21.二人乗り
二人乗りは法律上の罰則などがあるのでくれぐれもしないようにしましょう。
~都留飛菜子~
今はもう数時間前。
雨田は話の流れで華麗ちゃんに今の思いを告げると言った。言ってしまった。
今頃、雨田は二人きりで家に帰っている…はず。
本当は一人で帰るのは寂しい気がするけど、嘘をついてまでその機会を作ってしまった。
だからこうして一人寂しく家に帰っている。
「(仕方ない。こういう日もある。)」
そう思いながら合っているか分からない道を一人で歩いた。
~雨田隆一~
「飛菜子、大丈夫かなぁ。」
「さぁ?」
「今日は自信があるからって一人で帰ったけど。」
今日は普段と変わらずに学校で授業を受けた。
帰るときになって飛菜子が『今日こそは道に迷わない自信があるから私、一人で帰る。』
怒ったような顔でもなく何か含みのあるような顔をして飛菜子がそういったため俺たちは飛菜子と別れて帰ることになった。
「心配だからこうして後ろからつけてるんだろ。」
俺と華麗は今、飛菜子の後ろから尾行?をしていた。
「前に飛菜子が迷ったときはどうしてたの?」
「飛菜子からメールが来たから迎えにに行った。」
猫を追いかけてたら迷子になりました…とか。
「それにしてもこの道って普段通ってる?」
「通ったことはないと思うけど。」
「…大丈夫かな」
「迷ったってことになったらメールが来るだろうし、メールが来なくても適当な用事で迎えに行けばいい。」
「その用事って?」
「まだ決めてない。」
「だよね。」
しばらく飛菜子を後ろから観察していると周りが見慣れない風景のところになっていた。
もう今いる場所が分からない。
最初は携帯の地図があれば何とかなると思っていたが充電が切れてしまって使うことができない。
「なんでこのタイミングできれるかなぁ。」
「しょうがないね。私の使う?」
「貸してくれ。」
俺が華麗から携帯を受け取ろうとした時に華麗の携帯に電話がかかってきた。
急いで華麗が出て飛菜子を確認するとまだ気づいていなかった。
「もしもし、お母さん。」
「(相手の名前を見てはいなかったけどどうやら叔母さんからかかってきたみたいだな。)」
「え?…今から?…うん」
華麗の方は置いておいて飛菜子の方を見ていた。
不安そうに周りを見て回していた。
最初は携帯を見ていたが途中から携帯を見ていない。
多分飛菜子も携帯の充電が切れているのかもしれない。
そう考えながら身を隠しながら見ていると後ろから
「リュー、お母さんから電話がかかってきて今すぐ帰ってきてて言われた。」
「何かあったか?」
「家のことだって言われた。」
「それじゃあ、仕方ないな。」
「うん。それじゃあ、私先に帰る。…今日はお母さんのところにいるからご飯はいい。」
「了解。じゃあな。」
「バイバイ。」
二人きりの尾行が華麗が離脱して一人になった。
多分、今日はもう帰ってこないかもしれない。
根拠はないけどなぜかそう思う。
「何してるの?」
華麗がいなくなってから少しの間、飛菜子を見ていると後ろから声をかけられた。
今一人きりの状態で飛菜子をつけてるような行動していたら間違いなくストーカーに思われるだろう。
不安を抱きながら振り向くと見覚えのある女子がいた。
「(通報される?)」
「何してたの?」
えーと…確かい…井上先輩だっけ?
「えーと先輩。これは…」
「何言ってるの?同い年でしょ?」
「?」
よく見てみると制服についているリボンが俺と同じ学年の色だった。
「すまん。お姉さんの方と間違えた。」
「姉を知ってるの?」
「少しだけ話しただけだ。」
「まぁそれならいい。それより、今都留さんの後をつけてたでしょ。」
「つけてるのは変わりないけど」
俺がそういうと、井上が携帯を取り出し警察に通報しようとした。
「おいおい、待て!!」
「なんで待たないといけないの?」
「決してストーカーなどではないからその携帯をしまえ」
「それを証明する証拠は?」
「今はない。」
「今はない?」
「さっきまで華麗が一緒にいたからそいつに聞けばいい。」
「協力者かもしれない。」
「お前それを言ったらどんな証拠も意味がなくなるぞ。」
信用がなさすぎる。
「そう、それじゃあちゃんと聞くから何をしてたの?」
「飛菜子が一人で帰ってて道に迷いそうだからついてきてた。」
「ストーカーじゃあないんだ。」
「そういってるだろ。」
ようやく俺の言ったことを信用したようだ。
「あなたと都留の関係って何なの?」
「何とは?」
「恋関係?」
「違う。」
「友達?」
「そうだ。」
「そう。」
何が気になったんだ?
