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成れの果てレムナント

「キャーー!!」

「化け物だ!! 化け物がでたぞ!」

「た、助けてくれー!」

「ハンターは? ハンターはいないのか!?」


 ビルの影から、明るいオレンジ色に照らされた光が見える。

 そして、その方向から悲鳴が聞こえ、私達に向かって慌てふたきながら逃げ惑う人々が見えた。


「ただ事じゃなさそうね?」

「悪い予感がするわ♡」

「皆さん行きましょう!」


 私達は明るくなった場所へと駆け出す。

 逃げ惑う人を掻き分け向かった先には、人の姿をした何かが人を襲っていた、否、捕食していた。

 それは、とても悍ましく、吐き気をもよおす程に衝撃的で、恐怖で足が震えてくる。


 あれは何? 人……ではない? モンスター?


 ただ、あの姿に少し見覚えがある。

 大きく膨れ上がった筋肉。

 禍々しいオーラ。

 血走った目。

 そして、太くなった腕にめり込んだ腕輪。


「ふむ。不二木とやらに似ているな」

「やっぱり? ブースト系のアクセサリーの暴走かな?」

「……被害者の数が多過ぎます。速やかに止めないと」

「そうね。街中であんなのが暴れてたら大変だもんね♡」


 私達は逃げ遅れた人達を誘導しながら、謎のモンスターとの距離を詰めていく。

 今モンスターは空腹なのか、私達に気取られる事は無く、夢中で目の前の肉の塊を貪っている。

 その光景に立ち眩みしそうだけど、目を離さずいつでも攻撃出来るように構える。


「……ウウウ」


 一瞬、私と目が合ったと思った瞬間。目にも止まらぬ速さで、私に向かって腕を伸ばしてくる。


「ハッン♡」


 私に触れる寸前に、萬田さんがタックルを決めて阻止する。

 謎のモンスターは、吹き飛んだ先の店舗に激しく突っ込み、硝子の割れる音や物が壊れる音が響く。


 あのモンスターの動きは尋常では無かった。

 ダンジョンで出てくるモンスターの強さでいうと、60層クラスの強さだと思う。

 もし、私達が渋谷ダンジョンの攻略や修善寺ダンジョンの攻略が進んでいなかったら、危険だったかもしれない。


「ルル様、やっぱりあのモンスターって元人間なのかな?」

「そうだ。我の真・鑑定眼によると、奴はレムナントと呼ばれるモンスターで、人の成れの果てだ」


 人の成れの果て……。一体どうしてこうなったんだろうか? 不二木も似たような姿になっていたけど、ここまで肉体の変化や精神汚染が進んではいなかった。

 先程のレムナントと呼ばれた者は、完全にモンスター化が進んでしまったかのように見える。


 私の力で彼を救えるのだろうか?


 激しく壊れた店舗の中から、レムナントと呼ばれるモンスターが唸り声を上げながら這い出てくる。

 体から溢れ出すオーラのような靄は次第に濃くなっていく。


「!? 気をつけろ!」


 ルル様の焦った言葉と同時に、レムナントの正面に幾何学模様の魔法陣が展開され、3つの火の玉が生成されると萬田さん目掛けて飛んでいく。


「ごふっ!?」


 ファイアボールを叩き落とそうとした時、目の前で爆発を起こした。


「萬田さん!」


 爆発の衝撃をモロに受け、乗用車に激突して止まった。


「痛いわぁ〜……」


 良かった無事みたい。

 あの鍛え抜かれた身体は鋼のように硬そうだ。魔法少女風の衣装が少し焦げただけで、肉体にダメージは無さそうだ。


「ほのりんさん、あのレムナントと呼ばれるモンスターは元ハンターですよね? もしかしたらスキルを引き継いでるのでしょうか?」


 その可能性は非常に高い。

 ハンターの強さとスキル、モンスター化する事によってさらに強くなると、かなり厄介な相手だ。


「私達の魔法なら元の人に戻せる?」

「難しいかもしれん。不二木の場合はモンスター化して直ぐに、ほのりんによって倒されている。しかし、目の前のレムナントは完全にモンスター化している。まじかる☆スキルで倒したレムナントは魔石だけになるやもしれん……」

