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31. ラストバトル

 強い勇者を作るんだ。ウヨネたちに負けない。

 直ぐに仕留めてくれる、鬼のように強い勇者を……。


 そう、勇者をチート級にするんだ。


 【勇者。勇敢な青年。旅人の服を着ている。強靭な力。光より速い素早さ。強力な魔法が使える。勇者はウヨネたちを倒さなければならない。それはウヨネたちが悪の元凶で倒せば世界は平和になると思っている】と入力した。


 時間差により速かったり遅かったりして、ぎこちなくその文字が入力されていく。


 早くしてくれ。


 文字が全て入力されると勇者が画面に現れた。

 僕は勇者をコアの近くに置いた。


 魔女の放った爆発は収まりコアが姿を現した。そこには今目覚めたばかりの勇者がいる。


「あ? 誰かいるぞ」


 ダロウはナイフを勇者に向けて言った。


「きっと、創造者が送り込んだ刺客だろう」


 ウヨネはそう言うと身構えた。

 勇者は空間に留まっている剣をつかむと、剣をウヨネたちに差し向けて言った。


「見つけたぞ悪の元凶!」


 ウヨネたちはその言葉に反応してお互いを見合った。勇者は話を続ける。


「お前たちを倒して世界を平和にするんだ!」

「俺たちが悪の元凶だと?」


 そう言ってダロウは疑わしく勇者を見る。すぐさまウヨネが言った。


「みんな気をつけて! 彼は創造者によってぼくたちが悪の元凶だと思わされている。だから……」


 勇者はウヨネたちの横を走り抜けると、ダロウは剣で切られてダロウは消滅した。


 ウヨネは辛うじて避けた。が、ウヨネの胸の真ん中辺りから縦に傷が入り引き裂かれている。そこにある金属のようなところからビリビリと電気が走っていた。


 勇者はそのまま魔女、ワナイと剣で切った。ふたりは何も出来ずに瞬殺され消滅する。それらはとても一瞬の出来事のように終わった。


 勇者は剣をウヨネに向けて言う。


「残るはお前だけだ。次は必ず仕留める」


 ウヨネは動けないでいた。仲間が一瞬にして消された姿を見て、ウヨネ自身の中の何かが弾けて膨れ上がってきている。いつも冷静で沈着なウヨネは震えていた。


 その震える体から小さな光の粒が流れ始めた。光はしずくのように上に流れては消えていく。


「みんな……」


 という言葉が不意に出て目から涙を流した。ウヨネが拳を握りしめると世界が歪み始めた。それは文字や数字が空間から落ちていくみたいに。


「ゆるさない」

 

 ウヨネの声は怒気を放っていた。ウヨネの両目は赤くなり勇者をにらみつける。それから光のしずくが体を覆った。


 勇者は剣を構えてウヨネの行動を待った。


 ウヨネは体から空気圧のようなものを放った。それはとても時間というものが存在しない速さで広がる。


 勇者はそれを避けることができずに弾き飛ばされた。


 ウヨネは勇者の目の前まで移動時間の存在しない速さで近づき勇者の顔面を思いきり殴った。


 勇者は吹き飛ばされていく。

 流れ星のように残像がウヨネの後を追いかける。


 勇者は飛ばされながら稲妻の魔法をウヨネに放った。だがウヨネをまとっているしずくのオーラがそれを弾き返した。


 ウヨネは時間を超える速さで勇者に飛び蹴りをくらわす。


 勇者は吹き飛びながら剣に魔法を掛けた。剣は氷と炎と稲妻が渦を巻いて巨大な竜巻となった。


 ウヨネは構えながら様子を見ている。勇者は剣を振り上げてから思い切り空を切った。


 竜巻は空間を切り裂きながらウヨネに向かって飛んでいく。ウヨネは手を上に向けて巨大な惑星を作り出してそれを思いきり投げた。


 ふたつはぶつかりあって激しい爆発を起こす。


 爆風がすさまじく、光が中心にあり、それを炎や稲妻や隕石が渦を巻くように世界を破壊していく。それによって破壊された空間は壁が崩されるように、文字や数字がこぼれ落ちていく。


 画面は暗転や好転を繰り返す。


 ……ウヨネが強い。

 チート勇者が手も足も出なくなっている。


 何でここまで爆発的に能力が上がったんだ?

