残された希望。
「真の敵?」
奈々子ちゃんが口にした言葉に私はアルファミリアを見た。
アルファミリアは私達を見て楽しそうに微笑む。
「今ね、黒い魔法少女の恋人を殺したのは実は僕だって話したんだ」
「それって本当の事なの? 私達を騙して動揺させる作戦?」
「本当の事さ。当時は退屈だったからね、選別している時に少しフザケたら殺しすぎちゃったんだ。結果、須藤奈々子を取り逃がし、十条穂華を白い魔法少女にするのにかなりの時間を無駄にしたって事さ」
ルル様がデスボールを操って聞いたけど、その裏でアルファミリアが手を加えて殺戮をしていた? その結果が奈々子ちゃんの恋人が亡くなる事件が起こったのね。
「まあ、結果はどうあれ白い魔法少女が生まれ順調にナヴァラトナを集めこうやってひとつにあつまった。見てご覧……この美しい輝きを」
アルファミリアのワンピースから透けて見える9つの光が見える。
全ての宝石が集まりナヴァラトナの力が共鳴し合って力を増幅している。ルル様が8つの宝石を宿している時より強い力を放っている。
「お願い、貴方が開こうとしている門の先は危険なの。ルル様もそれは望んでいないの」
「そうだね。ルルは自分の世界に戻る為にナヴァラトナの宝石を9つも集めた。本当はひとつだけで良かったのに……くくく、あははは! ルルのお陰で全ての世界を繋げられる、やっとこんなつまらない世界を変えられる……あぁ、ようやく僕もこの呪縛から逃れられる、あはは……あははははは!!」
ルル様の願いは届かず、アルファミリアは狂気に取り憑かれたように狂い笑う。
言葉では伝わらない、こうなったら全力で止めるしかない。
チラッとユグドラシルの門を見ると、ユグドラシルの門は半分開いており、そして、その中から黒く巨大な手が扉を無理矢理開こうとしているのが見える。
「ほのりんさん、時間がありません!」
「うん、アルファミリアには説得は通じない。もう倒してナヴァラトナを破壊するしかない!」
アルファミリアの胸にあるナヴァラトナを破壊し、ユグドラシルの門を開くためのエネルギーの供給を止めるしかない。
「楽しい事は大歓迎だよ。さぁ、早くしないと君達の世界が、地獄の炎に飲まれる景色を目の当たりにする結果になるよ」
「そうはさせない! 【発火】!」
アルファミリアは爆炎に飲み込まれるが、炎の中から光弾が飛び出してくる。
「くっ!」
咄嗟に光弾を回避し、奈々子ちゃんが魔法を発動する。
「まじかる☆デスサイズ!」
血のような赤い刃が炎の中から姿を表したアルファミリアの首元に振り下ろされる。
しかしアルファミリアは、まじかる☆デスサイズの刃を素手で掴むと、刃を握り潰し、刃が砕け散る。
「まじかる☆アクアプリズン!」
オタマトーンの口から大量の水が溢れ出し、アルファミリアを襲う。大量の水がアルファミリアを囲い、包み込むように閉じ込める。
「ななちゃん!」
「はい! まじかる☆ファイナリティ!!」
三日月と黒く輝く粒子が真っ直ぐアルファミリアに直撃する。
「やったかな?」
まじかる☆アクアプリズンが解け、まじかる☆ファイナリティの残滓が辺り散る。
「ワンピースの裾が少しほつれたね。流石魔法少女の力」
アルファミリアに与えたダメージは白いワンピースの裾を少し切っただけだった。
全ての宝石を集め完成されたナヴァラトナの影響なのか、アルファミリアに直接ダメージを与えられない。どうやったらアルファミリアを倒し、ナヴァラトナを破壊する事ができるのか。ルル様の【神・鑑定眼】あれば弱点が分かったかもしれないが、ルル様はもういない。
こうなったら切り札を使うしかない。
「ななちゃん、アレを使おう」
「アレしかありませんね」
「「まじかる☆アタッチメント! アメイジングコスモ!!」」
まじかる☆スキルブックから綺麗な宝石を取り出すと、その小さな宝石の中には銀河が閉じ込められており、虹色の力強い光を放っている。
私はアメイジングコスモをオタマトーンの口に入れ、奈々子ちゃんのアメイジングコスモはマラカスに吸い込まれていった。
『オタマトーンの形状が変化します』
オタマトーンの形状が変わり、星を散りばめたような美しい弓が現れる。
