12.弁当
~都留飛菜子~
昨日、雨田が熱を出して学校を休んだ。先生に家が近いからとプリントをもらいお見舞いに行った。
そして、帰り際におじやを作って雨田に出した。
『また今度機会があったら作ってもらってもいいか?』と言われた。
別に大したことでもないし、自分の作った料理を美味しそうに食べる雨田を見るのも悪くない。
そんなことを考えていたら、いつのまにか火が上っていた。いや、記憶のない時間帯があるからその時間には寝ていたかな。
でもせっかく早く起きたのに何もしないのはもったいない…かな。せっかくだし久しぶりに弁当を作って持っていくものいいかな…
久しぶりだったからか作りすぎてしまった。
今日に限って両親は昼に外食に行くらしい。
この量を一人で食べれる気がしない。どうしようかな。
…今日雨田にこれを弁当として持っていったら食べるだろうか…
「多分、雨田なら食べてくれるよね。」
しかし、雨田は今日は休むかもしれない…なんで私は雨田だけに…
まぁ、この量だったら四人で食べるのには足りないかな?
ピコン
何だろう…雨田からメールが来てる。
<RI-512>『
昨日はありがとう
おかげで体調がよくなったよ。
今日、体調がいいから学校に行くわ。
』
「雨田、あれから熱が引いて治ったんだ…よかった。」
「…どうした?こんなに早く起きて珍しいね。」
「…」
「おはよう。久しぶりに弁当を作ってみた」
「…」
「おいしそうだね。…でも、そんな量一人で食べれるのかい?」
「作ってから気づいた。雨田に弁当を作ってあげようかな。」
「そうしたらいいと思うよ。」
「…」コクコク
「分かった。…でも、弁当箱がないから父さんのを借りるね。」
「...」
そう言って私は弁当箱に具材を入れていく。
弁当箱に入れるとしても結構な量があり、少しだけ余ったので朝ごはんの具として食べた。
ふと思った。いきなり雨田に弁当を渡しても雨田は困るだろうかと...
メールしても間に合わないかも...
そういえば私結構早起きしたのに雨田はそれから少ししてメールを送ってきた。
雨田も結構早起きしたのかもしれない。
メールでも送るか...
〜雨田隆一〜
熱が引いたのはいいけど昼間に寝過ぎたせいで夜眠れなかった。
最後に見た時間は夜の2時半くらいだった。
そこから寝たが、熟睡した気がしない。
熱を測ると体温が平熱に戻っている。頭も痛くはないし今日は学校に行くことにした。
昨日お見舞いと言って来た奴らにメールでも送っておくか。
<RI-512>『
昨日はありがとう
おかげで体調がよくなったよ。
今日、体調がいいから学校に行くわ。
』
なんだこの下手なメールは…
ピコン
<turu>『
今日、お弁当作ったんだけど、食べれる?
』
<RI-512>『
食べれるけど…もしかして、昨日言ったあれのせい?
』
<turu>『
違うよ、今日意味なく早く起きてしまって最近作ってなかったから弁当を作ったら作りすぎてしまったんだよ。
』
<RI-512>『
楽しみにしとくよ。
』
~都留飛菜子~
「楽しみにしとくよって…」
「そうか…よかったね。」
「うん」
それからしばらく準備をして出発した。
学校に着くと誰もいない。
そもそも、両親が会社に行く車に乗って来ているがそれが早すぎるのだ。
誰もいないなら自由に本を読んで過ごせる。
雨田がいたなら本を語りあうのだけど…
しばらく本を読んで過ごしているとだんだんと教室に人が入ってきた。
その中に雨田たちはいない。さっき見たメールには今日は学校に行くと書いてあったが、遅刻するのだろうか?
