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始めてのキスは解毒ポーションの味がした

頬を膨らませ咀嚼するルル様は可愛い。喋らなければ。



「現在の時刻はお昼ですね。ここでランチタイムにしますか? それとも一旦引き上げて外でランチにしますか?」


 約2時間かけて伊豆修禅寺日枝神社ダンジョンへ来た私達は、直ぐにダンジョン攻略を開始した。

 そして私達は4層に辿り着いたけど、須藤さんが教えてくれた通り、時刻は丁度12時でランチタイムを回っていた。


「一度ダンジョンから出たら再度ダンジョンに入るのが億劫になりそう」

「同感ですね」


 私達の会話を聞いたのかルル様が私達の前にふわふわと飛んでやって来る。


「ほのりんよ。あの携帯バランス食なる物を持っていないのか? 持っていたら我にも分けてくれ」

「あるよ。ちょっと待ってて」


 まじかる☆ボックスからリュックサックを取り出し、携帯バランス栄養食2本満足を取出し、その内の1本差し出す。今回はヨーグルト味だ。


「おおぉ……これも何ともまた……」


 頬を膨らませ咀嚼するルル様は可愛い。喋らなければ。


「ここでランチタイムにして、4層を攻略してみましょう。恐らくですが、私では5層のボス相手にほのりん様の足を引っ張ってしまいそうです」


 そんな事はないと思うのだけど、須藤さんも久し振りのダンジョン攻略ともあってか疲労の表情を浮かばせているのが見てとれる。

 ポーションが有るからといって、無理をさせて怪我をさせてもいけないので須藤さんの意見を尊重する事にした。


「わかりました。4層のボスと戦って行けそうなら5層にチャレンジしてみましょうよ」

「分かりました。19時までにダンジョンアタックを切り上げてもらえれば、予約した旅館のディナーもご用意できます」

「おお〜ディナー!」


 須藤さんの頭につけたカメラが録画している限り、私の能力を最大限に活用できない。

 まじかる☆スターライトを使えば攻略速度は劇的に加速するので、全クリを目指すのも良いね。

 それと19時からのディナーにも間に合うように攻略するのも良いけど、それよりも私は温泉に浸かりたいのだ。

 折角なので、須藤さんと温泉に浸かりながら女子トークに花を咲かせたい。


 私は須藤さんが持ち込んだランチボックスから、手作りのおにぎりを手に取り口に運ぶ。


「もぐもぐ、鮭おにぎり美味しい」

「ありがとうございます。まだ沢山ありますから食べて下さい」


 須藤さんはそう言うと、重箱の2段目からおかずが詰まった箱を取り出す。

 中身は定番の厚焼き玉子や唐揚げにタコさんウインナーだ。可愛い。


 食事を済ませ30分ほど仮眠を済ませると、私達は4層のボス部屋の前に立つ。

 お腹も落ち着いた、仮眠も取って頭もスッキリしており体調も万全だ。


「よし! 行こう!」

「参りましょう」


 重い扉を開ける中に入るとそこには、大型コンテナ程の大きさの巨大な芋虫が横たわっていた。

 白い体に黒い斑模様のその芋虫は私達の存在を察知すると、巨体に似つかわしくない速さで歩きだす。


「む! もう動きだしか……あのモンスターの名はモネマ、時間が立つと羽化するから気をつけるのだ」


 羽化するモンスターは初めてだ。あの見た目からすると蛾になるのかな? この広い空間で飛ばれると厄介だし一気に片付けたいね。

 

 須藤さんがモネマに向って駆け出す。


「ほのりん様、私が注意を促しますのて隙きをついて強力な一撃をお願いします」

「まかせて!」


 須藤さんがモネマの頭に跳び乗ると、両手に握った短剣が妖しく輝く。


「私と踊りましょう? ダンシングエッジ!」


 舞うように短剣を操りモネマを切り刻むと、緑色のドロドロした体液を噴き出し、モネマの叫び声が広い空間に木霊する。


「キキキキキキキッ!」

「まだまだいきますよ! アサルトドライブ!」


 須藤さんは美しく舞いながらモネマを切り刻んだかと思うと、目にも止まらぬ速さで短剣を連続で突きだす。

 激痛に耐えかねたのか、モネマは大きな体を跳ねさせ須藤さんを吹き飛ばす。


「キキキキ!」

「くっ!」


 今なら不意打ちを決められる!

