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友の死、血で汚れた手

 まじかる☆ゲートに潜ってからは記憶が曖昧だ。


 時間の経過も自身に受けたダメージも何も感じない。


 ただひたすら襲って来るモンスターを倒し、祭壇の前に立つ。


 紅いダンジョンゲートが開くと同時に手を突っ込み、モンスターを引きずり出して【怪力】で引き千切る。


 早く、1秒でも早く最速で攻略しないと。


 高速移動で走っているせいか、石に躓くと数百mは派手に転ぶ。

 

 新しい魔法少女の衣装は汚れて見る影もない。


 今は何処の階層だろうか? 私がどの階層を攻略しているのかも分からない。


 ただひたすら白く長い長い螺旋階段のような道登って行く。


 出会うモンスターもいちいち確認していられないので、高速移動による体当たりでモンスター達を蹴散らしていく。


 まじかる☆プリンセスドレスの耐久値も少しずつ削れるが、そんな事は問題無い。リリスの話しが本当ならこの先に奈々子ちゃんが助けを呼でいる筈だ。


 待ってて奈々子ちゃん……。




 それから何時間走っただろうか。

 79層の祭壇の間にはオーガキングが立ちはだかる。


 ダンジョンゲートから出て来た所を瞬殺しようとしたら、失敗してしまった。オーガキングの力が想像よりも強く、力比べで私と同等の力を持っていた。


「やるな小さいの、俺様の力に屈しな――」

「まじかる☆エタニティ」


 オーガキングは星屑に変わり魔石がオタマトーンに吸い込まれる。


『オーガキングの魔石を取得した事により、【身体強化・高】を取得しました』


 スキルポイントを消費し【身体強化・高】をセットする。


「ん? 待てほのりん」

「どうしたの? 急いでるの。この先で奈々子ちゃんが待ってる」

「EXスキルの【もうひとりの魔法少女】が……」


 ん? グレーアウトしていた【もうひとりの魔法少女】が再度使用可能になっていた。


「ルル様これって?」

「……我の口から言い難いが、須藤が死んで再度使用可能になったのだろう……」

「……嘘よ。ルル様って悪い冗談ばかり」

「すまん……」


 何で謝るのよ。そんなに弱々しいルル様なんて見たくない。


 奈々子ちゃんが死んだなんて信じない。

 私のスキルが強化されて3人目の魔法少女を誕生させる事が出来るようになったのよ。きっとそう。


 紅いダンジョンゲートが黒くなり、80層への扉が開く。


 この先に奈々子ちゃんが待っている。


 震える足を叩き、無理やりダンジョンゲートに足を向ける。



『魔法少女専用クエスト【ダンジョンランキング1位になる】をクリアしました』


『まじかる☆ウエポンが進化しました。全てのまじかる☆スキルのレベルが最大値まで上昇しました』



 全然嬉しくない。

 早く、早く、奈々子ちゃんを助けないと……。


 奈々子ちゃんがまっている。


 私はダンジョンゲートを潜り、ユグドラシルの塔80層へと到達した。



「あん? 誰か来たぞ」

「少し見た目は変わってるが、魔法少女ほのりんだろ」


 聞いた事がある声に視線を向けると、坊主頭のガタイの大きい男と茶髪の細身の男がいた。


 そういえば奈々子ちゃんから、渋谷ナンバーズの連中が脱走したって聞いた。何故その人達がここにいるのか気になるがそれより奈々子ちゃんだ。辺りを見渡すが奈々子ちゃんの姿は見当たらない。


 ……やはりリリスは私にハッタリを言ったのかな。ここに来る前にリリスを先に倒しておくべきだったね。


「やぁ久し振りだね、十条穂華」

「……だれ?」


 突然知らない人に名前を呼ばれ、警戒を1段階上げる。


「えー? 忘れちゃったの? 僕だよ神峰奏司だよ」


 この人が神峰奏司? 本当に知らない顔だし、会った事も話した事もない人だ。

 

