通りすがりの見知らぬ幽霊。
僕は、家に帰る時に必ず踏み切りを渡らないと家には帰れられない。
僕はその日、見知らぬ男性に、僕をずっと見られている事に気づく。
男性は? 30代前半ぐらいで身長は170センチ
ぐらいの細身の男性だった。
彼の頭からは、大量の血が流れ落ちている。
僕は、また【霊】が見えているんだと思った。
僕には、子供の頃から何故か? 僕にだけ霊感があったからだ。
僕の両親も僕の妹も一切霊感はない。
僕のおじいちゃんおばあちゃんにも、こんなに強い霊感を持った
血筋の者はいなかった。
僕は子供の頃から【霊】が見えており、よく生きている人間と
見間違えるほど、はっきりと霊が見えているのだ。
子供の時は、それが分からずよく母親を困らせたモノだった。
『何故? うちにはたくさんの人達が行き来するの?』
『えぇ!?』
『ほら? あそこにもこっちを見ているオジサンがいるよ。』
『・・・・・・』
『僕よりも少し大きいお兄ちゃんもいるでしょ!』
『・・・政彦、何を言ってるの?』
『えぇ!? お母さんには、見えてないの?』
『そんな人達は、いないわ!』
『あそこに居るよ! よく見てよ、お母さん!』
『・・・・・・』
・・・僕は最初に母親に話した時、お母さんは僕の頭がおかしく
なったと思い、精神科で診てもらう事になったんだ。
でも? 僕の頭がおかしくなった訳じゃない。
ただ、僕には見えているだけだよ【霊】がね。
勿論! 精神科の先生も僕がおかしくなった訳じゃないと言ってくれた。
そう! 僕にだけ見えているんだよ。
それからというモノ。
僕は霊に付き纏わられるようになった。
霊達は、僕に何かを訴えているんだよ。
この世界で、やり残したことや誰かに伝えてほしい事とかね。
初めは、僕もそれが何なのか分からず苦労したよ。
だって! 夢にまで霊が出てくるんだからさ。
眠たくても眠れないよ。
僕は、彼らのやり残した事を出来るだけ手伝って供養してあげる事に
したんだ。
そうするとね? 彼は嬉しそうに僕にお礼を言ってお空高くまで何か
に導かれるように上がっていくんだ。
・・・ただ僕でも、叶えてあげられない事もあるよ。
亡くなっても恨みが残っている時は、僕は助けてあげられない!
彼の代わりに、僕にその人を殺してほしいって言うんだよ。
そんなの無理でしょ!
殺されて恨みがあるのは分かるけど? 生きている人を殺す
事は僕にはできないよ。
それ以外の事なら、僕でもできる事はやってあげるんだ。
*
そして今日会った、踏み切り近くに居た見知らぬ幽霊。
彼も、誰かに恨みがあるのかな?
頭から大量の血を流すぐらいだからそうかもしれない。
僕は、彼が見えている合図を通りすがりに彼に伝えたんだ。
僕には生きている人や死んでいる人が同じように見える。
だけど? 明らかに死人だと彼を見て僕は分かった。
普通の人に見えていない霊と僕が立ち止まって話す訳にはいかない。
おかしな人に見られるからね。
僕は、彼に見えている合図だけして家に帰った。
彼は、夜遅くに僕の住んでいるワンルームマンションにやって来たんだ。
そして、彼の話を僕は聞くことにしたんだ。
『どうもすみません、夜遅くに家まで押しかけてしまいました。』
『別にいいよ、それより僕に何か話したい事があるんじゃないの?』
『えぇ!?』
『僕は、貴方の味方だ! 出来るだけ貴方の力になるよ!』
『・・・い、いいんですか?』
『勿論!』
僕は彼の話をよく聞くと? 彼は愛する女性がいた。
彼女の名前は、喜多嶋 咲那という女性だ。
彼とは? 結婚の約束もしていたらしい。
そんな矢先に、彼が交通事故に遭い亡くなってしまう。
彼が亡くなって、かれこれ1年が経った。
彼女は、未だ彼の事を忘れられずに好きな人も作らず恋人もいない。
彼女の両親からは、結婚相手はいないのかと毎日言われているらしい。
それに彼の事は、もう忘れた方がいいと彼の母親に会って言われたそうだ。
それでも、彼女は彼の事を今も想い続けている。
彼は彼女の気持ちは嬉しいが、このまま彼女が自分の事を想って誰
とも結婚しないのは困ると言った。
どうにかしてほしいと、僕に話してくれたんだ。
そして、彼が僕にしてほしい事は、、、?
【彼女を男性に幸せにしてほしい】という事だった。
勿論! 僕は彼の言う通り協力する事にした。
彼の言葉を借りて彼女に伝える事はできるからだ!
僕は早速、彼女に会いに行く。
『・・・す、スミマセン、喜多嶋咲那さんですか?』
『・・・あぁ、はい、どなたですか?』
『実は、鹿沼利一さんから喜多嶋さんに伝言がありまして。』
『えぇ!?』
『僕の事は、もう忘れてほしいとの事です。』
『何を言ってるのよ! 利一はもう死んでるのよ! そんな事、彼が
言う訳がないじゃない!』
『・・・普通は、そうですよね? でも、僕には見えるんです【霊】が、』
『えぇ!? 今も利一が一緒に居るって事?』
『はい! 僕の右隣ですよ。』
『・・・・・・』
『彼が貴女に伝えてほしいって...。』
『・・・利一が、』
『はい!』
僕は彼と会って話した事や今、彼女に伝えたい事を話した。
彼女は、彼の気持ちを知って急に泣き出してしまった。
張りつめた気持ちが溢れ出てしまったのだろう。
今まで、誰にも言えず自分の心だけに秘めた思いが溢れ出すのが
僕にも見て分かった。
彼女は、僕の話を静かに最後まで聞くと? ただ【うん】と
頷いて家に帰って行ってしまった。
あれから、亡くなった彼は僕の前に現れなくなった。
きっと、彼女が彼の想いを受け止め理解したのだろう。
僕は、これからもたくさんの幽霊達と会っていく。
そして、僕だけができる事を彼らにしてあげたい!
この世に、未練など残してはいけないからだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。