3.ケーキ
高校生活が始まって今日で3日目、教科書を配られて授業が始まる。ただし午前中が授業で午後から身体測定で短縮授業だ。昨日は早めに寝たからか、朝早く起きてしまったため少し早いが家を出て学校に行くことにした。かなり早めの時間に教室についてしまった。今は8時前で部活動はまだ始まっていないためいったことのない購買に寄ろうかと考え荷物を置きに行くと飛菜子が教室にいた。
「(早すぎないか?時間的に)」
「…おはよう」
「おはよう」
「今日は早いね」
「朝は早めに起きたからな、それより飛菜子はなんでこんなに早いの?」
「いつもこれくらいだよ。お父さんが送ってくれるんだけど、早めに出ないとお父さんが間に合わなくてね。本を読んで過ごしてるから暇ではないけど、一人の教室で誰のしゃべり声が聞こえないと寂しい、なんか話して…」
「…じゃ、じゃあそれ何読んでるの?」
「『偽王の夢』だよ。この前買った本…結構面白い。」
「あ、それって王様の影武者の話だっけ?最初ぐらいに王様が亡くなっちゃう話の。」
「そうだよ、作者の表現の仕方がすごく面白いよ。」
「今何巻目?一巻から最新刊まで持ってたよね。」
「今、5巻まで読んでる。また今度貸そうか?」
「貸してほしいな。」
飛菜子と会話していると時間がたつにつれて人がだんだん増えていって少しずつ本についての話はしなくなり、好きなものや食べ物、動物など他愛ないことを話していると同じクラスの奴らが話に混ざって今話している奴が誰かがわからないまま話が盛り上がり、最後には今度の土曜にクラスみんなで飯を食いに行くというところまで行ってしまった。ふと、教室の扉を見ていると、急いで教室に入ってきた大野と華麗がいてなぜこのクラスがこんなにも盛り上がっているのか気になっているらしい。
「リュー、この状況は何?」
「雨田、俺にも説明してくれ。」
「なんか今度の土曜日にクラスでどっか飯を食いに行くみたいなことになっている。」
「今度の土曜日?今日は短縮で早く帰れるんだよ?」
「いくら早く帰れるからと言っていきなり決まったことであって、今日に部活動が始まるからそれで予定が空いてないらしい。それでみんな開いているであろう土曜日にしたみたい。部活が始まる前に決めたら『先に予定があるから休みます』で断れるな」
「先に言い訳を考えるのは…雨田は高校でも変わらないな」
「別にいいじゃん、即席の言い訳ってすぐばれそうだし。」
「話は変わるけど昨日は何してたの?(都留って子と)」
「昨日?普通に本を読んでたよ?」
「おーいチャイムはとっくになってるぞー早く席に着け」
「はーい」
「今日は…」
担任の話を聞いて時間が過ぎて気づけば授業が始まった。教科書が配られ、ノートを準備して板書を初めて気づけば授業が終わる。そもそも俺は授業ではあまり理解できない、たった50分という短い時間で理解できるならこの世の技術はもっと進んでいるんじゃないだろうか。
休憩時間に華麗が来て、もう一度昨日は何をしたのかを聞いてきた。『別に人がどう生活しようといいだろう』と言ったらすぐに自分の席に戻ろうとしたので華麗からの相談を断ることを伝えることにした。
「華麗、俺はやっぱりお前の相談には乗れない、荷が重すぎる。」
