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打ち上げパーティーの裏で

残酷なシーンと鬱展開があります。

念の為注意してお読み下さい。

 渋谷ダンジョンセンターの一番広い会議室。

 今回のレイド参加者の報酬の受け渡し会場兼打ち上げ会場だ。


 JDSTとATLANTISの希望の報酬は情報。

 Chrome Tempestには魔法少女ほのりんだ。


 Chrome Tempestに対しての報酬は、結果的に私とマイクさんがお付き合いをする形になったので報酬の受け取り? は完了した。


 JDSTとATLANTISには個別に情報が提供されるそうで、今のルル様の力を持ってすれば渋谷ダンジョンのあらゆる情報にアクセスが可能で、何処に何のアイテムがあるとか、どんなモンスターが居てどんな素材を落とすかなど、その情報の価値は計り知れないようだ。


 カナリアさんも情報を欲しがったが、ベリフェゴールの魔玉が埋め込まれた魔道具で操られ、情報を第三者に流した手前、強く出られずに非常にがっかりしていた。


 そんなカナリアさんはケルビンさんと別れたらしい。


 あのあと、お互いの感情が他者によって作られたものであり、開放された2人は特に恋愛感情は無いそうだ。


 操られていて演技だったとしても、少し寂しい感じもするが、お互い大人なのでそこらへんは弁えているのだろう。


 ルル様が別室で情報を提供していると、変身を解いた奈々子ちゃんがやって来た。


 その手には今回ダンジョンで手に入れた素材や宝箱の報酬もある。どれも高価でオークションに賭ければ大金が手に入るだろう。


「私は色々と手続きがありますので早めに上がりますね、間に合えば打ち上げに参加します」

「うん頑張ってね、待ってる」

「……穂香さんは明日には富士に行くのですよね?」

「早く真実を見つけ、危険なら止めないとね」

「無茶しないで下さいね」


 奈々子ちゃんはそう言うと、会議室から出て行く。打ち上げパーティーは奈々子ちゃんが間に合えば合流できるけど、もし間に合わなかったら今度2人だけで豪華なパーティーでもやろうかな。


 そんな事を想像しながら、私は打ち上げパーティーが始まるのを待った。


 何処かで食べると色々と問題が生じるので、この広い会議室でケータリングサービスを利用する事になっている。


 出張寿司屋さんや出張ステーキ屋さん、出張バーやクレープ屋さんまで来ており、他にもピザや唐揚げもどんどんやって来る。


 その後、打ち上げパーティーが始まり国のおえらいさんやATLANTISの関係者、もちろん母も参加しており、今日は盛大にこのレイドクリアを祝った。



 ▽



 須藤奈々子は溜まっている仕事を片付ける為に足早に会議室から出た。


 打ち上げパーティーは参加したかったが、どうしても書類を制作したり、今手に持っているアイテムをオークションに出したかったのだ。


 早く終われば打ち上げパーティーにも参加出来るかもしれないが、参加出来たとしても終盤だろう。


 後ろ髪を引かれるように須藤は渋谷ダンジョンセンター内にある自分のデスクに座り、書類の制作に取り掛かる。


 仕事を始めて30分くらいたった辺りだろうか、背後に人の気配を感じ、後ろを振り返ると見知った顔がいた。


「よお須藤、ご苦労さん」

肱川ひじかわ部長お疲れ様です」


 肱川部長はJHA本部に居る筈だが、今日はどうしてここにいるのだろうか。


 そんな疑問を浮かべていると、肱川部長の背後からもう1人顔を出す人物がいた。


「ういっす〜、須藤先輩お疲れーっす! これ差し入れっすー」


 ムーンバックスコーヒーのカップを差し出してくれのは後輩の辻山だった。


 手渡されたカップの上部にある透明のカップからはクリームと色鮮やかなトッピングが乗っているのが見える。激闘の後の通常業務なので疲労はピークに達しており、脳が糖分を欲している。


「ありがとう。いただくわ」


 何故かジロジロ見てくる2人に居心地が悪い。

 ただ差し入れを持って来た……訳では無さそうだ。


「あの……何か用事でも?」

「ああ……まぁ疲れただろうと思ってな。折角だし、辻山に須藤の手伝いをさせようと思ってな」

「本当ですか? 助かります。じゃあ辻山君、これお願い」

「うい〜っす」


 相変わらず気怠そうな返事が帰ってくる。

 肱川部長も少し離れた場所に行くと須藤の事をジッと見ていたが、そんな事気にしていたら仕事が終わらない。


 ムーンバックスの甘いコーヒーをストローで吸い上げ、打ち上げパーティーに間に合うように仕事を進める。


 これなら間に合いそうだと思った瞬間、視界がグラつく。


 目の前のPCに表示された文字がダブってよく見えない。指先の感覚も無くなってきた……。


 ふと、隣におる辻山に視線を向けると、須藤の事を見下ろしているのが見える。


 その目は蔑むように見ており、口元は口角が大きく上がっている。


「薬が聞いてきたっすか〜?」

「ぐ……私に……何を飲ませたの?」

「暴れられると面倒なんで少し眠ってもらうっすよ〜」


 須藤の脳裏に例の魔道具が過る。


 辻山も操られている? いつから? 身体の自由が効かなくなり思考力が低下している中、肱川部長の声が聞こえる。


「別のプランってやつだ。まぁBプランとでも言っておこうか」


(やはり……カナリアさんやケルビンさんと同じで操られている……早く、穂香さんに知らせないと)


