最終決戦
『まじかるを開放します』
『魔法少女専用クエスト【まじかるを開放する】をクリア。全ての魔法少女の限界値を撤廃します』
『蓄えられたまじかるを魔法少女に還元します』
ルル様のノートPCがガタガタと暴れ出し、割れた液晶画面から虹色の光が溢れ出す。
その光の中から3つの綺麗な宝石が現れ、私と奈々子ちゃん、そしてりぼんちゃんの胸の中に入る。
これは……ナヴァラトナ?
私達の驚きと戸惑いを他所に、ウィンドウがポップアップし次々と私達のステータスの欄に星印が付き始める。
ステータスの星印はウィンドウの外まで飛び出し、私達の周りを包み込むように溢れ出す。
「ほのりんさん……これは?」
「……ルル様だ。ルル様がDTubeで再生数を稼いでいたのか分かった気がする」
ルル様は用心深い人だ。
きっと保険だ保険といって今回も裏でやっていたのだろう。
ナヴァラトナは感情をエネルギーとしていると聞いている。ルル様はそのエネルギーをDTubeやネットを介し少しずつ集め、エネルギーとして蓄積していたのだろう。
そして万が一、何かしらの理由でナヴァラトナが集まらなかった場合に、DTubeで溜め込んだエネルギーをナヴァラトナに変換するつもりだったのだ。
結果的に私達の力に変わってしまったが、これは最後のチャンスかもしれない。
私達の身体は光に包まれ、魔法少女の姿に変身する。
そして背中に生えている羽が輝きだし、光の粒子が激しく吹き出す。まるで、私達の背中から星々が生まれるような、銀河が集まったような綺麗な光景だ。
その異様な光景に気がついたのか、アルファミリアが初めて焦ったような口調になった。
「なんだその力は? お前達の胸にある物はなんだ?」
ルル様のノートPCから絶え間なく溢れ出す虹色の光は未だに私達に流れこむ。
「これは、この世界に住む人達の心の力だよ」
「そうです、ひとりひとりが私達を応援してくれています」
「りぼんも分かるよ。地上では今大変な事になってるけど、それでも諦めずに戦っている人達のことを!」
私達の自信の勇気が籠もった言葉をアルファミリアにぶつける。
「な、何を言っているんだ? まぁ、もう時間切れだし魔法少女の負けだよ。ほら、ユグドラシルの門が開く」
ユグドラシルの門が開き3つ目の悪魔が上半身を覗かせ、這い出てくる。
「この日の為に竜王レティアを殺してもらったし、まじかる☆リヴァイブも黒い魔法少女の復活の為に使われた。もう悪魔達を止める手段は潰えた」
「まさか……!」
「これも計画どうり。魔法少女達が勝ってもまけても良かったけど、期待を上回る結果になったよ」
そんな……。竜王レティアの異変もアルファミリアの仕業だったの? 竜王の鍵を手に入れるまで仕組まれた事なの? ここまでしてアルファミリアは自分が楽しむ為に、関係のない人を巻き込み、世界を無茶苦茶にしようとしているの? そんなの許せないよ。
「アルファミリア……貴方の暇潰しに私達の世界を壊せはしない」
「私達は止めてみせます」
「魔法少女の私達に不可能はないよ」
私達の胸の奥底にあるナヴァラトナの輝きがより一層輝きを増し、ユグドラシルの門の上空に広がる星空をナヴァラトナの輝きで覆い尽くす。
「ルルの悪足掻きか……! 一生懸命玩具で遊んでいたと思ったら、こんな小細工をしていたなんて……いや、そうでなくちゃな。こんな面白い展開、僕にも想像がつかなかったよ!」
アルファミリアは両手を私達に向けて魔法陣を展開させる。
その魔法陣は何重にも重なり、アルファミリアのナヴァラトナが強く輝きだす。
「楽しかったよ。でももう終わりだ、君達は退場してくれ」
「そうはさせるかよ」
「!?」
アルファミリアの身体に黒い影が手足を拘束し、アルファミリアの魔法陣は黒い影に飲まれ消えてしまった。
「神峰の仲間か!? 何処に隠れていたんだ?」
アルファミリアの顔が初めて驚愕の表情を浮かばせる。そして苛立ち、怒りに変わる。アルファミリアの眼下には黒いローブを身に纏った影山が影を操り、アルファミリアを妨害していたのだ。
「俺は隠れるのは得意でね。魔法少女達……りぼん……これで罪が消えたとは思わない。ただ、命を賭けても償いたい」
影山翔馬。渋谷ナンバーズの3位にいたハンターだった男だ。彼がりぼんちゃんの側にいた理由は分からないが、もしかしたらりぼんちゃんの事を見守り、守っていたのかもしれない。
今、それを問いただす暇は無いが、影山のお陰でアルファミリアに隙きができた。
「今良いところなんだ! 僕の邪魔をするな! 死ね!」
アルファミリアが放った光弾が影山に直撃し、その身体を消滅させる。
アメイジングコスモの残りは後ひとつ。グレーターデーモンとアルファミリアに1発ずつ使ってしまっている。
