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浮かれた男と強引な男

 伊豆修善寺ダンジョンでの活動の成果もあってか、私達は渋谷ダンジョン61層の門から金のメダルを使用し、とうとう塔の中に入る事に成功した。


 塔の中は広大な広さになっており、中央に巨大な白い柱が建っており、その周りを螺旋階段のように上へ上へと続いている。

 螺旋階段のようにと言ったが、実際は階段ではなく、緩やかな坂になっており、道の幅は測っていないけど、目測で2キロ以上はありそうだった。


 そんな白い螺旋階段風の塔を登って行くと、塔の上からも下からもモンスター達が襲って来る。

 他の階層では見なかったゴーレムタイプのモンスター。

 体は石英のように白く、所々結晶のように突起物が見えるので、まるで鉱石からそのままゴーレムとして生まれたかのような姿をしている。

 名前はクォーツゴーレム。

 動きは遅いが、私達を見つけると攻撃が最大の防御と言わんばかりに突っ込んで来る。

 私達の強さと比べれば大した事のないモンスターだけど、質量から繰り出されるパンチは、中村さんやケルビンさんの防御力を持ってしても防ぎきる事は不可能で、中村さんの盾が破損してしまう結果になってしまった。


「私の熱い抱擁を受け止めて♡」


 クォーツゴーレムの頭部に萬田さんが抱き着くと、バキバキと何かが砕ける音が聞こえる。

 そして、クォーツゴーレムの頭部が粉砕されると、大きな体が大きな音を立てながら崩れ落ちる。

 石英の体が光の粒子に変わると、綺麗な石と、スキルクリスタルが落ちた。


 ルル様は綺麗な石とスキルクリスタルを拾い上げる。


「ほう。この石はミスリル原石とスキルクリスタル〈採掘〉だな」

「ミスリルの原石は超が付く程のレア素材ですね。キロ単価10億円です」


 ルル様の鑑定結果に奈々子ちゃんが補足する。


 10億円? こんな石が? これひとつで一生遊べるじゃん!!


「でも、ミスリルって軽いからこれでも100グラム以下しかないわね、ほら持ってみて」

「はい」


 ルル様からメアリーさんに渡されたミスリル原石を私に渡す。

 それを受け取ると、見た目とは裏腹にとても軽い。

 ポテトチップスが入った袋くらいだろうか? 


「軽いですね。でもクォーツゴーレムを乱獲すれば大儲け出来そうですね」


 私の視線の先には、進行方向からクォーツゴーレムが数体、列を成してこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


「おっしゃー! 園田さん、稼ぎ時っすよー!」

「はしゃぐな末留。お前は被ダメを抑えろよ、メアリーさんと油目さんの仕事増やすな」


 確かに末留さんの被ダメは他のメンバーに比べて多い。

 しかし、それには理由がある。それは、スキルが大技しか無いのが原因だった。

 末留さんのクラス【ハイランダー】は、あらゆる武器を使い熟す事ができ、その中で末留さんは大剣を好んで使っていた。

 覚えるスキルも身体強化系に特化し、技も大振りのスキルしか取得しなかった。

 故に1度の発動したスキルはキャンセルする事ができず、そこに隙きが生まれる。

 モンスターを倒しきれれば良いが、倒せなかった場合、反撃を受け、避けられた場合も痛恨の一撃を受ける事が多々あった。

 それでも【ハイランダー】はハイリスクハイリターンのクラスであり、このアライアンスパーティーの最大火力を誇るようになってきたのだったのだが、その結果、彼は浮かれていた。

