16.月
「今日のチャンスを逃したら次はないかもしれないぞ」
「分かってる。次は成功させる。」
~雨田隆一~
プルプルプル
電話が鳴って目が覚めた。
「…おはよう」
『おはよう?』
「華麗か、」
『今、昼の3時だけど?』
そういえばかなりお腹が空いている。
「今起きたところ」
『何時に寝たの?』
「朝の9時」
『…』
「何か用か?何なら切るぞ」
『え、えーっと…今日リューの家に泊まっていい?』
「なんで?」
『家にトラックが突っ込んで来たから、』
「はぁ?」
『いろいろと今たいへんで家で生活できる状況じゃない。』
「いいけど…叔母さんとかは?」
『近くのビジネスホテルに泊まるって言ってた。』
「華麗はそこにはいかないのか?」
『…うん。』
「(なんで華麗だけ俺の家に?)」
『じゃあ、あとでまた連絡する。』
そういって華麗が電話を切った。
かなり遅めの昼食を食べて時間が過ぎていった。
「やることがない。」
部屋の掃除ー>いつもしてるからやるほど汚くはない
本を読むー>読みつくした
テレビを見るー>面白いと思える番組がなかった
本を借りに行くー>華麗から連絡が来ていないため家を出れない。
そもそも、なんで華麗は俺の家に泊まりに来るんだ?
大野が好きなら大野の家に泊まればいいのに…
プルプルプル
電話がかかってきた
『もしし』
「もしし?」
『もしもし、リュー?』
「なんだ?」
『今バスに乗ってそっちに向かってるんにゃけど…』
「にゃ?」
『噛んだ』
「大丈夫か?疲れてるんじゃないのか?」
『そうだよ。いきなり家にトラックが突っ込んできたら誰でも疲れるよ。』
「確かにな。」
…そういえば華麗はいつまでここの家に泊まる気なんだろう…
「華麗、」
『何?』
「泊まることはいいんだけどさ、…後で聞くわ、」
しばらくしてから華麗が家に到着した。
「よぉ」
「今日からお願い」
「今日から?」
「?」
「毎日泊まり込む気か?」
「うん、そうだけど…」
「…そういえば…大野の家にはいかないのか?」
「連絡しても家にもいなかった。」
「…」
「(そういうことじゃなくて、お前さんの好きな大野の家にはいかないのかって話)」
「どうしたの?」
「べ、別になんでもない」
「入っていいよね。」
いつ以来だろう…
華麗が家に来たことは…数日前に来てたか
中学三年の頃、初めて俺と華麗のクラスが分かれた。
あの時、大野は華麗と同じクラスになり俺は一人になった。
その当時からだっただろうか…俺は二人と会うのがいつも以上に楽しく感じていた。
「リュー?」
「…なんだ?」
「そろそろ日が沈むけど…ご飯どうする?…よかったら…私つ」
「昨日モールに行ったから大量にインスタント食品があるぞ。」
「昨日モールに行ってたの?」
「そうだけど?」
「…」
「どうした?」
「…」
「…華麗が来てるしどこかに食いに行くか?」
「いいの?」
「おごるぞ。」
「…じゃあ、寿司は?」
「いいよ」
最近口座にまた親からお金が振り込まれていたようだった。
それもいつもより少しだけ多く…
メールに入学祝いと書いてあったからおそらくそれだろう…
さすがに家の近所に寿司屋はなく歩いてすぐの駅に行って電車に乗った。
「よかったの?外食って高くないの?」
「親からの軍資金があるからな。」
「軍資金?」
「高校の入学祝い」
「珍しいね。リューが本にお金を使わないなんて」
「最近は飛菜子からよく本を借りてるし、このお金で本を買っても使いきれないしな。」
三駅離れた駅に降り、目の前にある寿司屋に入った。
たった三駅でもかなり離れているいて町の雰囲気が全く違っていた。
「ニ名様でよろしいですか?」
「はい。」
「ではお席をご用意いたしますので少々お待ちください。」
しばらく待って案内された席に座った。
「リュー」
「何?」
「夜は何してたの?」
「本を読んでた」
「やっぱり」
俺はこういうことを聞かれてよく『本を読んでいた』と答えることが多かった。
「そろそろ食べようか」
「うん」
「「いただきます。」」
そういって俺が目の前にあったマグロの皿を取った。
「たべたなぁ」
「ほんとにねぇ」
「何皿あるんだろう…10、20、30、33枚か」
「その内私は8枚くらいだよ。リューいつも以上に食べてない?」
「昨日徹夜してからあんまり食べてなかったから無茶苦茶腹が減ってた。」
「ほんとにお金は大丈夫なんだよね?」
「あぁ、…ていうかこれ合計しても先月余った金額にしかならないな。」
「…四千5百円…」
「先月は引っ越しとかいろいろと忙しくて本を変えなかったし家に親がいたから食費はなし、…まぁ食費を削ってた分もなくなったけど…」
お金を払って
「今日はいきなりでごめんね。」
「いいって、ご飯代くらい。」
「…そっちじゃなくていきなり泊まりに来た事なんだけど」
「確かにいきなりだったな。」
「ごめん」
「いつまで泊まる気だ?」
「家の修理が終わるまで…」
「…」
家の修理が終わるまでか…