奈々子ちゃんとりぼんちゃんの力を集約し、最大の力で放たないとアルファミリアの強さを上回れない。
「ななちゃん、りぼんちゃん。ルル様の残した贈り物……地上の人達の応援に答えなきゃ!」
「そうです。今も聞こえます。私達を応援してくれる声が」
「みんな聞こえてるよー!」
私達は手を合わせる。
「「アメイジングコスモ!!」」
私達の胸から綺麗な宝石がひとつずつ飛び出してくる。その輝きは私は白、奈々子ちゃんは黒、りぼんちゃんはピンクの光を放っている。
それがひとつに交わり、その光を浴びたまじかる☆ウエポンの形状が変わる。
それは綺麗な装飾が施されたお揃いの可愛いステッキだった。
昔アニメで見たようなデザインでステッキの先端には私達のイメージカラーの宝石が埋まっており、力強く光を放っている。
「ティンクルー!」
「スター!」
「オーバードライブ!」
私達はステッキを回転させ、ステッキの先端をアルファミリアに向ける。
「「みんなの力をひとつに!」」
ルル様の願い、世界中からの希望を胸に……今解き放つ。
「「まじかる☆スーパーノヴァ!!」」
視界がまっしろに染まる。
力の波が激流となってアルファミリアを襲う。
「あははは。これは凄い。竜王の力なんて目でもないぞ……! ぐっ……おおおおおお! これに耐えたら僕の勝ちだぁぁぁぁぁ!」
私達の願い、思い、そして希望の力がアルファミリアを徐々に押す。そして、ひとつ、またひとつとアルファミリアの胸にあるナヴァラトナの宝石が砕けていく。
「あああ! 僕のナヴァラトナが!」
アルファミリアは胸にあるナヴァラトナを必死に押さえる。
「それは貴方のナヴァラトナではりません!」
「そうだよ、それはルル様のだよ」
「利子付きで返してもらうから!」
私達が放ったまじかる☆スーパーノヴァはアルファミリアを呑み込み、ユグドラシルの門の前にいた3つ目の悪魔を巻き込む。
「くっそおおおおお!」
「グァアアアアアア!!」
光の渦の中で微かに見えた。
アルファミリアの胸にあった最後の宝石。
奈々子ちゃんから奪ったケートゥのキャッツアイが砕けたのを。
ユグドラシルの門は勢い良く音を立てて閉まり、3つ目の悪魔は扉に挟まれると上半身と下半身が泣き別れをした。その断末魔は耳をつんざくような叫び声だったが、程なくして悪魔は息絶えたのか黒い粒子となって消えた。
そして、私達の力が枯渇したのか魔法少女の変身が解ける。
「かはっ」
「はぁはぁ……」
「りぼんもう駄目……」
私は片膝を突き肩で息をする。奈々子ちゃんはへたり込む。りぼんちゃんは大の字になっており、アイドルとしては色々ツッコミどころは多いが、指摘するほど私には余裕はない。
「ユグドラシルの門は……」
「はぁはぁ……門は閉じましたね……」
「りぼんやったよ〜……明日から暫く活休します〜」
ルル様やったよ……アルファミリアを止めたよ。これで世界同士が繋がらなくなり、悪魔達が私達の世界を蹂躪せずに済んだよ。
あぁ、疲れた。少し休憩させて……5分だけ寝かせて……。
疲労困憊でこのまま眠りにつきたいと思った矢先、ユグドラシルの門の前にひとりの人物が起き上がる。
「くっそ……折角ここまでやったのに、最後の最後で失敗か……これじゃあ僕は永遠にこのつまらない世界から抜け出せないじゃないか!」
アルファミリアは地団駄を踏み癇癪を起こしている。傍から見れば年相応の子供に見えなくもないが。
「アルファミリア、貴方はこの世界の守人の筈です。何故、このような暴挙に出たのですか?」
「暴挙? ふんっ」
奈々子ちゃんの質問にアルファミリアは鼻を鳴らす。
「僕が自我を得た時から、この場所を守り続けている僕の気持ちが分かるかい? 何年……何千年……何億年……、変わることの無い毎日……神すら僕は見た事も話した事もないよ」
アルファミリアは視線を落とす。
私達の世界を中心に他の世界を繋げ、滅茶苦茶にしていい理由は無い。身勝手過ぎる。
「アルファミリア、ルル様と出逢って楽しくなかったの?」
私の問にハッとし、私と視線が合う。まるで初めてその事に気がついたような雰囲気だ。
「……ああ、楽しかった。そうだ、とても楽しかった。ルルがこの世界に迷い込んだ時、ルルの世界にあるルールを僕の世界でも使えるようになった時の感動は今も忘れない。この世界に無かったダンジョン……地上の人間達がやっているような玩具の世界……作っていると夢中になれて楽しかった」
アルファミリアの心の内側が少し分かったような気がした。
中身は本当に子供だ。与えられた玩具を時間を忘れて遊ぶ子供のように……。しかし、アルファミリアはその玩具じゃ飽き足らずもっと他の、玩具を強請るようになってしまったのだ。
