ドラゴンテイムとアーティファクト
「うおおおお! よりどりみどりとはこの事だな! 最高だぜ!」
園田はひとり興奮していた。
傍から見ればただの狂った人か変態に見えるだろう。その獲物を狙う目付きから何かを感じ取ったのか、ドラゴン達が園田から距離を取ろうとする。
「おいおいおい! 待てよ可愛子ちゃん! 俺のパートナーになってくれない? ハァハァハァ……」
ドラゴンの群れの中に1匹だけ色が違うドラゴンを見つけ、興味が湧いた園田はそのドラゴンに近づく。
「ち、近寄るな変態っ!」
「え? 君、人の言葉喋れるの? しかも可愛らしい声だね? 雌だよね? 歳いくつ? 俺29歳独身で一人暮らし、もちろん童貞だ」
「キモっ! まじキモっ! 近寄るな変態!」
「おおおお!! 良いねその反応最高! まじ君に惚れた!」
「死ね!!」
うぐいす色をしたドラゴンから、強烈な突風が園田を襲い、軽い園田は上空に打ち上げられる。
それを見た他のドラゴン達が寄って集って園田を捕食しようと群がるが、軽業師の如くドラゴン達の鋭い牙を空中で避けていく。
「おらよっと」
1匹のドラゴンの頭部の角を掴みスキルを発動させる。
「うーん。こいつも良いが、あの雌のドラゴンが欲しいな……」
園田のスキル【ドラゴンテイム】
竜に触れて懐柔させる事が出来るスキルで、竜に似たモンスターであれば、トカゲやワイバーンでもテイムは可能である。
園田は【ドラゴンテイム】をしたレッドドラゴンを操り、先程のうぐいす色のドラゴンに迫る。
「おーい! 俺の話を聞いてくれー! 俺はお前を嫁にする! 絶対に幸せにするから俺にテイムさせてくれ!」
「死んでも嫌よ! くたばれ人族!」
うぐいす色のドラゴンから幾何学模様の魔法陣が展開されると、無色透明の何かが園田に向かってくる。
「うわっと!」
即席でテイムしたレッドドラゴンがバラバラになると、園田は肉の塊を蹴り、ドラゴンからドラゴンへと跳び移る。
「しっつこいわね!」
「一目惚れしたんだよ。そのうぐいす色の鱗、赤い瞳、綺麗に湾曲した角。そして、その声! 俺の好みにドンピシャだよ!」
園田の告白に一瞬動きが止まるうぐいす色のドラゴン。
「……言ってみてよ」
「え?」
「もう一度言えって言っているのよ!」
再度、魔法陣が展開され無色透明の何かが飛んでくる。
園田はじっくりと、うぐいす色のドラゴンが放つ魔法を観察すると、どうやら真空の刃を飛ばして攻撃しているのが分かった。
真っ直ぐに3発ほどの真空の刃が飛んでくるのが分かれば、それ程怖い物でもないと判断した。
真空の刃が、足場にしたドラゴンの首を落とし、咄嗟に園田はうぐいす色のドラゴンの背に乗る。
「鱗の事か? それとも綺麗な瞳? 角もいい角度だし、声もアニメ声だから最高だね」
「アニメ声って何よ!? そんなんじゃないわ! 角の事よ! 貴方、私の角の何処が良いって言うのよ? ……って、それより勝手に私に乗らないでよ!」
園田はまじまじと粘着質の視線を送り、うぐいす色のドラゴンの角を観察する。
「ああん? そうだな……湾曲した角は他のドラゴンには無い曲がり方をしている、特に外に向ったと思ったら内側に入り、正面に戻っている感じだな。さらに鱗の色に反射して、角の色が変わるのも素晴らしい」
(何よ、この変態……でも、角を褒めてくれるなんて初めて……)
園田のドラゴン愛に困惑するうぐいす色のドラゴンだったが、コンプレックスだった角を褒められ、自身も知らなかった一面も知る事ができると、強靭なドラゴンの心臓の鼓動が速まる。
動きが鈍ったところを園田が素早くうぐいす色のドラゴンの背に立ち間近で観察し始める。
「ああ、太陽の光に反射した鱗の色が、角に反射し、独特な輝きを発している。これは角の表面が美しいからだな……触った感じ、かなりすべすべだな。まるで鏡面仕上げのように磨かれている」
「あんッッ……、ちょっと勝手に触らないでよ!?」
変態のソレに近い手付きで角を触る園田。
角を触られて変な声を出すうぐいす色のドラゴン。
上空約15,000mを飛行しているが、ひとりと1匹は会話を続ける。
「私の角を褒めたのは貴方が初めてよ……あんた名前は?」
「あ? 俺か? 園田、園田嶽道! 29歳独身一人暮らしの童貞だ!」
「聞いてるのは名前だけよ! ……そうタケミチって呼んでいい?」
「ああいいぜ? なら、お前の名前を教えろよ」
「私の名前は、アリアーナリアよ」
