表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/140

怪盗魔法少女ほのりん

「昨日から連絡つかないな〜、忙しいのかな?」


 昨夜のパーティーは日付が変わる頃まで行われたが、待てど待てど奈々子ちゃんは打ち上げ会場にやって来なかった。


 メッセージアプリには既読のアイコンも表示されていないし、電話を掛けてみるが電波が届かない場所にいるか、電源を切っていると音声案内が流れる。


「仕方ない、今夜富士の工場に忍び込む前にもう一度連絡してみよう」


 私は電車で品川駅まで行き、新幹線に乗り換えて富士に向かう。道中ルルデミアと駅弁を堪能した。


 富士に着いてからはタクシーで工場の近くに移動し、人気の無い場所で魔法少女に変身した。


「空を飛んでいけば早かったのでは?」

「そうだけど危ないじゃん」


 空には旅客機やヘリコプターが飛んでおり、低空飛行でも高圧電線があるので迂闊には飛べない。

 高度を上げると酸素濃度は下がるし気温も下がる。とてもじゃないが空を飛んでいくのは難しい。


 スマホを確認すると、奈々子ちゃんからの既読はつかない。胸の奥がざわつく。


 渋谷ダンジョンセンターに電話を掛け、専属サポーターの須藤奈々子に取り次ぎをお願いすると、耳を疑う答えが返ってきた。


《須藤奈々子は本日出社しておりません。こちらからも連絡を取っているのですが、繋がらない状況でして……》


 ……奈々子ちゃんに何かあったのかな? もしかして過労で倒れたのかな? 奈々子ちゃんは最近実家通いになったから、帰りに寄ってみようかしら。


 私の不安を他所に、夜の帳が落ちてくる。事前情報のとおり、警備は武装したハンターが配置されていた。ただ、聞いていた話よりもハンターの数は少ないようだ。


 私はまじかる☆スキルブックから、怪盗マスクを取り出し装着すると、ルル様の顔にもマスクが装着される。何それカワイイじゃん。


「ワクワクしてきたな」

「私も」


 怪盗魔法少女ほのりん☆ミ参上! なんてね♪


 早速、忍び足で音を立てずに柵を乗り越え工場の敷地内に忍び込む。


 怪盗マスクは【魔法少女は身バレしない】の上位互換だ。さらに【気配遮断・高】と【忍び足】の隠密コンボでハンターの近くを通ってもバレない。これなら美術館に展示せれている物すら盗めそうだ。


 そんな悪い事を考えたりしながら噂のエレベーターの前に到着した。


 エレベーターの中に入り1番下の階層を押して、エレベーターの上部ハッチから外に出て隠れる。


「随分深いな」

「地下3階しかないみたいだけど、それでも深いね」


 暫くすると、最下層まで到着したのかピンポンと音が鳴り、エレベーターのドアが開く。

 うさ耳カチューシャを装着して、人がいないかチェックすると、機械音だけで人の気配しなかった。


 エレベーターから音も無くするりと降りて室内に素早く入る。


 警備がザルなのかな? 監視カメラとレーザーで反応する警報装置しかないね。


 私の怪盗マスクからは、編み状のレーザーが敷かれており、ゆっくりとその上を触れないように通過する。


 監視カメラに関しては高速移動で切り抜ける。予想だけど、監視カメラのFPSは低いので、私の高速移動なら監視カメラに映らず切り抜けられる……と思いたい。もし映っていても、怪盗マスクを装着している限り私を魔法少女だとバレない仕様なのだ。

 

 研究施設も見て回ったが、よく分からない物や機材が並んでいる。

 ルル様に色んな場所を録画してもらっているので、後日詳しく調べられるようにしてもらっている。


 さらに奥に進むと、ルル様の髭がピンと張る。


「この先に何かいる……とても邪悪な気配だ……これは……悪魔か?」


 私の背後に隠れるようしがみついたルル様は僅かに震えている。ルル様は悪魔が怖いのだろうか?


 そっと扉を開けると、辺り一面に魔石の山があり、ベルトコンベアで次々と魔石が流れていくのが見える。


 悪魔の反応と魔石、すなわち悪魔ベリフェゴールがこの先にいる可能性が高まってきた。緊張のせいか手の平が汗でしっとりし、生ツバを飲むとゴクリと喉が鳴る。


 さらに薄暗い地下通路を通って行くと、一際大きな部屋に辿り着いた。


 大小様々なアクセサリーが並び、あるいは山のように積まれていた。


「ヨク来タナ、侵入者ヨ」


 背筋がビクッとし、飛び上がるのを堪える。

 声のする方へ視線を向けると、ひつじ頭の悪魔、ベリフェゴールが座っていた。

 その姿はケルビンさんに取り憑いていた時と同じだった。恐らくこれが本体なのだろう。


「ン? 誰ダキサマ? 魔法少女が来ルト聞イテイタガ……」


 私が来る事を知っている? 私は奈々子ちゃんとマイクさんにしか伝えていないが、何処から漏れたのだろうか? 兎も角、やはり神峰と父の会社は人を化け物に変えたり操ったりする魔道具を作っていた。


