18.後輩物語
~雨田隆一~
「雨田、さっきの休憩中にどんな夢を見てたの?」
昼食を食べているとき飛菜子が聞いてきた。
ついさっきの休憩中に寝ていた時の話だろう…
「中学で上の学年の人に殴られる夢」
「…どんな夢?」
「なんか聞いたことがある気がする。」
「私も、リューが殴られたって話は聞いたことある」
俺たちの中学で有名になった話、『伴先輩が2年を殴った』があった。
あの後先輩が中学の先生に数時間ぐらい怒られたらしい…
「本当にあったの?」
「うん、結構痛かったよ」
「何か理由があったの?」
「後輩に面倒ごとを丸投げされた」
「…何それ」
「竹取っていう後輩で…文武両道の天才っていう感じの女子だった」
「リューと昨日話していた子?」
「うん」
「(昨日?)」その子が何をしたの?
「俺、中学で文芸部に入っててそこにそいつが来た。他の運動部が結構粘って勧誘してたのに『人が多いところが苦手なんです』って言って」
「それがなんで雨田が殴られる原因になったの?」
「いくつかの部活の奴らが最後まで粘って…4,5つくらいだったかなそこの上級生が『竹取を寄越せ』って言って直談判しに来たんだ。それで、殴られた。」
「そこまで竹取って子がよかったの?」
「…適当に選んだスポーツどれもやらせても好成績だったな。」
「確かに部長もそんなこと言ってた気がする…」
「華麗ちゃんも部活に入ってたの?」
「うん、ちょっとね」
ー二年前-
「なんで内に?」
部員が一人足りずこのままではほかの部活に入らないといけない立場だった。
毎日運動して家に帰ったら多分俺はすぐにベッドで意識を失うという理由で運動部には入る気がなく本を読める部活に入っていた。
「…あの必死そうな部活の勧誘がいやで…それにあそこまで人が多いと…なんかいやで、」
「さっきもそこらにいる狂った奴らに絡まれたんだけど…」
「…いいじゃないですか、先輩。先輩だって毎日運動をするのがいやだからってここを隠れ蓑にしてるんだから…」
「なんで知ってるの?」
「…私、人の目を見れば心考えてることが読めるんですよ。」
竹取が上目遣いで言った。
多分嘘だ。さっきまで目を合わせようともしなかったのに…
「ごまかすな。」
「嘘じゃないですよ。そもそも今勧誘に来てる3年の人たち、全員男じゃないですか。私が入ったところでその人たちに直接的な影響がない。」
「…じゃあ、君に教えてもらうとかは?」
「私、なんでもできるからできない人の気持ちが分からないんですよ。それで、教えるのには自信がなくて…」
「じゃあはっきり勧誘の連中に言ってやったら?」
「言いましたよ。」
「それで?」
「『それでもいいから来てくれ』って、言ってましたよ。…気持ちが悪い。」
「なんで気持ち悪いんだ?」
「…だってあの先輩たち私の顔目当てですよきっと」
確かにこいつは顔はいいと思う。
そして俺も勧誘している人たちがこいつの顔目当てだっていうことを薄々分かっていた。というかすでにうわさが出回っていた。
「なんでそう思う?」
「…だって今までそういう人たちしか見てないから」
「なんとも言えないな。」
「先輩はそういうことなさそうですよね。」
「そうだな。あんまり気にしてないからなからな人の見た目なんて。」
「…へぇ、面白そうですね。」
竹取が何やら思いついたような顔をしていった。
「おーい、雨田。新人来てるか?」
「来てるぞ、玉枝。」
「かわいいね。名前は?」
「竹取です。」
「雨田、なんでこんなにかわいい子がここに?」
「部活の勧誘がうざくてここに来たんだって」
「確かにそうかもね。でも今度は俺たちがその処理をしないといけない気が…」
「せっかく忘れてたのに思い出させるなよ。」
「ごめんごめん。」
「まぁ、今のところ問題も起きてないし…明日考えようか。」
「そうだな。」
ー現在-
昼食を食べ終わり食堂から教室に向かう途中飛菜子に昔のことを聞かれて答えていた。
「どうだ?面白くはなかっただろ?」
「…そのあとどうなるの?」
「次の授業が始まりそうだからまた今度な。」
「あ、そうだね。じゃあまた今度聞かせて」
そういって飛菜子が自分の席に戻っていった。
飛菜子が席に戻った頃ちょうどチャイムが鳴った。
「じゃあ、また明日も授業があるから予習しておけよ。…解散」
寝ていたわけではないがいつの間にか授業が終わっていた。
「雨田、今日本屋行かないか?」
「…どうしたんだ大野?本に興味がなかったんじゃないのか?」
「まぁ、そうだな。恋愛系のおすすめ教えてくれ」
…そういえば大野が最近になってそういうカテゴリーの漫画を読んでるって華麗が言っていたか
それにしてもおすすめってあったか?
