どうしてこうなった?
時々、話を端折っていたり、ダンジョン攻略を簡略化しておりますが、話の展開を早めております。機会があれば加筆したいですが、そんな機会があればいいですね。
どうしてこうなった……?
私とマイクさんはダンジョンの中にいた。
合同合宿が終わったのに、どうしてマイクさんとダンジョンに来ているかと言うと、モーニングの時間帯にやたらと店内が混雑し、マイクさんの誘いを二つ返事で返してしまったのが原因だ。
そして、ここ最近モーニングの時間帯でも混雑している。
その理由はChrome Tempestのメンバーが近くのホテルに泊まっている事と、そのメンバー達がホテルの朝食を取らずに喫茶しぐれで朝食を取るものだから、噂はあっと言う間に広がり、ファンの方々が連日押し寄せて来ているのだ。
喫茶しぐれの常連客用に予約席を設けているので、鈴木さん達を蔑ろにする事は無いけど、静かで落ち着いた空気が過去の物となっていた。
そんな中、常連客の鈴木さんとルルデミアとマイクさんが同じ席でモーニングを取っており、最近の時事ネタを語り合っている。
鈴木さんの英会話能力が高いのは驚いたが、それよりも鈴木さんのコミュ力だ。
ルルデミアと直ぐに打ち解け、更にはマイクさんとだ。正直、鈴木さんが何者か気になる。
それはさて置き、この混雑状況でマイクさんの席にコーヒーのお代わりを持って行った時だった。
マイクさんが突然、
「今日はダンジョンに行くのか?」
「欲しいのがあるので、少し周ろうかなと」
「なら俺も同行していいか?」
「え? あ、はい」
周りからオーダーの声が掛かり、焦ってたのもあり、マイクさんの誘いを受けてしまったのだ。
そんなこんなで、私はマイクさんとルル様で、渋谷ダンジョン71層、正式名称はユグドラシルの塔71層へとやって来た。
「ケルビンさんやメアリーさんを誘わなくても良かったのですか?」
「ああ、少し2人っきりになりたかったからな」
ルル様はノーカンなのかな? まぁ良いけど。
「攻略前提よりモンスター狩りで行きましょう。出来ればスキルクリスタルや魔石が欲しいので」
「ああ、良いだろう」
この階層で出て来るモンスターは、クォーツゴーレム、ミラージュパペット、アイアンメイデン、アーマートルーパー、マシンウルフの5種類で、どのモンスターも無機質の肉体を持ったモンスターだ。
その中で、私が狙うモンスターはミラージュパペット。
このモンスターは光の屈折を利用し姿を消したり、魔法を反射したりなど、イヤらしい攻撃をしてくる。
そして、重要なのが、そのモンスターはスキルクリスタル〈認識阻害〉を落とす事をルル様の真・鑑定眼で調べがついていた。
下の階層でも、このミラージュパペットは出現していたけど、中々スキルクリスタルがドロップせず、こうして私はマイクさんとダンジョンに潜っているのだった。
「マイクさん、そっちにマシンウルフが3体行きました!」
マシンウルフが私を素通りし、背を向けているマイクさんに向かって襲い掛かる。
「ふん、斬り伏せる! 【五之太刀・白鯨】……ハッ!!」
まるで激しく波打つような太刀筋は、機械の体を持ったマシンウルフを、まるで豆腐を切るかのように切断していき、一瞬で3体のマシンウルフを倒した。
「流石ですね」
「いや、まだまだだな。スキルに振り回されている感じがする。早くモノにしないとそれが隙きを生む」
スキルに振り回されている末留さんは、隙きだらけだもんね〜。
しかし、マイクさんって真面目だな〜。どうしてこんな真面目で強くて優しくてお金持ちなのに、未だに独身なのも謎である。
ケルビンさんと違って奥手そうだけど、カナリアさんと付き合っていた事もあるって聞いたし、決して女性の扱いが悪い訳でも無さそうなのよね。
何か理由があるのかしら?
