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性転換薬

記念すべき100話が萬田さんのお話回でした。

「少しお暇を貰ってよろしいかしら?」


 萬田さんが中村さんに、お暇を貰う為に会っていた。

 萬田さんも6層のボスをソロで攻略は済ませており、金のメダルも取得済みなので、拒否する理由はない。

 お暇の理由は友人に会う為で、近くに友人が来ているそうで、それなら短時間で行って帰って来れる余裕すらある。


「ねぇ、折角だからほのりんもその人に会ってみない? 私からあの薬を渡すよりほのりんから渡した方が良いと思うの♡」

「わ、私がですか?」

「そうそう、私が手に入れた薬じゃないし、ほのりんを紹介したいし♡」


 薬を渡すのが目的なのか、私を紹介するのが目的なのか……たぶん、どちらもかな。


 折角だし、一緒に行っても良いかもしれない。沼津なら漁港だし美味しい海鮮料理も食べてみたい。


「萬田よ。ななちゃんも連れて行くのだ」

「勿論よ♡」


 萬田さんの友人に会う為に、私と奈々子ちゃんとルル様も行く事になりそう。

 まぁ、車で1時間くらいで行けるかな? まじかる☆ゲートを使えば、修善寺ダンジョンまで直ぐに帰れるので問題無さそうだしね。

 

「ななちゃーん♡」

「はい、何でしょうか?」

「これから沼津に行かない?」

「今からですか?」

「うん。私の友人が今日、沼津で仕事してるのよ♡今から彼に連絡するから直ぐに行きましょ♡」


 萬田さんスマホを操作し終えると、沼津方面に歩きだす。


 ちょっと待って、そっち山なんですけど。


 道無き道を歩き出した萬田さんに待ったをかける。


「萬田さん、車で行くんですよね?」

「え? 何言ってるのよ、私達なら走った方が速いでしょ? あの山を越えるわよー♡」


 この人本気? と思ったけど、萬田さんの無茶苦茶っぷりはモンスターと戦っている姿を見ていて分かっている。この人は常識外れだと。


 私と奈々子ちゃんは渋々、萬田さんの後ろをついていく事にした。


 ルル様は私にしがみつくと、萬田さんの速度に合わせるように走り出す。

 山といっても一部、比較的手が加えられている場所があり、木と木の間に丁度良い隙間がある。

 これらは間伐しており、森林環境を整えているのが見て分かった。

 他にもゴルフ場もいくつかあり、その近くを横切って走り抜けていく。

 夕暮れ時の時間もあってか、夕焼けが綺麗でついつい見惚れてしまうけど、木の枝や道路に走っている車に注意しなくてはならない。


 10分程走り、山の頂上を越えた先に人工物が沢山見えてくる。


「あ、港が見えてきましたよ」

「本当だ! 初めて沼津に来たよ」


 山から見下ろす沼津は夕焼けに染まり、街の光が徐々に灯っていく。


 さて、山を下って行こうとすると、萬田さんのスマホから電子音が鳴る。


「彼からメールが来たわ。沼津駅近くのホテルに泊まっているみたい。今からそこへ向かいましょ♡」

「わかりました。ところで、私達はどこで変身を解けば良いです?」

「時間が勿体ないし、そのままで良いわよ♡3人の魔法少女が現れたら、きっと驚くわよ〜♡」


 そうだった。萬田さんも魔法少女まんまんって呼ばれているんだった……。

 それは兎も角、魔法少女の状態で沼津入りすると、色々と問題がありそうだけど大丈夫なのだろうか?


 仕方無しにと萬田さんの後をついて行く。

 山を下れば、直ぐそこは民家が広がり交通量も多い。

 ある程度速度を落として安全に走り抜けていくと、私達を見た通行人はギョッとした表情でこちらを見ていた。


「こんなに沢山の人に見られると、恥ずかしくて死にそうですね」

「うんうん。わかる〜」


 冗談ではなく本当に分かる。私の場合はダンジョンにコスプレで潜っている物好きな人から、巷で話題の魔法少女になり、今では知らない人がいないんじゃないかってくらい知名度がある。

 合同合宿で、渋谷ダンジョンと渋谷ダンジョンセンターの往復でも出待ちされるくらいになった。

 最初は恥ずかしいのと怖いので辛かったけど、今は少しだけ慣れた。

 今後、奈々子ちゃんは魔法少女ななちゃんとして認知され、私同様恥ずかしい思いをするだろう。

 トラウマを克服し、力を手に入れた代償にしてはデメリットが多いかもしれないけどね。


 通行人にスマホを向けられても、我関せずを意識し萬田さんの後をついて行くと、高そうなビジネスホテルの前にやって来た。

 どうやらここが目的地らしい。


 ビジネスホテルの中に入ると、受付の前にひとりの男性が待っていた。この人が例の彼なのだろうか?


