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魔法少女ほのりん 対 魔法少女りぼん

「私がほのりんに代わって魔法少女をするから死んで?」


 りぼんちゃんは軽くステップを踏むとハートの形をした魔法が私に向かって飛んでくる。


 回避は簡単だけど、ダンス中は際限無くりぼんちゃんの周りにエフェクトが発生し、私に牙を向く。


「うわっ! 危ないな〜。りぼんちゃん! 正気に戻って!」

「私は正気ですよ〜」


 操られているりぼんちゃんを止めるには、やはり首に掛けられたネックレスだ。


 無理に破壊しようものなら傷付けてしまうし、最悪殺してしまう可能性がある。それを回避するにはどうしたら良いか考えるが中々思いつかない。


 人体に影響が無いなら、まじかる☆エタニティを当てれば良いが、魔道具を破壊しなければ意味がない。


 レムナント化してしまえば体にダメージを当てて倒す事も出来るが、生憎とレムナント化はしないタイプのようだ。


 さらに厄介なのは中にいる悪魔ベリフェゴールだろう。時々、ベリフェゴールの口調で出てくる事があり、とても困惑する。ベリフェゴールとりぼんちゃんの多重人格みたいで非常にやり難い。


 そこで疑問に思った事を言ってみる事にした。

 

「ベリフェゴールってりぼんちゃんを操っているけど、ベリフェゴールってそんな女の子キャラなの?」


 私の質問に少し考える素振りを見せつつも、ダンスを踊りながら攻撃をしてくる。


「ん〜、俺様は南本りぼんの本能を引き出し、お前を倒すように誘導しているに過ぎん」


 ……となると、今までりぼんちゃんの口から出た言葉は、ベリフェゴールがそう言わせているのね。本心から言われてたら流石の私も傷つく。


 ベリフェゴール? りぼんちゃん? が言ったように私が魔法少女をするより、りぼんちゃんが魔法少女をした方が似合っているしキャラ的にも合っているかもしれない。


 だけど私にも譲れない意地がある。


 私だって幼い頃から魔法少女に憧れていた。


 アニメや漫画に出て来た少女達はどんな困難にも挑み立ち上がってきた。


 きっとりぼんちゃんも魔法少女を心から好きかもしれないけど、私も魔法少女愛は誰にも負けない自信がある。


「……りぼんちゃん……いえ、ベリフェゴール! りぼんちゃんの身体から出ていってもうよ!」


 ビシッとオタマトーンをりぼんちゃんに向ける。


「りぼんが勝ったらほのりんも私の仲間にしてあげる♪」

「ま、負けないから! まじかる☆グリッターネイル!」


 爪先から眩い閃光が飛び出し、りぼんちゃんを囲むように激しく点滅する。


「くっ! 【ライブオンステージ】!!」


 私のまじかる☆グリッターネイルを吹き飛ばし、りぼんちゃんの周囲に謎の空間が出現する。


「え……コンサート会場かな?」


 証明機器がりぼんちゃんを照らし、音響機器が設置されている。さらには、りぼんちゃんの背後に大型液晶画面が設置され、りぼんちゃんの姿が大きく映し出されている。


 私の肩に掴まるルル様が身を乗り出す。


「これは……【歌姫】のスキル? いや、【魔法少女】のスキルを合わせた複合スキルか!?」


 照明が照らされ、りぼんちゃんをライトアップすると、アップテンポのリズムで音楽が鳴り始める。


「さぁ、特別にユグドラシルの門前でライブだよ! みんな見てるー?」


 ん? みんな?


「こ、これは……。DTubeでLIVE配信をしているのか。くそ、ここな確かにネット環境がある」

「えええ!? ダンジョン内ってネット環境無かったじゃん!」

「我は門前なら自由に出入りできる。そして、ここで動画を編集しDTubeに上げていたのだ。こうなったら我らもLIVE配信をするぞ!」

「何故に!?!?」


 訳が分からない。


 りぼんちゃんのLIVE配信に何故対抗しなくてはならないのか? そして、この戦闘が世界中に流れるてしまうと言う事は、色々マズいのでは?


