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まじかる☆リヴァイブ

「須藤とまた会いたいか?」


 ルル様の目を見ると、とても悲しそうな目をしている。普段のつぶらな瞳には哀愁を感じる。ルル様も奈々子ちゃんを失って悲しんでいるのが伝わってくる。


「どうやって? 奈々子ちゃんは……死んで……ダンジョンの中……に、消えっ、ちゃった、じゃない……」


 嗚咽混じり必死に言葉に紡ぐ。


 奈々子ちゃんは死んでしまった。彼女は帰ってこない。奈々子ちゃんに会えるなら何だってしたい。


「思い出せ、フェニックスの魔石から得たEXまじかる☆スキルを」

「まじかる☆リヴァイブ……」


 たしかルル様の説明では、死んだ者を完全に復活させる魔法だ。まじかる☆リヴァイヴは肉体と魂の繋がりが途切れたとしても再び繋ぎ止め、肉体を最善の状態に戻す禁呪で、1度しか使えないと聞いている。


 もしかしたらこの魔法を使えば、奈々子ちゃんを蘇らせる事が出来るかもしれない。


「そうだ、まじかる☆リヴァイブだ。たとえダンジョンに吸収されたとしても、その魔法を使えば確実に須藤を復活させる事が出来る……ただ……」


 ルル様の歯切れが悪い。復活させる事に問題があるのだろうか?


「……須藤が生き返ったとして、それが幸せとは限らない」

「何ぜ?」

「分からぬか? この惨状……不二木達は須藤に対して言葉では表せぬ殆どの暴行を加えた筈だ。完全に復活したとして、心の傷は癒えているとは限らない。これは最悪の事を想定し慎重になるべきだ」


 慎重になるべき……奈々子ちゃんを蘇らせるか止めるかって事よね。


 そんなの決まってるじゃない。奈々子ちゃんを魔法少女にしたのは私だし、今までサポートをしてもらった。

 彼女がいなければ私は魔法少女を続けられなかったかもしれない。そして、もし心に傷を負っているなら、私が責任を取って奈々子ちゃんの面倒を見るつもりだ。


 決心は初めからついている。


「ルル様、私は奈々子ちゃんを蘇らせる」

「分かった。ほのりんの意思を尊重しよう」


 私は念じる。


【まじかる☆リヴァイブ】



『EXスキル【まじかる☆リヴァイブ】スタンバイ。対象を須藤奈々子でよろしいですか?』


「はい」


『EXスキル【まじかる☆リヴァイブ】発動。須藤奈々子の魂を呼び戻し、再構築した肉体に定着させます』



 大小様々な幾何学模様の魔法陣が展開され、魔力の渦がユグドラシルの塔80層を包み込む。


 脳が浮き出て脊髄が伸びる。骨が次々と現れ少しずつ人の形になり、筋肉、神経、血管、内蔵と次々と肉付けされていく。


 薄い皮膚が筋肉の上に乗り、頭髪や体毛が生えてくる。

 まつ毛もふさふさとしており、僅かに瞼の下の眼球が動いているのが見える。


 奈々子ちゃんの身体は無事に再生され、伊豆の温泉で見た美しい裸体がそこにあった。


 宙に浮いた奈々子ちゃんの身体を抱き止めると魔法陣が消え、奈々子ちゃんの寝息が優しく聞こえる。


「奈々子ちゃん……生きてる……生きてるよ……」

「ああ、そうだな。ゆっくり起こしてあげるのだ」


 私は奈々子ちゃんの頬を優しく撫でる。


「ん……あれ? ほのりんさん……? 私……い、嫌、嫌ああああああ!!!!」

「もう大丈夫だよ! 落ち着いて! ごめんねごめんね! 来るのが遅れてごめんなさい!」


 胸の中で暴れる奈々子ちゃんを必死に抑える。


 魔法少女の私なら、暴れる奈々子ちゃんを簡単に抑え込む事が出来るが、それはしない。


 優しく優しく抱いて、赤子をあやすように奈々子ちゃんをなだめる。


「大丈夫、大丈夫だよ。奈々子ちゃんを傷つける人はもういないよ」

「ううう……ほのりん……穂華さん、私汚れちゃった……」

「大丈夫だよ。奈々子ちゃんはとても綺麗だよ」

「不二木達に私はっ……うあああ」

「大丈夫。不二木と遊間はこの世にいないよ。奈々子ちゃんを酷い事をする人はもういないよ。私がいる限りそうはさせない」

「……血……穂華さん怪我をしているの?」

「これは私の血じゃないよ安心して」


 私の手や服に付着した血を見た奈々子ちゃんは動揺している。


 私の血じゃなければ奈々子ちゃんの血でもないので、あいつらの血だと思うとこの状態で奈々子ちゃんに触れるのは汚い。できれば一度変身を説いて再度変身するのが良いかもしれない。


