レイド・竜王討伐戦
とうとう竜王戦に突入しました。
戦闘回が続きます。
私達がダンジョンゲートを潜った先は、街が広がっていた。
それはただの街ではなく、数百年も放置されたような荒れ果てた街であった。
街の作りはどれも古いデザインで、中世ヨーロッパは彷彿とさせる建築物が散見される。
朽ちた建物、朽ちた剣や人骨が放置され、ここが戦場だったのだが伺える。
「ほのりんよ、どう思う?」
ルル様の質問がアバウト過ぎて答えるのが難しい。私の率直な意見を言わせて貰えれば、異世界に来たみたい? だと思う。
「静かだね。モンスターの気配もないし」
荒れた街の主要な道だろうか? 大きめの道をゆっくりと歩き、辺りを警戒して進む。
予め装着していたうさ耳カチューシャから、周辺の音を聞いていると不可解な音が聞こえてくる。
まるで嘆き悲しむ女性が歌っているような……しかし、人の声ではなくモンスター特有の言語に近い歌声だ。
「この先の……あのお城ですね」
私達が進む道の正面には大きなお城が建っており、1/3は崩れて半壊状態になっている。
あの場所に歌声の主が存在している事が分かり、私達はそこへ向かう為に歩き出す。
「人の気配もしない。ダンジョンだからか?」
「ダンジョンに人が生活していたら大発見ッスよ」
園田さんと末留さんが小声で話しているのが、私のうさ耳カチューシャはハッキリと拾った。
今までダンジョンの中で人が住んでいた形跡は無かった、ただ、モンスターの集落はいくつか見た事がある。それはゴブリンやオークなどの、2足歩行で歩き道具を使うモンスターだったが。
崩れた城の城門を潜ると、辺りは植物で生い茂り、花々が咲き乱れていた。
まるで、ここだけが楽園のように小さな命が集まり身を寄せ合っているようだ。
歌声は先程よりハッキリと聞こえるようになり、その歌声が聞こえる城を見上げる。
「歌声はこの上から聴こえます」
「こんな場所で竜に襲われたら一網打尽だな」
ルル様が組めない腕組んで冷静に状況を分析する
「なら、部隊を分ける?」
「それならば、城の探索チームと城の外周探索チームに別れよう」
中村さんの提案に反対する者はいなかった。
その後のチーム分けは、私と奈々子ちゃんとルル様チームが城内の探索をする事になった。万が一、単独で離脱する事が出来るのは私達魔法少女が1番無難でもあったからだ。
「念の為、JDSTの装備品の中から通信機を持って行ってくれ」
中村さんはそう言うと、柳瀬さんが何も無いところに手を入れて、いくつか箱を取り出す。
お? あれって私と同じアイテムボックスじゃん。いつの間に。
箱の中身は電子端末の他に、イヤホンや小型のマイクがセットで入っており、その通信機を人数分配る。
「こいつがあれば、皆の位置が手にとるように分かる。さらに連絡が取り合えれば生存率は上がる」
マイクさんが手に取り、色々操作している。
どうやら、軍用無線をダンジョン産の素材で改良されているらしく、頑丈で軽量、小型で邪魔にならないのが特徴らしい。
マイクさんが中村さんにミッションが終わったら譲ってくれと頼み込んでいたが、JDSTの装備は自衛隊の装備なので丁重に断っていた。
装備を整え、私達は別行動を取るために動き出した。
未だに竜王アークバハムートが現れず、その竜王が従えると言う100の竜達も見当たらない。
本当にボスがいるのかも疑問に思えてきた。
「間違いなく竜王アークバハムートはいる。我の髭センサーがビンビン反応しておる」
あ、それセンサーだったんだ……。
今の今まで可愛らしい髭だと思っていたよ。
「ほのりんさん、私にも歌が聞こえてきました。何だか寂しい歌ですね」
「うんそうだね。もう少し行った先にその歌を歌っている正体が分かると思うよ」
城内は長い年月が経っているのか、かなり風化しており、美しい調度品があっただろうソレは色褪せボロボロに朽ちていた。
そんな荒れた城を歌声を頼りに、私達は瓦礫の山を上へ上の登って行く。
「ここだね」
私が足を止め、その先に見えるのは巨大な扉だ。
豪華な作りの大きな扉は5mはあるだろうか? こんな扉は映画でしか見た事がないほど美しい物であり、この先には身分が高い者しか入れないのが分かる。
「問題の部屋に到達しました、警戒して下さい」
《了解した。各員警戒されたし――》
私の片耳に着けたイヤホンから中村さんの声が聞こえる。
これは便利な物だ。JDSTはこれらのハイテク機器を使って、ダンジョン内を広域調査を行っているのか。マイクさんじゃないけど、私も欲しいな。
