対ラーヴァワーム
次話も戦闘回続きます
55層の祭壇の周りにはモンスターの卵がとろこ狭しと転がっており、祭壇に近づく事さえできない状況であった。
範囲魔法で吹き飛ばしてもよかったけど、ここでマイクさんが疑問の声をあげた。
「卵を産んだボス蟻はどこだ?」
「それはレッドゲートから出るんじゃないの?」
メアリーさんが答える。
「ならこの卵は何故ここにある?」
あ、そうか。マイクさんの言いたいことが分かった。
祭壇から出るモンスターは間違いなくボスモンスターが出現するけど、それ以外のモンスターはランダムでPOPするか、ダンジョン内のパーティー人数によって調整される事がある。
しかし、祭壇の周りにあるモンスターの卵は祭壇のボスとは関係なく設置されている事を考えると、他のモンスターが産み落とした可能性が高いって事ね。
他のメンバーもマイクさんの言った意味が理解できたのか、武器を構え辺りを警戒する。
私のうさ耳カチューシャからドスンドスンと質量が高い何かがこちらに向かって来るのが分かる。
「大きいのが……来ます」
ピシっと壁にヒビが入ると巨大な浅黒い蟻が硬い壁を突き破って来た。
「マザータイラントアントだな。竜王アークバハムートの前哨戦にしては良い相手だな」
相変わらず他人事なルル様だけど、私も同感だ。
この程度切り抜けないのではレイドの攻略なんて夢のまた夢である。
「あ! 祭壇のゲートが開くぜ!!」
ケルビンさんが叫び、祭壇を見ると、祭壇の上の紅い玉が輝きだしてゲートが開く。
そして中から現れたのは溶岩の体を持ったワームのようなモンスターだった。そのモンスターは空中に浮かび、体をうねらせている。
「ラーヴァワームだな。この状況で相手にするには些か分が悪いな」
「撤退する?」
「他の奴らはヤル気みたいだぞ?」
ルル様に撤退するか聞いてみると耳を疑いたくなる言葉を聞いた。
私や追加メンバーの4人は尻込みしているが、初期メンバー達はヤル気満々で陣形を組みだしている。
「俺たちは蟻狩りをする、JDSTはワームをやれ」
「おいおい上から目線な指示かい……まぁいいさ。相性的にも良さそうだしな。柳瀬! 【結界陣】を展開し安全圏を確保しろ! 油目は【プロテクション】と【ファイアサークル】だ!」
「「了解!!」」
柳瀬さんと油目さんが魔法を発動すると、地面が輝き出し、私達を囲むように五芒星の結界が出現する。
「これが結界師の【結界陣】……」
思わず私の口から驚きの言葉が漏れる。
【結界陣】の説明は予め受けていたけど、見るのは初めてだ。
この【結界陣】はモンスターの侵入を拒む結界を張る事が可能で、結界の中にいる味方は自動回復の恩恵も得られるスキルだ。
そして、柳瀬さんの隣にいる油目さんが魔法を発動すると、私の周りに青く光る六角形の物体が現れる。他のメンバーにも同じく青く光る六角形の物体が出現した。これが【プロテクション】と呼ばれる魔法で、白魔道士が使える防御力強化魔法だ。
そして、続けざまに油目さんが魔法を発動させ、地面に幾何学模様が浮かび上がると赤く輝き出す。
「【ファイアサークル】展開! 準備完了しました! 皆さん、やっちゃって下さい!」
白魔道士の専用魔法【ファイアサークル】は火炎耐性を上げる防御魔法だ。範囲内に入っていないと効果はないが、炎によるダメージを半減する効果があるのだ。
迫りくる蟻の群れにマイクさんとケルビンさんが突っ込み、次々とアイアンアントの亜種や上位種達を倒していく。メアリーさんも光属性の魔法を撃ち込み、援護射撃をしている。
JDSTの中村さんと周防院さんは大きく口を開いたラーヴァワームと対峙している。
「こい! 【挑発】【鉄壁】!」
「はぁぁ! 【雷撃】!」
中村さんが注意を引きつけ、周防院さんが電撃を飛ばすと、ダメージは通っているがタフな相手なのか怯む様子はない。
ラーヴァワームは私も参戦した方が良いかもしれない。
萬田さんと園田さんと末留さんのATLANTIS組は【結界陣】にわらわらと集まって来た蟻達を排除しに動き出した。
「私もラーヴァワームに向かいます」
「近接戦は難しそうだけど大丈夫?」
「はい。新しいスキルも試したいので」
奈々子ちゃんはラーヴァワームに対して、どうやら攻撃手段があるようだ。
ラーヴァワームは空を飛行し、灼熱の鎧を身に纏ったモンスターだ。迂闊に近づけば火傷では済まされないダメージを負ってしまうだろう。
まずは小手調べから行きますか。
「ミミズさん落ちなさい! まじかる☆スターライト!」
オタマトーンから放たれた星が、虹の尾をなびかせ、ラーヴァワームに直撃する。
「ギヤオオォォォン!!!」
ラーヴァワームの体の一部を星の粒子に変えた程度で倒すには至らなかった。
このモンスターは、他のモンスターとは比べ物にならないくらい強い。手を抜けるような相手ではなく、ラーヴァワームばかり集中していると他の注意が疎かになる。
私がラーヴァワームの背後に回ると、私の側面から別のモンスターが飛んでくるのが見えた。
あれは……アイアンアントの羽蟻だ! しかも色が紫色だから上位種かも!?