そう思っていると教室に華麗ちゃんと大野君が入ってきた。
「おはよー」
「おはよ」
「雨田はまだ来てないか、」
「どうしたの?」
「今日は来るって書いてあったからな。いないから体調が悪化したかと思った。」
「そうだね。私、雨田を送ってこればよかった。」
ほんとにその通りだ。歩いて一時間くらいの距離を病み上がりの状態の雨田が一人で行くのは心配だ。
「雨田、道で倒れてないといいけど…」
「誰が倒れるって?」
「…おはよう。」
「おはよう」
「リュー、今日は遅くない?」
「今日はゆっくり家を出ようとしたら遅れた。」
「いつも早く来てたんの?」
「家に一人でいても暇だしな。」
「雨田の親が仕事で家を空け始めたのっていつ頃だっけ?」
「…忘れた。」
「結構前だよね。」
「それで雨田がインスタント生活になったの?」
「そうだよ。最初は少しづつだったけど…気づいたら単身赴任でどこか遠くに行ってた。」
「…」
「どうした?…別に今頃寂しいとは思ってないよ。」
そうなんだ。私は昔から家族と一緒にいることが多かったから家族が常にそばにいるということが当たり前だったけど…
「さすがに帰ってこないわけないよね?」
「お盆とか正月とかは必ず帰ってくる。それ以外はいつ帰ってくるか分からない。あの人達の仕事の都合になる。」
「そうなんだ。」
「昔は3家族で旅行とか言ってたんだけど今は雨田だけ来てるね。」
「この夏はどこかに行くのかな」
「さぁ、分からない。」
「飛菜子も来る?」
「いいの?」
「いいよ。まぁ、予定がなくてもどこかに一緒に行こうよ。」
「そうだね。うん、一緒に行こう。」
「その前に華麗は確実に補習になりそうだけどな。」
「勉強して回避するよ。」
「ガンバレー」
それからしばらくしてホームルームが始まり授業が始まった。
雨田は席が離れているけど、いつも教科書を適当に読んでるから先生からよく見られている。…睨まれている。英語の教科になった時に先生の睨んでいる顔がすごく怖かった。
「雨田、あとでちょっと来いよ。」
呼び出された。
まぁ、授業を聞かずに教科書をずっと読んでいたらあり得るけど…
「いやー、普通に呼び出しくらってたね。」
「授業中に教科書ばっかり読んで先生の話を聞いてなかったからな。」
「教科書ってそんなに読んでて楽しいかな。」
「この前聞いたら、『授業中に小説は読めないけど教科書なら読める。まぁ面白くないけどな。』って言ってたぞ。」
「国語の授業は天国みたいなことを言てたね。」
「確かにこの学校の国語の教科書は面白い話が多かったよ。」
「読んだの?」
「暇だったから…」
「なんか昔の雨田と似たようなこと言ってる。」
「そう?」
「そんなことあったか?」
「あった気がする。」
そんなことを話していたら次の授業が始まった。
雨田は変えてこないままだ。
「すみません、遅れました。」
「理由はなんだ?」
「神代先生に呼ばれてました。」
「なんかあったのか?」
「いえ、だた少し話を…」
「そうか。」
なんの話をしてたんだろう…
神代先生だったら…注意とかかな?
気のなるから何の話をしていたか後で聞こう。
四時限目の授業が終わりみんなが昼食をとるために席を立った。
雨田に弁当を渡すのを忘れていたのでここで雨田に話しかけることにした。
「雨田、朝メールで送った弁当だよ。」
「ありがとう。」
「どこで食べる?」
「ここでもいいけど。華麗たちがいるから食堂のほうがいいと思うけど?」
「じゃあ、食堂に行こう。」
そういえば、華麗ちゃんたちには作ってなかった。
正確には量が足りなかった。
まぁ、華麗ちゃんなら責めるようなことはしないと思うけど…
雨田と二人で食堂に行く途中に華麗ちゃんと大野君と合流した。
なんかこの二人やけに一緒にいるけど…華麗ちゃんは告白とかしないんだろうか?