 そして、クォーツゴーレムの反撃を受け、全身の骨が砕ける重症を負った。


「ごふっ……すんません」

「喋らないで下さい、傷に障ります」


 柳瀬さんの治療用の結界、【治癒の泉】に浸り、油目さんの【ヒール】を受ける。

 それでも、受けたダメージは酷く、治療に時間が掛かりそうだったので、私のまじかる☆ヒーリングシャワーを掛けてあげた。


 その後、末留さんは怪我から復帰し、園田さんからお叱りを受けたものの、スキルに頼らない技を身につける努力をした方が良いと指導を受けていた。


 私のもその言葉に感銘を受け、技に頼らない戦い方を学んだ方が良いと感じた。

 私のスキルは強力だけど、最近はモンスターが強くなってきたのか、まじかる☆スターライトの一撃では倒せなくなってきた、それでも連続で当てれば倒せるのだけど。


 暫くモンスターを狩りつつ、塔の上へと登る。

 道は緩やかな上り坂で、真っ白な空間が広がっており、今どのくらい登っているのか分からない状況だ。

 私のうさ耳カチューシャから拾える音は、モンスター達の反応の他には、何も感じ取れなかった、いや、微かだけど、階段の終わりが見え、そこに祭壇の反応を感じる。


「天井が見えてきたな」


 ルル様の声に反応するように、みんなが空を見上げると、薄い靄の先、緩やかな上り坂の先に白い天井が見える。

 靄のせいで気が使ったけど、どうやら、この天井の先がボス部屋になっている可能性があった。


 やっと登り終えると、広い空間が広がり、中央には見慣れた祭壇がポツンと設置されていた。

 私達を少し疲労が溜まっているけど、戦闘ができない訳ではないので、このままボス戦へと移行する事になった。


 私達の接近を察知すると、祭壇の上に乗った玉が紅く発光し、紅いダンジョンゲートが開く。

 そのゲートから出て来たのは、12体の鎧を着たモンスターだった。

 そのモンスターは人の姿をしてはいるが、明らかに見た目が人間ではないのが分かる。

 まず顔が、ワニのように口が長く、鋭い歯が何本も生えており、皮膚は緑色の鱗で覆われ、太い尻尾がゆらりと動いていいるのが見えた。

 俗にいう、リザードマンと呼ばれるモンスターだろうか?


「強そうだな、俺の盾は予備だから無茶はできん、ケルビン主体で動け!」

「「了解!」」 


 私の、まじかる☆ボックスから取り出した盾を構える中村さん。

 予備の盾と言っていたけど、【ダメージ反射】や【衝撃吸収】などの効果が付与されたタワーシールドで、以前使っていた大盾よりも頑丈である。

 それでも中村さんは、破損した盾には愛着があるらしく、持ち帰って修理するらしい。

 そんなタワーシールを構え、ケルビンさんと2人で迫り来るリザードマン達を迎え討つ。


 リザードマンの数は12体。

 構成も私達と似ており、盾持ちが2体、前衛が6体、後衛が4体おり、その後衛がリザードマン達に魔法を掛けて強化するのが見えた。

 

「魔法使いが多いな。先に後衛を潰すか」


 マイクさんが一気に駆け寄り、リザードマンの盾持ちを抜けようとしたが、弓矢を放ったリザードマンの牽制攻撃により出鼻を挫かれ、盾持ちのリザードマンに進路を塞がれてしまった。


「ちっ! 邪魔だ!」

「ニンゲン、マダマダダナ」

「!?」


 盾持ちのリザードマンが、マイクさんを盾で突き飛ばす。

 咄嗟に後方に飛び退いたお陰か、ダメージを軽減する事に成功するが、リザードマンはお見通しとばかりに、マイクさんの着地地点に対して、魔法使いのリザードマンが集中砲火を浴びせる。


