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死ぬ程に怖い絶叫マシンに乗った事ある? 私あるよ。

 あの後、誤解を解くのに小一時間かかってしまった。

 マイクさんとケルビンさんが一触即発の事態になり、女性陣は黄色い声で、やれ略奪愛だの、やれ三角関係だのと騒ぎ立てている。

 それを見かねたメアリーさんが、ケルビンさんを叱っていた。

 どうやら過去にも似たような事があったらしく、マイクさんの彼女を奪った事が有ったらしい。

 とんだ前科モンの最低男ケルビンさんに、女性陣からブーイングの嵐が起きた。

 勿論、私もブーイングに参加した。

 ケルビンさんの言い分も酷いものがある。

 本人曰く、「マイクは女の気持ちが分からない、俺なら分かるし幸せにできる」だそうだ。

 で、前回マイクさんから奪った女性とは、Chrome Tempestの専属サポーター、カナリア・フレーマーさんだと判明した。

 カナリアさんがいるにも関わらず、私を口説くとはどんな神経をしているのか疑問に思ったが、どうやらケルビンさんは他にも数名の女性を囲っている事が分かり、他の男性陣から激しいブーイングが巻き起こった。

 女癖が悪く、手癖も悪いケルビンさんが何故、未だにマイクさんとパーティーを組んでいるのかは謎だが、戦場に出てしまえば、お互い息の合った連携でモンスター達を次々と斬り伏せて行く。


 結局、誤解は解け、私とケルビンさんは何の関係も無ければ今後進展も無い事を明確に宣言しました。

 もう心の底から面倒事は勘弁願いたいと願った。


「ほのりんさんはモテますね」

「ケルビンさんはひとりの女性を最後まで愛せるなら良いですか、浮気症ですからね。論外です」


 論外中の論外だ。

 マイクさんが可哀相だ。

 私が、ケルビンさんと付き合っていない事が証明されると、殺気は消え、いつものマイクさんに戻っていた。

 もしかしたら、本気でケルビンさんを殺していたかも知れないと思うと、マイクさんの怒りがそこまでなのだと理解できる。


 ……でも、マイクさんって私の事をどう思っているのかな? 仮設テントの中での出来事って、その気があるって事よね? アメリカ人特有のスキンシップじゃないよね? はぁ、よく分からないな……。


 正直、日本人とアメリカ人の恋愛観は分からないし、そもそも同じ日本人とも恋愛関係になった事すら無いので、恋愛うんぬんなんて理解できる筈も無く、私はモヤモヤした気持ちでユグドラシルの塔62層へと続くダンジョンゲートを潜った。



 ユグドラシルの塔を登っていると、ふと疑問が浮かんだ。

 ここは渋谷ダンジョンなのか? それともユグドラシルの塔なのか? ルル様は、ここはユグドラシルの塔と呼んでいたので、少し気になったのだ。


「ルル様」

「なんだ?」

「ここって、渋谷ダンジョンなの? それともユグドラシルの塔なの?」

「どちらだと思う?」

「……その言い方だと、どちらも正解ってこと?」

「冴えているな、ほのりん。正解だぞ」


 あ、正解なんだ。

 思った事を適当に答えたら、言い当ててしまった。


「ユグドラシルの塔は他の世界中のダンジョンと繋がっていてるのだ」

「え、それってつまり……」

「世界中のハンター達は、最終的に同じダンジョン、ユグドラシルの塔へと集まるのだ」


 へ〜、それは新事実ってやつだね。

 もしかして、ユグドラシルの塔からアメリカのダンジョンとか行けるのかしら?