雨田が振られた理由は華麗ちゃんが大野君のことを好きだったからのはず…
「飛菜子は今日は何を頼む?」
いきなり華麗ちゃんが声をかけてきた。
「今日は弁当なんだ。」
「手作り?」
「そうだよ。」
「雨田も?」
「そうだよ。」
「リューが作ったの?」
「飛菜子にもらった。」
「…」
食堂に着くと人であふれていた。昨日来たときはこんなに人があふれていなかったのに…
適当な席を取り華麗ちゃんと大野君がご飯を頼みに行った。
「さっき神代先生と何を話してたの?」
「…世間話」
「どんな?」
「いくら聞いても神代先生に口止めされてるから言えないな。」
「…」
雨田と神代先生ってなんか個人的な関係があるのかな?
「今日はなんで弁当を作ろうと思ったんだ?」
「朝早く目が覚めちゃって、久しぶりに弁当を作ろうと思って、」
「飛菜子の料理はおいしいから楽しみだな。」
雨田はいつも私の料理をおいしいって言ってくれるからうれしいな。
少ししたら二人が帰ってきた。
「今日、人が多くない?」
「そうなのか?」
「そうだよ。体感で倍くらい」
「そんなにか。」
「でも、昨日どこかの学年がいなかったって聞いてないからたまたまじゃないかな。」
「そうなのかな…」
「それより、リューも弁当なの?」
「…ほんとだ。それどうした?作ったのか?」
「飛菜子が作ってくれたよ。」
「飛菜子、料理できるんだ。」
「できるよ。」
そういうと華麗ちゃんが私をすごく羨ましそうに見てきた。
なんか不味いことでも言った?
「飛菜子、別に華麗は嫉妬とかしてないぞ。」
「都留さん、華麗の料理の腕を知らないから…」
「…私、悪いよ。」
「私は普段から作れるときに作っていたから作れるだけで、私も最初は何も作れなかったよ。だからそんな落ち込むことはないと思うけど…」
「…」
「華麗?」
「どうした」
「私も普段から作ったら上達するのかな。」
「「「…」」」
「最近になってやっぱり料理がうまくなりたいって思ってきたんだけど上達しないから…」
「…要は最近になってまじめに料理をしようとしているけどうまくならないってこと?」
「うん」
「まぁ、いつか作っていたら自身が持てるようになるよ…」
「飛菜子も自分から面倒を見るって言わないんだな。」
「だって、調理本とかに書いてある適量って初心者には分からない領域だよ?私もだんだんその辺が感覚に頼って作ってるから教えるのは自信がない…」
「自身がないならしょうがないな。」
「そうだな。」
「…」
「…こんな暗い話をしてないで食べようか」
「そうしよ。」
「腹減った。」
「おいしい?」
「おいしいよ」
「飛菜子、ちょっと私ももらっていい?」
「どうぞ、」
「ありがとう。…おいしいね。」
「ありがとう。」
「明日も作るの?」
「…作るかもしれないし、作らないかもしれない。私の気まぐれだよ。」
「気まぐれ?」
「朝久しぶりに弁当を作りたくなった気分になっただけだよ。」
「じゃあ明日は普通に学食?」
「そうかもね。」
「次作るときは私たちにも作ってよ。」
「いいよ。」
「飛菜子、いいのか?」
「いいよ、大した負担じゃないと思うし。まぁ、食材に余裕のある時に限るけど…」
「ていうことはスーパーに寄って帰るのか?」
「うん」
「ごちそうさまでした。」
「大野、もう食べたの?」
「あぁ、今日出された宿題をかたずけたいから俺は先に教室に戻っておくぞ。」
そういって大野君が席を立った。
そういえば宿題が出ていた。期限は明日の授業まで…
「大野、待ってよ。私も行くよ…」
「華麗ちゃん急いで食べるとのどに詰まるよ。」
「急いで食べなくても大野は逃げないぞ。」
華麗ちゃんは大野君が逃げるようにどこかに行ったとこで焦っている。
…大野君が逃げる?
なんで私はそう思ったのだろうか?
