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そして念願の手渡しタイム。それぞれ菓子を渡すときにここぞとばかりに人見の手に触れている。

いやだからジャ〇―ズか。


で、俺の番。先に終えた見上君は頬を染めながら自分の手を見つめている。

そして俺は見上君から貰っていた飴を手に持ち、神田を抱きしめながら頭に顎をのっける人見に手渡そうとした。


なるべく顔を見ないように見られないように少しうつむき具合でバッと手を差し出す。

すると思わぬ人物が俺の手を掴んだ。


「!!?」


「あーっ!!ネコタ!!ネコタだ!!ネコタも緑が好きなのか!?」


がしっと手を掴みぐいぐいと自分のほうへと引っ張り出す。案外強い馬鹿力に引っ張り出された俺は人見力の目の前に出された。


「ねこ…た?」


至近距離でこげ茶色の目とぶつかる。


「ひ、人見様っこっこれ僕からです!!つ、次はもっとおいしいもの作ってきますんで!」


「…他の、、はいい…志摩…作ったのがすき…だから」



ばっ、と神田の言葉を無視して飴を手渡しながら俺は顔を赤くさせ叫んだ。

次っていっても俺菓子なんか作れないんだけどね、ぶっちゃけ嘘である。


(つーか志摩お前ここでもか!ここでも関係持ってたのか!あいつマジ終わったな!)


「む…ネコタっ!!ー無視すんなよっお前いっつもそーやって変な演技するんだからさー」


しょーがないなぁ、みたいな顔をする神田。

俺は笑顔のままカチン、と固まった。


(はーい…?)


神田の声はキャアキャアと騒いでいた周りには聞こえなかったが、頭に顎を乗せた人見と傍にいる森崎先輩には聞こえたのだろう。


人見は怪訝そうに眉をしかめる。


「他の奴等全然きづかねーし…わざとかと思ったんだけど幸助も気づいてないみたいだからさー」


馬鹿だよなー、なんて。ケラケラ笑う神田の喉を潰してやりたいと切実に願ったのは今日がはじめてだ。


「なんの事を言ってるのかよくわからないんだけど……えっと僕演劇部じゃない、よ?」


「知ってるってー!まーいいや、俺もネコタと仲良くなりたいと思ってたからさ!!」


いやいやいや俺君とよろしくしたいなんて思ったことないよ!!

今の俺は相当口角がぴくぴくしているだろう。何こいつまじで、殴っていい?言葉が通じないうちはもう殴って覚えさせるしかなくない?


「えっと…猫田君、もういいよー戻って」


「あっはい!じゃ、じゃあ人見様失礼します!!」


勢い良く頭を下げて俺は後ろに回る。神田は「ネコタ後でアド交換しようぜ!!」なんていってるが知らんぷり。

鈍感というかなんとかいうか…絶対よろしくしたくない相手だ。


「どうだった?人見様っやっぱり格好いいよねぇ」


「もちろん!最高だったよ!」


興奮気味に話す見上君に同じように興奮しながら答えた。

しかし今回はあまり場の雰囲気がよくないようだ。


それにしても、と見上君の視線が神田へ向く。


「鬱陶しいよね」


その声に呼応するようにヒソヒソと声は広まった。そこで人見の耳に入らない程度で話す所がさすがというか。


「ね、猫田君も神田の事嫌い?」


期待をこめた目でたずねてくる見上君。同じ人物を嫌いといえばますます仲が深まる。人間というのは誰かを敵に回して楽しむ生き物だ。


「好きではない、かな。でも…人見様の選んだ方だから…」


少し困ったように、視線を落として震わせたか細い声で小さく呟く。

いかにもしおらしい、健気な生徒。

周りはあわあわと慌てて「そうだよねっごめんね」なんて優しい言葉をかけてくれる。

本当に、優しい言葉。


周りが優しい言葉をかけてくれる中、俯きながら俺は小さく微笑んだ。

俺の性格が悪いなんてそんなの今更すぎて鼻からたん麺でるわ。


集会が終わりにさしかかった頃、部屋を出ようとした俺は不覚にもあの例の馬鹿につかまってしまった。


「なーっネコター!!」


「ネコタじゃなくて猫田。猫の名前みたいな呼び方しないでくれるかな?」


にこにこと人見の手を振り払ってこちらに近づいてきた神田は俺の後ろにひっついてきた。

制服の袖を掴みやはりにこにことしている。

いったい何がそんなに楽しいのか。


(懐かれるような事してねーけど…うぜー!!)