「よし! アリア! 俺のパートナーになれ! 【ドラゴンテイム】!」
園田のスキルが発動し、園田の魂とアリアーナリアの魂が繋がる。
「ちょっと!? 勝手に名前を省略しないでよ! ったく、まぁいいわ。私の名前はアリアーナリア、ストライクドラゴンよ、以後宜しくね」
園田はお目当てのドラゴン、アリアーナリアのテイムに成功し、意気揚々と急降下し地上へと向かった。
▽
園田がアリアーナリアと上空で追いかけっこをしている頃、地上では地形が変わる程の戦闘が起きていた。
無数のドラゴン達が地上で籠城作戦を展開をしているアライアンスパーティーに対して、集中砲火を浴びせていたのだ。
ドラゴン達は人族より頭が良く、生命力も高い。
人族より劣っている所はひとつも無いとドラゴン達は誰しもが思っていた。しかし、眼下にいる人族はドラゴンの若頭を一撃で両断し、近寄って来たドラゴンを地上に引き釣り下ろす暴挙をしてきたのだ。
空の覇者、絶対強者、竜族は神の神兵である我等が人族共に手も足も出ない状況に、酷く動揺し、プライドがズタズタに引き裂かれる思いであった。
「撃って撃って撃ちまくれ! さすれば、彼奴ら(きゃつ)を守る結界も限界を迎えるであろう!」
「ギャオオオン!!」
「グルゥゥゥゥ!!」
地上目掛けて放たれた火球や様々な魔法が、まるで魔力が無尽蔵に有るかのように、絶え間なく降り注ぐ。
「ゴクゴク……ぷはっ!」
柳瀬はマナーポーションを一気飲み干すと、空のポーション瓶を投げ捨てる。
残りのポーション瓶のストックを確認すると、あと1本しか残っておらず、このままでは【結界陣】は保たない。柳瀬の表情に焦りが浮かぶ。
「メアリーさん、油目! あと、どれくらい掛かりそう?」
「あと少し!!」
名前を呼ばれた2人は額に玉の汗を浮かべ、目の前に浮かんでいる複雑な模様が刻まれた四角い物体に、連続で魔法の詠唱を行使していた。
メアリーがChrome Tempest秘蔵のアーティファクトを持ち出していた。そのアーティファクトの名は【スペルストリーム】
このアーティファクトは制限時間内ならば、魔法を一時的に大量にストックさせ、任意で発動するか、制限時間後に自動的に発動する事ができる。
このスペルストリームは発動さえしてしまえばストックされた魔法が四方八方に散らばり、辺り一面を吹き飛ばす事が出来るのだ。
「あと、5発分を詰め込んで放つわ!」
「ううう……メアリーさん、限界……」
魔力が枯渇し、油目の意識が無くなりその場に崩れ落ちる。
「ケルビン! 貴方も2発分の魔法を詰め込みなさい!」
「任せろ!」
油目の代わりにケルビンが四角い物体に魔法を放つと、発動せずに四角い物体に吸収される。
「うお!? 何だこれ?」
「無駄口叩くな! 早くもう1発入れて! そろそろ暴発するわ!!」
暴発すると聞いて慌てて攻撃魔法を放ち、四角い物体に魔法を吸わせる。
「みんな伏せて!」
アライアンスパーティーの面々は柳瀬の周りに集まり、防御に撤する。
その直後、スペルストリームが上空に打上げられ、上空から攻撃を仕掛けていたドラゴン達の間近で四角い物体が暴発した。
数十発の魔法が同時に発動。
城の上空を真っ白に染める。
メアリーと油目がスペルストリームに詰め込んだ魔法は主に神聖属性魔法。
理由は単純、メアリーは【ビショップ】で神聖属性しか扱えないし、油目も【白魔道士】で神聖属性しか扱えないので、必然的に神聖属性に偏ってしまったがドラゴン相手には特に問題はなかった。
四方八方に放たれた魔法は、バニシングレイ、ホーリーレイ、ホーリーランス、ジャッジメント、ピュリフィケイション、マジックミサイルなどなど……。
片っ端から使える魔法を詰め込み、ケルビンの魔法もオマケで入れた。
ドラゴン達は逃げる暇もなく一瞬にして砕け散り、大半のドラゴン達はその命を散らす。
それでも残りのドラゴンは100匹以上は健在で、怒り狂ったドラゴン達が地上目掛けで攻撃を仕掛けてくる。
「貴方達は暫く休んでて♡末留ちゃん、行くわよ♡」
「ういっす! 残党狩りに行きますか!」
怒りに任せ、まともに思考が出来なくなったドラゴンは良い的だ。
萬田と末留、周防院も後に続き、迫り来るドラゴンを1匹、また1匹と倒して行く。
そんな彼らの戦いを眺めながら、肩で息をしていた柳瀬がポツリと呟く。
「ほのりんさん達は大丈夫でしょうか?」
上空を見上げると、城の遥か上空に黒く巨大なドラゴンが激しい戦闘を繰り広げているのが見えた。