「ルル様、見せてはいけない物とかどうするの?」

「いや、大丈夫だ。恐らく我らの動画投稿も最後になるやもしれん。今の内に再生数を稼ぐ必要がある」


 前から気になっていたけど何故そこまでして再生数に拘るのかが理解出来なかった。ルル様に理由を聞こうとした時、りぼんちゃんからの攻撃が始まる。


「まず1曲目ー!【マジ恋デンジャーギャング】♪♪ レッツスタート!」


 思わず自分の耳を疑った。


 曲のネーミングセンスが酷い……。


 ロックチューンの激しい曲が流れると、僅かにダメージが入るのが分かる。まじかる☆プリンセスドレスにはダメージは無い……そうなると肉体に直接ダメージを与えてくるタイプか……厄介なスキルだ。


 私はまじかる☆シールドを展開させ音楽によるダメージを軽減させようとするが、りぼんちゃんの歌唱パートが入ると、まじかる☆シールドに亀裂が生じる。


「ぐっ……ルル様、これじゃりぼんちゃんに近づけないよ」

「あのステージは【魔法少女】の力で生み出し、歌は【歌姫】のスキルだな。まさかここまで強力な力を生み出すとは驚いたな」

「ちょっと驚いている暇なんてないよー!」


 あらゆる攻撃を防いだまじかる☆シールドが3枚とも同時に砕ける。


「――っ! くううう……効くなぁ……」


 頭を割るような痛みに思わず膝を突く。


「みんな見てるー? 魔法少女りぼんだよ〜、今私ね魔法少女ほのりんと対決しているの! 私を応援して力を送ってね!」


 ステージのエフェクトが大量発生すると、さらに私の頭に激痛が走る。


「うあああ頭があああ!!」


 痛い、割れる。


「ほのりん! しっかりしろ!」


 ルル様は何もない場所からノートPCを取り出すと、カタカタとPCを操作し始める。


「あれはDTubeからエネルギーを変換している。これをこうして、こうやってっと……はっ!」


 エンターキーを気持よく叩くと、私の頭を襲う激痛が幾分和らぐ。


「はぁはぁはぁ……ルル様、これってどういう事?」

「我も似たような事をしているからな。何となく原理は分かる。とりあえず、魔法少女ほのりん☆ミのまじかる☆ちゃんねるでLIVE配信を開始した。我らの映像や音声は世界にリアルタイムで配信されているぞ!」

「どうしてそうなるの!?」


 ……まぁ、私の頭痛も和らいだし、なんとか戦える。どういう原理かしらないけど世界中の人達が私とりぼんちゃんの戦いを見ている。


「近づくのも簡単じゃないね」


 どうやってりぼんちゃんを止めようかと悩んでいると、りぼんちゃんは満面の笑みを浮かべ歌を歌いながら踊っている。彼女は本物のアイドルだ、私相手に決して手を抜く事はないだろう。


 この状況を打破する為に付け入る隙きがあるとすれば……【歌姫】と【魔法少女】のスキルが生み出した、あの特設ステージだ。


 ……ならば乱入してしまおう。


 時折見る一部のファンがステージ上に上がり、滅茶苦茶になるアレだ。私はニヤリと笑うと、オタマトーンを構え、一気に駆け出す。


 まじかる☆シールドを容易く破壊する音圧の波を受けながら、私は気合で掻き分けていく。


「後少し……ぐぬぬぬぬ! とおりゃーー!」


 りぼんちゃんが作り出した【ライブオンステージ】の結界を突き破りステージに乱入すると、案の定、りぼんちゃんは驚き曲が止まる。


 なるほど、りぼんちゃんの歌やダンスが止まるとスキルが発動しないんだ。これなら勝てる可能性がある!


 私はオタマトーンをりぼんちゃんに向ける。


「魔法少女りぼんちゃん。私と勝負しましょう! もちろん音楽で勝負よ!」

「音楽で勝負? あはは。ここはりぼんのワンマンライブ会場だよ。りぼんのファンしかいないこのライブじゃ絶対に勝てないと思うよ」


 このステージはりぼんちゃんのテリトリーだ。


 【歌姫】と【魔法少女】の複合スキルで生み出されたこの空間は、りぼんちゃんの魅力を最大限引出し、能力を遺憾無く発揮させる為の物だ。


 そんなりぼんちゃん専用の空間に無理矢理入り込んだ私は、謎のプレッシャーに押しつぶされそうになる。


「キャハ! ほのりん〜! 絶望的な程のアウェーだけど、りぼんと本当に勝負するの?」

「……もちろん、その為にここに立っているの!」

「そうだ、ほのりんのファンも沢山いるぞ! ほれ見てみろ!」


 私とりぼんちゃんの背後にある大型スクリーンに映し出されているのは、DTubeでのお互いのLIVE配信だ。

 