「ごちそうさま。」
「ごちそうさま。」
「やっぱり、飛菜子の料理はおいしかったよ。」
「また、作ってほしかったら言ってね。できたら作るから。」
大野君と華麗ちゃんがかたずけてから二人でゆっくり弁当を食べ時間が過ぎ、教室に戻ることになった。
昼食を食べ終わり雨田と一緒に教室に戻ると華麗ちゃんと大野君が宿題と睨めっこしていた。
今日の宿題はそんなに難しくないと言われていたと思うけど…
「そんなに難しいのか?」
「かんたんだけど…量が多い」
「プリント3枚はすぐに終わらないよ、リュー達も一緒にする?」
「俺は家に帰ってゆっくりやる」
「私も…今やる必要ある?」
「私はここでやらないと家では気が散って宿題を忘れそう…」
「じゃあ、ここでやらないとだめだね。」
「飛菜子、華麗に勉強を教えるときはできれば家じゃない場所を選んだ方がいいぞ。」
「分かった。」
午後のチャイムが鳴り、みんな自分の席に戻り授業を受けた。
ここの学校は授業が分かりやすい。
聞いているだけである程度が理解しやすい。予習して分からなかったところを理解しやすく教えてくれる。
ふと、雨田を見てみるといたって普通にノートを取っている。
そのまま時間が過ぎ、授業が終わった。
「帰るか?」
「うん。」
「一緒に帰ろう。」
「私たちも途中まで一緒に行こうよ。」
「うん。」
雨田と華麗ちゃんと大野君と四人で途中まで帰ることになった。
「結局私たち班のプリントに名前変えたけど提出してなかったよね?」
「出してなかったの?」
「うん」
「華麗が持ってるからてっきり提出してると思ってた。」
「俺も」
「私も」
「…すみません。」
「いや、謝ることはないよ提出は明日のホームルームまでに決まったなら出せって言ってただけだし…」
「そうだな、明日華麗が学校に着いたらすぐに提出すればいい。」
「大野、明日言ってね。忘れてたら…」
「分かった。」
「二人とも忘れたらだめだぞ」
「分かってる。」
「それじゃあ、二人とも私たちこっちだから…バイバイ」
「バイバイ」
「また明日な。」
「また明日」
そういって二人と別れた。
「スーパーに行くんだよな。」
「うん。」
「この前と同じ場所でいいのか?」
「うん」
そういうと雨田が先を歩き私はついて行くことになった。
「そういえば雨田は何の料理が好きなの?」
「…カレーとかかな」
「この前作った奴だね。」
「そうだな。」
「弁当に入れるとしたら何が好き?」
「たいてい普通ならおいしいと思うよ。」
「普通?」
「ハンバーグとか唐揚げとか…大体~~弁当っていうやつが好きかな。」
「そうなんだ。」
「飛菜子が作った奴なら何でも食べるけどな。」
「焦げてても?」
「食べるぞ?」
「華麗ちゃんが弁当を作ってきたら食べる?」
「食べるかな。せっかくだし…」
そういう雨田は気持ちの整理がついたと言いながらまだ華麗ちゃんに未練があるように見える。
こんなことを言ったら雨田が傷つけそうだから言わないけど…
「スーパーに着いたぞ。」
雨田と話しているうちにスーパーに着いた。
今日買うものは…
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スーパーで安いと思ったものを買いレジで精算する。袋を持ってスーパーを出て雨田の自転車のかごに乗せる。かなり買い込んだので、かごに収まらない。
「かなり買い込んだな。今回はお菓子はないのに…」
「なんか先週と比べて安いのが多かったから買いすぎたよ。」
「俺は自転車を押さないといけないから…そんなに持てないぞ」
「私も持つよ。」
「それじゃあ、こっちが軽いやつ、俺が重い方を持つから」
「…ありがとう」
「ちょっと待ってくれよ。自転車に鞄をくくるから…飛菜子のもくくるか?」
「いいの?」
「いいよ。」
「じゃあ、お願い」
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雨田に買ったものをほとんど持ってもらったおかげで帰り道がすごく楽になった。
二人で何気ない話で盛り上がり、気づくと家に着いていた。
「それじゃあ、俺は家に帰るから。」
「うん」
「また明日」
「うん」