●飛び込む男
平日の朝、いつものように駅のホームは溢れんばかりの人でごった返していた。メロディーと共に電車が来ると、アナウンスが流れる。
最前列に立っていた男は、周りから見ても異様なほど大きく呼吸を繰り返し、目の焦点が定まっていなかった。口元はずっと小さく動いており、ぶつぶつと何かを喋っている。耳を澄ませてみると、早く死にたいと早口でずっと繰り返していた。隣に立っていた男性が声をかけようとした時、ちょうど電車が入ってくる。
電車が見えた瞬間、男は勢いよくホームから飛び出した。響めきと小さな悲鳴が聞こえたが、男はそんなことなど、どうでもよかった。レールに頭を打ちつける。ぐわんぐわん揺れる脳みそのどこか遠くで、警笛が聞こえる。
早く死にたい早く死にたい早く死にたい早く死にたい早く死にたい早く早く早く早く早くはやくはやくはやくハヤク!!!!
スローモーションのように目の前に車輪が迫ってくる。男が最期に聞いたのは、ボチュリという水分を含んだ肉を巻き込んで割れる骨の音だった。
駅の朝は早い。まだ辺りは暗く、4時台だというのに始発を待つ人々がちらほらとホームに立っている。その中に、柱にへばりついて座っている男がいた。コアラのように両手両足でがっちりと柱にしがみ付き、表情はガチガチに強張っている。どう見ても異様な光景なのだが、誰一人として男に見向きもしなかった。
「……来ないでくれ……」
男の呟きと共に、メロディーとアナウンスが入る。メロディーが流れた途端、男はひいっ!!と肩を大きく振るわせてガタガタと震え始めた。頬の形が変わるくらい柱をキツくキツく抱きしめる。
「……やめてくれ……頼む……来ないでくれ……」
電車が近づいてくる振動が尻から伝わってくる。バラバラに立っていた人がドアの目印のところへ集まり始めた。
「頼む……!来ないでくれ!誰か……助けて!!俺を止めてくれええええ!!」
電車が見えた途端、男の意思とは関係なく手足は柱から離れる。体は軽やかに線路に向かって走り始め、バレリーナが踊るように線路へ飛び込んだ。直後、電車がホームに入ってくる。だが、他の人々は特に気にすることもなく、目的地へ向かうため電車へ乗り込んでいった。
「……はぁっ!!!はあ……う……ぁ……」
男が目を開けると先程飛び込んだはずなのに、何事もなかったかのようにホームに立っていた。
「もう嫌だ……死にたくない……誰か、俺を、俺を止めてくれ!!!」
その声に反応するものは誰もいない。あの日から2週間以上、男は電車が来るたびに飛び込み続けていた。ここから逃げようとホームの階段を登っても、他のホームへと線路を横断してみても、到着する寸前に同じホームに瞬時に戻され呆然と立っている。逃げることも飛び込むのを止めることもできず、この2週間で男は憔悴しきっていた。
太陽は東に昇り、ホームにも徐々に人が増え、それに合わせ電車の到着時刻も狭まる。男は叫び声を上げながら、からくり人形のように飛び込んではホームに戻りを、休むこともできず延々と繰り返していた。
声を荒らげても誰も気づかない、見向きもしてくれない。前後左右、人だらけなのにすり抜けて触れない。男は頭がおかしくなりそうだった。
「誰か!!誰か助けてくれええええええ!!!!!!」
「はっはっは!!良い叫びですなあ」
「……っ!?」
そうして本日44回目の飛び込みをした時、そんな男に声をかける者が現れた。中折れハットにストール、スリーピースでビシッと決めた高級そうなスーツにコート、無精髭を蓄えた中年の男が感心したようにこちらを見ている。
「あ、あんた……!俺が見えるのか……!?」
「尾崎……たくまさんで合ってらっしゃいます?」
