイクさんが煽るから、みんながヤル気だしちゃったよ……。途中まではパーティーで攻略しても良いのに。
私達は今日のダンジョン攻略を終え、明日から伊豆修善寺ダンジョン攻略の為に準備をする事にした。
とうとう仲間達に身バレしてしまいました。




