チーター勇者と南本りぼん
神峰は自分が召喚した悪魔たちが次々と倒されていく光景を見て焦っていた。
虎の子である黒い魔石を使ったにも拘わらず、召喚して出てきた上位悪魔も倒されてしまった。
戦闘開始時はグレーターデーモンが押していたにも関わらず、後半は一気に逆転されてしまった。魔法少女達の能力もさることながら連携が非常に厄介だと思えた。
折角神になれたのに、このままではただの人に落ちてしまう。特に須藤菜々子に復讐されるのが嫌だった。あれはアンデットだと何度も願ったが、須藤の顔色は良く、十条穂華の強さとほぼ同じに見える。
(どうしてこうなった? 私はここまで順調に来れたはず。邪魔者も排除してきたし、この門を開けば私は真の神へ登りつめられるのに)
何が足りない? 自分には足りない物を注意深く探す。
足元には地面に虫のように這いつくばっているリリス。
(そうだ、こいつは悪魔だったな)
神峰は目に殺意を灯し舌舐めずりをすると、リリスの元に降り立つ。
「神峰様……」
「やはり君は最高の女だよ」
「助けて下さい……」
「私の【英雄】の進化条件はしっているよな?」
「お願いします! 助けて!」
「悪魔は【悪】だ。俺の力の糧になれ」
神峰は何も無いところから剣を取り出すと、自身の首を裂くと血が吹き出し、口からも血が溢れ出す。
神峰は全身の力が抜けるの感じると、自信の首を切り裂いた剣でリリスの胸に剣先を勢い良く突き立てる。
「ギャッ!」
剣の先が何か硬い物に当たり、中々剣が貫通しない。
(くそ! 早く死ね! 死ね! 死ねーー!)
何度も剣を突き刺すと、パキッっと何かが割れる音が聞こえる。
その音と同時にリリスの目から輝きが失われ、体が黒い塵になって空に舞い上がる。
「よし! キタッ!」
神峰の視界にはウィンドウが開き、【英雄】から【勇者】に変わった事が表示されていた。そして、神峰の喉の怪我も癒え、全身に力が湧いてくるのが分かった。
「よし、後は魔法少女に付きっきりのペットからナヴァラトナを奪うだけだな。念には念をいれこちらも2対2で戦うか。おい、来い。お前の力を見せつけてやれ」
神峰は黒いローブを着た2人の内、背の小さい人物呼んだ。
その人物は神峰の元まで来るとフードを取りその姿を現した――。
▽
私は菜々子ちゃんと神峰の動きを観察していた。
まさかこのタイミングで自傷行為をして仲間のリリスを殺すとは思わなかったのだ。神峰はこうやって仲間を簡単に見捨て利用する人間だと私は理解した。彼に一切の情けは不要だろう。
「くそ、神峰のクラスが進化し【勇者】になった」
「【勇者】ってどんなクラスなの?」
「【勇者】とは自信より強い相手に立ち向かうと、全ステータスに補正が付き、あらゆる武器防具の適正が最大値にる。さらに装備品も強化され、どんなナマクラでも聖剣並の強さになる。そしてナヴァラトナを取り込んだ神峰のレベルが100を越えてるぞ……」
「えー、それってチートじゃん……」
勇者怖っ! まともに戦って勝てるか心配になって来たよ……。
「神峰もそうだけど、隣にいる女の子って南本りぼんちゃんだよね? 何であの子がここに?」
神峰の隣にいる少女。可憐な少女の名前は南本りぼん。以前、ダンジョン初心者講習を受けて知り合ったアイドルの卵だった子だ。そして、現在は超売れっ子アイドルで代活躍中だ。
そんな彼女と知り合って友達になり、時々連絡を取っていたが、まさかりぼんちゃんが神峰の元にいるとは……、しかも、りぼんちゃんが身に着けているネックレスは人を操る魔道具かもしれない。
そうなると、今のりぼんちゃんはケルビンさんやカナリアさんのように操られている可能性がある。何としても彼女を救いたい。
「南本りぼん……神峰より厄介な相手だぞ。クラスはEXクラス【歌姫】と【魔法少女】だ。恐らくななちゃんから奪った魔法少女を南本りぼんに移したのだろう」
どうやって2つのクラスに就けるのかは不明だけど、奈々子ちゃんを拉致した理由は何となく分かった。
まず、ユグドラシルの塔80層を突破するにはEXクラス保持者が2人必要だ。奈々子ちゃんとりぼんちゃんの2人でユグドラシルノ門に通じる道を開き、奈々子ちゃんからナヴァラトナを奪い、そして殺して空のクラスチェンジオーブに移したのだ。
そして今現在、EXクラスを2つも身に宿したりぼんちゃんの姿は、アイドル衣装風魔法少女の姿をしていた。
きらびやかな丈の短いスカート、目元も綺羅びやかなメイクを施されており、超可愛い仕様になっている。
そして魔法少女りぼんちゃんの右手には、まじかる☆ウエポンのマイクが握られており、ハートの形をしている。
やはり歌って踊って戦うのだろうか?