「ぐっ!」

「まじかる☆シールド!!」


 私はマイクさんの正面に、まじかる☆シールドを張って魔法を弾く。


「ななちゃーん!」

「はい! くらいなさい! まじかる☆レイディアントムーン!」


 月のエフェクトがマラカスから大量に溢れ、魔法使いのリザードマンを狙うが……。


「フン! ネライガアマイ!」


 盾持ちのリザードマンに攻撃を防がれて、その軌道をずらされてしまった。


 あの盾を持ったリザードマンはかなり強い。

 さらに、パーティーで動くタイプのモンスターはとても厄介で、私達の思い通りになる戦いができない。

 そうなってくると、パーティー内はピリピリし始めて、連携が疎かになり隙きが生まれる。


 1体のリザードマンが槍を突き出してくる。

 その強靭な肉体から放たれた鋭い突きは、まるで蛇がスルリと隙間を縫うように、槍の穂先をケルビンさんの防御の隙間から突いてきた。

 槍の穂先がケルビンさんの右肩の鎧を砕くと、右手に握っていた白く美しい剣を落としてしまった。


「くそっ!」

「モラッタ!!」


 盾持ちのリザードマンが【シールドバッシュ】を放ち、ケルビンのカイトシールドを弾き、胴体を曝け出す。


「ケルビン!」

「ケルビンさん!」


 考えるより先に身体が動く。

 間に合ってちょうだい! 【高速移動】【怪力】!! 


 私のスキルが発動し、槍持ちのリザードマンの槍を素手で掴み胸元で止めるが、盾持ちのリザードマンの右手に握られたメイスが振り下ろされる。


 まじかる☆エンジェルハンド!


 半透明の腕を伸ばし、メイスが振り下ろされたリザードマンの右手首を掴むと、【怪力】の効果で一気に左に撚る。

 リザードマンも人の身体に似た構造をしているらしく、リザードマンの左腕から骨が砕ける音が聞こえる。


「グオオオ! キサマッ!」


 盾持ちリザードマンが無理やり盾で殴ってこようとするが、まじかる☆エンジェルハンドは2本の腕を出す事が出来る。

 私は握った槍と、もう一本のまじかる☆エンジェルハンドで、槍持のリザードマンを【怪力】で掴みながら盾持ちのリザードマンにぶつける。


「グアッ!」

「ギャッ!」


 盾持ちのリザードマンが倒れたと同時に、リザードマン2体の首が落ちる。


「マイクさん! 助かりました!」

「助かったぜ、マイク」

「礼なら、マジカルガールに言え」


 刀に付着した血を振り落とし、鞘に納めると、他のメンバーに襲い掛かっているリザードマンに向かって走り出して行った。


「……マジカルガール、ありがとよ」

「いえいえ、間に合って良かったです」

「そんなに細い腕なのに、あの槍をよく止められたな」

「スキルのお陰ですね」


 手の平を見ると、手袋が少し黒くなりヒリヒリする。

 裂けてはいないけど、あの槍の一撃を受けていたら、私のまじかる☆ドレスを突き破っていたかもしれない。

 現在のまじかる☆ドレスアップのランクは〈★★☆☆☆〉なので、持ち得るスキルポイントを消費し、最大まで上げる必要がありそうだ。


 ケルビンさんの手を取り起こして上げる。

 【怪力】の効果で、重装備のケルビンさんも片手で簡単に起こせた。


「マイクが惚れるのも、今なら理解できるな」

「ん? 何か言いましたか?」

「ああ、マジカルガール、お前いい女だな! 俺の女になれよ!」

「え? えええ!?」


 何でそうなるの? 勘違い系男子ですかね? 少し優しくしたら、惚れられちゃうやつ。


「マイクと付き合ってんの?」

「いいいいえ、いえいえ! そんな付き合ってるとか、そんなじゃないですってば!」

「なら決まりだな! 今日から俺の女だ!」

「て、丁重にお断りします!」

「マイクの野郎の驚く顔が楽しみだぜ!」

「ちょっと! 付き合いませんからね!」


 上機嫌なケルビンさんは、マイクさんの後を走って追い掛けて行く。


 何なこの人……人の話も聞かないし、それよりも誤解を解かないと……!!


 私も必死にケルビンさんの後を追い、残りのリザードマンを倒しに向かった。



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