中年の男は、その質問には答えずに書類をペラペラと見ながら質問で返してくる。
「合ってるが、お前は誰なんだ……!お、俺の言葉が聞こえるのか……!?っああああ」
喋っている途中で電車が来きたので体がぐんと線路の方へ走り出す。
「はははは!いやはや大変ですなあ。こうもしょっちゅう電車が来ちゃあ話も出来ませんな」
「わ、笑ってないで助けてくれ!!もう2週間以上この状態なんだ!」
「まだ2週間しか経ってないのに?」
「はあ!?“もう”2週間だぞ……!どうしてこんな……というかお前は誰なんだ!どうして俺の名前を知っている!?」
「お兄さん落ち着いて下さいよ。私は……そうですねえ、案内人ですよ。あの世までの案内人。一応サイトウと名乗っておりま…………ふふふ、あなた忙しいですなあ」
話している間に電車が到着し、尾崎は叫び声を上げてサイトウの目の前から消えてはまた現れる。
「……うう……あ、案内人!?お前死神なのか!?」
「そんなわけないじゃないですか。所属を問われれば仏ですよ仏」
「ほと、ほとけ……!?そんなどこかの組長みたいな風貌で!?」
「んも〜よく見て下さいよほら、私の頭から肩あたり。後光がうっすら見えません?」
そう言われて目を凝らしてよく見れば、確かに丸く光っている気がする。
「……っ、とりあえずお前の言うこと信じてやるから!このループを止めてくれないか!……ああクソ電車がっ!……来ないでくれえええ!」
「…………ふむ、カップラーメンでも作りましょうかねえ。朝からカレーヌードル、最高ですよ」
飛び込んで戻ってきたら、サイトウは湯気の立つヤカンからヌードルにお湯を注いでいるとこだった。
「お前、それいったいどこから出して……じゃない、何やってんだよいきなり!」
「いやあ、あなたが3分毎に飛び込んでくれるおかげで時間数えなくていいから楽だなと思いまして。あなたが次飛んだらピッタリ3分ですわ」
サイトウは鼻歌混じりに優雅な手つきでぴったりと蓋を閉じた。ヤカンはいつの間にか魔法のように消えている。尾崎は会った時から助ける素振りも見せないこの男に段々苛ついてきた。
「……ふっざけんなよ!!お前……俺を助けにきてくれたんじゃないのか!??」
「まあまあ落ち着いて。そんな状態じゃ話も出来ないでしょう?」
「お前のせいで俺はキレてんだよ!!何なんだよ、何しに俺の前に現れたんだ!?笑いに来たのか!??ひっ……嫌だ!来る……!!」
「あーらら」
アナウンスが入り電車の姿が見える。尾崎は線路に向かって勢いよく飛び出した。
「……うううもう嫌だ。……なんでこんな目に……俺が何したっていうんだ」
ホームに戻ってきて直ぐ地面にへたり込む。項垂れた頭の下からズズッと鼻を啜る音が聞こえた。そんな愚図っている男を面倒臭そうに見下ろしながら、サイトウはズズッと勢いよくラーメンを啜っている。
「モゴ……っなんでこんな目にって言いますけどねえッ……あなたが……フーフーッ、望んだことでしょうに」
「は…………?俺が、望んだ…………?」
麺を啜る一口がこの上なくでかい。すぐ食べ終えたかと思うと、喋りながら汁を飲み干し始めた。
「おや、自分の望みだったのに、ッ……プハァ……もうお忘れですか?ふう、ご馳走様でした」
「俺はこんなこと望んだ覚えはない!!何言ってんだよ……こんな地獄みたいな仕打ち望む訳ないじゃないか……」
「あなたねえ……今あなたは自分自身で願いを……ああまた電車が来ますね。うーん、この時間帯じゃあ、おちおち話もしてられないので落ち着いたらまた来ますわ。では後ほど」
サイトウは笑顔で言うと背を向け、片手をひらひらと振りながら去ろうとする。
「ちょっと待ってくれ!!一体どういう……待ってくれ!行かないでくれ頼む!!助けてくれえ!!」