少し前の俺だったらこんな状況になったら頭がおかしくなりそうなぐらい緊張して何もかんがえられなかったんだろうなぁ。
この前だってそうだった。華麗に相談があると言われて一緒にレストランに入った。
その時点でもう冷静に頭が働くような心拍数ではなかった。
だがそこで華麗が大野のことが好きだと分かった。
「…華麗」
「何?」
「大野の家にはいかなくてよかったのか?」
「…なんで?」
「お前、大野のことが好きなんだろ?」
「…?…?」
華麗が固まってしまった。
「(…もしかしてそのことに気が付いていなかったのか?)」
周りは町の光で明るいのにここの空間だけなぜか場違いな気がしてきた。
「リ、リュ」
「もしかして、雨田先輩?」
後ろから華麗の声を遮る声がした。
振り返ってみると中学の部活の後輩だった奴らがいた。
「こんばんは」
「雨田先輩こんばんわ。」
「…こんばんわ」
「お前らこんな時間帯に何してるんだ?」
「俺は竹取と一緒に寿司屋に行こうとしてました。」
「私も、角宮と一緒です。」
「(俺が卒業した時が中二だったから中三になってるのか。最近あってなかったから久しぶりだな。)」
「お久しぶりです。先輩。」
「…この人たちって確か、リューの後輩だったよね。」
こいつらは俺が文芸部に入っていたころに入ってきた後輩だった奴だ。
中学で人気がなかった部活で最低人数ギリギリで活動していた部活だった。
「まだ部活は続いてるのか?」
「続いてますよ。あれから3人入ったので」
角宮が答えた。
「規定人数そろったのか」
「はい、おかげで部活を選びなおさないで済みました。」
うちの中学は生徒が部活に入らないといけない決まりみたいなものがあった。
やりたいと思っていたことがなく本を読むことが好きだったため文芸部に入っていた。
華麗と大野がバトミントン部に入っていた。
「角宮、そろそろ行かないと予約に遅れるよ。」
「…ほんとだ、それじゃあ雨田先輩僕たちはここで失礼します。」
「さようなら。」
「また今度な。」
「リューの部活の子かわいかったね。」
「…竹取のことか?」
「そう。」
「…確かに中学の頃そういうことを聞いた気がするな。」
そして男子数人からの嫌がらせ。
確かにはじめはそう思ったけど…
~大野一~
(華麗){さっきリューに私が大野のことを好きって言われたんだけどなんでかわかる?}
{そりゃー、あの日に言った言葉を勘違いしてるんじゃないか?}
(華麗){あの日?}
{入学式の後華麗が雨田を呼び出しただろ、その時だよ。}
まさかまさか今までそんなことに気が付いていなかったのか…
~雨田隆一~
「そういえば華麗が寝る部屋はどうする?」
「…」
「華麗?」
「…ん?」
「華麗が寝る部屋をどこにするか聞いてるんだけど希望はある?」
「…ないよ」
「じゃあ、俺の部屋の隣が開いてるからそこでいい?」
「うん」
家に帰ってきてまずは華麗が寝る部屋を決めた。
この年になって華麗と一緒に寝るのはまずい。…華麗は大野のことが好きなんだし…
~~~♪
「風呂沸いたけど先に入るか?」
「…リューが先でいいよ。」
華麗からそういわれたので俺は先に風呂に入ることにした。
「もうスイッチ押したの?」
「そうだけど?」
「帰ってきたばっかりだけど…」
「俺はいつも本を読んでる途中に風呂に入る生活っていうのが嫌いになってしまっただけだ」
「リューっぽい」
「…じゃあ先に入るぞ。」
「うん。」
~丸山華麗~
<ヒントは『私とよく一緒にいる人』>
<分からない?じゃあもう一つ『出席番号が一桁』>
あの時、なんであんなことを言ったんだろう…
もしかして私、あの時素直に『好き』って言えていたら勘違いされずに済んでたのかな。
リューは今お風呂に入ってる…
~雨田隆一~
俺は何を考えている?
今更、華麗が俺のことを好きではないことは分かっている。
あの日、ちゃんと告れていれば今こんな考えには至らなかったのか?
大野のことが好きな華麗が家に泊まりに来てからいつもより頭が回っていない…
「お先、」
「リ、リュー、早くない?」
「いつもこれくらいだけど?」
「…男の人ってみんな早いの?」
「知らないけど…世の中風呂が好きな人もいるし、あんまり好きではないひともいるからなぁ」
「た、確かに、」
「次、華麗だぞ。」
「…うん」
そういって華麗が家から持ってきた鞄をあさりだした。
あの中に…余計なことを考えるのはよそう。
~丸山華麗~
「リュー?」
お風呂から上がってリビングに行くとそこには誰もいなかった。
カタ
「…?」
庭の方から音がした。
「何してるの?」
音がした庭に出てみるとリューが満月を見ていた。
「…月がきれいだ。」
「?」
「なんでもない。」
答えになってなかった。
時々リューはよくわからないことを言うときがある。
「そろそろ冷えるし中に入ろうか」
「月はいいの?」
「うん」
そういってリューが家の中に入っていった。
この物語はフィクションです。