その後…
あの出来事から3日。
世間様はケルビンさんが緊急入院した事により、瀕死の事故に見舞われたと連日のように報道された。
ダンジョンに潜っていると大怪我なんて当たり前の事で、寧ろ大怪我も治せる力を持つハンターを何人も抱える私達のアライアンスパーティーが異常なのだ。
そんなケルビンさんは今、ユグドラシルの塔71層で軽い運動と言う名の、モンスター狩りをしており、時々冗談交じりの会話が聞こえてくる。
ケルビンさんは入院した日には目を覚まし、憑き物が落ちたように落ち着きを取り戻した。
ケルビンさんが身に着けていたネックレスは、アメリカで知り合いに格安で手に入れた物だったらしい。
効果もレベルを上げる効果があるだけだったので、特に疑う事もせず身に着けていたらしく、結果、操られている自覚もなくリリスと呼ばれるモンスターに情報を集めたいたらしい。
そして定期的に送られてくるブーストリングなどのアクセサリーをカナリアさんに贈り、権力者や有名ハンターに贈っていたようだ。
ケルビンさんとカナリアさんに、そのブーストリングなどを贈った人物のリストアップしてもらったが、そのリストに載っている人物の名前を見ると非常に頭が痛くなる結果となってしまった。
アメリカ政府を始め、ペンタゴン、アメリカ軍の幹部。他にもIDA、USHA、資産家や、大手企業の社長や幹部にChrome Tempestのメンバーなどなど……。
世界を征服しようと思えば簡単に出来てしまう可能性が出て来たのだ。
ここでルル様の言葉を思い出す。
ルル様が竜王アークバハムートの魔石から得られるスキルが保険として必要になるかもしれないと言う事。
ルル様はこの件とは別の事を想定していたようだけど、私にとっても世界中の人間が悪魔ベリフェゴールにコントロールされる方が危険だと思う。もし、手の付けようが無くなったら、躊躇わずこのスキルを使おう。
悪魔ベリフェゴールの件もそうだけど、私の隣にいる奈々子ちゃんも心配だ。
今日まで連絡がつかなかったので、とても心配したのだ。
「ななちゃん大丈夫?」
「私は大丈夫です。少しですけど、心の整理も出来ましたし、もし、ルル様が私達を再度陥れようとした場合は敵とみなし、全力で倒しにいきます」
「ヒィィッ……」
ルル様はガタガタ震えると私の背中に隠れてしまった。
自業自得なので仕方がないけどね。
「そんな事より、ほのりんさんの方が心配ですね」
……言いたい事は分かる。
奈々子ちゃんの事も心配だけど、私も私で大変な事になっている。
週刊誌やネットで、マイク=R.エバンスと魔法少女ほのりんが、2人で居酒屋で楽しく酒を呑んだ後、マイク=R.エバンスが泊まっているホテルに2人で入ったきり出て来なかった事が話題になっていた。
居酒屋については、画像や動画も大量に出回り、中には週刊誌の記者までもが入り込んでいたのは驚いた。
やたら絡んできたオジサンがいたけど、あの人が記者だったのかな? 今となっては分からない。
色んな記事を見たけど、大体は当たっているのがツラい……。
恥ずかし過ぎて死にそうになり、布団の中で静かに叫んでいるのは秘密だ。
「これじゃ、マイクさんと何処かに出掛ける事もできないね」
「ダンジョンデートでもどうですか?」
「んんん!? ダンジョンデート?」
「ユグドラシルの塔には私達意外に来れませんし、モンスターさえ何とかなれば2人の時間を作る事は出来ると思います」
なるほど! その手があったか! って、ダメダメ、モンスターも多いし、ユグドラシルの塔は遮蔽物が無いし、2人でイチャついている所を襲われたら目も当てられない。
デートをするなら、森林エリアだろうか? あそこなら景色も良いし、果物も実っている。
モンスターも私達から見れば弱いので襲われる事も無い。
ただ、森林エリアは既にハンター達の狩場となっているので、遭遇すると面倒なのでなるべく下層へ行くのと奥へ潜る必要がある。