「さあ、魔法少女ほのりん! その白いペットをこっちに渡して貰おうか?」
ペット? それはルル様の事かーー!?
「ペットだと? 貴様、我を侮辱する気か? 我はほのりんの相棒でありマスコット的な存在だ」
この人、自分でマスコットって言っちゃったよ……それは言っちゃ駄目だよ! ペットと変わらないよ!
「随分とお喋りなペットだ……まずはほのりん! お前から死んでもらうぞ!」
神峰は普通の見た目の剣を構え、私の正面まで瞬時に移動し斬り掛かってきた。
急襲を受け私に上段から剣が振り下ろされるが、奈々子ちゃんのマラカスに受け止められと、鍔競り合いのような状態になる。
「神峰奏司……貴方の相手は私ですよ?」
「アンデットの癖に生意気な! 勇者の力で滅してくれる!」
「望むところです。貴方にはこれまでの怨みをぶつけなければならないので。……ほのりんさん、南本りぼんさんの事を頼みましたよ!」
奈々子ちゃんはそう言うと、私から離れるように神峰と激しい戦闘を始める。
りぼんちゃんに視線を移すと、その表情は自信に満ち溢れていた。
テレビや雑誌で見かけるようになってからは常に笑顔を振りまき、歌とダンスでファンを元気づけている印象だが、普段のりぼんちゃんは凄くおとなしい性格で、以前食事をする機会があったけど、小動物ように小さくなっていてとても可愛い。
そんなりぼんちゃんだけど、私と視線が合うとにっこり笑う。
「魔法少女ほのりん……私、貴女の事が大ファンでした。まさか、十条さんが魔法少女ほのりんだったなんて、本当に驚きです」
「黙っててごめんね。色々と事情があるのよ」
「私ならどんどんメディアに出て世界中の人に存在を知ってもらうわ」
左様ですか……。私は恥ずかしくてほそぼそとやっていきたいんだよ。メディアになんか出たらロハスな生活を送れないのだから。
と、思っていたが最近はDTubeで動画を見てるいる人が多いせいか私の事を知っている人が多い。
私のコスプレ衣装を着ている人もいるし、ルル様グッツも売っているくらいだ。もうロハスは生活は送れないような気がしてならない。
「りぼんちゃんなら【歌姫】だけでもやっていけるよ」
「……それだけじゃ駄目なの……私の歌と魔法で、世界を魅了するの。そして私が女神として降臨するの!」
りぼんちゃんの様子が豹変する。
目つきが病的な感じになり、少し恐怖を感じる。
「りぼんちゃんは操られているの、そのネックレスは危険な魔道具なの! だから外して!」
「ん〜拒否するぅ〜♪」
りぼんちゃんは人をおちょくるような表情を見せ、私のお願いを拒否した。
イラッ。
……いや待って。このムカつくセリフ態度は最近見た記憶が……。
あ、もしかして!
「悪魔ベリフェゴール?」
「ン〜正解♪」
おかしい、確かに富士の上空で園田さんとアリアちゃんが倒した筈だ。復活したの?
「うふ♪ いい表情ですね。俺様の特製ベリフェゴールの魔玉は私の人格を他者に移し増やせるのだ」
もしかして、ケルビンさんの魔道具を破壊した時に出て来たベリフェゴールは、その特製ベリフェゴールの魔玉とやらなのかもしれない。他にもソレが世界中に散らばっているとなると、確実に倒す事は不可能に思える。
「ほのりんよ、今は南本りぼんを救うのが先決だ」
「そうだね、操られているのは確定した、しりぼんちゃんを返してもらおう!」
「さあ、どちらが本物の魔法少女として相応しいか勝負しましょう!」