28.違和感
~都留飛菜子~
今日もいつも通り家の前で雨田と合流して学校に出発した。
「雨田?」
「どうした?」
「さっきからよくあくびをしてるけど眠いの?」
「ちょっと眠れなかった。」
「ちゃんと寝ないと不健康だよ?」
「そうだな。今日からはちゃんと寝るよ。」
雨田が眠たげに言った。
「なぁ、飛菜子。」
「どうしたの?」
「飛菜子は昔、好きな人はいたことある?」
「…はい?」
「飛菜子は恋愛経験ある?」
「ないけど…なんで?どうしてそんなことを聞くの?」
「…ちょっとだけ気になっただけだよ。」
少しだけ間が開いて雨田が答えた。
別に聞かれても困ることじゃない。
それでも、雨田が急にこんなことを聞いてきた理由が気になる。
「(…)」
「どうした?」
「?」
「眠いのか?」
「眠くないよ。」
「そうか?」
「そうだよ。」
「そうか、何もないなら俺が聞くことはないな。」
危ない。
私の頭の中にあったものを雨田に知られることだけは避けたい。
多分、知られてしまえばいつも通りではなくなってしまうと思う。
しばらく雨田と二人で学校に向かって歩いていると雨田の携帯から音が鳴った。
少しだけ泊まって確認してすぐに歩き出した。
「…はぁ。」
雨田が急にため息をついた。
「どうしたの?」
「ちょっとした面倒ごとに巻き込まれてしまっただけだよ。」
「面倒ごと?」
「今は言わないけどすぐにわかるよ。」
「?」
なんだか今日の雨田は少しだけ変だ。
一つ一つの行動に別の意味があるように感じてしまう。
「(気のせい?)」
二人で歩いて学校の門を通り下駄箱に靴を入れて教室に向かった。
「おはよう。」
「おはよう。」
教室に着くと大野君と華麗ちゃんがすでに来ていたみたいだ。
「…おはよう。」
「お、おはよう。」
なぜだか雨田と華麗ちゃんの挨拶が詰まっているような気がする。
「リュー、休みの間に買いだしはした?」
「したよ。」
二人が話し始めたため私は自分の荷物を席に置くためにその場を離れた。
「都留さん、ちょっといいかな。」
「どうしたの西田君。」
後ろから西田君が話しかけてきた。
「…どうすればいいと思う?」
「?」
「喧嘩した?一方的にひどいことを言ってしまった奴と仲直りするためにはどうすればいいと思う?」
「…それは…私にはわからないよ。仲直りの方法は人によると思うよ?私はあんまり喧嘩をしなかったから分からないけどね。」
「そうか、ありがとな。」
「どうも。…ちょっと質問なんだけど、喧嘩でもしたの?」
「…まぁ、そうだ。」
「…もしかして…中学の友達の女の子?」
「どうだかな。」
そういって西田君がごまかした。
「(今日はなんだかみんなが変だ。)」
漠然としない直感だけで私はそう思った。
しばらくして始まったホームルームも終わって数時間した。
その間、雨田たちを見ていると雨田と華麗ちゃんはいつも通りに授業を受けていた。
午前の授業が終わるまで観察していても朝に感じた違和感はなかった。気のせいだったのかもしれない。
「飛菜子?」
「何、華麗ちゃん。」
「ずっと私の顔見つめてたけどどうしたの?何かついてる?」
「ついてないよ。」
「じゃあ、どうして私の顔ばっかり見てたの?」
「ごめん、ちょっと考え事してた。」
「もしかして悩み事?」
「いやいや、違うよ。」
「?」
「ちょっと考え事をしてただけだよ。」
「へー。」
それ以上は華麗ちゃんからの質問はされなかった。
それから少しして雨田と大野君と合流して食堂に向かった。
「それじゃあリュー、お願い。」
「はいはい。」
最近はもう雨田と大野君にメニューを言って後でお金を払う。
特に決めたわけではないのになぜかこれが習慣になっていた。
「飛菜子。」
「何?」
「もう少しで林間学校始まるね。」
「そうだね。」
「飛菜子は楽しみ?」
「うん。」