 ルル様に詳しく聞いてみると、ユグドラシルの塔に入るには、メインダンジョンを60層まで到達し、小規模ダンジョンのいずれかを攻略し金のメダルを入手する必要がある。

 そして、肝心の他のダンジョンへ行けるのか? というと、ユグドラシルの塔から他のダンジョンに行くことは不可能だった。

 裏ワザとして、他のダンジョンを60層まで攻略すれば可能らしい。

 要するに、マイクさん達Chrome Tempestは、日本にあるメインダンジョンのひとつ、渋谷ダンジョンを60層まで攻略はしたけど、アメリカにあるグリフィスダンジョンは60層まで攻略していないので、ダンジョンゲートを使って他のダンジョンへ帰る事はできないのだ。


「なんだー、グリフィスダンジョンに行けるかと思ったのに」

「なんだ、マジカルガールはグリフィスダンジョンに興味があるのか?」

「レイドをクリアしたら私達とアメリカに来ない? 楽しいわよ〜」


 私とルル様の会話を聞いていた、マイクさんとメアリーさんが会話の中に入ってくる。

 グリフィスダンジョンには興味がある。

 スキルクリスタル集めや、まだ見ぬモンスター達を見つけて魔石をゲットしたい感もあるし、アメリカに住めばロハスな生活を送れるかも知れない。


 アメリカに行くのも良いなと、思いを馳せていると菜々子ちゃんが申し訳なさそうに話しかけてくる。


「ほのりんさんには伝え忘れていたのですが、十条穂華さん、貴女は現在、国外渡航禁止令が出ております」

「なんで!?」

「穂華さんの力が、海外に渡るのを良しとしない日本政府の考えです。IDAは海外での活動も推奨していますが、各国の方針までは口が挟めません」

「そんな~……」


 私のロハスな生活が、またひとつ消えた。

 海外旅行すら行けない、定住も出来ない、私はこの小さな島国で一生を過ごさないといけないのかな? まぁ、日本が嫌いな訳ではないし、なにより自然が豊富で心にゆとりを持った生活が送れればそれで良いのだ。


 ……海外での活動は諦めるか。


 できればダンジョンゲートを通って他のダンジョンに行ければ良いんだけど、私の、まじかる☆ゲートは一度行った事のあるダンジョンでしか移動できない。

 大変便利なスキルだけど、便利なりに制約はあるのだ。


「本気でアメリカに来る気があるなら、プレジデントに掛け合ってもいいぞ」

「そうね、私達は顔だけは広いから」


 プレジデントってアメリカの大統領だよね? え、マジ?


 少し困った提案に愛想笑いで誤魔化し、襲い来るモンスターを倒して行く。

 変わりのない景色で飽きてくるけど、どのモンスターも強敵で気は抜けない。

 気を抜いたら死ぬ程でもないけど、パーティーの防御が崩れると危険なのは間違いはない。

 緩い上り坂のユグドラシルの塔は遮る物が存在せず、ボケーっとしていると、遠距離から攻撃魔法が飛んで来たりするので、常に全方位を警戒して進む必要がある。

 勿論私のうさ耳カチューシャで早めに索敵して危険を回避している。


 戦闘をしながら駆け足で2時間程、ユグドラシルの塔を登ると、白い天井が見えてくる。

 あの先を越えると62層の祭壇だ。

 次はどんなボスが出るのだろうか?


