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数日前

 数日前、極貧状態に陥り私は度々テレビや雑誌で取り上げられていた話題を思い出したのが始まりだ。


 『渋谷ダンジョンで一攫千金! 少し探索してお小遣い稼ぎ!』そんな甘い言葉に騙され、なけなしのお金を使いダンジョンへ潜る為の講習を受けたのだ。しかし、講習を受けたのは良いが右も左も分からない女が1人、邪な考えを持つ者が集まって来るのは必然であった。


「ねぇねぇ、もしかして新米ハンター? もし良かったら一緒にパーティー組まない?」

「そうそう、ひとりよりみんなで行けば安全だし稼げるし!」

「俺、達也、こっちは充よろしくね!」


 流されるがまま、チャラいお兄さん達と一緒にダンジョンアタックをする事になった。


 それが地獄の始まりだとは知らずに……。




 渋谷ダンジョンの入口はダンジョンセンターの裏手にあった。その入口は黒く大きな輪が開いており、多くの人達からその中に吸い込まれていった。


 ここの中に入るの? 怖っ。


 ビクビクしていると達也が私の肩を抱いてくる。


「心配しなくてもいいよ! 俺達魔法が使えるんだぜ!」

「そうそう、これ秘密な!」

「凄い……」


 憧れの魔法、もしかしたらアニメで見た魔法少女になれるかもしれない! そんな淡い希望を抱きながらダンジョンの入り口が近づいて来る。


 しかし、ダンジョンの入り口が近づいて来るにつれてふと気になる事がある、それは皆物々しい服装をしているのだ。頑丈そうなヘルメットにプロテクター、更には刀を持っている人もチラホラ見かける。


「私達何も武器とか持ってないですけど大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、俺達魔法が使えるし武器は現地調達が基本だよ」