 見た目は何処かのぼんぼんだろうか? 身なりは綺麗で効果そうな指輪や腕時計をしている。


 学生時代は殆ど女子高だし、渋谷に来てからは特定の人としか交流はしていないので、目の前にいる人物に心当たりが無い。


「……本当に僕の事を忘れている顔だね。僕は君の事をこんなにも想っているのに」

「キモい」

「っ! ……ほら、一度食事をしたじゃないか、君の両親とさ!」

「……あ」


 思い出した……というより、存在を消していたわ。


 父親に食事に誘われて、男を紹介された時だ。あの時は怒りのあまり、そのまま家出をして渋谷に来たのだ。


 何の因果かここで出遭うとは想像もできなかった。こんな事なら奈々子ちゃんから神峰奏司について詳しく聞くべきたった。


 そんな事より奈々子ちゃんだ。

 神峰奏司がここいるって事はリリスが言った言葉が気になる。


 黒い魔法少女を始末した、と。


「……別に貴方の事はどうだっていいわ。奈々子ちゃんはどこ? リリスっいうモンスターがここにいるって言ってたから来たのだけど」


 神峰の口角が釣り上がる。


「これなーんだ?」


 人差し指と親指で摘んだ綺麗な宝石を見せてきた。


 ルル様がその宝石を見ると突然狼狽える。


「あ、あれは……ナヴァラトナだ、ケートゥのキャッツアイ……まさか、須藤から無理やり奪ったのか!!」


 神峰の表情が邪悪に歪む。


「正解〜」


 奈々子ちゃんからナヴァラトナを奪った? なら肝心の奈々子ちゃんは何処にいるの?


 坊主頭の不二木や茶髪の遊間の足元には、ボロボロの衣類や下着が散乱していた。

 不二達は上半身肌だったが、身体のいたるとこに血のような物がこびり付いているのが見える。


「奈々子ちゃんは何処?」

「不二木達に聞けばいいよ。僕らは用事が済んだから先に行くから、じゃーね〜」


 神峰は黒いローブを身に纏った2人を連れ、巨大な白い門の奥へと消えて行った。


 ナヴァラトナを持ち去られてしまったけど、今は奈々子ちゃんだ。あいつらから聞き出さないと。


「おい、奈々子ちゃんは何処にいるの?」


 2人は不敵に笑うだけで答えない。

 中々答えない2人に苛立ちを抑えきれない。


 オタマトーンを構え、不二木達から強制的に聞き出そうとした時、不二木の指が地面を指差す。


「何?」

「この下にいるぜ」

「意味が分からない」

「だーかーらー、ダンジョンに吸収されたんだよ。お前だって知ってるだろ? 個体差はあれど、ダンジョン内で死んだり物を落とすとダンジョンに掃除される事をよ」


 知っている。私を襲った暴漢2人も行方不明だし、その時に落としたスマホや財布も消えた。ダンジョンの中で行われた犯罪が摘発されにくいのはこれが理由だった。


 私の手が、足が震える。


 あの2人が言っている事は嘘だ。

 悪党だし奴らの言葉は信用に値しない。


「いい顔してるな〜。須藤って女も中々いい顔をしたぜ、何度もボコボコにして犯す度に絶望の表情を浮かべる」

「最高だったよな。そして最後に俺はあの女の首を締めてやったんだ。こうやってな!」


 遊間が首を締める仕草をする。


「殺した後は空のクラスチェンジオーブに魔法少女のクラスを移して、死体をダンジョンに食わした。何度見ても面白いよなアレ」


 2人の声が遠退き視界が赤く染まると、私の心は黒く黒く深く染まる。


 そして、私の感情の糸が切れる。


「ああああああああああ!!!!!」



 気づいた時には全てが終わっていた。


 私は始めて人を殺してしまった。

 

 いつの間にか私の手には、血塗れのナヴァラトナの宝石、ラーフのヘソナイトガーネットが握られている。


 手についた血がこびりついて取れない。


 モンスターの返り血は、モンスターが死ぬ時と同時に返り血も光の粒子に変わって消える。しかし、あの2人はモンスターじゃない。人間だ。


 私に付着した血は消えない。白い魔法少女の衣装はまるスプラッターのように血が付着している。


「ほのりん……」

「私、人を殺しちゃったよ……ううぅ」

「奴らは外道だ、その自白は全て記録した。ほのりんが思い悩む必要はない」

「……でも奈々子ちゃんは……奈々子ちゃんは帰ってこない……ううう……うわああああぁぁぁん……」


 涙が溢れる。


 私が富士に行かなければ奈々子ちゃんは死なずに済んだかもしれない。


 ルル様と楽しく駅弁を愉しんだのが罰? 工場に怪盗気分で潜入した私ってただの馬鹿じゃない。そんな事をしている間に奈々子ちゃんは……。


 苦しみ痛みに耐え、ナヴァラトナと魔法少女のクラスを奪われた。


 私の不甲斐なさを呪いたい。


「須藤とまた会いたいか?」


 私は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をルル様に向けた。



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