37.責任感
~雨田隆一~
あんまり自分自身で意識はしていなかったし、華麗や大野にもおばさんたちにも言われなかったけど、俺の家庭に親が仕事でいないというのは珍しいらしい。本当は誰も言わなかっただけかもしれないけど…
時々、登場人物が学生のうちで一人暮らしをしている理由と俺の一人暮らしの理由は少し似ているものがある。
仕事で家にいることが珍しいためだ。
そのお詫びなのかわからないけど小遣いは周りの子供よりも2桁くらい違っていた。小学生の頃なんかは3桁とか…ある程度の生活費といっても税金などは親がすべて払っているため俺の財布には関係なかった。
昔から寂しければ一人小説を読み漁り寂しさをごまかし、時々おばさんたちが家に連れていくという生活を送っていたため今の生活で親がいないことを寂しいと思わなくなった。それでも時々、遊びには行く仲が続いている。
まぁ、中学時代で遊びに行く理由の大半が華麗目的だったけど…
正直あの頃は自分を華麗が好きだとは思わなかった。ただ、思い出せばそのような節はあったような気もするし、なかったような気もする。だから、そのころの俺はよくある鈍感主人公のような奴だったことだろう。何せ、両想いで一切華麗の気持ちには気がつかなかったのだから…
今となっては俺は華麗を好きだという気持ちがあいまいになり、よくわからなくなってしまっている。
俺が勝手に失恋したと思い込んで勝手に逃げた結果だった。
さて、これはどうやって解決すればいいか俺にはよくわからない。
相談するべき相手は飛菜子が出てきたけどなぜか頭はそれを拒否信号を出している。
理由は不明でよくわかってない。
そもそも、この話は飛菜子も知っているはずなのになぜ頭はそれを拒否している。
こんなくだらない話を飛菜子に聞かせるのが恥ずかしいというだけなのかもしれない。
~都留飛菜子~
林間学校が終わって一日目の休み。
正確には今日は私たちの学校が休日なだけで世間的には平日と変わらない日だった。
だから、今は家には私以外誰もいない。
そしてすることもなくなった。
今日は華麗ちゃんたちとは約束はしてない。疲れを落としてゴールデンウイーク遊ぶためらしい。
だから、買い物に行こうにも雨田を誘えないから行くことができない。
ポストに入っていたチラシが安売りと書いていたため行きたいのだけれど…
「…まぁ、地図もあるから一人で行ってみようか。」
私はそんな危険な一言をつぶやいて一人で家をでた。
ほら、こういうチャレンジをしない限り私は成長しないし…
~雨田隆一~
玄関のチャイムが鳴りだれか確認することなく出てみると井上がいた。
正確には眼鏡をかけた井上がいた。いつもはかけてないのに…
「どうした?」
「都留にあなたの本を借りたままになってたから返しに来ただけ。」
「そういえば一冊だけ足りなかったな。」
「そう。」
「疑問だけどなんでうちの家がわかった?」
目の前にいる井上に今の家を教えた覚えはない。
そもそも、個人情報を探し出すということは井上にはできないはず。
「都留に聞いた。」
「…そういえば、そんな、メールあったな。でもまさか井上自身が来るとは…」
「何?悪い?」
「いや、全然。」
「じゃあ、これ。ありがと。」
「…どうも。…面白かったか?」
「まぁまぁね。」
井上が鞄の中から小説を出して来渡して来た。
それを受け取った時に井上を見て思った。
どこかで会ったことがあると…高校に入ってからではなく中学とか小学校とかの歳の頃に…
「…何?」
「いや、その顔どこかで見た気がしてな。…すまん。人違いだったみたいだ。」
顔を近づけてみても思い出せない。
そもそも、人の顔を細かく覚えていない俺にとっては思い出せるわけもない。
そのためすぐに後ろに退いた。あのままでいれば井上は怒りそうな気配があった。
「…じゃあ、私は帰る。」
「あ、あぁ。じゃあな。」
井上がそういって帰るために振り返った。
その瞬間に隣の家の玄関が開いて中から飛菜子が出て来た。
「都留。」
「飛菜子。」
「…雨田と井上さん?」
飛菜子が少しだけ驚いたように言った。