「準備はいいか?」

「いつでもイケるわ♡」

「私達も大丈夫です」


 祭壇の上に置かれた玉が紅く輝き、紅いダンジョンゲートを発生させる。


 ダンジョンゲートから顔を覗かせたのは、何度か戦った事のあるモンスターだった。

 ただ、大きい、途轍もなく大きい。


「クォーツゴーレムの顔だよなアレ……」


 園田さんの呟きに、私は息を飲む。


 ダンジョンゲートから頭から出てきたクォーツゴーレムは、ダンジョンゲートを無理やり引き伸ばし、巨大な腕と胴体を出し、私達の前に現れた。

 巨大なクォーツゴーレムが一歩歩く毎に地面が揺れると、底が抜けてしまうのではないかと不安になるが、白い床は頑丈なのかヒビが入ったり割れたりする事はなかった。

 紅いダンジョンゲートを無理やりこじ開け、這い出て来たクォーツゴーレムの大きさは、下層で見たクォーツゴーレムの10倍の大きさはあった。

 正に圧巻とは、この事だろう。


「お、おっきい……」


 クォーツゴーレムの姿を見た私は、思わず喫驚の言葉が溢れた。


「ひゅ〜、こいつを倒すのは、ちと骨が折れそうだ」

「定石通り、足と関節を狙うぞ」


 マイクさんはそう言うと、ケルビンさんを先頭に立たせ、クォーツゴーレムを迎え討つ。

 中村さん率いるJDSTとATLANTIS組は、側面に周り遊撃に移る。


 私と奈々子ちゃんはJDSTとATLANTISとは反対側に行き、挟み込む形で移動する。


 クォーツゴーレムの動きは重いが、それでも大きな体は脅威で、一歩歩けば数m以上移動するので、目測を見誤ると回避が間に合わなくなり、攻撃を受けてしまいそうだ。


 地響きが鳴り響く中、クォーツゴーレムはケルビンさんに向かって、つま先で蹴り上げると、スキルで強化した盾で受け止める。

 質量と遠心力を生かした攻撃は、ケルビンさんの体重では受け止める事は不可能で、まるでサッカーボールのように蹴り飛ばされてしまった。


 伸ばされた足目掛けて、マイクさんの刀による斬撃と、メアリーさんの神聖属性の【ホーリーランス】が足首に直撃する。


「硬いわね」

「俺の刀でも、あの装甲を打ち破る事は難しいな」


 マイクさん達の攻撃があまり通っていないのを確認すると、私と奈々子ちゃんが側面から仕掛ける。


 私達から見て左側、即ちクォーツゴーレムの右足を狙う。


「はあああ! 砕けなさい! まじかる☆スターラーーイト!!」

「狙います! まじかる☆レイディアントムーン!!」


 私達が放った魔法は重なり合い、星と月とハートが混ざり合い、今まで以上に輝くと、虹色の尾を引きながらクォーツゴーレムに向かって飛んでいき、寸分狂いなく右膝に命中した。


 ……倒れない。

 

  煙が晴れダメージを確認すると、右膝は表面が光の粒子化しているけど、ヒビが入った程度で、クォーツゴーレムはそれほどダメージが通ったようには見えなかった。

 それよりも、私達の方が危険だと判断したのか、大きな右手が私達を掴もうと迫って来ていた。


 奈々子ちゃんは回避成功、そして、私は……。


「きゃーー! 離しなさーい!!」


 回避したのに腕の軌道が変わり、私を大きな手でしっかりと掴む。

 その握力はもの凄く、普通の人なら内蔵が飛び出て圧死するだろう。

 私は必死にまじかる☆ドレスの力を引き出し、【怪力】で抜け出そうとするが、うまく力が入らず、握り潰されないように必死に抵抗するのが精一杯だった。


「ほのりんさん!」


 下の方で奈々子ちゃんの声が聞こえたような? クォーツゴーレムが腕をブンブンと振り回し、それどころではない。


 う、誰か止めて……吐きそう……。


 視界がぐるぐると周り、遠心力で内蔵が移動する気持ち悪さに、私の吐き気が限界に近づいてこようとしている。

 このままでは、魔法少女げろりんになってしまう……。


 胃の内容物が喉の所まで上がり、口の中が酸っぱくなる。


 もう限界……。


 次の瞬間、吐き気も吹き飛ぶような爆発音と共に、私の身体が宙を舞う感覚が襲ってくる。

 視界は流れるような景色で、私が何処にいるかも、どういう状態なのかも分からない。

 ただ、私を掴んでいたクォーツゴーレムの手の力が抜けたのか、私の身体がすっぽ抜ける。


「ひゃーーー! 死ぬーーー!」


 今までに絶叫マシンは散々乗り、富士山ハイランドの絶叫マシンも全て制覇した私ですら、この猛スピードの回転の後、放り出されるような感覚は味わった事が無い。

 あまりの恐怖に【飛行】スキルを使う頭がなく、自然に任せて吹き飛んでいくと、誰かの胸に抱かれ、その衝撃を殺す。


「大丈夫か?」


 その甘い優しい声に、私の耳が歓喜の声を上げる。

 その瞬間悟ってしまった。


 ……ああ、私、この人の事を好きなんだなって。

 



穂華の恋の行方はいかに。


追記

誤字脱字報告ありがとうございます。

また、明日の投稿はお休みです。

活動報告やTwitterに詳細を記載しておりおります。

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