 必死にスマートフォンを探すが鞄には手が届かない。

 須藤が伸ばした腕にブレスレットが巻かれ、赤い宝石が輝き出す。


「辻山、裏に車を回せ」

「うい〜っす」


 須藤の目は虚ろになり、もはや自分の意識では何もできない。出来ないが自分の意識とは別の何かが身体を動かしている事に気がつく。


(誰? 私の身体を返して!)

(ン〜? 洗脳ガカンペキジャナイナ、マァ少シノ間ダケダカラガマンシロ)


 須藤はこの声に聞き覚えがある、そう、ケルビンの中にいた悪魔ベリフェゴールだ。


(悪魔ベリフェゴールね。貴方達の目的は何?)

(フフフ〜ン♪ 秘密♪)


 イラッとした須藤は悪魔ベリフェゴールに文句を言おうとしたが、意識が徐々に遠退いてくる。それでも身体は勝手に動き、渋谷ダンジョンセンターを出ると辻山の用意した車に乗り込む。


 そして意識が途絶えた。



 ハッと目が覚める。


 先程、車に乗った所までは記憶にあるが、ここに来るまでの記憶が無い。


 ここは何処だろうか? 今の時刻は? 混乱する中、立ち上がろうとするが手足が縛られているせいか立ち上がれない。それに口に嵌められた物が邪魔で口を閉じれない。SMグッツの類いだろうか、口から止め処なく唾液が流れ苦しい。


「やぁ、久し振り」


 声がする方へ頭を動かすと、そこには神峰奏司が立っていた。その横には黒いローブを身に纏った者が数名立っており、須藤を見下ろしている。


「かひね……ほほふぁとほ?」

「ん? あぁここ? ユグドラシルの塔80層だよ」


 須藤は酷く混乱した。


 須藤はまだ71層しか行っていない。穂香とエバンスが、72層でデートをしていたのは知っていたが、神峰のレベルでは80層に来れる筈がない。

 しかし、辺りを見渡すと、60層で見た大きい白い門が見える。80層にも同じ門があるとなると、神峰の言っている言葉の信憑性が高まる。


「穂香は正直強過ぎで連れてこれないし、周りの人間も化け物だ。しかし、君はスペアとしては優秀過ぎるね。僕の計画を進められる駒として、とても重要な存在になったよ」


(神峰は何を言っているの?)


「ふふふ、その困惑した表情いいね。君の意識の無い間に、全ての情報を引き出せた。ナヴァラトナとは、ユグドラシルの門とは……そして魔法少女の秘密もね。秘密の呪文は唱えられないだろう? 口さえ塞げればこんなに楽に魔法少女を倒せるなんて知らなかったよ」


 魔法少女に変身する為には秘密の呪文を唱えなければならない。


 口が塞がれている以上、変身する事はおろか、神峰に抵抗する事すら不可能だ。


「奈々子も魔法少女だからナヴァラトナを出せる筈だし、魔法少女のクラスも手に入る。そしてほら、81層への門が開いたよ」


 白く大きな門がゆっくりと開いていく。


 この門はEXクラス保持者が2人いないと開かないとルル様から聞いた事を思い出す。


(何故……? 私の他にEXクラス保持者が?)


 黒いローブを着た者達は4人いる。このうちのひとりだろうか。

 

(私を拉致して門を開ける他にもナヴァラトナを手に入れる為? ……穂香さん……助けて……)


「さて、門は開いたしナヴァラトナを回収しよう。お前達」


 黒いローブを着た3人が須藤の前に立つ。


 体格からして男性に見える。黒いローブを着た2人がローブ脱ぐと、そこには池袋の地下で戦い、倒した人組がいた。


(渋谷ナンバーズの2人、不二木と遊間……脱走したと聞いたけど、神峰が裏で糸を引いていたのね)


「よぉ久し振りだな」

「あの時の恨み、今日きっちり返してやるからな」

「……」


 不二木と遊間は目を血走らせ、これから行うであろう蛮行を今か今かと待っている。

 隣にいる黒いローブを着た人物は特に反応もなく、須藤を見下ろしている。


「なあ神峰さんよ、この女を好きにして良いよな?」

「ナヴァラトナが出るまで殺すなよ」

「だそうだ」

「おい、不二木、最後に殺す権利は俺が貰うぞ」

「……まぁそう焦んなよ。暫く遊ぶつもりだからよ。影山はどうだ?」

「俺はいい。神峰さんと見てる」

「ふん、好きにしな」


 不二木が鼻であしらうと、ズボンのベルトを外し始める。


「ちっ、猿が」


 不二木達の不快な笑い声と須藤の叫び声がユグドラシルの塔80層に響き渡り、黒いローブで身を隠した影山の呟きは掻き消されていった。





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