13.放課後
~雨田隆一~
夢を見た。入学式の日、華麗に俺とは別に好きな人がいると分かった日のことを…
今さらこんな夢を見ても意味がない、どうせならもっと別の意味のない夢を見せてほしかった、記憶の混濁したような後から見て本当になんの意味もない普通の夢を…
そんなことを考えていたら目が覚めていた。
別に未練があるわけではない…ただちょっとした喪失感があるだけ。
ベッドから飛び起き朝の準備をする。食パンを焼き、コーヒーを入れてテレビをつける。
コーヒーをすすりながら夢のことを考えた。
やはり俺にはまだ未練があるのだろうか…。もしあったとしたらどうしたらいいんだ。
華麗と大野がくっつけば未練は晴れるのか?
『…一位は牡牛座のあなた、ずっと好きだった相手から告白されるかも。』
つけていたテレビからそんなことを言われた。何言ってるんだこいつ。
華麗は大野のことが好きで俺じゃない。
淡い期待をしてしまうところだったぞ。
それからしばらくして時間になったので学校に行くことになった。
自転車に乗り、バランスを崩すことなく角を曲がる。
しばらくどうでもいいことを考えながらペダルをこぎ校舎が見えてきた。
ふと前を見ると飛菜子の家に止まっている車が見えた。
時間的にはそこまで早くないはずなのだが飛菜子と同じ時間に到着するみたいだ。
学校に着き下駄箱に靴を入れて上履きを履く。
視線を感じたので見てみると飛菜子がいた。
「おはよう。」
「おはよう。今日はいつもより遅いな。」
「うん、今日は学校が終わってすぐにおじいちゃんの家に行かないといけなくて親が今日有給で休んでるんだ。」
「そうか」
「だから今日は一緒に帰れない。」
「分かった。」
教室に入り飛菜子としゃべっていると、華麗と大野が入ってきた。
「華麗、目の下のクマはどうした?」
「…」
「おーい」
なぜか華麗が魂が抜けた顔をしてボーとしている。
「華麗は変な夢を見て眠れなかったって言ってたよさっき」
「夢?」
「内容は知らないけどなんか悪い夢だったみたい」
「ご愁傷さま」
「華麗ちゃん大丈夫?」
「…大丈夫」
今目が覚めたみたいだ。
今日の授業大丈夫か?
ホームルームが終わり、華麗が机に突っ伏して眠ってしまっていた。
「(あいつ昔は徹夜で遊びたおしても平気だったのになぁ…)」
そもそも、変な夢を見たとしても眠れないほどのものがあるのか?
…例えば『怖い夢を見てしまって、真っ暗な部屋で眠れない』とか?
お化け屋敷は平気な華麗は実は心霊系が苦手なのかな?
夢か…そういえ場ば俺も朝いやな夢を見たかな。
あの夢は最後に体調が悪いと俺が逃げるところで終わった気がする…
まぁ、そんなこと別にいいか。
先生が入ってきて授業が始まった。
華麗の方向を見てみると華麗が船をこいで眠っていた。
「(そんなに悪い夢を見たのか)」
そんなこと構いはしない先生は寝ているであろう華麗に問題を当てた。
「丸山、寝てるのか?そこの奴、起こしてやれ。」
先生に起こせと言われた生徒が華麗を起こすためにたたいて起こした。
「…はい」
「ここの問題解けるか?」
「…分かりません。」
「ちゃんと授業を聞いてないから分からなくて当然だな。まぁいい、次だ。」
華麗が怒られて番号が次の生徒が当てられた。
まぁ、俺も授業中に寝て怒られることは気を付けないとな。
授業が終わり華麗がトイレで顔を洗ってきた。
「すっきりしたよ。」
「次寝てたらキレられそうだな。」
「注意するよ。」
「華麗ちゃんはどんな夢を見てそうなったの?」
「悪い夢」
「ホラーじゃないよな」
「お化け屋敷を笑って突破するからな。」
「何だろう?」
「夢だから正確には覚えてないけどかなり悪い夢だよ。説明するのが怖いくらいの」
「聞かないことにする」
「そうだね。」
「俺も」
そこから華麗は寝ずに授業を受け、昼頃になるときには完全に目が覚めていた。
「もう大丈夫か?」
「大丈夫だよ。」
朝元気がなかった顔がもういつもの顔に戻っている。
「もう大丈夫たよ」
「華麗ちゃん、治ったんだ。」
「うん」
「よかった。」
「うん、」
「なぁ大野、華麗がいう悪い夢ってなんだと思う?」
「さぁ」
「怖いものなしの華麗が怖がるものってなんだ?」
「知らん」
「雷は?」
「飛菜子と違ってテンションが上がる」
あるとしたら仲がいい人との別れとか?