「…そっか、そうだよね。やっぱり難しいよ…ね。(都留さんと一緒にいるために断ったのかな)」
「ごめんな、力になれなくて。」
「別にいいよ、難しい自覚はあったし…それに…」
「?」
「やっぱり何でもない」
「(なんだ?ちょっと様子が変だな)」
「華麗、二人で何の話をしてるの?(ちょっと助けるか。)」
「べ、別になんでもないよ。」
「面白そうなにおいがしたけど、ほんとになんでもないの?」
「ほんとになんでもないから!!」
「面白そうなにおいって…そんなのあるのか」
「あるよ、まぁそれに気づくためには時間がかかるけどな。」
「私、もうすぐ休憩が終わるから帰る」
「大野が華麗を揶揄うから逃げて行ったじゃん、」
「まぁ、面白いんだしいいじゃん。」
「別にいいけど…」
キーンコーンカーンコーン
「おーい教科書結構量あって重いからそこの男子手伝え、」
「わ、分かりました。」
いきなり呼ばれた男子生徒数名は急いで教科書を取りに行った。そう指示した先生は…美人といってもいいけどとても表情が怖い…。
「イケメンだなー」
「そうだねー」
周りに座っている女子がそう呟いているけど…どう見ても女の人にしか見えない。
「教科書が届いたな、それじゃ自己紹介だ。名前は神代御幸という。担当の部活はバスケ部だ、よろしく、じゃあ選べ授業かお前らの自己紹介か」
なんか怖そうな感じがすごい先生だな、授業が嫌いな生徒たちはみんな自己紹介を選んだ…
…あっという間に授業{自己紹介}は終わり男女に別れて検診が始まった。
「なぁ雨田ー、結局土曜のやつ行くの?」
「行くかな。あの元を話をたどれば俺が始めた話だし。」
「雨田はどうして都留さんと話してたんだよ?この前引っ越して来たばっかりって言ってただろ?」
誰だっけ?こいつ。朝に話したはずなんだけど…確か名前は…
「…西田か、飛菜子は家が隣どうしだった。」
「「え?」」
「帰り道に会って一緒に帰っていたら家が隣だった。」
「結構仲が良かった気がするけど?」
「ま、まぁ普通に話してたらそうなった。」
「何を話してたんだ?(この二人は昨日仲良くスーパーで買い物をしていたと華麗が言っていたからその真意を知りたいな)」
「別に大したことは話してない」
「それじゃあ、都留さんは雨田から見て普段どんな感じ?」
「西田…べ」
「次一番の人入ってください。」
「はーい、西田その質問は期待している回答を返せないと思うから答えないことにする。(飛菜子がかくしてくれって言ってることは話せないから)」
「分かった…」
「(結局分からなかった…隠そうとしてるのか?)」
暇な検診が終わり、12時ころに帰っていいことになったからこの時間帯に開いている学食に大野と西田と行ってみることにした。華麗は新しくできた女友達といるみたいだ…飛菜子も何人か一緒にいるのか?…誰とも一緒にいないな。朝はあんなに一緒に周りに女子もいたのに…ちょっと様子を見るか。
「何食べる?」
ラーメン、どんぶり、日替わり定食…いろいろあるな。
「日替わり定食にしよう。」
「今日のはラーメンとチャーハンか、俺もそうしよう。」
「俺もそれにするわ」
それぞれ会計を済ませて席を探していると後ろから声をかけられた。飛菜子か?