 はて? そうだったかな? 講習を受けた時にしっかり事前準備をしましょうって習ったような気がする。更に死亡する原因に粗末な装備が半数を占めていたような……。


 一抹の不安を抱え、私達の順番がとうとうやって来ると受付の人にゲートに入るようにと言われる。


「さぁ、怖がらなくてもいいよ、手を繋いで一緒に行こう」


 充に手を握って貰い、目を閉じ息を止めゲートに入ると、液体に身体を沈ませるような感覚が身体に纏わり付く。それも一瞬で収まると達也と充の声が聞こえてくる。


「穂華ちゃん目を開けていいよ!」

「もうダンジョンの中だよ!」


 ゆっくり目を開けると薄暗い洞窟の中にいた。


 あんなに沢山の人がダンジョンの中に入って行ったのに、今は私達以外、人の気配が全くしない。聞こえるのは洞窟の奥から聞こえる風の音と水が滴る後だけだ。


「人がいませんね」

「ダンジョンに入ると、パーティーを組んでいる人以外はみんなバラバラに飛ばされるんだ」

「出るにはどうしたら良いですか?」

「出るにはそこのダンジョンゲートに入るか別のダンジョンゲートに入る必要があるよ」

「ここは1階層だからモンスターも弱く少ないし死ぬ事もない、ゆっくり探索して宝箱や素材を探して小遣い稼ぎがお勧めだよ」


 ここまでは講習通りの内容で、取り敢えず2人と一緒にアイテムを拾って行く事になった。


 ダンジョンの中は照明が無いのに明るく、洞窟の奥まで見渡せる程の明るさだった。達也いわく、階層を重ねるほど暗くなっていくそうだ。


「何だ? ボールか?」


 達也の声に反応した先に視線を向けると、丸いゴムボールみたいな物が転がっており、ダンジョンの中には不釣り合いな色合いをしている。


「ただのボールだな」


 達也が試しに指先でつついてみるとゴムボールのように弾力がありコロコロ転がる。


 案外ダンジョン探索って楽かも? そんな事を思いつつダンジョンの奥へと向う。


 そして探索から約1時間、慣れない道を歩き続けたせいか足が痛くなり私は休憩を取りたいと、ふたりにお願いした。


「……ここら辺でいいか?」

「そうだな。人気もないしな」


 休憩に人気は関係があるのだろうか? そんな疑問が浮かぶと、突然背後から達也が私の事を羽交い締めにしてきた。


「きゃっ! やめて!」

「おい、足を縛れ」


 必死に抵抗するが男性2人に抵抗出来る筈もなく、充が腰に巻いたベルトを取り外し私の足にきつく巻き付ける。


「痛い! 止めて……お願い……」

「よし、腕を後ろに回して俺のベルトで縛っちまおう」


 カチャカチャとズボンのベルトを外す音が聞こえると、顔を地面に無理やり押し付けられ口に砂がはいる。そして腕を後で組まされベルトでキツく縛られてしまった。


 この人達、最初から私を騙してたのね……このままじゃ……。


 そんな時、私はテレビで流れて来るニュースを思い出す、それはダンジョン内の犯罪である。


 暴漢や殺人、麻薬の売買などがダンジョン内で行われ、悲惨な事件が度々起こっている事を。ダンジョン内で犯罪が行われるにはいくつか理由があり、ダンジョン内で死ぬと数日で遺体はダンジョンの中に吸収されてしまうので証拠も残りにくいのだ。


「誰か助けてーーー!!!」


 洞窟内に私の声が響き渡り……そして、


「静かにしろ!」


 腹部に激しい痛みが襲う。


 うぐっ……な、何をされたの……?


 そしてもう1度、腹部に先程より強い痛みが襲う。2回目の痛みの瞬間、充が私の腹部を蹴り上げていたのが見え、あまりの痛さに息が詰まる。


「こへっ……かはっ……あぁぁ……」

「これでも口に挟んでろ!」


 達也が私の鞄からハンカチやポケットティッシュを取り出すと口に無理やり押し込んでくる。


 恐怖のあまり全身が震え抵抗が出来ない私の顔を達也が覗く。


「大人しく股を開けばいいんだよ」

「充、穂華ちゃんのパンツ脱がせろ」

「ほいきた!」


 満面の笑みを浮かべた充が、私のロングパンツに手を掛け無理やり下ろす。


(嫌だ! 助けて! 誰か……うぅぅ)


「お〜、可愛いの履いてるぜ!」

「見た目通り可愛い下着だな。泣いてる顔と合わさって興奮するぜ」


 狂気に満ちたふたりの顔がこれから起こる事を想像させる。


「んぅぅんんーー!」

「大丈夫だって直ぐに済むからよ……ってあれなんだ?」

「ん?」


 先程通って来た道から何かが跳ねたり転がってこちらに向って来るのが見える。


 トンットン……コロコロコロ……。


「さっきのボールかよ脅かせんな! あっちに行け!」


 充がボールを蹴ると洞窟内を激しくバウンドさせ岩の影に落ちる。


「さてさて続きを始めようか」


 充がズボンを下ろしたその瞬間! 岩陰に落ちたボールが大きく膨らみだす。


「な、なんだ……?」

「おい、充! 何をした!?」

「何ってボールを蹴っただけだよ」

「蹴っただけなら膨らまないだろ!」


 ボールはボコボコと波打ち、体の表面か触手を伸ばす。

 何あれ!? モンスター? ……なら、逃げるなら今しかない!


 ゆっくり身体を起こし立ち上がり、跳ねながら洞窟の先へと向かうが必死に跳ねても全然進まない状況に次第に焦りが生じ、バランスを崩し転んでしまう。


 痛ぅ…。


「そうだ、あの女を囮にして逃げるぞ!」


 嫌っ……止めて!


 私が倒れた音で2人の意識が私に向くと、モンスターの囮にしようと私を担ぎ出す、私の抵抗も虚しく大きく膨れ上がった膨れたボールの前に私は突き出されてしまう。

 そして、2人は逃げ出そうとした瞬間、膨れたボールから伸びた触手が目に見えない動きで鞭のように撓り、2人に向かって放たれると、2人の身体はバラバラに崩れ落ちてしまった。


 ひ、ひぃ……し、死んだ! あの人達死んじゃった……わ、私も死ぬ……嫌! 死にたくない!


 赤い蛍光色の触手を生やしたボールがゆらゆら揺れ、私の体を観察するような仕草で触手を体に絡め持ち上げる。肌に触れる触手は血が付着しており、生暖かい感触が伝わってくる。


 そして恐怖のあまり、私の意識は闇に飲まれていった――――。

 


読んで頂きありがとうございます。

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