「別にいいけど金はあるのか?」
「ある」
「おすすめって言われても俺、知ってるのが多すぎていかないと分からないな」
「そうか。」
そういって大野が自分の席戻り帰りの準備をし始めた。
「(あとは…やらないといけないことは…)」
「リュー、私先に帰ってる」
「雨田、私も華麗ちゃんと一緒に帰るんだけど…」
「分かった。ちょうど俺も寄り道するから少し遅くなる。」
「はーい。」
「お前…自転車だったのか。」
「そうだが?」
「知らなかった…」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないな。」
「まぁ、二人で歩いたら速度同じだろ。」
「そうだな。」
「このあたりで本屋…駅前でいいか?」
「そこが一番近いしそれでいいぞ」
昔、このあたりに住んでいたころよく行った。
行くたびに何かを買っていたから顔なじみな店員からよく話しかけられる雰囲気のいい店だ。
~都留飛菜子~
学校で雨田と別れて華麗ちゃんと一緒に家のある方に帰ることになった。
華麗ちゃんの家の方向は私の家と逆だけど今は事故で家が住めない状況らしい。そういう事情で今華麗ちゃんは雨田の家に泊まっている…らしい。
最初この話を聞いた時、『華麗ちゃんが大野君のことが好きなのであれば大野君の家に行けばいいのに』と思っていたけど、雨田が嫌とは言っていないしそれでいいのかもしれない。
「それじゃあ、華麗ちゃん。まずは何を作るの?」
「…晩御飯とかは?」
「いいけど私がメニューを考えるの?」
「カレーとかは?」
「それでいいの?」
カレーって…学校とかでよく作る奴だよね?
華麗ちゃんだってよく作ったことがあるはず…
「うん」
「カレーって華麗ちゃん、何回か作らなかった?」
「二人が邪魔してあんまりやってない。」
「雨田と大野君?」
「うん、そうだよ。」
「(確か…あの二人華麗ちゃんが料理しようとしたら止めてたんだっけ?)まぁ華麗ちゃんがふざけないでちゃんとやればできると思うよ。」
「そう思う?」
「…うん。」
多分、おそらく大丈夫なはず。物語に出てくるような呪いのようなものじゃあない限りは…
~雨田隆一~
「お買い上げありがとうございました。」
「ありがとうございます。」
大野と本屋に行き、俺の知っていない小説を紹介した。
本当は自分の知っているものを薦めた方がいいのだろうが俺も大野も本が新品か中古かあまり気にはしていなかったからだ。それに読みたいならいくらでも貸すことができるため新たに大野が自分で小説を買うメリットがなかった。
「また今度貸してくれよ。」
「分かった。」
「…なぁ大野」
「なんだ?」
「昨日、どこか行ったのか?」
「行って…行ったな。」
「どこに?」
「ん?親と飯を食いに」
それで昨日華麗が連絡しても大野からの返事がなかったのか…
「雨田は昨日どこかに行ったのか?」
「華麗が家に来てたから俺も外に飯を食いに行ってた」
「何食べたんだ?」
「寿司。回る方の」
俺がそういうと大野が空を見上げた。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。」
俺はこの時そういった大野の顔がなぜだか悲しそうで嘘をついていると思わなかった。
店から家の距離の関係上、店を出てすぐに大野と別れた。
それから少し一人で自転車のペダルをこぎながら走っていると、華麗の家が見えた。
「(華麗が言ってた通り生活できそうじゃなさそうだな。)」
そう思ってまたペダルをこいだ。
今日の晩御飯何にしよう。
何かを買って帰ろうか…それか何か作るか。あんまり自分から作ったことはないけど。
考え事をしながらゆっくりと自転車で走行し三十分した頃に家がある住宅地に着いた。
「お帰り」
「ただいま」
家に着くと華麗が家の前にいた。
「今日の晩御飯私が作っておいたから一緒に食べよ」
「…華麗?ちょっと待った、もう一回行ってくれないか?」
「何?今日は私が飛菜子に教えてもらいながら料理を作ったよ。」
「さっき?」
「うん。」
「こんな短時間で?」
「うん」
「(まぁ、飛菜子がいたわけだから…いいか。)」
華麗に続いて俺も家に入った。
家の中でいつもとは少し違うような気がする。
多分華麗が作った料理のにおいだろう。
「カレー作ったのか?」
「…うん」