「この間の本返しに来ただけ。」
そう発言した井上からは誤解を生まないという強い意思を感じた。
「…あー、そういうこと。」
「飛菜子はどこか行くのか?」
「買い物。雨田も行く?」
「…どうせ、家にいても暇だからな。行こうかな。」
「…井上さんも行く?」
「…」
飛菜子は井上も誘った。
「別に買うものがないから遠慮して帰るよ。」
「うん。じゃあね。」
飛菜子が手を振るのを見てから井上が帰った。
飛菜子と井上は仲はいいみたいだけど俺がいなければ一緒に行っていたのかもしれない。
それほど俺は井上に嫌われていると思っている。別に何かをしたという記憶はないが…
「雨田。」
「ん?」
「他の荷物は持たないで行くの?」
「…悪い、準備するからちょっと待ってくれ」
「はーい。」
そして、俺は家の中に戻ってすぐに出かける準備だけして家を出た。
「準備はいいの?」
「いいぞ。」
「じゃあ、行こうか。」
「あ、自転車乗るの?」
「荷物持ち。」
「そういえば必要だね。」
==========
「随分と買い込んだな。」
「きょうはなんでかわからないど結構安めだったんだ。雨田もインスタント結構買ってるね。」
「安かったからな。」
普段買う値段の2割ほどは安かった。
そのため俺たちはいつもよりも多めに買い込んでしまった。
「飛菜子。荷物が多いから飛菜子の荷物を自転車に積むから飛菜子が俺の持って?」
「了解。」
俺と飛菜子は荷物を交換した。
「寄り道せずにまっすぐ帰った方がいいよな?」
「そうだね。生ものとかあるし。」
「じゃあ、帰るか。」
「うん。」
俺たちはそのままどこにも寄り道することなくただまっすぐに家に帰って行った。
「なぁ、飛菜子。」
「どうしたの?」
「井上って俺のこと嫌いだよな?なんでだと思う?」
俺は少しだけ気になることを飛菜子に聞いた。
現状、井上と仲がいいのは飛菜子だけだし…
「んー。雨田に心当たりはないの?」
「ない。そもそも、あれと話したことがあるのは数回だし…」
「そうだよね。」
「飛菜子は知ってるのか?」
「ちょっと聞いちゃったけど口止めされてるから…」
「そうか。」
ということは単に理由がないわけではないはず。
話した記憶があるとすれば…井上姉と話した1回と飛菜子の後ろから追っていた時にストーカー扱いされた一回、林間学校中で数回だけだ。
そもそも、初めて話したときからすでに今のような態度だったため俺にどんな理由があったのか全く心当たりがない。
「やめだ。」
「ん?」
「なんか面倒になったから考えるのをやめることにする。井上のことはまぁ、放っておけば大丈夫だろぅ。」
「なんか責任感なさげだね。」
「そうだな。俺に責任を求めてもとれるものがないからな。」
「どういうこと?」
「責任を取るってことは何かを捨てること。ほとんどが立場だけどそんな物俺にはないからな。」
「…」
「そもそも、初めて会った時からあれだったんだ。それ以上前に井上に会った記憶がないけど顔はどこかで見た気もするけど、もう分からないから放棄するしかない。」
「あると思うけどな。立場。」
「え?どこに?」
「今の雨田にはない立場だよ。」
「ん?」
「もしも、雨田を好きな人に何かしてしまって見返りとして付き合うとか?」
「!?」
「まぁ、私にはそんな雨田を想像もできないけどね。」
「まぁ…な。」
少しだけ華麗のことを思いだして俺は動揺した。
華麗に責任を取って付き合うべきだろうか。
責任を取って付き合うということが出てくる話はたまに読むけどあまりいいとは思えない。
なぜならば、本当に好き同士の人間が付き合うという表現をするのにこれは片方が曖昧な感情でいると思うからだ。
「雨田?」
「…」
~都留飛菜子~
私が変なことを言ったのかもしれない。
だって、私が言った後に雨田の雰囲気が変わったから…
だから、私はそれ以上何も言わずに雨田と別れた。
最初は昼ご飯を一緒に…とでも思っていた。
だけど…だから、私は雨田を傷つけたくない。
私自身当然と思えることを考えていたけど、やはり寂しいとも思ってしまう。
それから、私は一人寂しく一日を過ごした。