 ウヨネの仲間が消滅したからか?


 その怒りで……。


 何でアンドロイドがそんな感情を持つんだ?

 どうにかして勇者に勝たせないと、ゲームクリアが……。

 同じキャラをもうひとり作ってみるか。


 僕は同じ勇者をコピーしてゲーム内に置いた。


 爆破は終わりごろ文字や数字となり消えていく。それを見計らい勇者たちが飛び出した。


 今度は勇者ふたりがウヨネに攻撃をしかけていく。

 勇者たちは剣で攻撃している。


 だが、ウヨネが速すぎて全く当たらない。速いというか、いない。そこに存在しない速さになっている。


 ウヨネは勇者に蹴りをくらわして吹き飛ばした。

 ウヨネの攻撃は同時にふたりの勇者を相手にしている。分身しているみたいに。


 ……どうする?


 このあいだにエラアを攻撃してみるか。彼女がラスボスなら、こいつを倒せばほかがどうなろうとゲームクリアになるはず。


 僕は勇者をコピーしてその勇者には、エラアを倒せば世界は平和になるとつけ加えた。その勇者をエラアの側に置いた。


 エラアは空に両手を上げながらたたずんでいる。

 勇者はエラアの背中に回り剣を振り下ろした。

 エラアは勇者に気づかずに剣で切られた。


 だが、剣がエラアに当たると勇者がバグり消えた。

 エラアは何事もなく空に向けて両手を上げている。


「無駄だ。勇者はデータの一部だ。どんなに強くしても私を消すことはできない」


 エラアの抑揚のない二重の声が僕の耳に入る。


 攻撃が効かない? エラアはキャラじゃないのか?

 それとも勇者が弱いのか?


 勇者より強いキャラを作らないと……。

 そうだ、ウヨネをコピーすればいいだ。それでエラアを倒してくれるように仕向ければ。


 僕はウヨネをコピーして、さっき勇者にしたように理由をつけ加えてエラアの側に置いた。


 ウヨネはエラアに攻撃をしかけた。エラアは体をブレさせて当たらない。

 ウヨネは離れて巨大な惑星を作り出してそれをエラアに向けて放った。


 エラアはその方向に体を向けて、ふぅっと息を吹きかけた。するとその惑星は歪み消えた。


 ウヨネは突進してエラアを攻撃しかけに行った。

 エラアは再びウヨネに向かって息を吹きかけた。すると氷細工が粉々に砕け散るようにウヨネは消えた。


「無駄だと言っただろう。私を消したかったら、電源を切ることだ」


 エラアはそう言うと不気味な笑みを見せる。


 そんな……電源を切れだって? 何でゲームキャラにそんなことを言われないといけないんだ。


 エラア。お前がゲームキャラだってことを思い知らせてやる。


 僕はエラアをコピーした。


 『%#?をコピーすることはできません』と返って来た。


 コピーできない? ん? 名前のところがバグっている。なんで?


 制作側が作ったラスボスが僕に対して電源を切れなんて言うのだろうか?

 電源を切ったら、エンディングが見られないしロードもできないから最初からだ。


 ……うーん、もしかしてそこまでがエラアというキャラの仕事で、エラアにそういった言動をとらせてプレイヤーを悩ませる設定になっているのかも。


 制作側がプレイヤーに対してここで電源を切るか、切らないで最後までやるかという。究極の二択を用意している? だからセーブデータがないと表示されたんだ。


 僕に逃げ道がないように。


 本当にそこまでする必要があるのか? ゲームだぞ。

 もしかして試作品だからそこまでするのか?


 はぁ……と僕はため息をひとつ吐いた。


 このままだと本当に電源を切ってしまいそうだったので。

 僕はここで一度セーブをすることに決めた。

 セーブにマウスポインターを持って行きセーブをクリックした。


 『セーブすることができません』と返って来た。


 セーブできない……。

 やっぱりね。何となくそうなるのではないかと薄々感じていた。


 僕はエラアの不気味な笑みを見ながら思った。


 彼女は一体何者なんだ?

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

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