奈々子ちゃんと協力して、重い扉をゆっくりと押すと、扉が音を立てながら開いて行く。
パラパラと砂埃が頭の上に落ちて来るのを見ると、暫くこの扉が使われなかったのが覗える。
扉を潜ると、美しい空間が広がっていた。
壁の一部が崩れているが、そこから光が差し込み、暗い空間に光のカーテンが何層にも折り重なって見える。
そして、太い蔦が崩れそうな石造りの壁を抑えるように伸びており、まるで植物が生い茂る温室のような場所になっていた。
「人?」
私達の正面、50mは離れているだろうか? 朽ちた玉座の前にひとりの女性らしき人物が哀しげな歌を歌っている。
ついついその歌に聴き惚れてしまいそうになる美声だったが、その歌が突然止むと、鈴が鳴るような声が私達に向けられた。
「ようこそ、忘れられし都市ルフェガへ。こちらへどうぞ」
そこそこ離れているのに、まるで耳元で話されているように通った声は、聞いているだけで恋に落ちてしまいそうだ。
「2人共気をつけるのだ。我の真・鑑定眼には竜族となっている。しかもクラス所持者だ」
「え? クラスを持っているの?」
私達はゆっくり謎の人物の前に歩み寄りながら、ルル様の言葉に耳を傾ける。
「左様、しかもEXクラス【竜王】を保持しており、そのクラスの全貌が解読できん」
モンスターがクラスを所持しているのは初耳だ。
ゴブリンやオークなどはタンクやアタッカーなどの役割はあるがクラスとしては就いていなかった。
そうなると目の前の人物、いや、竜族はモンスターなのか? それとも人なのだろうか?
「その竜族ってモンスターなの?」
「竜族は神に近い存在の生命体だ。故にモンスターと言うには語弊があるな」
これから対峙するであろう竜王アークバハムートは神に近い存在なようだ。そんな生物に私達人間が勝てるのだろうか?
ルル様の説明を聞いている内に、とうとう私達は謎の竜族の前にやって来た。
その竜族は、ボロボロの黒いローブを身に纏い、フードを深く被っているせいか表情から様子を覗う事はできないが、辛うじて胸の膨らみや腰のラインから女性だと推測出来る。
「魔法少女の御二人そして異界の守人よ、始めまして、私の名はレティア、皆からは竜王アークバハムートと呼ばれています」
「貴女が……竜王アークバハムート?」
想像していたモノとは全く別モノだった。
バハムートと言えばゲームなどによく登場する強力なボスモンスターであり、見た目も凶悪そのモノである。
そんな先入観で挑んだせいか、目の前の竜族の女性が竜王アークバハムートだと一致するのに暫く時間が掛かってしまった。
「貴女達がここに来た理由は存じております。私を滅ぼしに来たのでしょう?」
本当に敵なの? レティアから敵意を感じないのですが……。
「ならばお互い殺し合うしかありませんね」
「やっぱりそうなりますか?」
「ええ、勿論。私達が滅ぼしたこの世界のようになりたくなければ……ね」
ここはレイドダンジョン用の専用エリアだと思っていたけど、レティアの口振りからすると、どうやら少し違うようだ。
「……このお城がある世界は竜王アークバハムートの世界とは違うのでしょうか?」
奈々子ちゃんの問に、レティアはフードを外した。
その素顔は人間に見えたが、肌は鱗に覆われ、瞳は爬虫類のような形をしていた。さらに特徴的な小さな角が頭部に2本生えていた。
「黒い魔法少女よ、貴女の言うとおり、この世界は我等竜族の世界ではありません。我等に挑んで来た敗者達の国。負ければこの国と同じ運命に辿ります」
「そ、そんな……」
話が違い過ぎる、ルル様! また私達を嵌めた!?
ルル様に視線を送るが、全力で首を振っている。
「待て、我は知らぬ……それよりも竜王の様子がおかしい……」
ルル様がレティアの様子を覗っているが、様子も何も、向こうもやる気満々だし、私達もその気で来てるのよ? 今更様子がどうこう言っている場合じゃない。
「我等は破滅を呼ぶ神の信徒、終焉を呼ぶ誇り高き竜族の神兵……これは神々の意識、我等竜族と貴女達の聖戦です」
レティアの身体から途轍もない魔力の奔流が溢れ出し部屋を覆う。
その濃厚な魔力を浴びて足が竦みそうになるが……大丈夫、私と奈々子ちゃんは戦える。
これまで色んな強敵と戦って来た。
そして、今日、竜王アークバハムートに挑む為にみんなと頑張って来たんだ。負ける気がしない。
「さぁ、1秒でも長く抗うのです」
レティアの咆哮と共に、城の周囲から突然モンスターの気配が大量に溢れ出したのを感じた。
誤字脱字ありがとうございます。
それにブクマが100を越えていました!ラストまで後少しなのでおつき合い宜しくお願いします♪