フェニックスの炎
渋谷ダンジョン60層。
火山エリアの山頂が恐らく終着点だと思われる。何故ならダンジョンゲートを潜った先に、祭壇が見えるのだ。
本来はダンジョンを探索して、やっと祭壇を見つけてボス戦に挑めるのだが、今回は300m先に祭壇が見えた。
「伊豆にある修善寺ダンジョンみたいだね」
「あそこも目の前がボス部屋だったですものね」
私と奈々子ちゃんが行った修善寺ダンジョンも、目の前の扉を開くとボス部屋直行だったのを思い出す。特に驚かなかったが、他のメンバーはそうではないらしい。
「あら〜♡いきなりボス戦なんて刺激的ね〜♡」
萬田さんがぶりっ子ポーズとっていると、萬田さんから少し離れた所にいた園田さんと末留さんの会話が聞こえてくる。
「萬田さんが言うと緊張感が無くなりますね」
「そういうな末留。萬田はこれでも気を使ってるんだぞ」
「マジっすか?」
「おーマジだぞマジ。萬田が無言になったらピンチだと思え」
「……ういっす」
今まで萬田さんがピンチに陥ったところは見た事がない。パワーレベリングをガンガンやっているので、萬田さんも以前より強くなっているのが分かる。今ではマイクさん並みのアタッカーになっており、防御力が高そうなモンスターですら粉砕しているのを何度も見ているので、とても頼れる存在になっていた。
パーティーの平均レベルも60を越えたので、ここをクリアしたら次回は伊豆修善寺ダンジョンにチャレンジする予定だ。
「みんな、準備は良いか?」
JDSTの中村さんが声を張り、個々の状態を確認する。中村さんのスキルには【部隊指揮】がある。
このスキルはパーティーの位置を把握したり、状態を確認することができ、ステータスの向上効果もある有益なスキルだ。
「こっちは問題ない」
「私達もイケるわ〜♡」
「私達も大丈夫です」
最後に私と奈々子ちゃんの確認を終えると、私達は祭壇に近づく。
祭壇の周りはマグマが地面から噴き出し、生きているよう動いている。
マグマの熱気は肌を焼くような熱さを放っており、スキルクリスタル〈熱耐性〉を使用していなければ耐えられない熱さだろう。
私達は効率良くダンジョンを攻略する為に、ラーヴァワームやサラマンダー、ファイアスピリットを狩り、人数分のスキルクリスタル〈熱耐性〉を集め終えていた。そして、入念な準備を終えると、今回の60層に挑戦する事になったのだ。
祭壇の上にある丸い石が紅く染まり、光を放つと、紅いダンジョンゲートが開く。
「キエエエエエ!!!」
紅いダンジョンゲートから現れたボスモンスターは、全身を炎を纏った巨大な鳥が現れた。
「あのモンスターは不死鳥フェニックスだ。簡単には倒せないモンスターだぞ」
ルル様の鑑定結果にみんなが目を合わせる。
「フェニックスってあのフェニックスか?」
「だろうな。倒しても復活するなら対策が必要だと思うが」
ケルビンさんとマイクさんがどうやってフェニックスを倒そうか悩んでいる様子だ。フェニックスは創作物やゲームでもお馴染みのモンスターだ。ルル様の詳しい説明を聞くまでもなく、強力な再生能力を持ったモンスターなのだろう。
「弱点は水撃魔法かしらね? 誰か使える?」
「私はまじかる☆アクアプリズンっていう魔法があります」
「あれね。あれは敵を拘束できるから便利ね。他にいる?」
「無いな。皆の所持スキルを共有した時に、水撃魔法やその手のスキルは無かったはずだ」
中村さんは、ここにいるみんなのスキルを把握している。【部隊指揮】を効率良く使うにはJDSTの隊員のスキルは勿論、ここにいるChrome TempestとATLANTIS、そして私や奈々子ちゃんのスキルも把握している。
まあ、私の一部のスキルは教えてないけどね。
教えたら面倒なスキルをいくつも所持しているのでEXスキル系の大半は教えなかったのだ。
「ちっ! 来るぞ!」
作戦を練る私達を待ってくれる訳でもなく、フェニックスは襲いかかってくる。
「キエエエエエ!」
赤とオレンジの炎を纏った体は周辺の気温を更に上げていく。
熱で空気が揺らめき、熱波が吹き荒れ、肺を焼くような熱さで私達の体力をじわじわと削っていく。
「【ファイアサークル】展開!!」
「【結界陣】!」
「まじかる☆ヒーリングシャワー!」
油目さんの【ファイアサークル】、柳瀬さんの【結界陣】でダメージを軽減し、私のまじかる☆ヒーリングシャワーで火傷を治療する。
「波状攻撃で攻める。ダメージを受けたら柳瀬の【結界陣】に入り、油目から治療を受けるんだ。魔法少女殿、アタッカーとして参加してくれ!」
「はい!」
中村さんの指示に従い、私は後衛から前衛にシフトする。
まずは私から先行して様子を見ますか。
オタマトーンを構え、戦闘の緊張感を和らげる音を奏でる。
「先制攻撃いきます! まじかる☆スターライト!」
オタマトーンから放たれたメロディは星に変わり、フェニックスに向かって放たれた、まじかる☆スターライトは彗星のように尾を引きながら飛んでいく。
「キエエッ!」
フェニックスが甲高い鳴き声を上げると、衝撃波が発生し、まじかる☆スターライトを打ち消す。
「うそっ!?」