「取り敢えずダンジョンデートは候補に入れておくよ」
そんな話をしていると、アライアンスパーティーメンバー達が続々と集まって来る。
「ケルビン、調子はどうだ?」
「ナカムラ、心配かけたな! この通り大丈夫だ、頭の中もスッキリしたし、俺を操っていた奴を見つけたら、この借りを利子を付けてきっちり返してやるぜ!」
ケルビンさんと中村さんはタンク同士で意気投合し、よく2人で呑む事があるそうだ。
ケルビンさんの異常さを察知できなかったと、中村さんは落ち込んでいたけど、アメリカにいた時からケルビンさんは操られていたので、それについて、中村さんが責任を感じる必要はないと思う。
それでも中村さんがケルビンさんの事を思う気持ちは友人として心配しての事だろう。
そんなケルビンさんとマイクさんは、実は兄弟らしい。
悪魔ベリフェゴールが意味深な事を言っていたけど、後日、マイクさんとケルビンさんから兄弟だと教えて貰った。
どうやらケルビンさんは養子らしく、ケルビンさんの場合は名前を変えずに今まで過ごしていたらしい。
そんな複雑な家族構成をメアリーさんは知っていたが、別に他人に説明する必要は無かったので、メアリーさんの口からは話す事は無かったとの事だった。
「さて、皆揃っているな」
レイド・竜王討伐戦の参加者には欠員は出なかった。
ルル様の話を聞いて、JDST側は少し揉めたが、ルル様から得られる報酬を上乗せする形で納得してもらった。
他のメンバー達は、早くレイドに参加したいという気持ちが全面に出ており、今か今かと待ちわびている。
「皆我に思う事はあるだろう。それでもこうやって集まってくれた事に感謝したい。ありがとう」
ルル様はペコリと頭を垂れる。
レイドのクリアは必須では無いと私は思う。
それでも、ルル様は保険は必要だと言って、レイド・竜王討伐戦を勧めてきた。
ここまで必死に私に勧めてくるとなると、ルル様は、今後起こりうる事態をある程度予想している可能性がある。
まだ、ルル様は何かを隠している? あの一件以来だんまりで、100層に到達すれば全てが分かるし、全てを教えてくれるらしい。
今は権限が与えられておらず、これ以上の事は言えないらしい。
セントゥーリア側の守人、ルルデミア=ロー=ゲーデルバイセル。ならこちらの世界の守人もいるのでは? その人から権限を与えて貰っているのだろうか?
「これから、ほのりんの持つレイドダンジョンに入る為の鍵、竜王の鍵を使う。入ったら速やかに作戦通りに動いてくれ。また、命の危険を感じたら速やかにダンジョンゲートから外に避難してくれ。我は誰ひとり死なせたくはない」
ルル様は力強く話す。
その言葉に嘘偽りは無い。
なら、その言葉を信じよう。
私も誰ひとり死なせるつもりは無い。
ルル様に操られている私じゃなく、私の意思で立ち向かう。
まじかる☆ボックスから、銀色の豪華な鍵を取り出す。
その鍵の名前は竜王の鍵。
約30cmの長さがあり、匠の技術が感じられる程の繊細な細工が施されており、取っ手部分には大きく透明な宝石が埋め込まれている。
「それでは行きますよ〜」
竜王の鍵をダンジョンゲートに入れると、ダンジョンゲートが紅くなる。
そして、ウィンドウが開くと竜王アークバハムートが待つであろうエリアが選択出来るようになっていた。
「みんな準備は良いですか?」
「ああ、ホノリンこっちは準備OKだ」
「JDST各員問題無し」
「ATLANTISもバッチリよ〜♡」
私の問に各パーティーのリーダーが応えると、その力強い言葉に背中を押されるように、私はダンジョンゲートに触れる。
「よし、それでは突入!!」
私は仲間達を引き連れ、レイド・竜王討伐戦に突入した。
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