弦を引くと光輝く矢が現れ、鏃に虹色の光が収束する。
奈々子ちゃんの2つのマラカスは形を変え、カラビーナの形状に変える。
「「銀河まで届け!」」
2人の力を合わせ、アルファミリアの胸にあるナヴァラトナに当たるように願う。
「「アストラル☆シューティング……スターーー!!」」
2人の力が合わさり、白く輝くエネルギーと黒く輝くエネルギーが合わさり、一筋の流星がアルファミリアに向かって解き放たれる。
アルファミリアは片手でアメイジングコスモの一撃を受け止める。
「凄い威力だ。これ程の力は竜王の日輪の力に匹敵する……しかし、所詮は日輪止まりだね」
アルファミリアはアメイジングコスモを片手握り潰し掻き消してしまった。
「そ、そんな……」
りぼんちゃんの歌で強化されているとはいえ、切り札さえ完封されては打つ手が無い。その圧倒的な実力差に私達は身体が萎縮してしまった。
「君達の切り札も僕を倒すには至らなかったね。別の世界には強者がいる筈だし、そいつらと戦うのも楽しそうだな。……さて、魔法少女達も用済みだし、悪魔達の最初の生贄にしようか」
アルファミリアは指を鳴らすと、私達の周囲が歪む。
「なっ!?」
「みんな逃げてください!!」
「え? ええ!?」
強い閃光と共に十字の柱が登り、私達の身体に著しくダメージを与える。
「「きゃあああああ!!!」」
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が30%以下になり、強制的に変身が解けます』
私達のまじかる☆ドレスアップの効果が消え、普段着の姿に戻ってしまった。
「み、皆さん大丈夫ですか?」
「りぼんは大丈夫だよ……」
「私も大丈夫だけど、これじゃあもう戦えないよ……」
ユグドラシルの門は8割は開き、3つ目の悪魔が上半身を覗かせている。ユグドラシルの門が完全に開かれたら、3つ目の悪魔もそうだが、その後からも大量の悪魔達がなだれ込んで来るだろう。
これ以上戦えない。アルファミリアを止める事もできず、私達はこのまま悪魔達に蹂躪されてしまうのか? 絶望的な状況に打ちのめされる。
ふと、視界の隅に黒い物が見える。
よく見るとルル様が操作していたノートPCだ。
落下した影響か、一部の外装が砕けており、液晶画面には大きな亀裂が入り画面の半分しか表示されていなかった。
「これは?」
割れた液晶に『魔法少女専用クエスト【悪の組織の野望を食い止める】達成。蓄積■■■■まじかる■■■■STANDBY』の文字が書かれており、開放するかどうか YES / NO で選択出来る状態であった。
「ねぇねぇほのりん。私のLIVE配信は止まってるけど、ほのりんの魔法少女ほのりん☆ミのまじかる☆ちゃんねるでのLIVE配信はまだ続いてるみたい」
割れた液晶から見えるタブのひとつに私達の姿が映し出されている。どうやら、ルル様が消えてしまっても、配信が止まらずDTubeに垂れ流しになっていたようだ。
「私達の普段の姿も世界中にバレてしまいましたね」
「はぁ、もう今更感満載なんだけどね」
「りぼんはりぼんだから気にしないけどね」
こんな時のりぼんちゃんは本当に羨ましい。
りぼんちゃんが魔法少女としてバレても今以上に人気が出そうだ。
「もう、私達に出来る事はないのでしょうか?」
私は押し黙る。
アルファミリアは私達に興味が無いのか、ユグドラシルの門が開くの待っている。戦う力の無い私達にはアルファミリアを止める手立ては無い。
ユグドラシルの門が完全に開こうとした時、半壊したノートPCの液晶画面が激しく点滅する。
「……ルル様は最後に何かを私達に伝えようとしていたよね? アレって何だったんだろ?」
確か、まじかるを開放しろ、と言っていた気がする。そのまじかるの開放の仕方は分からなかったが、割れた液晶画面にそれらしい文字が出ており、あとは YES / NO の選択を待っているだけのようだった。
「何が起きるか分かりませんが、これに賭けるしかないかと」
「そうだよほのりん! 諦めずにやってみようよ!」
「……うん。ルル様は私達に何かを残してくれた。きっとこれにも意味があるんだと思う」
私達はお互い視線を合わせると強く頷き、Yのキーを押した。