7.明日は土曜日(後)
少し前に雷が鳴り飛菜子が怯えてしまったため、飛菜子の家に泊まることになった。
別にやましいことを考えているわけではない。そもそも、傷心中の男がそんなことを考えることがおかしい…誰に言い訳してるんだ俺は。
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風呂から出ると雷はもう鳴っていないことに気が付いた。泊まる必要が無くなったんじゃないか…
「しばらく、雷鳴ってないな」
「まぁ、結構時間経ってるしね」
「泊まる必要あるか?」
「無くなりはしたかな?でも、今日はこの家に泊まってよ。寂しいし…」
「…分かった」
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「俺はどこで寝たらいい?」
「…そうだね。考えてなかった。」
「じゃあ、ソファーか?」
「客人用の布団があったはずだよ。それを使おう」
「どこにあるの?」
「そこの押し入れに入ってるはず」
「重そうだから俺が出すよ
「雨田、…」
「どうした?」
「…何でもない(『私の部屋で一緒に寝ようなんて言えない』何を考えてるんだ私)」
「…やっぱし俺帰ろうか?飛菜子が緊張してるみたいだし」
「いや、緊張はしてない。考え事をしてただけだよ」
「そうか…、これでいいんだよな」
「うん、それであってる」
「俺はどこで寝ればいい?」
「どこで寝たい?」
「希望はないぞ」
「じゃあ、私の部屋は?」
「別に…?はぁ?!」
「何驚いてるの?まさか一緒に寝ると思ってるの?」
「別にそんなことは考えてない。予想外のことを言われたから驚いただけだ。」
「ほんとに~」
「あぁ、」
「じゃあ、それ運んで」
「…分かった」
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「ねぇ、雨田は眠くないの?」
「生憎いつもとは違うところですぐに寝付けないんだ、それに寝る前に本を読むのは習慣だ。」
「それじゃあ、私も読もう」
そういって鞄の中から小説を出し寝ながら読み始めた…が、次第に睡魔に襲われついには寝てしまった。本を上にして読んでいたから顔の上に本がかかっている。
そのままだと本の形が変わるため飛菜子の顔から本を取り除く。
さっきまで雷に怖がっていたのが嘘みたいに安心したような顔をして寝ているな。
俺ももう少し小説を読んで寝よう…
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人はなぜいつも人の顔を評価して生きているのだろうか?野生に生きているころから人の顔を評価していたんだろうか?人の生活に余裕ができたから評価する文化ができただけで本来生きるために必要なことだろうか?生物は生きるため、子孫を残すために適切な進化をしてきたがこれは該当するのだろうか。
「君は私をカワイイは思はないの?」
雨宮先輩は言う。どういう意味だろう。
「お世辞でいいなら言いますけど?」
「お世辞を言ってほしくて行ったんじゃない!!」
「じゃあ、何なんですか?」
「私に近づいてくる男の人はみんな下心を持っているんだけど、あなたは違う?」
「僕は、下心を持って先輩と接してませんよ。」
「あなたにとって私はかわいくないの?」
「? そもそも僕にはカワイイという評価基準が分からないんですが…」
「え?どういう意味?」
「僕は今まで生きてきてあまり人にカワイイと思ったことがないんです。」
「つまり周りの人に対して今までカワイイと思ったことがないから私を見ても何も思わないと、」
「そういうことです。」
「じゃあ、ゲームをしましょう。」
「ゲーム?」
「えぇ、私があなたにカワイイと思わせれればわたしの勝ち、あなたがカワイイと思わなければあなたの勝ち、どう?」
「それは僕の自己申告だから僕が有利ですけど?」
「そんなのあなたの顔を見ればわかるわ、何年そんな顔見続けたと思っているの?」
「別にいいですけど…その勝負ってメリットあります。」
「理由は…別にいいじゃない」
「分かりました。じゃあ、その勝負を受けてみましょう。」
「言ってなかったけど、期限は私が卒業するまで、それまでこの勝負は続くわ」
「期限長すぎませんか?まぁいいですけど、あきらめなさそうだし。」
「じゃあ、決まりね」
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さっきから読んでいるけど、これはよくある恋愛系の小説だな…大野に勧めてみるか。あいつ恋愛系にはまっているらしいし。
そろそろ寝ようと布団に横になってしばらくした時
「起きてる?」
「…」
急に後ろから飛菜子が声をかけてきた。寂しいのだろうか…
「寝てるのかな?顔があっちを向いてるから分からないな…」
「…」
「最近私雨田といるのがすごく楽しいよ」
「…」
「雷が鳴った時そばにいてくれてありがとう。昔中学でバカにされていた時にわざと教室の鍵を閉められて帰れなかったときに雷が鳴ってね…今でもすごくトラウマなんだ…」
「…」
「いつも仲良くしてくれてありがとう。でも、今雨田を見てるとすごくドキドキする」
何言ってるんだ…
「今まで生きてきて一番好きだよ」
いまなんて言った?
「…飛菜子?」
「スゥースゥー」
寝たのか?飛菜子が言った言葉は何だったんだろう…寝言かな…