31.命令
~都留飛菜子~
「結果は西田の負けか。」
「そうだな西田の負けだ。」
昼飯の前に先生から渡されたご褒美が雨田の予想通りの木で作った記念品だった。
昼ご飯を食べて次の予定に向かうことにした私たちはいつもの四人と西田君と井上さんで次の集合場所に向かっていた。
「なぁ、なんで俺が負けたことになってんの?」
そうだっけ?と私たちは反応した。理由は…
「なぁ、西田。こういうのは勝負を仕掛けた奴が罰ゲームを受けるべきだと思うんだが?」
「…そうだな。」
「その通り。」
「そう思う。」
雨田が堂々と言うとほかの三人も賛同した。
「西田が負けた負けてないの話の前にどっちにしろ西田に命令はするけどな。」
「じゃあ、雨田は俺になんの命令をするんだ?」
「…そうだな。まだ決めれてないな。」
「今決めろよ~」
「何でもでいいなら今決めれるけど?」
「一応聞こうか。」
「『喧嘩するほど仲が悪い奴に告白しろ。』」
「は?」
「もう一度言うか?」
「あぁ。」
「『喧嘩するほど仲が悪い奴に告白しろ。』」
「は?」
「もう一度言う必要あるか?」
「あぁ。」
「…ちょっと待って。何回繰り返すつもり?」
ついさっき始めた会話が全く同じ言葉で三週目を迎えようとしていたためつい突っ込んでしまった。
「西田がちゃんとした返事をするまで。」
「いきなり告白しろと言われれば混乱するだろ。」
「そりゃそっか。」
「それに俺、喧嘩するほど嫌いな奴いないし。」
「え?」
「だから、俺に嫌いな奴はいないんだよ。」
「え?」
「だ・か・ら…」
「お前、この間隣町のモールで喧嘩をしたそうじゃぁないか。」
「…はて、何のことだ?」
「…この間その現場に鉢合わせてしまってな。」
「そうなの?」
「知っててその命令を出すのか。いい性格してるな。」
「まぁな。…お前が仕掛けた勝負で得た権利を使うんだ。拒否は許さないぞ。」
「あいつに告白しろっていう命令なら直接言えよ。」
「ん?」
「『ん?』ってなんだ?」
「よく考えたらわかるぞ。」
「は?」
「分からないか。」
「あぁ。」
「じゃあ、俺はトイレ行ってくるわ。」
雨田はそういってどこかに走ってしまって消えてしまった。
「重要なことを言わずに逃げたなあいつ。」
「そうだけどあれはひどくないか。」
「そうだよ、リューのあれはちょっとひどいと思う。」
私も他人に強制された告白というのはひどいと思ってしまう。
「『喧嘩するほど仲が悪い奴に告白しろ。』としか言ってないけどあれにほかの意味があるのか分からない?」
「うん?」
「そう?」
ここにいる5人の中で井上さんだけが理解していた?
「さっきの言葉『喧嘩するほど仲が悪い奴に告白しろ。』の隠された意味があるなら雨田も雨田の目的があるはずでしょ。」
「ん?」
「でも、肝心の目的が分からない。」
「うん?」
ものすごい推理が始まると思いきや井上さんはあまり分かっていなかった。
「井上、本当は分からないんだろ?」
「そう。分からない。」
「てっきり探偵みたいに言うから理解できてると思ったんだが?」
「分からないけど回避策はある。」
「え?あるの?」
「ある。」
「聞かせてくれ。」
「まず、告白しなければいけない相手…条件はあなたが喧嘩をするほど仲が悪い人。それも女の子に。」
「あぁ。」
「一つは雨田が期限を決めてないから逃げる。もう一つも同じように逃げに近い。」
「自分の仕掛けた勝負で負けたのに逃げるのは…」
「人の話は最後まで聞くべきよ。」
「は、はい。」
井上さんが威圧気味に言ったせいで西田君が少し後ろに退いた。
「逃げると言っても何も行動しないわけじゃない。」
「と言うと?」
「さっきも言った通り指定された条件は喧嘩をするほど仲の悪い子。条件を満たしていない女の子、私とか都留、丸山には告白する必要がない。」
「そうだな。」
「そこから言えるのは条件さえ満たしていなければあなたが告白する必要がない。」
「…ん?」
「分かった?一応言うけどあなたが喧嘩をした子と仲直りできればあなたが告白する必要がない。理解してる?」
「理解できてる。」
「それなら、ここからあなたが取るべき行動は分かってるよね?」
「あぁ。」
私と華麗ちゃんと大野君を置き去りにして問題が解決してしまった。
「あぁ~あ。本当は西田が解く予定だったのに。」
集合場所に着きしばらく時間が余っていた。
西田君はどこかに行ってしまって今はいない。
それを確認して雨田が戻ってきた。
「あなた、トイレなんて行ってなかったんじゃない。」
「俺が答えを言ってもつまらないと思ってな。」
「つまらない?あれが本気で好きでもない相手に告白したりしたら相手の気持ちはどうなるの?」
「…そう言われてもな。」
「無責任な行動に腹が立ってきた。」
「さっきの命令は瀬川林っていう女に頼まれたことだ。俺に責任はない。」
「誰それ。」
「そうだよ。リュー。私そんな子知らないよ。」
「西田が喧嘩をした相手。」
「さっき雨田が話してた子?」
「…そうだよ飛菜子。」
「お前、また面倒なことに首を突っ込んでるな。中学の時みたいにケガするなよ。」
「突っ込んでない。勝手に向こうからやってくるんだ。」
疲れたように雨田がそういった。
「本当は瀬川に面倒ごとを返そうかと思ったんだけどな。」
「はい?」
「あいつ、俺が助けることを当たり前っていう感じに頼んできたからな。最低限仕返しをする権利を許してほしいほどだ。」
「へー。」
「リュー、いやだったなら手伝わなければよかったのに…」
「そうかもな。まぁ、これ以上はやらないから心配するなよ。」
「はーい。」
華麗ちゃんがそう言ったタイミングで先生からの集合と声がかかった。
そして西田君が戻ってきた。
どうやら瀬川さんを見つけることができなかったみたいだった。
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