昔仲が良かった友達が引っ越しで転校するときは泣いてたっけ?
いつの話だったか忘れたけど…
「そんなことより4限目が終わったんだから食堂に行かない?」
「うん」
「そうだったな」
「今日なんだっけ?」
「知らないよ。」
「言ってから決めるか…」
食堂に着くと時間がたっていたからか昨日と同じくらい人であふれていた。
…考えれば当たり前だ、昨日混んでいた時間帯がこの学校の生徒の大半なのだ。少し遅れて来れば人であふれているのは想像できる。
「今日も混んでるね。」
「昨日もあんなに混んでて今日はすいてるなんてないな」
「これだと並ぶだけで結構時間がかかるね。」
「そうだな。」
「こういってる間にも人が増えるから早く並ぼう」
「そうしよう」
幸い、昼休憩の時間は約一時間だから授業に遅れることはない。
しばらくして、それぞれが好きなものを頼みお金を払う頃には少しすいていた。
おかげで四人で座れそうな場所が見つかった。
「かなり並んだな。」
「そうだな。でも今はちょっとすいてるぞ。」
「よかったな。最初見たときは座るところを見つけることができるか不安だったからな。」
最初は入口付近の机は軒並み埋まっていて座れなかった。
それぞれが席に座った。
「そういえば華麗ちゃんは紙持ってきたの?」
「紙?」
「えーと、班分けの紙」
「持ってきてるよ。まだ出してなかったけど…」
「出してないのか」
「忘れてたよ」
「まぁ、後2限でホームルームだし今出しても迷惑そうだからその時に出そう。」
「分かった。」
「班決めだけで終わるかな?」
「飛菜子、知らないけど月末だから今いろいろと決めておかないと後々面倒だぞ」
「そうだね」
今日が4月18日だから約二週間後くらいしたら林間学校だったはず…
今更だけどなんでこんなに早くそんな行事があるんだろう?
仲間と協力して友情でもはぐくみましょうとか?
確かそんな理由だったか…
「リュー、それおいしい?」
「これ?」
「うん、そのチャーハン」
「おいしいよ」
「飛菜子の料理とどっちおいしい?」
「飛菜子」
「「…」」
飛菜子が顔をそらし、大野が何かを考え始めた。
「どうした?」
「…」
「なんでもない」
ほんとにどうしたんだこいつら…
昼食を食べ終わり、食堂から帰る途中にふと気になったことがあった。
この間、華麗が『タニヤ』と言っていた人は誰だろうか?