学校の鞄を部屋に置きリビングに来た。
そろそろ太陽が沈む。その時、俺もちょうど腹が減っていた。
「お腹減った?」
「そうだな。腹は減ってるよ。」
「まだ暖かいから温めなくてよさそうだから今食べれるよ。」
今日、初めて見た。とても家庭的な華麗を…
いつもは笑って楽しんで失敗した顔してたのに…
「どうしたの?」
「なんでもない。」
「早く食べようよ。」
「そうだな。」
華麗が見覚えのある鍋をまず始めた。
「そういえばさ、どこでカレーを作ったんだ?」
「…飛菜子の家だけど。」
飛菜子の家で炊いて飛菜子の家の鍋がここにある。
それ以外に俺の家以外のものがない。
「華麗、ご飯はどうしたんだ?」
「どういうこと?」
「炊いた?」
「…あ、ほんとだ。炊いてない。」
どうやらもう少しカレーを食べるのは時間がかかりそうだ。
~都留飛菜子~
「あ、お帰り。」
華麗ちゃんが雨田の家に帰って一時間した後、お父さんとお母さんが帰ってきた。
「ただいま」
「…」
「ご飯できてるよ。」
華麗ちゃんが来ていた時に一緒に作っていた。ご飯も炊い…華麗ちゃんがいたとき炊いてないような気がする。
「どうしたんだ?」
多分大丈夫だと信じよう。
雨田の家に炊飯器があったはずだし…
{飛菜子}{ごめん、華麗ちゃん。ご飯炊いてない。}
一応華麗ちゃんにごめんをメールを送った。
「飛菜子、いつも悪いね。」
「好きでやってることだからいいよ。全然。」
~雨田隆一~
「ごめん。リュー」
「別に、大丈夫だって」
「…」
米を洗って炊飯器で炊き始めて数分、ずっと華麗がこんな感じで誤ってくる。
「(こういう態度の華麗を見たことがあんまりないから対応に困んだよ。)」
後十五分ぐらいすれば米は炊きあがるはずだ。
「…リューの家に米があったんだね。」
「おばあちゃんが買ったやつの残りだけどな。」
「ごめん。」
「なんで謝るんだ?」
「おばあちゃんのことを思い出させて」
「別にいいんだよ。いつまでも悲しんでたら終わらないからな。」
神様、なんでもいいから華麗を謝らあせないでください。そうでないとお、僕がどうやって対応したらいいかわかりません。
「(頼んでも神様は何もしてくれなさそうだけど。)」
「待ってる間、ゲームでもするか?」
「ゲームあったの?」
「あるよ?」
「リューがゲームを買ってたんだ。」
「父さんのだけどな。」
「リューのお父さん今どこにいてるの?」
「今、海のある街にいるはずだよ。」
「そうなんだ。」
「マニアックみたいなものもあるけど大体はあるはずだな。あの変人が買ったんだから」
「へ、変人?」
「父さんのことだよ。」
「開封されたやつはないんだけど」
「あの変人、買ったのはいいけどやらずに仕事に行ったからしてないだろうな。」
変人のやることは分からん。
「勝手に開封してもいいの?」
「いいだろ。別に」
「じゃあ何のゲームをする?」
「このパズルゲームは?」
「いいね。」
しばらくして炊飯器から音が鳴った。
「なったな。」
「今から食べる?」
「そうしよう。まぁ、その前にちょっと温めようか」
早炊きはしたけど少し時間がかかったから温める必要があった。
飛菜子の家の鍋をコンロにおいて温めるために火をつけた。
「これって後で返すんだよな。」
「そうだよ。」
「どれくらい作ったの?」
「明日の夜も食べれるくらい。」
「じゃあ、明日は何も作らなくていいんだな。」
「うん。リュー、私入れるよ。」
そういって華麗がカレーをよそった。
「じゃあ、俺はコップを出すよ。」
「お願い」
互いに必要なことを準備して席に着き華麗と飛菜子の作ったカレーを食べた。
「おいしいな。」
「でしょ。」
「華麗も成長するんだな。」
「どういうこと?」
「昔の調理実習で変なもの混ぜてなかった?」
「あったような…なかったような…」
「まぁいいよな、今は関係ないし」
「そうだよ。そんな小5の話はいいよね。」
「(小5だったか?この話。)」
「おいしかったな。」
「そうだね。」
カレーを食べたけど、全てを食べきれることはなく今は冷蔵庫の中に寝かせている。
華麗に『冷蔵庫にカレーを寝かせておこう』と言うと…『鍋を寝かせたらこぼれるんじゃ…』とか言ってて面白かったな。
夕食からしばらくの間、俺と華麗はひたすら変人のゲームをして過ごした。
この物語はフィクションです。