尾崎の叫び声も虚しく、サイトウは人混みの中に消えてしまった。視界に電車が入ると尾崎の足はまた軽やかに駆け出した。
「いやあ尾崎さんどうもです〜。進歩ありましたかねえ?」
「……!!……これが進歩したように見えるかよ!?」
昼も過ぎた頃、サイトウはたこ焼きを頬張りながら現れた。
「毎回同じ飛び込み方だと飽きません?たまには水泳選手のように飛び込んでみては?……ああ!死んだ時と同じ行動しか出来ないんでしたな!はははこりゃ失敬失敬」
「この野郎……まあいい、あれからお前に言われてたことをずっと考えてた。この状況を俺が望んだというのはどう言う意味なんだ」
「あちち……たこ焼きの中身ってなんでこんな熱いんでしょうねぇ。……そのままの意味ですよ。あなた電車に飛び込む時何考えてました?」
たこ焼きを口にポイと入れてはハフハフと息を吐きながらサイトウは喋る。尾崎の方など見もしない。
「…………早く死にたい、と思って……」
「それですよ、それ。自死を選ぶ人は、直前に死にたいと強く願う割合が高いんですよ。……そしてその想いを叶えるため、囚われてしまう」
「……つまり、どういう……」
「あなたは死ぬ時に“死にたい”と強く願った。簡単な話です、その願いを今ずっと叶え続けているんですよ。体が無くなった今では、何度も死ぬことができるでしょう?」
「なんだよそれ、おかしいだろ……死んだら終わりだと思うじゃないか、こんな状態になるなんて……」
「むしろなぜ死んだら終わりだと思ってたんですか?まあ確かに体の方は終わりますけど」
サイトウはたこ焼きを食べ終わるとプシュッとハイボールの缶を開け、喉を大きく鳴らして胃の中へ流し込んでいく。
「……おっと電車が来ますね。流石に1、2分遅くなったくらいじゃ長い話はできませんなぁ!んじゃあまた夜に」
「……俺は……死にたいと言う願いを……叶え続けて……」
絶望する尾崎をよそに、サイトウはまたどこかへ消えていった。
時計の針はとっくに日付を跨ぎ、ホームには沢山の人が電車を待っていた。
「やっと次が終電だ……これで今日は終わる……」
「いや〜流石都心!終電前でもこの人の量!!凄いですなあ」
「……!!お前、いつ戻ってくるのかと……」
「おや私がいなくて寂しかったですか?ははは」
カップ酒にイカゲソを齧りながら現れた男に、そういう意味で言ったんじゃねえよと返す。ちょうど電車が来るとアナウンスが入り、ゲソをギチギチと噛んでいた男はおっ!と楽しそうな声を出した。
「最後なんですから、気持ちいい飛びっぷり見せてくださいよ尾崎さぁん」
「うるさいよ!!こっちは苦しんでるってのに楽しみやがって!……クソ!」
そう言いながらも尾崎は死んでから初めて、自分の意思でホームを蹴った。あの日から誰にも気付かれず、電車に向かって飛び続けることがどんなに辛かったか。尾崎は相手がどんな奴であろうとも、こうして自分の存在に気づいて話しかけられたのが嬉しかったのだ。
ホームに居た大量の人々を乗せ最終電車は走り出す。サイトウはブラボー!!と大きく拍手した。
「はっはっは!!良かった!格好良かったですよ今の!」
「はは……複雑な気分だけど、なんかスッキリしました……」
ホームには電車に乗れなかった人や駅員が疎らに残っているだけになり、じきにこのホームにもしばしの静寂が訪れるだろう。
これでじっくり話が出来ますなぁ、とサイトウはドカッと地面に腰を下ろすのを見て尾崎もゆっくりと座った。
「さてと、尾崎さん。あなたも1杯どうです?チータラも貝柱もありますよ」
「……俺がなんで死んだのかとか、理由、聞かないんですか。というか……相変わらず凄いですねそれ。魔法ですか」
