受けた怨みは返させていただきます
ユグドラシルの門の前で激しく戦闘戦闘を行っていたのは神峰と須藤だった。
神峰は魔法少女である須藤と同等の力を見せていたが、神峰が押されつつあった。
その理由は経験の差であろう。
神峰は元ハンターだが、召喚士になりリリスを召喚してからは全くと言って良いほどダンジョンには足を運んではいなかった。
それに比べ須藤はハンター専属マスターアドバイザーの資格を取る為に、海外のダンジョンにも潜った経験もある。
さらに、時々、魔法少女ほのりんとダンジョン行ったり、レイド・竜王討伐戦に参戦する為に毎日のように強行軍で鍛え上げていたのだ。
そして須藤はほのりんのを庇う為に神峰の攻撃を受け止めた時に、神峰との技量の差をすぐに感じ取ったのだった。
このまま攻めれば勝つ事も容易だと思ったが、どうしても須藤は神峰を倒す前に聞きたい事があったのだ。
「神峰、貴方は何故こんな事をしたの?」
須藤の問に、ふんっと鼻を鳴らすと剣を横薙ぎに払い須藤を弾く。
「人間ってさ、弱くて惨めで最悪の種族だと思わないかい? 俺はこんな世界が嫌いだ」
「…………」
「俺の周りの人間も俺の親父や俺の金が目当て。寄って来る女もみんなそうだった……でも奈々子、お前だけは違った」
神峰の剣が光り、剣を振りかざすと、地面を這うように光の柱が須藤に向かって来る。
「っ! まじかる☆シャドーショット!!」
黒い散弾が光の柱に命中すると、光の柱は砕け辺りに飛散する。
「ん? しまった!」
神峰の技に気を取られてしまいその姿を見失い、慌てて辺りを見渡すと背後から強い衝撃が加わり、一瞬息が詰まり姿勢が崩れ膝を突く。
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が90%に減少しました。ダメージ軽減率が低下します』
「俺や森本に対等に接し、親友として見てくれた」
「がはっ!」
四つん這いになった須藤の腹部を蹴り上げると、ボールように須藤の身体は地面を何度も跳ねる。
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が80%になりました。ダメージ軽減率が低下します』
「森本が奈々子に惹かれるように、俺も奈々子の事が好きだった。しかし……」
神峰が先程のスキルを放ち、光の柱が須藤に目掛けて地面を這う。
そして、起き上がろうとした須藤に命中し、その衝撃でユグドラシルの門に激しく激突する。
「うぅぅっ……」
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が49%になりました。ダメージ軽減率が大幅に減少しました』
「あの日あのモンスターに襲われたとき、格好つけて言ってたよな。須藤の事は頼んだってな」
「くっ……格好つけて何が悪いの?」
須藤は扉を背にゆっくりと立ち上がる。
ポーションを一気に飲み干すと身体の痛みが和らぐが、まじかる☆プリンセスドレスの耐久値は回復しなかった。
あのスキルを発動させる為に、もう少し神峰からの攻撃を我慢して話を聞き出すひつようがある。
口の中が鉄の味で気持ち悪いが、それを我慢し、神峰に対して強い口調で口を開く。
「貴方のその陰湿なところが嫌だったよ。金で人が女が寄って来る? そんなの当たり前じゃない。人はお互いに利用価値があるから対等に接する事が出来るの。貴方に甲斐性があれば話は違ったかもしれないけど、貴方は最初から人を信じないし協力する気も無いじゃない。ただ、貴方の中にあるのは人をどうやって利用するか判断しているだけ。そんな人に私の心は動かなかったわ」
「なんだと!?」
神峰は歯を食いしばり怒りを顕にした。
「森本君は自己犠牲も問わない人だったわ。……そうね貴方と森本君の性格は真逆だったわね、きっと貴方の性格を理解して森本君は私を貴方に託したのね。……貴方の気持ちを知ってて」
「…………嘘をつくな」
「ほら、そうやって直ぐに否定する。誰にも信用された事ないでしょ?」
「うるさいうるさいうるさい!! ……リリスだ! リリスは信用してくれた! 俺を優しく包んんでくれた。俺に神になる方法を教えてくれた、他にもクラスを二重で取得する方法も教えてくれた。リリスだけは俺を信じてくれたんだ……」
頭を掻き毟り目を大きく開け狼狽するその姿を見た須藤の心はすっかり冷め、そろそろ決着をつけたくなった。
森本が神峰の気持ちを知っていて託したの本当だろう。