「どうした?」
「ちょっと寂しいから一緒に食べようよ。」
「俺はいいんだけど、大野と西田に言わないとな」
「俺はいいよ」
「俺も(こうなったら直接聞けばいい)」
「お前ら…いいやつだな」
「「お前は俺のことをどう思っているんだ?」」
まぁ、それは置いといて飛菜子も一緒に飯を食うことになった。
「(飛菜子ってまさかだけど友達作り苦手?)どこの席で食べる?」
「4人分開いている席はあるか?」
今の時間帯は全学年がこの食堂にいるからな。開いている席を探すだけでも結構大変な手間だ。と思ったら窓際が開いているのを見つけたのでそこに陣取ることにした。春の日差しがあったかい…
「じゃあ、席は雨田と都留さんが隣でいい?(言葉で分からないなら二人の態度で判断しよう。)」
「二人は仲がいいからな。」
「それでいいよ」
「…それでいいです。」
「(すぐになれるとは思ったけど…敬語で人と距離をとるのは変わらないかな)」
「それじゃ、座ろうか。」
「あぁ、」
窓際の席に着き飛菜子と大野と西田で昼食をとる。食べている間西田が飛菜子に話しかけて日名子が答えるという光景を眺めているとこっちに質問が飛んできた。
「ところで雨田は都留さんのことを名前で呼んでるけどなんか理由あるの?」
「………理由?」
「理由。」
「…私が困っていた時に雨田くんが助けてくれて…それで…そこで仲良くなって名前呼びにしてもらっいました」
「へー、」
最初に会っのは本屋で、たくさんの本を買う気だけどそれを運ぶことということを忘れていて困っていたな…そこで方向音痴ということがわかった…
「それでそんなに仲がいいんだ。朝早くからクラスで二人でしゃべてるぐらいだからな。」
「そうそう、都留さんは土曜のクラスの集まり行くの?」
「行ってみようと思います。面白そうですし、みんなと仲良くなりたいです。」
「俺も行くんだけど、どこ行くか決まってるの?」
「そういえば決まってなかったような…」
「そもそも決めてない」
「どこ行くんだろう?」
「まぁ、土曜まであと2日あるんだから…そのうち決まるだろ」
「そうだね。」
「二人とも他人事だな」
「俺たちが焦ったところで今すぐに決まるわけではないからな。」
「それもそうか。」
その後昼食と食べ終わり,学校に残らないといけない決まりはないためこのまま帰ることになった。帰る際に大野に遊びに誘われたため都留さんが一人で帰ってみると言って帰っていった。
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「どこ行く?」
「ここらへんで遊ぶとしたらモールだな、」
「そうだな。そこは近いし歩くか」
「あ、雨田なんか最近華麗の様子が変なんだけどなんかした?(もう腹の探り合いは飽きた)」
「いや心当たりがないな。(華麗は大野のことが好きだからじゃないの?)具体的にどんな風に?」
「雰囲気」
「分からん」
「分からないのか?(ほんとに?)」
「ほんとに、まぁ困っていることか隠していることがあるなら本人が話すまで待つのがいいと思う。無理に聞くのはよくないし」
「そ、そうだな。」
「でも、本当に無理している様子に気付いたら声はかけるべきだな。そのあたりを俺は気づかなかったけど…」
その後俺たちは普通に遊びまわり日が暮れそうになったころに解散した。
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これから家に帰るんだけど、遊び疲れて歩く気になれずバスで家に帰ることにしたときに携帯に電話がかかってきた。番号は…公衆電話?
『もしもし、』
電話から聞こえた声は飛菜子のものだ。今日は一人で帰ってみるっ言っていた気がするけど迷子にでもなったんだろうか?
『もしもし、雨田?いまどうしてる?』
「いまは解散して帰っているところだ。なんかあったのか?」
『現在迷子になってしまって…』
「地図は読めないのか?」
『地図を開こうとしたら電池が切れて…』
「それで公衆電話でかけてきたのか。じゃあ周りにある店の名前とか、目印になりそうなものを教えてくれ」
『えーと、"パルメ"っていう店がある』
「他には?」
『…少し先にショッピングモール?が見えます。』
「そこか…案外近いな。場所がわかったからそこで待っててくれ」
『分かった』
歩いて数分のうちに目的地に着きあたりを見渡すと近くにあるケーキ屋"パルメ"?の中をのぞいていた。買えばいいのに、買わないのかな?
「欲しいなら買えば?」
「あ、雨田、一人で入るにはハードルの高い店だから入れない」
「それで俺を呼んだの?」
「…そっか、雨田といれば一人じゃないから入れる。」
「食べて帰るにはもう遅いぞ?」
「…買って帰る…」
「…(何しにここへ来たんだろう?)」
「じゃ、入ろう」
そういって入った店の中には…女の人しかいない。ここに俺がいるのが場違いみたいに感じる雰囲気だ。というか飛菜子、ここ女の人しかいないなら入れる気がするんだけど…これも昔のことと関係あるのか?