サイトウは懐からカップ酒を2本取り出し、1つを投げて寄越してきた。そして興味なさそうにどこからか書類を出してきてヒラヒラと振って見せ、笑う。
「いやあ〜聞かなくてもこれに書いてあるんですよねえ。あなたの心情までは詳しく書いてないので聞きましょうか?」
「……いや、それならいい。……今思えばどうしてこんな下らないことで死んでしまったのか」
「本当ですよ勿体ない。こーんなつまらないことで肉の器を捨ててしまうなんて!」
「……そんな言い方……!いいや、そう、だな。…………その……父や母が、俺が死んだ時どう思ったかとか分かったりするか……?」
尾崎はカップの蓋をカポと外しながら質問した。
「すぐ分かりますよ。両親は泣き崩れてましたね。なんで、どうしてと。ただ、まだ先ですが後日、鉄道会社から賠償請求が来て唖然とする姿が見えます」
「…………」
「お兄さんも悔やんでましたよ。話を聞いてやればよかったって。あとは高校時代のご友人とか。今はもう連絡すらしていない方ですが、喪中葉書を見て心痛めるお姿が。……立つ鳥跡を濁しまくりですなあ!」
サイトウは膝を叩いて笑う。書類をチラリとみてああそれと、と付け足す。
「……別の部署の女性があなたに好意を持っていたようですねえ。顔や態度には出しませんが大分落ち込んでます」
「……え!??職場で……!?俺職場じゃかなりダメ人間扱いで……ブラックだったし……」
「あらあ勿体ない。追い詰められて余裕の無い時こそ周りに目を向けてみるべきでしたね」
「そんなこと言われても!……それができてたら俺は電車に飛び込んでない……!」
「ははは、そうでしょうな。それでは聞きますが……こうなることが解っていたらあなたはそれでも飛び込みましたか?」
サイトウが3本目のカップ酒を開けながら問うてくる。
「!!わ、解ってたら死ぬわけないじゃないか!……こんなことになるなら生きている方がマシだった……!」
それを聞いてサイトウは一層大きな声で笑った。暫くひいひいと肩で息をし、ふうと長く息を吐くと先程と打って変わって落ち着いた声で言う。
「……あなたと同じような状況の方にね、その質問をすると皆口々にそう言うんですよ。面白いくらい全く同じ言葉を吐く。死にたいと望み肉体を捨て、何度も死に続けられる状態になったというのに、私が会いにいくと二言目には皆もう死にたくない止めてくれと言うんです」
「……そ、それは……」
「本当に不思議だ。自身の願いを叶え続けているのに皆絶望した顔をしている。ぜーんぜん嬉しそうじゃない……ああ、あなたもどうぞ貝柱。これ美味いんですよ」
「……すみません」
耳が痛い。居た堪れなくなってとりあえず謝ったが、どうしてあなたが謝るんです?と笑いながら返された。話を聞いていると同じような状況の人間が他にもいるようで、尾崎はなんとも言えない気持ちになった。憂鬱な気持ちと比例して目線がどんどん地面へ下がっていく。そんな目線の先にドンッとハイボールや缶ビールやらおつまみが大量に置かれる。
「さあさあ!湿っぽいのはこれくらいにして折角だから飲みましょうや!体が無いので酔えはしませんが気分は高揚しますよ。さあ乾杯!」
「……そう、ですね。有難うございます」
サイトウは高らかに笑いながら4本目を開けて目の前に掲げてくる。尾崎は戸惑いつつも乾杯と小さく言うと、持っていた酒をそれに軽く当てた。
「うううう〜俺ァ馬鹿だった……!!死ぬんじゃなかったちくしょうめ……。今思えばまじで些細な事じゃないか、職場で上手くいかないとかさあ……そうだよ、命じゃなくて仕事辞めれば良かったじゃねえか!俺の馬鹿野郎!!」
「ほうほう、それで?」