「お待ちしておりました。お部屋にご案内します」


 私達は彼の案内でひとつの部屋を案内された。


「私です、お客様がお見えになりました」

「どうぞ入って」


 部屋の奥から声が聞こえる。案内してくれた人が目的の人ではなかった。

 ホテルの一室に入ると、美青年が出迎えてくれた。


「やぁ萬田さん。お久しぶりです。急に連絡が来たので驚きましたよ。そして後ろにいる、魔法少女ほのりんさんもお久しぶりですね。いつぞやは助けて下さり、ありがとうございした」


 美青年が深く頭を下げる。


 私はこの人を知っていた。渋谷ダンジョンセンターでも見かけた事もあるし、テレビでも見た事がある。そして2ヶ月前にはアンデッドが蔓延るダンジョンで助けた時だってある。

 まさか彼……、イケメンアイドル兼ハンターの館林俊たてばやししゅんが、萬田さんの友人で性転換薬が必要な人だったなんて信じられない。


「いえ、あの時はたまたま通りかかっただけですので」

「そんな謙遜を。仲間も失わず本当に感謝しているんです。今では魔法少女ほのりんに助けられたってだけで、仕事が舞い込んで来るくらいです」


 その番組見ましたよ……。

 私の下手なセリフが地上波に流れた事も知ってます。本当にアレは恥ずかしかった。


「ところで、そちらのゴスロリの娘はどちら様で?」


 あ、奈々子ちゃんを紹介するのを忘れてた。


 私が奈々子ちゃんを紹介しようとすると、突如、奈々子ちゃんのスイッチが入る。


「紅い月夜に降り立つ小悪魔系魔法少女、まじかる♡ガールななちゃん! 悪い子は怖い魔法でお仕置きよ♡」


 背後に紅い月が現れ小さいコウモリが飛び出し、キラキラと空気が光ると、狭い部屋がエフェクトで覆い尽くされ何が何だか分からなくなる。


 自己紹介も自動で発動するのよね。きっと寝ていても、勝手に自己紹介するかもしれない……。


「……魔法少女って他にも居たんですね、知りませんでした」


 今朝、魔法少女になったばかりの成り立てホヤホヤだもんね。今は仲間内しか知らないので、部外者では館林俊さんが初めてだ。


 奈々子ちゃんは顔を真っ赤にさせると私の背後に隠れてしまった。

 普段のクールビューティーとは全く様変わりした奈々子ちゃんに、私の嗜虐心が疼く。


「ところで、萬田さん。重要な話があるとのことですが、どういったご用件で?」

「うふふ♡私と俊が探し求めていた物をとうとう見つけたのよ♡」

「……え? まさか?」


 萬田さんは、ごそごそと股間を弄ると、私が渡した性転換薬が入った瓶を取り出した。


 この人、何処から取り出してるのよ……。

 しかも大事な物を人にあげるのに。


 平然とスカートの下から取り出した性転換薬の瓶を受け取ると、まじまじと中身を見つめる。

 私は館林俊さんがアイドルグループにいる頃からファンだった。

 ある時、彼がハンターを兼業するようになってから、彼を見る事は減ったけど、それでも人気があり、アイドル活動に映画やドラマ、そしてハンター業を熟していた。

 何故ハンターを始めたのかは、一時期テレビやネットでも話題になった。

 金の為だとか話題の為だとか、もっと悪い噂だとモンスターを殺すのが好きだとか……、思い返せば彼を取り巻く環境は決して良くないと言える。

 そんな彼が萬田さんと何処で出会ったかは何となく想像できる。

 そして、彼が信用出来ると判断した萬田さんに、秘密にしていた事を話したのだろう。


「この性転換薬は、魔法少女ほのりんから貰ったのよ」

「本当かい? ほのりん、君には頭が上がらないよ。感謝する」

「早速使ってみる?」

「……いざ求めていた物が目の前にあると、躊躇するね。今まで、こんなにも悩んで苦しんでいたのに、いざ夢が叶うとなると、こんなにも怖くなるなんてね……」


 その言葉で、彼がどれだけの苦悩に悩まされていたかが分かる。

 彼は男性として生きてきて、いままで他の人にカミングアウトせずに生きてきたのだ。性転換薬を使うのも怖いに決まっている。


「今使わなくても、心の決心がついたら使ってみては如何でしょうか?」


 私の背後から顔を覗かせると、奈々子ちゃんが彼に優しく諭す。私もそれには賛成だ。


「ありがとう、ななちゃん。そうだね、よく考えてみるよ」


 性転換薬を大事そうに両手で包み込むと、嬉しそうな悲しそうな、そして不安が入り混じった瞳をしていた。


 そんな館林俊さんと別れを告げ、まじかる☆ゲートを使って修善寺ダンジョンへかえろうとした矢先、駅前で爆発音と共に悲鳴が聞こえてきた。



久々の館林俊の登場でした。

彼にはこんな秘密があったなんて…はたして性転換薬を彼は使うのでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 性転換薬は悪役の男に使ってダンジョンのオークの居る場所に放置されて、ヒギイって言わせて欲しいと思うな…
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