「華麗、タニヤって誰?」
「?」
「誰それ」
「この間華麗が『タニヤ』って言っていたのは誰ってことだけど…」
「…確かに言ってたな、誰かは分からないけど…担任とか言ってなかったか?」
「タニヤは担任の…誰だっけ?」
「担任の名前くらい覚えておいてやれよ。」
「そういってるリューも覚えてないでしょ?」
「うん」
「…おいおい、それくらい覚えてくれよ…」
後ろから声が聞こえて振り返ると…担任の…名前は…何だったか忘れた…
「こんにちは、先生」
「こんにちは、お前ら俺の名前くらい覚えてくれよ…」
「確か、谷川明でしたよね。」
「そうだぞ都留、二人と違って忘れてなくてよかったよ」
「俺も忘れてた」
「大野もか…最近の学生って先生にあだ名とかつけて呼ぶけどそのせいで先生のほんとの名前を覚えない人いるんだよなぁ…」
「私は普通に間違えて覚えてました。」
「俺はもともと覚えてませんでした。」
「俺も…」
「…みんな先生の名前くらい覚えようよ。」
「すみません。」
「これからは間違えないようにしろよ。」
「はーい」
そういって谷川先生があるてどこかに行った。
「ほんとに先生とはかわいそうな職業だと思う。生徒に自分の名前を憶えてもらえなかったり、残業しても残業代が出なかったりと…」
「確かに残業代が出ないっていう話はよく聞くね。」
「かわいそうだね。」
~~
その後チャイムが鳴り、授業を受け時間が過ぎた。
先生の説明をまじめに聞き、分からない部分はほとんどなかった。ここの学校の授業はよくわかる。
そんなことを考えて授業を受けているとチャイムがもうすぐチャイムが鳴るぐらいまで時間が過ぎていた。
「今日はきりがいいからここで終わります。もう数分でチャイムが鳴りますがうるさくしないようにしてください。」
そういうと先生が教室から出て行った。
次はホームルームだったはずだ。
休憩時間になり、周りの生徒が各自好きなことをし始めた。
その間に、自分は目的を実行するために席を立った。
~雨田隆一~
ホームルームが始まり、先生がプリントの束を大量に持ってきた。
林間学校の資料らしい。
「ひとまず先に林間学校で一緒に行動する班を決める、もう決めていてプリントに名前を書いて出している奴はまだいないみたいだからな。お前らこの間の土曜にカラオケに集まってたらしいじゃないか、それじゃあすぐに決まるだろう。みんな席を立って話し合ってくれ。」
そう言われてみんなが席を立ったので俺もあいつらと集まるために席を立った。
「みんな、このプリント出していい?」
「いいよ。」
「飛菜子にも確認とったし、だしてくるよ。」
そういって、華麗が鞄に入れていたプリントを取り出し谷川先生のところに行ってしまった。途中大野にも確認を取り、先生に提出した。
「飛菜子ちゃん今朝元気がなかったのが嘘みたいに元気だね。」
「あいつ昔からあんなかんじなんだよ。」
「そうなんだ…」
華麗が先生に提出しているためやることがないため今この状況はかなり暇だ。
そう思って周りを見渡してみることにした。
クラスメイト四十人の中でよく目立つのはただ一人で孤立する人がいた。
周りの人たちはもう数人で固まっているのにただ一人だけで突っ立っていた。
確か名前は…学級委員長だった気がするけど名前が思い出せない。
「雨田は何を見てるんだ?」
「西田か、もう班は決めてるのか?」
「お前らとかと決めようかと思ってんだけど?」
「もう華麗が書いて出してるぞ?」
<マジ?>
「うるさい…マジだよ。」
「俺お前ら以外そんなに仲がいいやついないのに…」
「中学の友達とかは?」
「確かにそうだな。いないのか?」
「他のクラス。」
「どんな奴?」
「頭が良すぎるてちょっと取り扱い説明書が欲しいくらいめんどくさいやつ」
「それって友達か?」
「うん」
「この学校には家が近くだからってきたけどほんとはもっと上の学校に行けると思う…」
「雨田と同じ理由の人もう一人いた。」
「確かにそうだけど…このあたりの中学じゃないだろ?」
「ちょっと言葉が足りなかった。頭がよくて近い学校だった。」
「その人学年何位くらいだった?」
「一位」
「賢そうだね。」
「でもな、みんなと点差を開いて一位だからかなり偉そうにしてるんだよ。」
「具体的にどれくらい?」
「確か…一番近くて10点くらい」