「そんな……」


 それでは助けた事にならない。

 モンスター化したとはいえ、元は人間。

 人を殺したくない。


 しかし、レムナントは私達の事は待ってくれない。萬田さんの次に、私を獲物と判断したのか、獣のような動きで私に向かって来る。


「オタマトーン!」


 私の左手にオタマトーンが握られる。


「黙ってやられる訳にいかない! まじかる☆スターライト!」


 星の塊がレムナントに向かって真っ直ぐに飛んでいく。

 ボンっと音を立て、胸に直撃するが、レムナントは元の人間に戻る事も無ければ、光の粒子にもならなかった。


「私がいきます! まじかる☆レイディアントムーン!!」


 奈々子ちゃんのまじかる☆スキルが発動する。

 綺羅びやかに輝く三日月と星が、黒いルル様模様のマラカスから溢れ出し、レムナントに向かって飛んでいく。


 レムナントに直撃すると、僅かだか体の表面が光の粒子へと変わっていく。


 このまま攻撃し続ければ倒せる? 人に戻せる? 分からない……このまま攻撃していいの?


 戸惑いが致命的な隙き生む。


「ほのりん危ない!!」


 ルル様の声に反応するが、気づいた時には遅かった。

 レムナントの鋭い手刀が、私の首筋に向かって突き出される。


 マズい! 耐えられる?