「私もだよ。」
華麗ちゃんのいつも通りの笑顔が私に朝の違和感を感じさせなかった。
「(私、考えすぎてたみたい…)」
しばらく華麗ちゃんと二人でいろいろと話し込んでいたら雨田たちがトレーを持ってきた。
「ご苦労様。」
「そうだな。」
「人がいっぱいいて押されてこけないように気を付けるのって疲れるよ。」
「それは大野だけだと思うぞ。ラーメンなんか特に運びにくいだろ。しかも大盛って…」
「大野って大食いだっけ?」
「今日はいつもよりも腹がすいてるんだ。」
「へー。」
「何かあったか?」
「別に何もないぞ。」
「へー。」
「お前ら二人して何だその反応は…」
「なんでもー」
「なんでも~」
「ッふふ、」
雨田と華麗ちゃんが変な顔をしてしまったのを見て思わず笑いが出てしまった。
それにつられてか雨田と華麗ちゃんも笑い始めた。大野君は『今のどこがおもしろいんだ』と言う目で私たちを見ていた。
しばらく笑い続けた後、私たちは自分が頼んだ昼ご飯を食べ始めた。
「なぁ、華麗。」
「大野?」
「次の授業の宿題ってやった?」
「…やってない。」
「どうする?」
「今からするしかないでしょ。」
「お前らちゃんと宿題は自分でやらないとだめだぞ。まぁ、英単語の書き取りだけど。」
「…じゃあ、今から急いで教室に戻ってやるしかない…よな。」
「リュー、後片付けお願い。」
「俺も~」
そういって華麗ちゃんと大野君がお盆を置いて帰ってしまった。
「飛菜子はやったのか?」
「うん。雨田は?」
「なんか暇な日に英語のワークある程度やったから…後少しはやらずに済む。」
「…」
「飛菜子、ちょっと手伝ってくれるか?」
「…うん?何を?」
「あいつらの盆を運ぶのを。」
「あ~。分かったよ。」
「さすがに四人分は無理があるよな。」
雨田はそういいながら盆に皿を載せて一人で重そうな皿を盆で運んで行った。
私も残った分だけは盆にのせて雨田について行った。
「雨田。」
「ん?」
「西田君が喧嘩したらしいよ。」
「へー。」
「興味なさそうだね。」
「相手は中学の友達だろ?」
「多分ね。」
「西田が喧嘩をするのは予想外だけど相手の方を聞いたら驚くぞ。」
「え、何?どういうこと?」
「まだ秘密だ。」
「えー。」
「まぁ、もう少ししたら分かるぞ。」
「教えてよー。」
「秘密は秘密の方が楽しみが増えるぞ。」
親が子供をあやすような言い方で雨田は言った。
それっきり雨田はこの話題から別の話題に変えて話を始めた。
「この間、雨田の家で大量の木刀を見たんだけどあれってないに?」
「あれ見たのか?」
いつのことだろうか雨田が私に自分の部屋にある本を勝手に取ってきていいと言われた日に開いた扉の隙間から見えてしまった木刀を思い出して私は雨田に質問をした。
「あれはうちの親父が仕事から帰るたびにお土産に買ってくるものだよ。」
「お土産屋さんに売ってる木刀?」
「うん。」
「それって買って意味あるの?」
「ないだろうな。護身用にしても本格的なところで買わないと性能保証もないし。」
「…」
「それを何回言っても聞かなくて諦めてる。」
「それがあれなんだね。」
「数えてないけど確か30本くらいあるかな。」
「結構あるよね。」
「いざ泥棒が来ても安心だな。」
「そんな日が来るのかな。」
「さぁ…来ないことが一番だな。」
「そうだね。平和が一番だよ。」
そうして話しながら私と雨田とで二人して笑って教室に入った。
「リュー、助けてー終わらないよ。」
「助けろ雨田。」
「単語の書き取りぐらい自分でやれば?筆跡とかでばれたら怖い。」
「飛菜子~」
「ごめんね。華麗ちゃん、私もそう思う。」
次の授業まで後少しなのにまだ半分以上も残っていた。
もう私が手伝っても手遅れだ。
「そんな~。」
「(…それって実際に言う人いるんだ。)」
次話は来週の月曜日の予定です。