 同時接続者数は辛うじて私の方が多いが、コメントの流れ方は圧倒的にりぼんちゃんの方が凄かった。


「なんでほのりんまで私の【ライブオンステージ】の効果を受けているよ? 反則じゃない!?」

「このくらいなら我にも出来る」

「ぐっ……私にもマスコットキャラ欲しいのに! ほのりんズルい!」


 ズルいと言われましても……。なんだか面倒くさくなって来たな、早く終わらせよう。


 私はオタマトーンを演奏する。


 私が好きだった歌って踊る魔法少女アニメ、ハートフル♡ミュージックドリーミーの1期のオープニングテーマだ。


 気の抜けた音に合わせて【ライブオンステージ】の空間からリズム隊のドラムやベースが鳴り、伴奏やシンセの裏メロまで流れてくる。


「きゃっ! そ、そんな……りぼんのステージなのに!」


 りぼんちゃんは私の演奏する音圧に押され尻餅をつく。この調子で攻めれば、りぼんちゃんを無力化出来るかもしれない。


「その調子だほのりん。まじかるがこんなにも大量に……」


 え? 何? まじかるが何だって? 演奏に集中させて! ここらサビなの!


 サビに入ろうとした瞬間、私に強烈な音圧が押し寄せると私の演奏は途切れ、ステージから流れる音楽もエフェクトも止まってしまった。


 その原因は、りぼんちゃんがマイク型のまじかる☆ウエポンを片手に歌いだしたからだ。


「私の1番のヒット曲、聞いて下さい……恋するバラライカ――」


 りぼんちゃんが歌いだすと、りぼんちゃんの身体から神々しいほどの光を放つ。


「これは……【歌姫】のスキル効果だ……心に染みる歌だな……」


 ルル様が涙をポロポロと流す。私は耐えていたのにルル様を見てもらい泣きをしてしまった。


 ぐ……魔法少女同士なら勝てるけど、【歌姫】のスキルを使われると分が悪い……このままじゃ……。


 指を咥えて黙って見てる訳にはいかない。


 流れる涙と鼻水を袖で拭き取ると、オタマトーンを演奏する。


「第9!」


 第9とはベートーヴェンの交響曲第9の事であり、一般的には歓喜の歌や喜びの歌で知られている。


 何故この曲を選曲したかと言うと、小学生の頃ピアノコンサートで演奏した事があるだけの理由であった。ちなみに特に賞を貰った訳でもない。


 オタマトーンからメロディが流れると、私側のステージから追い風のように音圧とエフェクトが発生し、りぼんちゃんの領域を押しのけると、りぼんちゃんが驚きの表情に変わり、負けじとさらに気持を込めて歌いだす。


 私の演奏とりぼんちゃんの歌がぶつかり合い、ステージを少しづつ破壊していく。


「DTubeは大盛りあがりだぞ!」


 ルル様が耳元で興奮した声を上げるが、それを無視し演奏する。


 オタマトーンは簡単に操作出来るのに奥が深い。ビブラートもできちゃう優れ物で世界中に愛好家がいるほどだ。


 ドイツ語の歌詞で歌いたくなるけど、残念ながら英語しか喋れない。最近はマイクさん達と話しているうちに、かなり上達したのは言うまでもない。


 徐々に私のメロディに音が重なるように様々な楽器の音色が合わさっていく。


 まるで音楽が喜んでいるように――。



 必死に歌うりぼんちゃんは疲労のピークに達する。


 普段なら歌えた歌も、慣れない環境と成り立ての魔法少女の影響なのか、少しずつ声が掠れていく。


 そして、限界に達すると声が出なくなり、音圧に押し潰される。


「きゃーーーー!!!」


 複合スキルで生み出されたステージは破壊され、目が眩むような光が天高く立ち上がり、光の柱が上へ上へと登っていく。


 その光はユグドラシル門の上空に広がるミルキーウェイのさらに奥へと伸びて行った。

 

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