 私は助走し、拳をモネマの胴体に放つ。


「せいやー!」


 拳がモネマの胴体にめり込むと生暖かい感触が伝わる。そしてその衝撃は凄まじく、モネマはゴロゴロと転がって行く。


「倒せなかったか〜」


 モネマは芋虫特有の動きをし、体を畝らせるのでとても気持ち悪い。

 光の粒子になって消えない以上、さらに攻撃を加えなければ倒す事は不可能だ。


 須藤さんがモネマに向って走り出すのを確認し、私も止めを刺すべく【剛力】を使用して再度殴りかかろうとした時、モネマの口から大量の糸が噴き出す。


「!?」

「糸? 何をする気?」


 白い糸がモネマを覆うように囲い、次第に繭の形を成形していく。


「2人とも気をつけるのだ。モネマは完全変態後、成虫になり強くなる。早めに決着をつけるのだ!」


 完全変態とは昆虫が、幼虫、蛹を経て成虫へ変態する事を言う。 蝶や蛾などの鱗翅類、ハエなどの双翅類などの昆虫がそうだ。

 現在は蛹の状態で次は成虫になるので、中からどんなモンスターが出てくるか分からない。素早く手短に倒した方が良さそうだ。


 私は繭に対して【剛力】パンチを決めるが、ダメージを通す事はできずに跳ね返されてしまう。何度も試したが攻撃は届かない。


 まじかる☆スターライトやアメイジングコスモを使えば、繭諸共モネマを倒せるかもしれないけど……。

 私はちらりと須藤さんを見ると、須藤さんの短剣でも繭にダメージを与えられていない。 

 カメラが回っているので魔法は使えないので、一度カメラを切ってもらう? 攻め手に欠けている状況では、モネマに有利にさせてしまう。

 やはり一度カメラを切ってもらって倒してしまった方が得策だろう。


 私が須藤さんにカメラを切ってもらう為にお願いしに行こうと瞬間、繭から何かが裂ける音が聞こえる。


「キュイイイイィィィ!」


 繭から巨大な蛾が出て来た。

 巨大な羽根からは毒々しい模様が浮かびあがり、その模様は人の頭蓋骨にも見える。口元は鋭い無数の歯が見え、あの口の中に入ったら一瞬で挽き肉なってしまうだろう。


「うわ出てきちゃった」

「これはマズイですね」

「む、我の鑑定眼から得られる情報によると、レベルは60超えのモンスター、モネマ・フラウェスケンスポイズンだ。鱗粉に猛毒と幻覚作用がある。これ以上遊んでいるとほのりんは兎も角、須藤は死ぬ可能性が高いぞ?」


 モネマは繭から飛び立つと、キラキラした鱗粉を撒き散らしながら広い空間を自由に飛び回る。


『毒無効 発動。猛毒と幻覚毒を無効化しました』


 やはりあの鱗粉のは毒が! 須藤さんは?

 須藤さんを様子を覗うと、片膝を突き荒い息を上げていた。毒を打ち消す薬も無い、一刻もモネマを倒して治療を済ませないと危険だ!


 私は深緑色のコートを脱ぎ捨てると、まじかる☆スキルブックからまじかる☆アタッチメント【アメイジングコスモ】を取り出す。


「まじかる☆アタッチメント!【アメイジングコスモ】オン!」


 虹色に光る宝石をオタマトーンの口の中に入れる。


『オタマトーンが形態変化します』


 オタマトーンの形状が変わり、以前デスライダーを倒した時と同じ弓が現れる。

 手に持つと分かるが、この弓からは途轍もない力を感じる。


 ちらりと須藤さんを見ると吐血し目が虚ろになっている。早く倒さないと非常に危険だ。

 弦を引くと光輝く矢が現れ、鏃に虹色の光が収束する。



「銀河を駆け抜けろ! アストラルシューティング……スターーーッ!」


 一筋の光の矢がモネマを貫く。


「キィイイイイイィィィ……!」


 モネマは断末魔を上げると光の粒子に変わり、広い空間内を星を散りばめたように降り注ぐ。


『モネマ・フラウェスケンスポイズン の魔石を取得しました。スキルポイントを20ポイント取得しました』


 私は直様、須藤さんに駆け寄る。

 須藤さんの意識は混濁しかなり危険な状態だ。

 毒を治療するアイテムを持ち合わせていないし、ダンジョンから出て病院へ間に合うのだろうか? 外の自衛隊の人に助けを求める? どうしたら良いかパニックになっていると、ルル様が助け舟をだしてくれる。


「須藤の腰にポーチがあるだろう? その中に解毒ポーションの反応がある。それを飲ませるのだ」


 焦りながらも須藤さんのポーチを漁ると、緑色の液体と紫色の液体が入った試験管を見つけた。緑色は傷を癒やすポーション、紫色は……これが解毒ポーションね。


「さぁ、須藤さん飲んで」


 意識が無いのか口を開けないので飲ませることが難しく、須藤さんの顔色が非常に悪い……このままでは……。


「ほのりんよ、口移しで飲ませるのだ!」

「えええ!? く、口移し?」

「四の五の言わずにさっさとするのだ!」


 ええい! ままよ!