「マイクさん」
「? なんだ?」
マシンウルフから素材や魔石を広い上げ、それを眺めていたマイクさんが振り返る。
「マイクさんはどうして……その、私に興味? があるのでしょうか?」
私の質問にどう答えて良いか迷っているようだ。魔法少女が好きなのか、私が好きなのか正直分からない。
私の心の中もモヤモヤしているので、折角なのでハッキリとさせたい。
「少し昔話をしよう。……今から15年前ちょっとだ、俺が家族と共に横須賀の基地に来た時だった。父がアメリカ海軍の海兵隊でな、俺は日本の学校に通ったは良いが、日本語は分からないし馴染めなかった。そうなると、いじめが必然的に起こった。学校に行くのか嫌になり引きこもりがちになった、そんなある日、俺はたまたま日本のアニメーションを見たんだ。俺はそれにハマり、日本語を勉強するようになった。大体2ヶ月くらい掛けて話せるようになり、半年もすると読み書きが出来るようになったんだ」
うわ、それは凄い。稀に日本の歌番組やアニメを見て日本語を覚える人がいるけど、マイクさんも、そのひとりだったなんて。
マイクさんが、いじめを受けたなんて想像できないけど、子供の頃のマイクさんは苦労したんだな……。
「そんなマイクさんを変えたアニメって何ですか?」
「ハートフル♡ミュージックドリーミーだったかな」
「ああ……やっぱり」
以前、レイドの参加者を集めた合同会議の時、マイクさんがアニメ柄のTシャツを着て来た事があった。
あのアニメは私も見た事がありる魔法少女系アニメだ。
そのハートフル♡ミュージックドリーミーは、魔法少女の女の子達が歌って踊って敵を倒す王道ストーリーだ。
登場する女の子達の人柄も良く、キャラのストーリーも立っており、さらに歌や踊りも様々なジャンルがあって楽しいのだ。
勿論、中の人も人気があり、コンサートやグッツもすぐに売り切れるのだ。
ちなみに私もCDを持っていたりするくらい好きだったりする。
「そういえば主人公の女の子が、いじめらている友達を救うシーンがあるんです。主人公が友達の手を取り言うんです。――大丈夫、私がついてる。私が貴女の盾になり、剣になるよ。諦めないで! 私を信じて! ――って」
マイクさんの青く透き通る目が、私の事をジッと見ている。なんだかその瞳に吸い込まれそうな気分になる。
「1作目の24話だな。俺もそのシーンは何度も見た。あのセリフには勇気づけられた」
「私もあのシーンは印象的でした」
いじめをしたり、受けたりした事もなければ、そういった事も見たこともない平和な学園生活だった私は、あくまでフィクションの世界だと思っていた。
だけど、テレビやネットでは時々こういった話題が上がっている。
マイクさんの場合、インターナショナルスクールへ通えば、困難な日々を送る事は無かった筈だけど、敢えて日本人が通う学校に通わせた理由が検討もつかない。
しかし、こうやってマイクさんが日本のカルチャーに触れ、自身を昇華させるほどの成長をみせる事が出来たと言える。
御両親の先見の目があったのかそれとも……。
「ホノカはマジカルガールになって辛くないか?」
辛い? う〜ん、最初の頃は恥ずかしいやらバレないようにしないとか悩んだけど、今となっては少し吹っ切れた感は否めない。
私の正体を知っている人が多くなってしまったし、それよりもダンジョンの先が見てみたい。
私の正体がもし世間様にバレたらその時はその時で、ルル様に相談してダンジョンの奥底でカフェでも開こうかしら? そもそもハンターが来るか謎のだけど。
ロハスな生活を夢見たけど、意外にハンター生活も楽しい自分に気がついたのが、最近の事だった。
正直、ダンジョンの終着点が見えて来たのが寂しく感じる。
「私は辛くないよ。むしろ楽しい。新しい発見が私を待っているよ」
「そうか、ならその時間を共に共有しないか?」
「え? それって……」
マイクさんがわたしの腰に手を回し……持ち上げる。
身長差約40cm、私とマイクさんの視線が同じ高さになる。
「嫌なら抵抗してもいい」
「……」
「無言は肯定とみなす」
和装の装備を身に着けたマイクさんと、甘ロリ魔法少女の私。
アンバランスな私達は唇をそっと重ねる。
優しいキスから始まり、舌と舌が絡み合う熱いキスに変わる。
未経験な私は、視界と脳がパチパチと点滅して思考が上手く纏まらない。
なすがまま、マイクさんのリードに任せる。
「おい、我がいるのに続ける気か?」
「「……」」
ルル様……。
私の体温が急激熱くなり、頭から湯気が出る勢いだ。
胸のざわつきにナヴァラトナが出て来そうな予感がする。
「……続きはダンジョンの外でするのだな」
ルル様は気を使ってるらしい。
まぁ、この流れをDTubeに流す事はできないし、動画を上げたら多方面からお叱りを受ける事になる。
お叱りも嫌だけど大炎上しそうだ。
「ボスがいる祭壇を目指すのも良いけど、欲しいスキルクリスタルが出るまでは、ボスに挑まないですよ」
「なら付き合おう」
マイクさん積極的だなぁ……。
嬉しいけど、若干困惑気味。
スキルクリスタルを手に入れたらボスに挑んで、その後はどうするの?
ゲートに入るまではボスもモンスターも出てこない安全地帯になるって事は、私とマイクさんの2人の時間になるって事よね?
まって、ああどうしよう……心の準備ができてないよ。
私の心の準備ができずに、モンスター達が襲い掛かって来る。
あああ! もうどうにでもなれ!!
私はオタマトーンを演奏し、マイクさんと共に、迫りくるモンスターを次々と屠っていった。
エバンス氏と穂華の恋愛は成就するのでしょうか?