死を悟った森本は神峰に託し、須藤を幸せにしてくれと願ったのかもしれないが、須藤は森本の死後塞ぎ込み、暫くしてから自分の意志で足で立ち上がり、ハンターではなく裏方として生きて行く道を選んだのだ。
もし、もしも森本光将が、渋谷ダンジョンから戻って来るその日まで――。
「神峰奏司。その貴方を信じてくれたリリスはどこ?」
神峰はゆっくり視線を上げわなわなと震え、須藤を見る。
「お、おおお俺は……」
「助けを求めるリリスを殺したのは貴方でしょう。本当に最低ね……」
神峰の中で何かが割れ弾ける音が聞こえた。
「うわあああああああ!!」
神峰を覆う光がさらに強くなり、地面を抉るほど蹴り上げると目にも止まらぬ速さ突っ込んでくる。
【高速移動】
生き還り、新たに魔法少女になった須藤には様々なスキルが最初から使えるようになっていた。
それは今まで使えなかった魔法少女ほのりんのスキルだった。
須藤は【高速移動】で神峰の攻撃を躱し、まるで自分達以外の時がゆっくりと流れているような錯覚の中でギリギリの戦闘を繰り広げていた。
しかし、いくら魔法少女の力と言えど、神峰のレベルは100を越え、クラスも2つも就いている。
特に【勇者】のスキルのひとつ、【弱きを助け強気を挫く】が発動し、須藤の魔法少女を越える力を引き出している。
徐々に須藤は押されダメージを追っていく。
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が45%に減少しました』
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が44%……41%……』
高速戦闘の中、須藤は一か八かの掛けに出る。
一度も見た事はないが、一度だけ穂華の口から発動したと聞いたスキル……。
神峰が持つ剣から突きが放たれる。
回避をするが、僅かに二の腕切り裂き鮮血が舞う。
『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が38%に減少しました。EXまじかる☆スキル【魔法少女は諦めない】が発動しました。全ステータスが倍増しました』
神峰が袈裟斬りを放ち須藤の身体を斬り裂こうとした瞬間、須藤はマラカスで剣を叩き、へし折る。
神峰のスキルでタダの鉄の剣が聖剣並に強化されているにも関わらず、鉄の剣は中程で綺麗に折れた。
あっけらかんとした表情を浮かべる神峰に須藤は間髪入れずにマラカスを顔面に打ち込むと、神峰の口から血と一緒に歯が数本飛び出す。
「ぶふっ」
「貴方には叱ってくれる人が必要だと思います。僭越ながら私が精一杯叱ろうと思います」
神峰は口から溢れる血を押さえながら怯えた目で須藤を見る。
須藤の目は半目になっており、神峰を見下ろす視線は非常に冷たく、神峰はただただ震えて動けないでいた。まるで、須藤が不二木に襲われている時のように。
「まず、これは城神高校の生徒達の分です【ダンシングエッジ】」
マスカラを四方八方から神峰に叩きつける。
普通の人間ならミンチになっているが、【勇者】の神峰は死なない。いや、この程度では死ねない。
「次は、まひるちゃんを攫った分です【アサルトダンス】」
「ま、まて! まひるってだれ……うごっ! ぶっ、ぎゃあ!! ひぃ、ひぃー!!」
神峰の身体から骨が数本折れる音が聞こえる。
「私が不二木と遊間に襲われて死にそうになった時、貴方は不二木にポーションを渡しましたね。あの時は本当に死にたかったのに……、あの時のポーションをお返ししますね」
須藤はまじかる☆ボックスからハイポーションを3本取り出すと、神峰の口に無理やり1本分流し込み、残りを頭からかけた。
変な方向に曲がった足や腕は元に戻り、ボコボコで神峰だと判断できなくなった顔も元通りになった。
「な、奈々子! 俺が悪かった! 許してくれ!」
「貴方は悪い子です。しっかり叱って更生してもらわないと私みたいな被害者増えます。じゃあ、1本1本骨を折りますから気を失わないように頑張ってね」
須藤は神峰の脛を踏み抜く。
神峰の足は豆腐を踏むように簡単に潰れてしまう。須藤は【怪力】を使用していたのだ。神峰の高い防御力を突破し容易く肉体にダメージを与えていく。
神峰は穴という穴から液体を流し言葉にならない声を発するようになった。
その姿を見た須藤は憑き物が落ちたようにスッキリとし、鼻歌を歌いながら神峰が死なない程度にポーションを振り掛けていた。