夏の香り
陽だまりの中で眩しそうに目を細めながら、室内に吹き込む風に髪を躍らせている君をさりげなく見る。
たったそれだけのことなのに、なんだかくすぐったくて、新鮮で。
ああ、綺麗だなあ、と思った。
届かないと思っていた。きっといつか君は誰かを愛し、俺はそれを間近に見ながら痛みを堪えるのだと。
その痛みはきっと消えることもない、一生付き合っていくものだと思っていた。
だって、離れることなどできないのだから仕方ない。
どんな人生のいたずらか、君はこの腕の中へ飛び込んできた。
「ずっとそばにいて。誰かのところへいかないで」
目を赤くしてそういう君を、あの瞬間を、一生忘れることはないだろう。思いが通じるとき、人は嬉しそうに笑うものだと思っていた。「当たり前だろ」と乱暴な口調で、気が付けば泣いて抱きしめていた。
「何考えてるの?」
いたずらっ子のように目を細めてこちらを覗きこんでくる。
「…綺麗だなあって」
さらっと言った言葉で耳まで真っ赤になったのを見て、笑いながら言う。
「空が、ね」
俺がそう言えば、より真っ赤になって小突いてきた手を捕まえて、笑う。
君はぷいと顔を背けて、スネたように言う。
「そういう感覚っていうの?空が綺麗とか。そういう繊細なとこ好き」
今度は俺が赤面する番。
「ね、夏、何してあそぼっか」
…多分俺は、一生勝てそうもない。