 まじかる☆ドレスはあらゆる攻撃を軽減する事が出来るが、致命傷になりうる攻撃、即ち、頭や目、首筋、心臓などの急所に受けるダメージ軽減は高くない。

 フェニックスの炎に包まれた時、片目を開けて失明したのも、まじかる☆ドレスでカバーできなかった部位だった為だ。

 まじかる☆ヒーリングシャワーが無ければ、今も片目を失ったままだった筈。


 時間の流れがゆっくりと進む刹那、手刀が真っ直ぐ、首筋にある頸動脈に突き刺さろうとした瞬間――。


「グゥゥ!?」


 氷の刃が私とレムナントの間を通り抜けると、レムナントの右手が宙を舞い、鮮血が飛び散る。

 レムナントは新たな敵が現れたと判断するや否や、直ぐに身を翻し距離を置く。

 赤く光る瞳の視線の先に、ひとりの美青年が立っていた。


「騒ぎを聞きつけてみれば……何故、街中にモンスターが?」


 私の窮地を救ってくれたのは館林俊たてばやししゅんだった。


「ありがとうございます。お陰で助かりました」

「気にしないで、ほのりんには借りが多いから、少しづつ返さないと」


 アイドルなだけあって、その甘い微笑みは、私の胸が高鳴るのが分かる。

 だけど、今はそんな私の気持を押し殺す。

 目の前の脅威を対象しなくてはならない。


 レムナントの周囲に幾何学模様の魔法陣が複数展開され、小さな火球が複数発生し、私達を狙って放たれる。

 私と奈々子ちゃんは、まじかる☆シールドを展開し、防御に成功する。

 萬田さんは、館林さんが生み出した氷の壁で守られて無事だった。


「なるほど、中級火炎魔法を使い、あの身体能力……なら! 凍てつけ!【アイスクロニクル】!!」


 空気がひんやり冷たくなると、レムナントの体の表面が白い物が付着する。

 その白い物は氷の結晶で、それに囚われた者の自由を阻害する事ができ、素早い動きのレムナントには効果的だった。

 鈍くなったレムナントに対して、萬田さんは【ラリアット】を決めると、モロに受けたレムナントは空中で一回転する。


 このまま攻撃を加えればレムナントを倒す事が出来るだろう。

 しかし、元人間のレムナントをこのまま殺して良いのだろうか? いや、可能性があるなら、まじかる☆スキルで倒す必要がある。


「萬田さん、館林さん、あのレムナントは元人間です。一か八か元に戻せるか試してみます」

「それは本当かい? それなら君達に任せた

よ」

「ほのりん、ななちゃん、任せたわ♡」


 私は奈々子ちゃんの横に降り立つ。


「一緒にやろう」

「はい! 全力で行きましょう!」


 弱々しく立ち上がるレムナントは、私達を睨むと、それでも引く事もせず私達に向かって走り出す。


 狙うは魔石。

 モンスター化したのなら、そこが弱点な筈。

 私と奈々子ちゃんの力を合わせれば、レムナントになった人を助けられるかもしれない。


「「まじかる☆アタッチメント! アメイジングコスモ!!」」


 綺麗な宝石を取り出す。

 その小さな宝石の中には銀河が閉じ込められており、虹色の力強い光を放っている。

 私はオタマトーンの口に入れ、奈々子ちゃんのアメイジングコスモはマラカスに吸い込まれていった。


『オタマトーンの形状が変化します』


 オタマトーンの形状が変わり、星を散りばめたような美しい弓が現れる。

 弦を引くと光輝く矢が現れ、鏃に虹色の光が収束する。


 奈々子ちゃんの2つのマラカスは形を変え、カラビーナに似たライフルの形状に変える。


「「銀河まで届け!」」


 2人の力を合わせ、今、解き放つ。


「「アストラル☆シューティング……スターーー!!」」


 私の矢と奈々子ちゃんの弾丸が、レムナントの胸を魔石諸共貫く。

 魔石は歪な力を噴き出し、力を維持できずに砕け、自壊していく。


「グオオオオオオ!!」


 レムナントの叫び声は、破壊された街に響き渡り、白い光が街の全てを包み込む。


 大地を揺らし、大気が震える。


 すっかり日が落ちた沼津に、光の柱が天高く伸び、厚い雲を吹き飛ばす。

 私達は眩い閃光の中、レムナントから目を離さず結果を見守る。

 レムナントの肉体は、硝子のように音を立てながら砕け散ると、ひとりの男性の姿に戻る。

 息はしており、生きている事は確認出来た。

 右手は肘下から切断されているけど、私の魔法で再生可能だ。


 一か八かの賭けだったけど、彼を救う事ができ、安堵の息が溢れる。


 ふと、ルル様がビルの上を見上げている。

 何か見つけたのだろうか?


「……」

「ルル様どうしたの?」

「いや、モンスターの気配がしたよう気がしたが、気のせいだったようだ」


 不二木と先程のモンスター化したハンターに、類似点はいくつも有った。裏に神峰が関わっているのだろうか? 謎が謎を呼ぶばかりである。



 ▽



「魔法少女が2人? 興味深いですね」


 ビルの屋上からレムナントを観察している者が存在した。

 その姿は美しい女性の姿をしており、血のように赤い瞳に2本の角、そして、黒い翼を持ったモンスターだった。

 名前はリリス。神峰奏司が召喚したモンスターだった。

 魔道具のテストを行う為に、実験用のハンターをレムナント化させ街の中に解き放ったのだ。

 実験は成功、レムナント化したハンターは十分な戦闘力を持ち、生半可なハンターでは太刀打ちできない事を確認した。

 しかし、ここで思いもよらぬ事態が発生した。そう、魔法少女が現れたのだ、それも2人。

 以前ネットで見たよりも、数段階も強くなった魔法少女に興味を唆られ、レムナントのデータ収集と同時に魔法少女のデータも集める事にした。

 結果、レムナントを無力化する力を持つ事が分かった。

 さらに、新たな魔法少女も見た目は違えど、同じ強さを持っている事も分かった。


 リリスは舌舐めずりする。


 体に駆け巡るビリビリとし快感は、どんな皆楽よりも気持ちが良かった。

 あの神峰を相手にしている以上に、だ。


 欲しい、あの魔法少女が欲しい。

 できれば2人の魔法少女が欲しいが、ナヴァラトナを生み出すには、最低ひとりの魔法少女さえ残っていれば良いので、あの御方の逆鱗に触れる事は無いと判断する。


 どうやって捕らえようか思考を巡らせていると、魔法少女にいつも付き纏っている者に気取られてしまった。


「おっと、私としたことが……興奮し過ぎて少々濡れてしまいましたね」


 ビルからビルへと飛び移り、夜の空に消えていくリリス。


「十条穂華。近々会える事を楽しみにしています」


 ボソリと呟いた言葉は、サイレンの音にかき消され、リリスの姿は沼津の夜空に消えていった。


 

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