「もう! 邪魔しないで!」
3匹の羽蟻が私に絡みつき、太い口顎を使って噛み付く。
「痛っ! この、離せ!」
私と蟻が絡みつき団子になって地面に転がり落ちる。蟻の足がしっかり絡んでいるせいか、抜け出せない。これは大ピンチだ。こうなったら――。
私もろとも発火で吹き飛ばそうと脳裏をよぎった瞬間。
「ギィィィィ!!」
羽蟻が叫び声を上げる。
3匹の内、1匹が崩れ落ち、光の粒子に変わっていく。
「ほのりんさん、ひとりでは流石に無茶ですよ。私も加勢します!」
「奈々子ちゃん!」
ありがとう友よ! 頼りになるよ。
奈々子ちゃんが言ったとおり、流石にひとりで突っ込むのは駄目だった。
55層のモンスターは中々侮れない。個々の強さもそうだが、数で攻められると手も足も出ない。もっと慎重に行動するべきだろう。
反省しつつ、私に噛み付いている羽蟻を【怪力】で胴体を引きちぎると、ラーヴァワームを見据える。
ラーヴァワームは中村さんに対し溶岩の塊を吐き出しぶつけている。あんな質量の塊を盾で受けてもビクともしない頑丈さに脱帽だ。
しかし、そんな防御力も長くは続かない。タンクだって攻撃を受け続ければ疲弊する。ヒーラーの回復が遅れれば前線が崩れるし、アタッカーがモンスターを素早く殲滅しなければ後衛が息切れしてくる。
大型のボス2体に雑魚が100体以上。卵から更に孵化しアントが補充される。時間を掛けて戦うメリットはない。ならば、協力して一気に畳み掛けるしか無い!
「菜々子ちゃん! 周防院さん! 私が活路を開くので、ラーヴァワームを一気に削って下さい!」
「!? 分かりました!」
「はい!」
菜々子ちゃんと周防院さんの力のある返事が返ってくる。
女性陣の底力を見せてやる!
「はぁぁ! まじかる☆アクアプリズン!」
オタマトーンの口から大量の水が溢れ出しラーヴァワームを襲う。
水を嫌ったのかラーヴァワームは逃げようとするが、激流からは逃れられない。ラーヴァワームの全身を覆う事はできなかったが、狙ったところは包み込めた。
水の牢獄に囚われた体は溶岩と水が触れ、辺りを真っ白に覆うほど水蒸気が発生した。
急速に冷やされ、赤く燃えるようにドロドロした体は冷えたのか黒く変色する。
「菜々子ちゃん! 周防院さん!」
「「はい!!」」
2人は声を合わせスキルを発動させる。
「参ります! 【剣舞・魂送神楽】(けんぶ・たまおくりかぐら)!!」
「全力全開! 【雷虎激天衝】(らいこげきてんしょう)!!」
菜々子ちゃんが放ったスキルはゆっくりと動いて見えるが、私の目には時間も何もかも置き去りにした現象に見えた。
菜々子ちゃんはまるで踊るように神に祈りを捧げ、剣を振るう。その一撃一刀は儚く散る命を天に送るような美しさだった。
周防院さんのスキルは、周防院さん自身が雷を纏った黄金の虎になり祭壇がある部屋を眩しく照らす。
雷鳴を響かせ空を翔ける虎は空気を切り裂き、硬い岩盤を切り裂く。その咆哮は大気を激しく震わせる。
まじかる☆アクアプリズンで冷却し、ラーヴァワームの防御が手薄になった部分に向って2人の奥義が炸裂する。
「グッ、ボオオオオオオ……」
直撃を受けたラーヴァワームは爆発すると、溶岩の体を撒き散らし光の粒子に変わっていく。
魔石が手に入らないのは残念だけど、次の階層以降でラーヴァワームを見つけるまで我慢しよう。たまには私も脇役徹することだってあるのだ。
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