 試験管の蓋を開け、紫色の液体を口に含む。

 そして、須藤さんの肩を抱き上げ解毒ポーションを口から移す。


 ひいいいーー。

 私のファーストキスが須藤さんにーー! 

 柔らかい唇の感触が伝わると、脳が沸騰しそうになるくらい熱くなり、視界がぐるぐる回ってくる。


『水星のエメラルドが発現しました』


 ええ!? ナヴァトラナがなんでこんな時に??


 混乱する中、口移しで飲ませた解毒ポーションは須藤さんの体内に入り、身体から紫色の蒸気なような靄が噴き出す。

 そして意識が混濁していた須藤さんの指先がピクリと動く。


「う……」

「須藤さん!? 大丈夫ですか? しっかりして下さい!」

「ほのりん様……?」


 ゆっくりと身体を起こし、須藤さんは辺りを見渡す。


「あのボスモンスターは、ほのりん様が倒したのですね。流石です」

「あのボスとても強かったよ」

「そうですね、私の力が及ばす申し訳ございません」

「ううん。須藤さんのお陰で色々助かったよ。ポーションを飲んで体力を回復させて」


 私はまじかる☆ボックスからポーションを取り出し須藤さんに手渡そうとするが、須藤さんは受け取らずポーチから緑色の試験管に入ったポーションを飲む。


「ふう。ほのりん様のご厚意だけ受け取らせて頂きます。命を助けて頂き、さらにポーションまで受け取るなんて厚かましいです」

「気にする事ないのに」


 須藤さんは立ち上がると、短剣を腰の鞘に戻し荷物を整理し始める。


「私の実力ではここまでですね」

「ふ〜む。須藤は良いセンスをしている。専業でハンターになればトップクラスの実力があるぞ」

「ルル様にそう言って貰えると本気になってしまいますね。ですが私は今の仕事は嫌いですが、今が楽しいのです」

「よく分からんがそう言うモノなのだろうな」

「そういうモノなのです」


 2人して納得しているが、私は理解できなかった。誰か説明して!


「私は動画の編集もありますので、ダンジョンゲート前の仮設テントに引き上げます。危険だと判断したら直ぐに戻って来て下さい」

「うん分かったよ」

「それではご武運を」


 須藤さんはモネマを倒した時に出現したダンジョンゲートに触れ、一度振り返り微笑むとダンジョンゲートの中に消えていった。

 体調も良さそうだったし取り敢えず一安心だ。


「さてほのりんよ、我にナヴァラトナの宝石を捧げよ」


 私の心に反応した宝石、水星のエメラルド。

 須藤さんを助けたい一心で口移しをした結果、現れたこの宝石はどんな意味があるのだろうか? 

 私は胸に手を当てナヴァラトナ、水星のエメラルドを取り出す。


「んっ……」


 ルル様の前に持って行くと水星のエメラルドが輝き、ルル様の胸に吸い込まれるように入る。

 ルル様の胸には綺麗な2つの宝石が輝やいた。


「素晴らしい。何年もかかると思ったが、この短期間に2つのナヴァラトナの宝石が手に入るとは……」


 喜んでいるようで何よりです。


 私はモネマが落とした素材系アイテムとスキルクリスタルを広い、報酬の宝箱を開ける。

 宝箱の中身はポーションとハイポーション、そしてクラスチェンジオーブが2つも入っていた。


「鑑定を済ませようか」

「我に見せてみよ。……ふむ、モネマの毒鱗粉にスキルクリスタル〈完全変態〉クラスチェンジオーブ〈双剣士〉〈グラップラー〉だな」


 何故か先程の私達の戦闘スタイルのような、クラスチェンジオーブが出現したね。

 スキルクリスタルの〈完全変態〉は恐ろしくて使えない……。何に変化するか全くの未知数であり、売却するのも怖い。


 予想外の攻撃を受け、須藤さんが戦線離脱をしてしまったが、まだまだ余力も残っているし時間もある。次の5層を攻略しちゃおう!

 そしてディナーと温泉が私を待っているわ!


 私はウキウキしながらダンジョンゲートに飛び込んだ。


 



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