「雨田は何買う?」
「?」
「ショートケーキ?チョコレートケーキ?チーズケーキ?タルト?」
「俺、今金持ってない。」
「私が買うよ?」
「いいのか?」
「いいよ全然」
「…じゃあ遠慮なく、チーズケーキで。」
「私はこのショートケーキにする。」
飛菜子が会計を済ませ俺は今帰り道を考えている。帰り道は簡単なんだが疲労がありあまり長くは歩きたくはない…バスを使うのもいいけどお金がない。どうしよう…
「雨田、帰ろう」
「あ、あぁ」
なんか買いたかったケーキを変えて満足した飛菜子はいつもより歩くのが早い…ついていこう。
なんとなく飛菜子が先に歩き後ろから間違えを注意しながら30分くらい歩いた。先行していた飛菜子がなぜかこっちに来た?
「ちょっと止まってください」
「?」
理由が分からなかったが止まってみると後ろから黒い車が来た?
「ひな、ここで何をしてるんだい?」
「ん?今帰ってるところだよ?」
「(だれこのおじさん?)」
「そこ男は誰だ?」
「雨田、紹介するね、この人が私のお父さん、すぐそばにいる女の人がお母さん」
「(すげー、社長と秘書みたいな感じに見える)」
「お父さん、この人は私の友達の雨田隆一」
「飛菜子が久しぶりに連れてくる友達がまさか男とは…」
「えーと、初めまして雨田隆一といいます。」
「雨田ってまさかお隣さんもそんな名前だったような…」
「お隣さんで会ってるよ」
「(まさか、飛菜子の両親と会うことになるとは…)」
「お隣さんか、最近飛菜子が世話になっているようだね。どうだろう、ここから家まで少し距離があるから僕の車で送ろうか?」
「雨田、どうする?」
「いいんですか?」
「いいよ。」
「…じゃあ、お願いします。」
車に乗り込んで少ししたら家に着いた。その間都留父にいろいろと質問をされそれにこたえるという状況が続いた。
「雨田くん、学校での飛菜子はどんな様子かな?」
「学校では静かでおとなしい印象です。」
「雨田くん、本は好きか?」
「はい、かなり好きな方です。」
家について時に飛菜子がケーキをどうするかを聞いてきた。どうしよう…
「じゃあ今日は雨田の家に行きたい。」
家の中でケーキを食べるのか?まぁ、家は散らかっているわけではないから大丈夫か…
「別に家でもいいけど…」
「雨田くん、遅くならないように」
「?はい、」
とりあえずリビングに通して皿を出しコーヒーを入れる。今まで家に大野や華麗しか来たことがないから何をしたらいいかが分からない。
「雨田、ありがとう」
「いやケーキを買ってもらっといて何も出さないわけにはいかないからな」
「このコーヒーおいしい」
ほんとにケーキをおいしそうに食べるな、見ているだけで食べた気になる。
ケーキを食べ終わり飛菜子が『雨田の部屋に案内して』と言ってきたので部屋に連れて行った。俺の部屋には基本的に勉強机と本棚、ベッドしかない。本棚には今まで買ってきた本たちがある。かなり大きめの本棚のほとんどが小説だ。飛菜子の家の本棚と比べると見劣りするな。
「これが雨田の本棚かー」
「これでもかなり集めた方だな。」
「私の知らない本がたくさんある」
「小学校ぐらいから集めてたからな、これとかかなり古い」
「えーと、『賢者の罪』か読んだことがないからまた今度貸してくれる?」
「いいよそれくらい、」
「ありがとう」
それからしばらく飛菜子は本棚を見て自分の知らない本を探していた。
「飛菜子、そろそろ家に帰らないといけない時間じゃないの?」
「…そうだね、それじゃ私は帰るよ。今日はありがとう」
「こちらこそありがとう、ケーキおいしかったよ。」
「また今度そこの本棚のを貸してね?」
「分かった」
「…じゃ、バイバイ」
「バイバイ」