気づけば空気は澄んで、薄明かりの中始発を待つ人がホームに佇んでいる。少しするとアナウンスが流れ、数十秒後にホームに電車が入ってきた。尾崎は入ってきた電車を眺めながらサイトウに愚痴る。
「あーあー電車が来ちまったよ……今日もまた飛び込む一日が始ま…………あ……?」
「おやいつのまにかこんな時間でしたか」
「あれ!??なんで!?俺……え……!??」
飛び込まなかった自分自身に驚いて尾崎は立ち上がって体を確認する。その間に始発の電車はホームを出て小さくなっていった。その慌てようをみてサイトウはにやりと笑う。
「何をそんなに驚いているんです。昨日の終電の時に最後って言ったでしょう?もう忘れたんですか」
「さ、最後ってそういう意味だったのか!?でも、どうやって……」
「なぁに我々には簡単なことでしてねえ、ちょちょいっと切るだけなんですよ」
「……はあ……」
サイトウは指をハサミの形にして何かを切る仕草をするが、尾崎にはよくわからなかった。ふと周りを見てみるといつの間にか大量にあった酒のつまみや酒缶など、最初から何も無かったかのように綺麗さっぱり消え去っている。状況についていけず狼狽えていると、サイトウがおっさん臭い掛け声を出しながら立ち上がり、こちらを向いた。
「んじゃ、尾崎さんそろそろ行きましょうか」
「行くって、どこへ……?」
「あの世ですよあの世。まだここにいて電車と戯れたいんですか?」
「いいいいきます!行きたいです!あの世!!」
サイトウは愉快そうに笑い、内緒話をするように近づいていた。
「一つ、良いことを教えてあげましょう」
「な、なんですか……?」
「あなたの元へ我々が訪れるのは、本当は37年後だったんですよ」
「……なっ!?……37年……!??」
あまりの長さに尾崎はゾッとする。これが本当なら、2週間どころか37年間延々と飛び込み続けていたという事実に血の気が引いた。
「願いを叶え続けているところを我々がやってきて、勝手に中断させるのは可哀想でしょう?なので繰り返している人々がその幸せを長く謳歌できるように、後回しにしているんです。ただ、年々その対象者が増えておりましてなあ、訪問日がどんどん延びていく」
現代の人間は思い詰める方が多いようで、なんて言いながらやれやれとため息をつく。
「……どうして俺はたった2週間で助けて貰えたんですか」
「ははは!たまたまですよ、たまたま。私が訪ねる予定だった方が自らループを脱し、彼岸へ向かってくれたようなので時間が余りましてね。次の予定地へ前倒しで進んでも良かったんですが、まあ……それがここから遠方なので」
どうしようかと思ってたところで、元気な叫び声をあげて飛び込んでいるあなたの姿が視界に入ったんですよねえ、と豪快に笑う。
「さあ、行きますよ尾崎さん。このことはしっかり胸に刻みつけといて下さいよ。転生して同じことを繰り返さないためにもねえ」
高層ビルのてっぺんの縁に片膝を立てて座っているサイトウは、彼方まで伸びるビル群を眺めていた。
────もういやだ……!
────もう死にたくない、お願い止まって……ああ落ちる……
────俺はいつまで首を括り続けるんだよ、誰か、誰でもいいから気づいてくれ
────いやだ、
────もう嫌だ
────気づいてくれ、誰でもいい。誰でもいいから、
────お願いします
────俺を
────私を
────僕を
────止めてくれ!!!!!!!
「ん〜ふっふ、賑やかですな」
風に乗って様々な場所から届いてくるそれは、まるで音楽のようだ。サイトウは書類を軽く確認し、立ち上がって帽子を被り直した。ポケットに両手を突っ込み空の方へ一歩踏み出す。
「さあて、次の方に会いに行きましょうか」
東京は今日も、慌ただしい一日が始まったばかりだ。