しかも悪い事に、アルファミリアを叱る大人は存在しない。もし私達の社会の中で、子供の躾を全くされていない子供が大人になったらどうなっただろうか? 私利私欲に動く? それとも子供のまま? どんな大人になるか分からないが、私達の社会では生きて行くには大きな障害になるかもしれない。
アルファミリアは何億年もひとりで過ごし、楽しい玩具を探し求め、このような結果もたらした。
これは誰の責任だろうか? アルファミリアだろうか? それともこのシステムを創り上げた神と呼ばれる存在だろうか? 23年しか生きていない私には分からない。
アルファミリアはゆっくりと私達に歩み寄る。
白いワンピースはボロボロになり、白髪のセミロングはボサボサだ。
「まだだ、微かに残るナヴァラトナの気配……その力を寄越せ」
「まだそんな事を!」
ルル様のノートPCは既にうんともすんとも反応が無く、割れた液晶画面も真っ暗だ。私達の力は残っておらず魔法少女に変身する力も残っていない。
「さぁ……寄越せ!!」
アルファミリアが手をかざした瞬間、その手を掴むひとりの男性の姿が現れた。
「な!? だ、誰だお前は?」
「誰って君の親でもある神ってやつだよ。魔法少女諸君、遅れて済まない。いろいろ会議か長引いていね」
「え? 貴方は……」
その姿に見覚えがある。見覚えがあり過ぎる。
奈々子ちゃんに至っては両目を見開き口をパクパクさせている。まるで池にいる鯉だ。
「なんで鈴木さんがここに……? え? 神?」
「うん、穂華ちゃん、君の活躍は毎日見てたよ。うちの娘が大ファンなの知ってるよね? あ、約束覚えてる? サイン書いて欲しいってやつ。後で頂戴」
覚えてるけどさ……。今言うのそれ?
目の前の中年サラリーマン風の鈴木さんは毎日喫茶しぐれでモーニングに来る常連さんだ。毎回来朝早く来ては、いつものメニューを注文し、最近のニュースをネタに私やルル様、そしてマイクさんや咲さんと会話をしては時間になると慌てて仕事に向かう普通のサラリーマンである。
そんな人が神? はぁ?
「疑っている顔だね。でも仕方ないね、アルファミリアと同じで私もこの世界では普通にサラリーマンをしているし、優しい奥さんと可愛い娘を養いっている人間に過ぎないからね」
アルファミリアは鈴木さんの手から逃れようと必死に抵抗するがびくともしない。
「アルファミリア、君にも伝えたい事がある。神達の会議で守人達の待遇について話し合いが行われたんだ」
何それ興味があるんですが!
私は平然を装い聞き耳を立てる。
「数名の守人がルルデミアのように他世界に行きたいとの要望があってね。神の中でも企業改革というか時代の流れというか……色々あってだね、異世界交流をしたり研修制度を設けようと思うだ」
なんか話しの流れが現代社会になって来たぞ。
「ふ、巫山戯るな! お前を神だなんて認めない!」
「はぁ、君はやり過ぎだからお仕置きが必要なんだよね。他の守人に対して見せしめになる必要もあるし、暫くはおしおきタイムね」
「は? え? ちょっと待って……ぎゃあああああ!!!!」
バチバチと電流が流れると消し炭になったアルファミリア。
「アルファミリアは死んでないよ。これでも神の端くれだからね」
鈴木さんやアルファミリアの事も気になるけど、私は鈴木さん、いや、神に聞きたい事がある。
「……何故、このタイミングだったんですか? 鈴木さんがアルファミリアを止めてくれれば、奈々子ちゃんやルル様、地上の人達だって傷つく事は無かった筈です」
私の問に鈴木さんは本当に申し訳無ささそうに眉毛をハの字にさせる。
「それについては反論はしない。他の神々達を納得させるのにかなりの時間を費やしてしまった。正直、魔法少女の君達とルルデミアの活躍がなければ私も手を出せなかったんだ」
「どいうことですか?」
「それはね。ルルデミアは私の正体を知っていたからだよ」
は? ルル様は鈴木さんの正体を知っていたの? 何それ何も聞いてないよ!
「ルルデミアから逐一報告を受けていたし、相談も受けていた。私の立場的には手は貸せないけど、外の神々に進言したりしたり手を回したんだ。結果、間に合わなくてアルファミリアに無茶苦茶にれてしまってね」
鈴木さんは姿勢を正す。
「……穂華ちゃん、奈々子ちゃん、りぼんちゃん。世界を、神を代表して君達に心から謝罪したい。神と守人達の問題に巻きこんで本当に申し訳ない」
頭髪が元気の無くなった鈴木さん、いや神が深々と頭を抱える下げ謝罪する。
謝罪を受けたからと言って傷つけられた人の痛みはきえないし、死んだ人は帰って来ない。
私達は鈴木さんの謝罪に困惑していると、私達の考えている事が察したのかある提案してきた。
その提案とは――。