 もしかしたら父も操られている可能性も高い。


 こうなったら悪魔を倒してでも、この工場を止め、この事実を公にする必要がある。


 ルル様は私と目が合うと頷く。


「その魔道具で人を操り何をするつもりなの?」

「ン〜秘密♪」


 人をおちょくるような表情をする悪魔ベリフェゴールに少しイラッとする。落ち着け私。怒ったら負けだ。


「ソレヨリモ俺様ガ知ッテイル魔法少女ジャナイナ。オ前何者ダ?」

「……怪盗魔法……使い……よ!」


 危ない。普通に名乗ってしまいそうだった。

 なるべくバレるリスクは下げないと。


「知ランナ」


 だよね。今作ったキャラ設定だもん。

 

「デ、オ前達ハココニ何ヲシニ着タ? マァココニ来タ理由ハワカル、コノ魔道具ダロ? コノ国ノ技術ト俺様ノ魔力デ最高傑作ガ出来タノダ」

「やっぱり貴方達悪魔と神峰が仕組んだ事なのね」

「クククッ、忘レタノカ? 神峰ハドウデモイイ存在ダ。我ラワ悪魔ダゾ? ソコヲ履キ違エルナ」

「……神峰も操っているの?」

「ン〜秘密♪」


 あの顔本当にイラッとする。


 そろそろ攻撃を仕掛けて悪魔を退治しようとした時、悪魔ベリフェゴールより遥かに重圧で邪悪なオーラを纏った女性がやって来た。その姿を見てはっきりと分かった。ホテルの外でカナリアさんと話していたモンスターだ。


「あら? ほのりんじゃ……ない?」


 リリス……神峰が使役しているとおもわれるモンスターだ。ホテルで見かけた時はけっこう強いと感じたが、こうやって対峙するともの凄く強く感じる。竜王レティアよりは格下だけど、手は抜けない相手だと分かる。


「おかしいわね……黒い魔法少女から得た情報だと白い魔法少女が来るって事だったけど、貴女も魔法少女よね? もしかして魔法少女って他にもいるの?」


 他の魔法少女って萬田さんの事かな? いや、単純に誤解をしている。今は適当にはぐらかせるか。


「私が誰だっていいわ。貴女達が人を凶暴化させたり操る為に魔道具を作っている事は全てお見通しよ! 観念しなさい!」


 決まった! ドラマやアニメなら必ず犯人に決め台詞を言うが、土壇場の一発本番が決まった! 普段から練習した成果が出たかも、ルル様ありがとう。


「で?」

「え?」


 ……なんか反応薄いな。


「我々ノ行イガバレタトテ、オ前ガ生キテココヲ出ラレル保証ハ無イ」

「そうね死人に口なしって言うじゃない。取り敢えず死んで?」


 リリスの姿が変わる。


 金髪のウェーブの髪はセミロングからロングに変わり、頭部から角が生え、背中からは蝙蝠のような大きな翼が生える。

 露出が多めの姿はサキュバスを彷彿とさせるが、サキュバスより遥かに妖艶さを醸し出している。


 私の手の内は見せられない。

 格闘か【発火】で倒すしかない。

 相手も私の情報が無いのか、直ぐに手は出さずに様子を覗っている。


 なら先手必勝、【高速移動】からの【怪力】ほのりんパンチを悪魔ベリフェゴールに叩き込む。ベリフェゴールの腹部に強烈なストレートが決まると、血反吐を吐きながら魔石の山に突っ込む。


「ちっ、ベリフェゴールが狙いね。やらせはしないわ! 【カースオーラ】!」


 私の足元から黒い固まりが吹き出てくる。


『まじかる☆プリンセスドレスの耐久値が99%になりました。状態変化をレジストしました』


 プリンセスドレス!? あぁそうか。まじかる☆ドレスが進化したんだっけ。名前まで変わったのは知らなかったよ。


 リリスは私に攻撃を命中させた後、急に動きを止める。


 はて? どうしたのかしら?


「私の呪を受けても立っていられるですって!? 貴女いったい……?」

「おい、今がチャンスだ! 畳みかけろ!」


 ルル様の言葉に反応するように、私はスナップする。


 スナップとは日本語で指パッチンだ。私の白色の手袋には五芒星が描かれた魔法陣は書かれていないし、火花が出やすいように加工はされていないが、スナップする事によって【発火】が発動する。


 発火とは言うものの、それは爆炎である。


 瞬間的に圧縮され開放された炎はリリスを包み込み高熱と衝撃波で吹き飛ばす。


 以前使った時より【発火】の威力が上がってませんかね? ……もしかして、まじかる☆プリンセスドレスのせいかしら? 