まさか打ち消されるなんて想像できず、思わず声が出てしまった。
「メアリー」
「ええ! 【スペルエンハンス】、【マジックミサイル】!」
私の攻撃が失敗したと即判断したマイクさんはメアリーさんの名前を呼ぶと、まるで打ち合わせしたかのように、直様行動に移す。
幾何学模様から【マジックミサイル】が6発、フェニックスに向かって発射される。
メアリーさんのスキル【スペルエンハンス】は1度だけ魔法の効果を2倍にする効果があり、【マジックミサイル】の弾数を3発から6発に増やした。
「キエエッ!」
再度、フェニックスは甲高い鳴き声で衝撃波を発生させると、【マジックミサイル】を4発打ち消した。しかし、残りの2発は健在で、フェニックスに向かって飛んでいく。
フェニックスは力強く羽ばたき、マジックミサイルを回避するが、マジックミサイルは執拗に追尾して追いかける。
「――俺を見ろ」
「キェッ!?」
マジックミサイルの追尾から逃れようと飛んで逃げていたが、目の前に突然人影が現れるとフェニックスは驚き、一瞬反応が遅れる。
「受けてみよ【三之太刀・月光】」
丸く描くように刀を振り、フェニックスの首と片翼を両断すると、フェニックスは鳴き声を上げずに絶命する。
「お、やったかな?」
「おい末留、フラグ立てんじゃねーよ」
園田さんが末留さんの頭を叩く。
私も末留さんの近くにいたら、ツッコミを入れていたかもしれない。
「キエエエエエ!!!」
フェニックスが灰になり絶命したかと思いきや、爆炎と共に炎の翼を広げ再生した。流石、不死鳥と言われただけの事はあるモンスターだ。
フェニックスは、お返しとも言わんばかりの炎の竜巻を発生させ、マイクさんとメアリーさんを飲み込もうとすると、ケルビンさんがマイクさん達の前に出る。
「させねーぜ! 【ディバインシールド】! うおおおお!」
炎の竜巻がケルビンさんが使用した【ディバインシールド】にぶつかると、辺りを灼熱の海へと変える。
「ぐぐぐぐ……」
「メアリー」
「分かってるわ! 【マジックプロテクション】!」
メアリーさんがケルビンさんの属性耐性を向上させ、炎の竜巻を防ごうとするが、フェニックスは追い打ちを掛けるようにケルビンさんの周りに炎の竜巻を2つ出現させる。
「やべーぞ! マイク! 何とかならねぇーのか?」
「1本打ち消す事は可能だろうが、2本以上消すには手数が足りん」
ケルビンが抑える炎の竜巻に押され、徐々にだが【ディバインシールド】に亀裂が生じ、パラパラと破片が落ちていく。
マイク、ケルビン、メアリーの3人はこのままでは不味いと判断した瞬間、急に炎の竜巻が大きくなったと同時に加速し始めた。
そして、3つの炎の竜巻がケルビン達を覆い焼き殺そうとした時、炎の竜巻のひとつを大地ごと抉る爆発が起こり、炎の竜巻のひとつを消し飛ばした。
「Chrome Tempestの3人の窮地を救った俺達は明日からヒーローだぜ? 萬田、末留あいつらばっかりに格好つけさせんな!」
「あんら〜♡園田ちゃんカッコいいわ〜♡チューしちゃう♡」
「おえええ! やめろ萬田! 早くあの鳥を空から引きずり落ろせって!」
萬田さんが園田さんに熱い抱擁をし、ピンク色の口紅が、竜のデザインをした兜のいたる所に付着している。
私も萬田さんに抱きつかれた事があるけど、あの太い腕に捕まったら最後、絶対に逃れられない。
「俺、あの竜巻を何とかしてみます! 萬田さんフェニックスをお願いします!」
勇敢にも末留さんが炎竜巻のひとつに向って駆け出す。ダンジョン初心者講座に参加していた頃に比べると彼の成長は著しく、今ではATLANTISにはなくてはならない存在になりつつあった。
「新たに得たスキルが早速役に立つ時がきた! 消し飛べぇぇ! 【アトミックバスター】!!!」
末留さんのクラス【ハイランダー】は大剣を得意とし、範囲攻撃を多く取得する。そのスキルのひとつ【アトミックバスター】は、一直線にマイクさん達を囲む炎の竜巻に向って飛んでいく。
「!? まずいぞ! マイク、メアリー! 俺に掴まれ!!」
大気を震わせ、大地を削り、マイクさん達と炎の竜巻を巻き込みながら大爆発を起こす。
粉塵が巻き上がり、パラパラと小石や砂が落ちてくる。視界は悪く、3人の無事が確認できない。
……あちゃ〜、末留さんやり過ぎだよ。炎の竜巻が2つ消えたけど、マイクさん達は……無事みたい。
ケルビンさんの【ディバインシールド】のお陰か、3人は無事であった。
マイクさんは無言で末留の前に立ち、顔面を片手で掴み持ち上げる。
「痛たたたたたたっ! 顔があああ! 首がもげる!!」
「おい、次同じように仲間ごと攻撃したら敵とみなし、殺すぞ」
「ひいいい! ご、ごめんなさああい!」
手を離すと末留さんは尻もちを突き、顔を擦っている。マイクさんの手形がハッキリと残っており、もの凄い握力で顔面を掴まれていた事が分かる。
私も気をつけようと心に刻むと、萬田さんの援護の為に、奈々子ちゃんと一緒にフェニックスに向かった駆け出した。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです!宜しくお願いします。