「それじゃあ変質者の正体も分かったし私帰るわ」
「…まぁいいか。」
「都留を気づつけてはだめだよ。」
そういって井上がこの場を後にした。
何かと不思議な女子だと思う。
「(飛菜子と仲がいいのか?)」
当然の疑問だった。
それを考えても答えが見つからないと分かっているのでいったん放棄して飛菜子がいた方向を確認すると飛菜子の姿が見つからなかった。
井上と話していた間にどこかに行ったのかもしれない。
今現在どこにいるか分からないのに迷子になった飛菜子を見失ったら探すこともできない。
「(確か最初に自信があるって言ってたよな?)」
もう自分の記憶に自信がない。
焦らずに飛菜子を探すために自転車に乗り適当に走りだした。
そう時間がかかっていないならそこまで遠くには行っていない。
飛菜子がいた曲がり角を右に…多分家のある方へ曲がった。
~都留飛菜子~
学校から歩いて多分一時間。
両親からの電話がかかってきて電池が切れてしまった。
もう地図を見れない。
自信がないのに嘘をついて一人で帰った罰なのかもしれない。
幸いなのか財布には十円玉が数枚あった。
これで雨田に連絡すれば来てもらえる。
そう思って曲がり角を左に曲がった、その方向に公衆電話があったから。
後ろから急いでいるような自転車の音が聞こえた。
「(雨田?)」
一瞬だけそう期待して振り返ると誰もいない。
私が曲がった角を反対側の左に曲がったみたいだ。
「(…別に迷ってたところに雨田が迎えに来てくれたなんで期待、して)」
一秒でも早く雨田に迎えに来てほしくなった。
「(あそこにある公衆電話で電話をかければ…)」
公衆電話で雨田の電話番号を入れて電話を掛けた。
『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っておりません。』
「(…どうしよう。)」
ほかに連絡できる人の番号を覚えていない。詰んでいる。
私はどうしようもなくその場に膝を曲げて座った。
普段はこれくらいの距離なら疲れずに歩けていたのだけれどなぜか今はもう歩くことができなかった。
~雨田隆一~
飛菜子が曲がったと思う角を曲がって自転車で何通りも探している。
かなり急いでこいだせいか体がかなり熱い。
「どこ行った、飛菜子。」
途中から見つかってもいいという考えになり、名前を呼びながら探していた。
最初の角を左に曲がって…もう考え着く道を片っ端からつぶした。…どこかで見落とした?
はじめ、飛菜子を見失った場所からの記憶を引っ張りだして考えた。
「(交差点、…反対側に電話…電話?)」
そうだった、最初見失った場所には公衆電話があったように見えた。
人までは見ていなかったが確かにそこにあった。
多分、飛菜子はそのあたりにいる。
~都留飛菜子~
少しの間しゃがんだままでいると日が傾いてきた。
どこをどう通れば家に帰れるのかは分からない。
「雨田ぁ。」
寂しくなって泣きそうになる。
泣いても座っても帰れるわけではないため立ち上がってまっすぐに歩き出した。
もう、家を見つけるまで帰れない。
そう思っていると後ろから、
「はぁ…こんなところで何をしてるんだ。都留さんや」
後ろから息切れを起こした声が聞こえた。
振り返ると雨田が疲れたような様子で私を見ていた。
「…なんで。」
「最初は後をつけてたけどなぁ、そこの角で見失ってな。反対側の道をしらみつぶしに探してた。」
「後をつけてた?」
ずっと後ろからついてきてたの?
「うん。」
「な、なんで?」
「いきなり一人で帰ったら道に迷いそうだなぁって思って」
確かに私はそう嘘をついて一人で帰った。
「疲れた。」
「…ごめん。」
「別に謝ることはないと思うけど」
「うん。」
「じゃあ、帰ろうか。」
「うん。」
「後ろ乗るか?」
雨田が急にそんなことを言いだした。
「二人乗り?」
「さっきまで疲れて座ってただろ?」
「なんで分かるの?」
「スカートがさっきまでついてなかったしわがついてる。」
「…よくそんなところまで見てるね。」
確かに今、私の制服にはしわがついてる。
正直対面してそんなところを見る人がいると言われたら多分いないと思う。
「…たまたまだよ。」
「へぇ」
「…乗るのか?」
「乗っていい?」
多分、二人乗りは法律捕まるだろうけど、回らない頭でそう答えた。
「…そうだ。今日、華麗がうちにいないから晩御飯どうしよう。」
いきなり、雨田がそういった。
「今日、私の家も親がいないよ。」
「…ほんとに?」
「うん。さっき電話で『今日は仕事で帰れないんだ。ごめんね。』って言われたよ。」
「…飛菜子もか」
しかし、今から家に帰っても疲れて料理をするような気が起きない。
華麗ちゃんと帰った時も少しだけ疲れたし、最近体調が悪いのかも知れない。
「ごめん、私疲れてるから料理作れない。」
「分かってる。飛菜子を家に送った後どこかに食べに行こうとしてたから…飛菜子も来るか?」
「…うん。」
「じゃあ、どこにする?」
そういって雨田が自転車をこぎだした。
しばらくして雨田が駅前の中華のお店に自転車を止めた。
「ねぇ、華麗ちゃんに今日雨田の思いを告げるって言ってなかった?」
ここに向かう途中、気になっていた。
「…そんなこと言った?」
「言ったよ。」
「…えーと、もしかしてそれで気を使って一人で帰った?」
「うん。」
「ごめん。」
「なんで謝るの?」
「…今思い出したけど、好きな奴に好きな人ができたときにどうするのかっていう話。その時に行ったのが『告白でもして気分を一新した方がいいと思う。』だった気がする。」
「うん。」
「でもな…もうやってる。」
「え?」
「もうやった。」
「本当に?」
「うん。」
「いつ?」
「華麗が家に泊まりに来た日に。」
「知らなかった。」
「あんまり覚えていないけど俺が言ったことで勘違いさせて悪かったな。」
そういって雨田が私に対して謝った。でも悪いのは私だ。
勝手に期待して勝手に勘違いして嘘までついて…
「悪いのは私だよ。」
「そうかもしれないな。」
そこは否定してほしかったなぁ。
この物語はフィクションです。