「それって威張れるほど開いて無くない?」
「まぁ、俺…2位とも5点くらい離れてるから…15点だな。」
「(今、俺って言った…)」
「(今俺って言った…)」
「どうした?」
「なんでもないぞ」
「うん、なんでも…」
「どうしたの二人とも」
「華麗が帰ってきたか…あれ?大野は?」
「さっきの授業で大野宿題忘れてたでしょ?それを今やってる」
「『昨日鞄の中に入れたはずなのに…』って言ってたやつか。」
「うん。」
「かわいそうに…」
「今からやって間に合うの?」
「追加で出されてる宿題も出せばいいんだよ。」
「追加で宿題出されてるんだ…」
「雨田、大野に手伝ってやれよ」
「あの宿題結構簡単だったから俺の手伝いなしでも行けるだろ…」
「確かにね。」
「薄情な奴らだ…」
「そんなことよりお前は自分の班を決めないとまずいんじゃないか?」
「そうだった…今からでもお前らの班に入れてもらえないか?」
「私はいいけど…」
「私も」
「俺も」
「ありがとう」
「華麗、今出したプリントを先生に行って返してもらってこい。」
「分かった。」
「西田も一緒に行ってこい」
「分かりました。」
こうして班員に西田が加わった。
そして、学級長はまだ一人も…
「雨田、井上さん一人だけどどうする?」
確かそんな名前だったな。
「班員に一人空きはあるけど…あの人確か人づきあいがうまくなるために学級長になったんだったらまずは自分で何とかしないとだめなんじゃないか?」
「確かにそうだけど、私はあの人にその足場が必要だと思うんだ」
「足場?」
「人と人とのつながりってさ…なんていえばいいんだろう…」
「それは俺にも分からないよ。」
「人づきあいをうまくするための第一歩くらいは別に私たちが支えてあげても委員ないかな。」
「そうかもしれないな。」
「じゃあ…」
「いいよ、華麗には俺が言っておくし。飛菜子が声をかけてきたら?」
「分かったよ。」
そういって今でも孤立している井上さんを飛菜子が声をかけに行った。
俺は俺で華麗にこのことを言わないといけないため、華麗のところに行くことになった。
華麗は先生に事情を説明し、プリントに西田の名前を書き込んでいた。
「華麗」
「何?」
「もう一人加わりそうだからまだそのプリント出さないでくれ」
「だがが加わりそうなの?」
「そうだぞ。」
「学級委員長の井上さんだ。飛菜子が一人で孤立してたのをほっとけなかったらしい。」
「…分かった。」
「井上さん学級長になるのにコミュ障だったの?」
「井上さんのお姉さんからは聞いた話だと、人づきあいをうまくなるためになったらしい…」
「そうなんだ…」
「それならいいんじゃないか?めんどくさい女子には慣れてるし、」
「その理由はかわいそうだよ」
確かにめんどくさいかもしれないけど、その言い方はかわいそうだぞ…
~都留飛菜子~
「いいの?私なんかが…」
「いいと思うよ」
「思う?」
「多分いいといてくれると思うんだけど…」
「そういうのは最初から言ってきてほしいんだけど。」
「まぁまぁ」
雨田が華麗ちゃんたちに事情を説明したみたいで華麗ちゃんはもう名前を書き込んでいた。
「よかったの華麗ちゃん?」
「いいよ、人が多い方が楽しそうだし…」
「俺もめんどくさそうな女子には免疫があるからな」
「そこじゃない」
「どこが違うの?」
「めんどくさいって言わないほうがいいってことだよ。」
「分かったよ。」
「お前賢いんだからそれくらい分からないか?」
「あれとかかわってたらそんなこと忘れるぞ?」
「…そうかよ」
「人のことをめんどくさいっていう人嫌い…」
「はいはい、めんどくさいめんどくさい」
「そんなの一回聞けばわかる…うるさい」
「西田、ちょっとこっちこい。」
そういって雨田が西田を連れて行った。
「井上さん、これ提出でいい?」
「…それでいい」
その言葉を聞くと華麗ちゃんが谷川先生にプリントを提出した。
プリントを提出してしばらくして雨田が戻り、適当なことを話して時間を過ごした。
四十人全員が班を決め、谷川先生がさっき持ってきたプリントの束を配り始めた。
プリントには当日の予定など、遠足のしおりのようなないようが書かれていた。
当然どこもおかしい部分はなく、分かりやすく細かく書いてあった。
