27.仲裁
お久しぶりです。
また新しい話になります。
人間は学習する生き物だ。
人間は我慢を知っている生き物だ。
人間は矛盾したことをする生き物だ。
ある時、自分は恋というものを知ってしまった。
初恋というものだった。幼馴染相手に。
漫画の中での幼馴染はほとんど負けヒロインと呼ばれる立場にある。
だがある日、俺の初恋は終わってしまった。
幼馴染は自分とは別に好きな人がいるらしい。
そいつとはかなり仲が良かった。
自分はそいつが羨ましく思えて仕方なかった。
でも、自分は何もしなかった。
幼馴染に自分の想いを告げることもせずにただ二人が結ばれて幸せなハッピーエンドになればいいと思った。
だから俺は二人が結ばれる結果を望んだ。
いつも通りの自分を演じて、自分を殺して、ただ結果が欲しかった。
しかし、自分を殺して何かをするにも限界があった。
だから、報酬が欲しかった。自分が自分であるための報酬を…
~西田春樹~
俺は今、居心地の悪くなった図書館から逃げて適当な道を歩いている。
喧嘩をしてしまったのだ。
俺が一方的にひどいことを言ってしまった。しかし未だに俺はあいつの方が悪いと俺は思っている。
俺はいつもあいつよりも勉強をした。そういう自信はある。
逆にあいつは勉強をしているところを見たことがないし本人もあまりしていないという。
それなのにあいつはテストで俺よりも高い点数を取る。
いつもいつも俺はあいつに挑んだ。
しかし、何時間も何時間も勉強を重ねてもあいつには勝てなかった。
俺が重ねた勉強をあいつは否定していく。
最初はただいいなという憧れのようなものだった。
憧れはいつしか恨みにもなる感情で俺もそうだった。
頭の中で急にあいつに恨みの感情を抱いてしまった。
それが喧嘩の原因だった。
それ以前によくなかったと思う関係が崩れた。
『俺は仲直りをするべきか?』
誰に解いているのか分からない。
ただ、この答えを教えてほしい。
俺はただ一人雨が降る道のど真ん中でそう願った。
~雨田隆一~
俺は今週にある林間学校に必要なものを買うためにわざわざ数駅離れた場所にあるショッピングモールに来ていた。
学校の近くにあるが生憎工事中だった。原因は知らないがその日だけだ終わるようだ。
メモ用紙に書いておいた必要なものをすべて買い終える頃にはちょうど正午になっていた。
適当に昼飯を食べて家に帰ることにした俺は駅前にあったベンチで静かに泣いている女の子を見つけてしまった。
見た限り身長が低く小学生なのかもしれない。
迷子なのかと思って声を掛けようかと悩んでいると向こうがこちらを見た。
「(…こいつは…モールで西田と一緒にいた女子だ。)」
俺はこいつを見た瞬間に思い出した。いつかの日に西田とこいつが仲良さげに買い物をしている姿を見たことを…
「(この人は…時々西田といる人だ。名前は知らないけど。)」
いつの日かの面倒ごとのようなことがまた始まるような予感がした。
「(逃げてもいいかな?)」
「あなた、名前は?」
その場から離れようとする前にいきなり相手から名前を聞かれてしまった。
「…雨田隆一。高一でお前と同じ高校の生徒だ。」
「そう。」
「お前の名前は?」
「瀬川林」
「それで、ここで親と迷子になって泣いてたのか?」
「違う!?」
「じゃあ、…西田と喧嘩でもしたのか?」
ついさっき思い出した情報から考えられることを言って見せた。
「!?」
「その様子じゃ図星みたいだな。」
気付けば俺はベンチに座って瀬川林の相談に乗っていた。
「なんでそこで西田の名前が?」
「この間、お前ら二人がモールで仲良く買い物をしているのを見たことがあるだけ。」
「…へぇー。」
「あんなに仲良くしてたのになんで今は喧嘩したのか理解できないな。」
そういえば、西田はこいつをめんどくさい女と言っていたような気がする。
それと関係があるのか。
「…私、西田が好きなんだよ。」
「(じゃあ、なんで喧嘩したんだ?)」
俺は疑問の言葉を言いかけたが言葉にはしなかった。
「西田は中二の頃からずっと勉強し始めてるんだけど西田は元は結構頭が悪くて何度やっても理解ができなかったんだ。私、その時から西田のことが好き?だったんだけど。距離を縮めたくて私は賢いよってアピールしてたんだ。」
「そうなのか。」
なんだかほんとにめんどくさい気がする。
「なんだそのめんどくさい状況は。」
俺は瀬川林の話を適当な相槌を打ちながらすべて聞いた。