 私が呆気にとられていると、ルル様が鼻を鳴らしながら説明する。


「魔法少女の本来の力が発揮されて来たな。まじかる☆ドレスが最大限まで強化され、さらに魔法少女専用クエストをクリアすることによって、さらになる高みを目指せるのだ!」

「なるほど」

「もう少し驚かんか?」

「十分驚いてますとも」


 悪魔はとても強い。ベリフェゴールは最初に見た時勝てるか微妙だった。


 リリスも最初に見かけた時、強いと感じたけどこうやって戦ってみると思ったよりも私より遥かに格下のような気もする。リリスが本気をだしていない可能性もあるけど。


 瓦礫からリリスがゆっくりと立ち上がる。


 色気ムンムンの衣装は全て燃えつき、豊満な身体が目のやり場を困らせる。


「なんて事……白い魔法少女は兎も角、仮面の魔法少女がこれほどまで強いとは……。先に黒い魔法少女を始末できた事は幸いだったかもしれないわね」


「…………今なんて?」


 白い魔法少女の事は私の事だろう。


 黒い魔法少女は……奈々子ちゃん以外有り得ない。


 今なんて言った? 黒い魔法少女を……始末した? ははは……聞き間違いかな?


「もう一度言う。黒い魔法少女をどうしたって?」


 私の胸は締め付けられるように苦しい。


 きっとリリスが言った言葉は私を惑わす言葉だ……でも、昨日から妙にざわつく感情は何? 何か大切な物を失ったような……胸の奥底でナヴァラトナが泣いているような……。


「やはり貴女も他の魔法少女と仲間なのね。良いわ教えてあげる。黒い魔法少女は死んだわ!」

「嘘をつくな!!!!!」


 【発火】がリリスの右半身を吹き飛ばす。


「ぎゃああああ!!!」

「答えろ!! 黒い魔法少女とは奈々子ちゃんのことか!!??」

「…………ク……ククッ……クククッ、アッハハハハッ!!」

「何がおかしい?」

「まだ間にあうかもよ?」


 何が? 間に合う? 理解できない。


 ああ、私の心が闇に染まる。


「!? しっかり己を保て!! 我がついている、気を強く保つのだ!」


 ルル様……。


 リリスが言っている事が本当なら私……。


「ユグドラシルの塔80層に黒い魔法少女が転がってるかも? まぁ、私が見た時は酷い有様だったけどね」


「おい、リリスって名前だったなお前」


 私の身体から冷たい殺気がナイフのようにリリスに突き刺さり、リリスの表情が青くなる。


 全身がガタガタと震え、下半身から液体を垂れ流す。


 その液体の臭いは私の鼻から脳に刺激を与えると、私は急に冷静になる。


 こいつはいつでも殺せる。


 ああ簡単だ。こいつのオーラは独特で妙に臭う。私のスキルを使えば地の底ですら探し当てられる。


 ベリフェゴールは流石に倒しただろう。あれから反応は無いし。


 兎に角、早く奈々子ちゃんの元に向かわないと。


「まじかる☆ゲート」


 私は締め付けられる胸を堪え、まじかる☆ゲートを開くとユグドラシルの塔72層にへと向った。



「ベリフェゴール生きてる?」


 魔石の山から頭を出し、オドオドしながら出て来たのは悪魔ベリフェゴールだ。


「おいおい、聞いてねぇぞリリスの姐さんよ! 何だよあの化け物は! アークバハムートよりやべーよ!」


 リリスも想定外だった。

 白い魔法少女、ほのりんが来ると須藤から情報を得ていたにも関わらず、来たのは別人で十条穂華より遥かに危険人物だった。


 用意周到に十条穂華とその使い魔であるルルを捕獲する為に、わざわざ警備を薄くし罠を仕掛けたのに全て水の泡だ。


 この状況では、予定を繰り上げて作戦を前倒しに発動する必要がある。


「ベリフェゴール。全ての魔玉の力を開放し、計画を実行しろ」

「いいのかい? まだ2割も行き渡ってないが」

「門が開けば同胞を呼べる。その後は戦力を整えるだけよ」

「……まぁ、遅かれ早かれってやつか。こっちはやっておく」

「頼んだわ、私は御方に報告してくるわ」


 リリスはダンジョンゲートを開くと中に入り消える。


 ベリフェゴールは腹部の大穴を擦りながら、大きな水晶に黒い魔力を流し込んでいった。



読んでいただき、ありがとうございます。

ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです!宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