1泊2日の林間学校なのに次の日に学校があるのは毎年決まっているらしい。
というか創立記念日が5月2日あるから林間学校から帰ってくればゴールデンウィークだ。
しばらくして今日決めないといけないことを決めて、ホームルームが終わり解散となった。
私は雨田たちと別れを言って急いで帰ることにした。
「雨田、私は急いで帰らないといけないからバイバイ」
「バイバイ」
「バイバイ飛菜子」
「また月曜日」
~雨田隆一~
飛菜子が急いで帰り、残ったのは華麗と大野だけだ。
「結局この土日はどこかに遊びに行く約束はできなかった」
「そうだな」
「まぁ、都留さんに用事があるなら仕方がないよ。」
「今、思ったんだけど大野はいつまで飛菜子のことを『都留さん』って呼ぶの?」
「別にいいだろ?特に俺はお前ら二人と比べて都留さんとは距離が近いわけでもないしそもそも都留さんも君付けだし。」
「確かに、そうだね。」
「言われてみれば…」
三人で普段通りに笑って時間が過ぎ、気づくともうすぐ日が沈みそうな時間になっていた。
「…飛菜子一人のけ者にして遊ぶのもかわいそうだし今日はここで帰ろうか」
「そうだな。」
「また月曜日な。」
「あぁ」
そういって下駄箱で二人と別れた。
自転車に乗り、無心でペダルをこいでいるっとのどが渇いたため近くにある自動販売機で飲み物を買おうとしたら鞄に財布がないことに気が付いた。
今日一日で財布を鞄から出したのは…学食の会計くらいだったはずだけど…
ピコン
携帯を見てみると華麗から電話がかかったいた。
「もしもし、華麗?」
『もしもし』
「どうした?なんかあったか?」
『私、さっき忘れ物に気付いて教室に急いで戻ってね。で、リューの机の近くにリューのに似た財布が落ちててね。リュー忘れてるんじゃないかって思って電話したんだけど…』
「分かった。取りに行く。ちょっと待っててくれ」
『分かった。』
電話を切り急いで学校に帰ることになった。
再び学校に着き、教室に向かった。
別に校門前に待っていてもらった方がよかったけど、それを言う前に電話を切ってしまったから仕方ないか…
急いでいたのですぐに教室に着いた。
「あれ?予想よりも早かった」
「急いできたからな。」
「財布がそんなに大事?」
「そうだ。その財布にはかなり大事なものが入ってるんだぞ」
「これで合ってるよね。」
「合ってる」
「はい、もう忘れたらだめだよ。」
「分かってる。…そういえば華麗は何を忘れたんだ?」
「宿題」
「確かに出された宿題結構多かったな。」
「でしょ。はっきり言ってめんどくさい。」
「そうだな。…もう日が暮れそうだから帰ろうか。」
「…」
「華麗?」
「…なんであの時あんなことを勘違いしたのかな…」
「?」
「…リューは自分に自信がないのかな…」
「何を言ってるんだ?勘違い?自信がない?何のこと?」
華麗の姿が夕焼けに照らされてきれいに映っているが何を言っているかが分からない。
「もうすぐ、チャイムが鳴るから帰らないと…」
「ねぇ、リュー、私は…」
キーンコーンカーンコーン
『チャイムが鳴りました。校内にいる学生は速やかに帰宅しましょう。』
やっぱり鳴ったか…
「華麗?」
「…」
下を向いて顔が隠れていて華麗の顔がよく見えない。
華麗の言った言葉が何だったのかチャイムが鳴ったせいでよく聞こうなかった。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「…聞こえてなかったの?」
「何が?」
「さっき言ったこと…」
「チャイムが鳴ったせいでよく聞こえなかった。」
「………もう一度…」
「おい、お前ら何しゃべってる。さっさと支度して帰れ。」
「分かりました。」
「…」
「華麗、ひとまず先に学校を出よう。」
「うん」
校門から急いで出てきた。
さすがに急ぐ必要はなかったが、まぁ急いだ。
「華麗、さっき何を言おうとしたんだ?」
「…なんでもない。」
「気になるんだけど。」
「…それはまた今度、今は無理」
「分かった。」
なんだか気になるけど…聞いたら何かが崩れるような気がしたから聞かなかったことにした。
そのなにかは分からないけど…
「それじゃあ、もう遅いから気を付けて帰れよ。」
「うん。…バイバイ」
「バイバイ」
そういって華麗と別れた。
華麗の悲しそうな顔に気付かずに…