話を聞く限り喧嘩の原因はこいつにあると思うが喧嘩の内容は西田が一方的にこいつに暴言を言ったことだった。
つまり両方が謝る必要があった。
「めんどくさい?」
「そうだ。めんどくさい。」
「…じゃあ、どうすればいい?」
「…一つアドバイスしておくけど。」
「うん。」
「なったく勉強をしていないような奴がガリ勉に勝ってしまったらものすごく不興を買うぞ。」
「どういうこと?」
「話を聞く限りお前は努力をして西田よりも高い成績を出してる。けどな、それを知らない西田にとっては妬ましい以外何物でもない。恨まれても何もいいものはない。お前のやり方が間違えていたと思う。」
「…」
言い過ぎたのかもしれない。
今までの自分の頑張りが無意味だと否定した用なものだ。
それからしばらく瀬川林は何も話さなかった。
「あなたは私にどうすればいいと思う?」
「さぁ?俺はお前たちを詳しく知らないんだ。」
「詳しく話せば言ってくれる?」
「…なんでそうなる。」
「初恋なんだからどうすればいいか分からないんだよ。」
それを言ったら誰だって同じようなものだと思う。
学校で教えてもらえるものでもない。
だから人は手探りで行うしかない。
「恋愛に答えを教えてくれるような奴がいると思うな。」
「?」
「そこに歩いてるバカップルに聞いてもそんなことは分からないし俺も聞かれても分からない。」
「…」
今にも泣きそうなこいつを俺がどうすればいいのか分からないようにこいつに何をアドバイスすればいいのか分からないのだ。
「そもそも、俺はなんでお前の相談に乗ったのか分からないんだ。」
「…?」
「?」
「話の流れで手伝ってくれるのかと思ってた。」
こいつは今純粋な顔をしている。
本当にそう思っていたのだろうか。
「迷子の小学生かと思ってみてただけだ。」
「私、あなたと同じ高校生なんだけど。」
「思っただけだ。」
「思っただけでも傷つくんだけど。」
「へいへい手伝えばいいのか。」
「…だから手伝え…っていいの?」
「俺が断り続けてもお前は頼み続けると思った。」
「…怪しいんだけど。」
「怪しい?」
「さっきまで断る気満々だったのに…急にOK出したから。」
「まぁ、そうかもな。」
「?」
「昔に俺はお前と似たような状況になってしまったんだ。」
「?」
「中学で年上と勝負することになった…内容は定期試験での点数が高い方が勝ちの簡単なルールだった。」
「学年が違うような…」
「学年が違ったからあとから先生に頼んで同じテストを受けたよ。」
「…」
「勝負は勝ったけど…全く関係のないやつらが俺を非難した。」
「?」
年上の先輩が一生懸命に勉強をした結果を俺はその時否定した。
凡ミスもなくただ丸だけがある答案用紙を破り捨てペンを投げ割り、壁に殴りつけて怒りを発散している先輩たちの様子は鬼だと思った。
人には得手不得手がありたまたま俺は暗記が得意で周りは苦手。
あのころから俺は本気で勉強をすることに嫌気がさした。
少し教科書を読むことで高得点を取ることができる。
俺にとっては学校のテストで満点を取ることなんて簡単にできてしまう。
だからこそ、できて当たり前のことを本気でしない。周りから拒絶されないために。
俺が本気で勉強しても俺も他人も誰も得をしない。
強いて言うなら俺が損だ。
何せ、膨大な小説を読む時間を削る必要があるからだ。
そんな時間があるなら俺は小説を読む。
「まぁ、当時俺が相手を煽るような言葉を使ったのが悪いんだけどな。当時の状況がお前と似てるんだ。」
「全然似てないよ。」
「そうだな。」
似たような体験と言ったが言ってから似ていないことに気が付いた。
「聞くけど、あなたは私がどうすればいいのか分かるの?」
「それはお前が考えることだな。俺に聞かれても責任取れないから。」
「…」
「お前は自分が作った絆と他人が作った絆のどっちを信じれるって話だ。他人が作った絆なんて俺は信用できないな。」
「…」
「まぁ、アドバイスするなら今週にある林間学校で何かするとかだな。俺、西田と同じ班だし。」
「…連絡先を交換するので考えさせてください。」
「はいはい。」
家に帰る頃にはかなり日が傾いていた。
「疲れた。」
明日からいつも以上に疲れる予感がする。
逃げ出したい気持ちはあるが現実は受け入れるしかなかった。
あの時話を聞かずに断っていればこんな面倒な話に首を突っ込むことなぞなかったのだから。
次は水曜日に出す予定です。