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あ行であいうえお作文

作者: 知美

 赤い糸が自身の小指からどこかに繋がっている。今まで見えたことはない。今、初めて自身の視界に映っている。


(なに、これ……?)


 自分自身に問いかけなくても答えはわかっている。

 運命の赤い糸だ。

 女の子にとってそれは、見えたら嬉しいもの。それが好きな人と繋がっていたらなおさらスゴく嬉しい。それを考えると心が暖かくなる。それだけでふわふわしてくる。今は、放課後で、教室には誰もいない。だから、一人で嬉しそうにしていても、誰にも何も言われない。

 少しの間だけ、自身の小指にある赤い糸を抱き締め、自分の感情を味わうことにした。

 そうして感情を味わっていると、何故だか、一筋涙が零れた。それを拭いながら、理由を自分に問いかけても答えはわからない。


 今ここでそれを考えても仕方がない。私は通学用のカバンを持って、教室を出て、自転車置き場に行く。自転車に乗り、赤い糸の先にいる人を確かめることにした。

 帰り道の途中から違う方向に糸が伸びている。辺りは段々と夕暮れになってきていた。


 上を向けば空が赤くなってきている。太陽が地平線へと沈んでいく証拠だ。

 糸の先にいる人を確かめることに迷っている時間はない。


(きっと、今しか見えない気がする……)


 だから、私は意を決して糸が伸びている方向へと自転車をこぎだす。しばらく自転車に乗り糸の先を辿っていると、幼い頃に一度だけ来た事のある土手にたどり着いた。


(ここ……)


 おばあちゃんと散歩しながら来たことがある場所だ。その時の事はあまり覚えていないが、おばあちゃんと来たことは覚えていた。

 自身の小指から伸びる赤い糸を辿るとその先に若い男の人がいた。それを見て、私は内心落ち込んだ。


(……やっぱり、違った、か……)


 好きな先輩と繋がっていたら、街中に向かっているハズだ、先輩はこの街を離れ、東京に居るのだから。

 私が若い男性を見ながら、ボーっとそんなことを考えていると、その人はこちらに気が付いたようで、ゆっくりと歩いてくる。近づいてくるその男性は私に向かって微笑んでいる。その


 笑顔は何故だか悲しそうな感じがした。


「君と繋がっていたんだね、コレ」


 そう言いながら、小指を見せてくる。その小指にある赤い糸は確かに私の小指に繋がっている。


「はい……」

「ボクとで……、ゴメンね……」


 謝罪の言葉を聞いて、ハッとした。そして、赤い糸を見て感情を感じてるときに涙が一筋零れた理由がわかった。


(この人も……私と……)


 その先の言葉は心の中でも言えなかった。だって、そんな簡単な言葉でくくりたくなったから。


「ボクもそうなんだ……、でもさっき、感じたんだよ、君の気持ちが……」


 その言葉を聞いて、頬が赤く染まるのを感じた。


「可愛い……」


 そう言って、その男性に抱き締められた。初めて男性に抱き締められ、私はより身体が暑くなる。そして、なぜだが【愛おしい】という感情が流れ込んできた。その事に驚いて顔をあげると、その男性が自身の小指にある赤い糸に口付けていた。それを見てより頬が赤く染まる。そして、その男性は私にこう言った。


「これからヨロシクね」


 その言葉に素直に頷いていた私がいた。

 すると、突然、赤い糸が見えなくなった。その事に驚いていると、その男性がこう呟いた。


「同じだ……、あの時と……」

「同じ?」


 私の言葉に男性が頷く。


「君は知らなくて良いよ。また見えるときが来るから。その時に教えてあげる」


 そう言って、その男性は私に向かって微笑んできた。その笑顔は先程と違い、嬉しそうだった。


お読みいただきありがとうございました。

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