 アイテムボックスから水筒を取り出し、奈々子ちゃんに水を飲ませてあげていると、ルル様が小声で私に話しかける。


「須藤は暫く休ませておく必要がある。クラスを失った今、これ以上ダンジョンにいるのは危険だ」


 確かにルル様の言うとおりだ。奈々子ちゃんをこれ以上巻き込む訳にはいかない。今は心の傷を癒やす為に休養させた方がいいだろう。


「……穂華さん、ルル様、私も戦います」

「え!? 何を言っているの? 奈々子ちゃんは奴らに酷い事をされたんだよ、今は戦える状態じゃないよ」


 奈々子ちゃんは首を横に振る。


「穂華さん、私達が神峰達を止めなければなりません。早くしないと世界はとんでも無い事に巻き込まれてしまいます」

「とんでも無い事?」

「神峰は魔法少女のクラスを奪い新たなナヴァラトナを生み出して、その力で神になるつもりです。私はこの手で、神峰を止めたい。私も連れて行って下さい!!」

「でも……」

「これは、私のケジメでもあるんです。私をもう一度魔法少女にして下さい! お願いします!」


 私は迷った。あんな酷い目にあっても再度魔法少女なる事を選ぶと言う事は、また同じ事になる可能性もある。もちろんそんな事はさせるつもりは無い。


 私も神峰を止めたいが、ひとりでどうにかなるかも分からない。今は人手が欲しいのも事実だし、魔法少女ななちゃんの実力なら確実に神峰の野望を止められるだろう。


 私はルル様を見る。ルル様なら私の迷いを理解してくれるだろう。


「我は反対だが、魔法少女ななちゃんは必ずやほのりんの力になるだろう」


 素直じゃないな。

 でも決心がついた。

 奈々子ちゃんを再度魔法少女にして神峰の野望を止めよう。


「奈々子ちゃん、もう一度魔法少女になってもらう。でも、この先は茨の道だと思って」

「覚悟は出来てます」


 奈々子ちゃんは私の胸から離れ、自力で立ち上がる。奈々子ちゃんの裸体はまるでミロのヴィーナスのように美しかった。


 私はEXスキル【もうひとりの魔法少女】を発動させ、対象を須藤奈々子に指定する。


 奈々子ちゃんの身体が輝き出し、以前の魔法少女のドレスより、さらに華やかになっているのに気がついた。


 黒と赤を基調としたデザインは変わらないが、フレアスカートには美しい赤い薔薇が咲き乱れ、腰のリボンにも大輪の薔薇が咲いている。

 頭部のミニハットにも綺麗な宝石が散りばめられ、私と同等のまじかる☆プリンセスドレスに進化しているのが分かった。


「綺麗……」

「ほのりんさん、何だか以前より力が湧いてくるのを感じます」


 私から見ても奈々子ちゃんの強さが伝わってくる。これなら百人力である。


「2人とも一度地上に戻り、事のあらましを世間に伝える必要がある」

「そうだね。マイクさん達と一度合流しよう」

「我も告発動画を作る、ここユグドラシルの塔80層で合流しよう」


 私達は強く頷き、一度渋谷ダンジョンセンターに戻る事にした。



 ダンジョンゲートを潜り渋谷ダンジョンセンター前に降り立つと、その景色に言葉を失った。


「渋谷が燃えている……」

「ただの火事ではなさそうです……あ! あれを見て下さい!」


 奈々子ちゃんの指差す方向に、ハンター同士で争っているのが見える。そのハンター達の周辺には数人の人が倒れており、血を流しているのか覗える。


「ほのりんさん!」


 私を呼ぶ声に振り向くと、顔も名前も知らないハンターが駆け寄って来た。


「はぁ……はぁ……やっと見つけた……」

「貴方は?」

「はい、僕はATLANTIS所属の落合って言います。あの、代表から魔法少女が見つかったら伝えるように言われておりまして……」

「話して」

「はい、今、世界中で暴徒化したハンターや人々が暴れまわってます。現在、Chrome TempestとJDST、そして我らATLANTISも合同で鎮圧活動を行っております。つきましては、早急ATLANTISの代表に連絡が欲しいとの事です! 以上です!」

「……分かったありがとう」


 私が感謝の言葉を述べると、ATLANTISの落合さんは暴れているハンターを取り押さえるべく、戦闘が行われている場所まで走っていった。


 この状況……私が富士の工場を破壊しなかったせいかも知れない……そして、悪魔ベリフェゴールを討ち漏らした可能性が高く、これは私の詰の甘さが招いた結果だ。


 私はスマホを取り出し、母に富士の工場に悪魔ベリフェゴールがいた事、そしてこれから向かう事をメッセージに書き留め送信した。


「ななちゃん、ちょっと空を飛ぶよ」

「え!? わっ、きゃぁ!」


 私は奈々子ちゃんをお姫様抱っこし、真夜中の渋谷の空を急上昇し、まじかる☆シールドを展開しつつ【高速移動】で富士の工場へと真っ直ぐに飛び立った。

 

ご報告。

憧れの魔法少女になれたけど、恥ずかし過ぎて死にそうです!! は140話で完結します。ラストまで応援宜しくお願いします!

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