「ネコターline交換しよーぜ?俺幸助と満と寮長と生徒会の奴等のしかしらねーんだよなー」


ちょっと待ておい。そうそうたるメンツのlineをゲットしておいてまだ満足しないのか、なんだ貴様友達百人目指してんのか。


「神田君、僕は生徒会の皆様にまとわりつく君が好ましくないんだよ、わかる?君を苛めてる奴等と僕は同じ気持ちなんだ」


きょとん、と目をぱちくりさせる相手。

俺よりも10cm以上小さい神田のそんな顔は年下を相手している気分になってくる。


(気ーづーけーよー!!そしてここまでの殺意に気づかないお前の神経が疑われるわボケ!


ごごごごごごごご、と後ろの部屋のドアから目を少しだけ覗かせた見上君とファンの生徒達が俺と神田を見ている。

神田に対する視線は明らかに殺気立っているというのに。


「まーたまたぁ!ネコタって俺の事嫌いってオーラでてねぇもん」


にへっと可愛い笑顔で笑う神田。

純粋だ、これこそ純粋だ。というか疑いを知らない子供だ。


それは大変可愛い愛でるべき対象と映るかもしれない。


だが俺はその顔面今すぐ地面にたたきつけてやりたいっ。

お馬鹿さんめ。お前の馬鹿はきっと輪廻転生したってなおらんぞ。


(え、何?じゃあ禍々しいオーラ出せばいいの?思春期特有の危ないオーラだせばいいの?)


草食系男子舐めんなよ、思考の70%は実はエロで出来てんだからな、残り30%は我侭で出来てるんだからな。


とにかく、目の前で携帯を手に取りにこにこと笑う相手。俺は諦めたように携帯をかざした。


「ID教えて。僕が送るよ」


「おうっやっぱいいー奴だなネコタ!!」


いい奴?いやいやごり押しに負けたんだよわかる?嫌々なんだよOK?

カチカチといじくっていると携帯に神田のアドが入ってきた。それに俺もメアドを送り返す。


「じゃっまたline送るなー!!」


ご機嫌で人見の所へ帰っていった神田。

そして俺はそのまま新しく追加された神田をスワイプでブロックからの削除だ。

神田?送るわけねーじゃん。ついでに言うとファン仲間は別の携帯に入ってます、二台もってるんです僕。


「猫田君っ」


ぱたぱたと心配した様子で駆け寄ってきた見上君に俺は性悪な顔を消してにこやかな天使顔をはりつけた。天使って自分でいってるけど実際は極薄顔。


さっぱり醤油顔にもなりきれないポン酢顔だ。


「だ、大丈夫?本当に交換したの?」


「うん…断りきれなくて…」


「猫田君っなんて優しいんだ!!」


「そんな事ないよ、、ただ僕が…」


「いいやっ猫田君凄いっ僕猫田君の事凄く好きになっちゃったよ!!」


聞いて!!俺の話聞いて!!

いやまあいいんだけどさ、うん、なんていうか。

必死に俺の肩を掴んでいるが見上君足が爪先立ちでプルプルしている。


ゲラゲラ笑いたい気分の俺は我慢していかにも儚げな空気を醸し出してみた。

でもいくら儚くたって顔普通なので、そこが残念なところである。


――ハァハァハァハァ…。


「み、見上君少し息が上がりすぎじゃない?大丈夫?」


大きな目をカッと開きながらハァハァ言っている見上君。おいおいおい見上君、顔が本気で台無しだよお前まじで。

つか興奮しすぎだろ、面白いからそれは言わないけど鼻息凄いことになってるよ、ンフーンフーいってるよ。


「ごめんねっ僕……猫田君が凄く可愛くみえちゃって」


えへっ、と笑う相手に俺は思わずハァ?といってしまった。


「僕は可愛くないよ、普通でしょ」


「そんな事ないっさっき凄く可愛かった!!」


駄目だ、こいつ乙女フィルターかかってるよ自分の世界にイッちゃってるよー。

言っておくけど、無自覚可愛子ちゃん、なんて事はない。笑顔も可愛くなければどんな顔をしたって可愛くない。


いい所といったら昔友達に言われた『お前あれだよな、目濁ってない?』ぐらい。

濁ってるってなんだよ、ほめてんのかそれ。いいよほめ言葉として取っておくさ。


ていうか毒舌猫かぶり美少年ってなにそのキャラ。


「じゃ、じゃあ集会も終わったし僕は帰るね?」


少々たじろぎながらもいい返事を返してくれた見上君に軽く手を振り、俺はすたこらさっさとばかりに急ぎ足で帰った。

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