表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

5

今思えばこの時、既に苛められていた神田本人は守られてるから全然気づいてないが、食堂にいる人間の大半は多分神田を嫌う奴ばかりだろう。

嫌味を嫌味とわからず理解していない神田はなかなかに手ごわいらしい。


視線に晒されたとすれば猫をかぶる必要もなくなってきたわけだ。

ここでもにこにこしていればどこの聖人君子だって話になる。


猫田君聖人説が浮かび上がるよまじで。

俺は少し考えた後神田に向かって辛辣な言葉を突きつけた。


「君失礼だよ、よくそんな事いえるね。君みたいにその笑顔で生徒会の皆様をたぶらかすより、全然ましじゃないのかな」


「ね、猫田?」


うっすらと笑みを浮かべながらも、あきらかに言葉尻に怒気を交えて語気を強く言い放つ俺に、周囲の生徒たちは共感するように神田を睨め付ける。


「そうだよ猫田君の言うとおりだ!!」


「調子のってんじゃねえよバーカ!!」


「死ね!」


「不細工ばーか!」


俺の声に呼応するように一斉に上がった声。その声におろおろする志摩は険しい顔をする神田を宥める余裕はなかったようだ。

ていうか神田を詰る言葉が「馬鹿」以外無いのって、そういうしかないって感じで面白い。小学生の喧嘩かな?


(悪いなー志摩、お前に恨みはないけど、神田うっぜぇんだわ…。こういう奴がいると変に目立つ危険があるだろ?俺は万一目立ってもその他大勢で居たいのよ。)


いつのまにか罵声怒声がものすごい量になっていたのをその場から立ち退くに立ち退けず、しくったかと内心舌打ちをした時だった。


「ごちゃごちゃるっせえんだよ!!!」


神田が、一際大きな声で吠えた。

しん、と静まった食堂。


「気色悪いっていって何が悪いんだよ!!本当の事だろっそれにお前等関係ない奴が口だしてくんじゃねーよ馬鹿!!!」


「馬鹿に馬鹿って…ンフ…ッ!!」


ぼそっと呟いた俺の言葉は幸い神田の馬鹿デカイ声にかき消された。

ちなみにまたサラッとディスられているが俺は気色悪くない。ここだけは明言しておく。


「同感、だな」


こりゃもう収拾がつかないな、と思った時静かな食堂に凛、とした声が落とされた。

低くてよく通る、綺麗な声。


「ふ、風紀委員長…」


瞬間水を打ったように食堂が静かになる。


学園の警察、風紀委員会会長。

この学園で生徒会役員を取り締まる事のできる勢力だ。どちらか一方が道をはずした時片方が粛清できるようにだ。


誰かが呟いた声に神田に、近寄った男は黒縁の眼鏡をくいっと押し上げた。

何それ、漫画みたいな仕草だなオイ。眼鏡外したら3なのか?目にケツがついてんのか?


さらりと整えられた明るい天然な色の髪、吸い込まれるような黒い目玉、透き通る肌、薄く桃色に色づいた唇。同じ男と思えない程に綺麗な容姿をした生徒、もとい風紀委員長。

一度静まっていた食堂は少し間をあけてドッ、と大きく沸いた。


土色のキャーっ、なんて声が地響きのように食堂に響く。

耳に響く地響きのような声に思わず顔が険しくなる。きっとこの世で一番うれしくない歓声だ。


「きっ桐島様ァァ!!」


「素敵!あのクールな目がたまんない!」


「腰くだけそう…いい声だよねええ」


「格好いいー抱いてー!!」


抱いてって一体なんだ。


「あーっお前…!!」


「お前なんて、敬語がなっていませんね」


風紀委員長とも神田は接触があるのか声を張り上げる。

お前呼ばわりにまたどよめき、非難の声があがるが桐島は一声あげるだけだった。


「うるさい」


(あーあーこれだから顔がいい奴ってやだよね!!)


俺は神田みたいにぐりぐりした目は持ってないしむしろ白目のが多いし。

普通…あーまあ普通だよね、的な反応をされる。

どっちかっていうと格好いい系?なんて事言われた事ないから、普通しか言われない。もしくは性格最悪ーとか。


ともかく、その麗しい顔から発せられたたった一声で騒ぎを鎮めた桐島は、俺と神田の間に立つと冷ややかな目で俺と神田を見つめた。


この視線には演技なしでも嫌な汗が流れる。


ここまで言えばわかるだろうけど、神田は酷く感情に疎い、疎いくせに勘が鋭いから。

無邪気で馬鹿で、簡単にいうと俺とは絶対仲良くなれない人間だ。


「あっあの僕…」


「わかっている、だが場を弁えろ」


「はっはい」


おずおずといった体で声を上げる俺を風紀委員長は静止する。生徒会と風紀なら風紀の方が厄介だ。何か処罰されるのでは、と思うと冷や汗だって浮く。

ビクッ、と体を大きく揺らした俺を目を細めてみた桐島は志摩と神田に目を向けた。


可哀想に、志摩泡吹きそうだよ。


「以前にも言いましたが、人と会話をする際はまず自分が何を言おうとしているのか、一度口に出す前に考えなさい。君にはもしかしたら、難しいのかもしれませんが、頑張ってくださいね。」


柔らかな口調でゆっくりとまるで小さな子供に言い聞かせるような言い方。

だが俺にはこう聞こえた、幻聴じゃないから、普通はこう聞こえるから。


『二度も言わせるな、そんなこともできないこの愚図が』と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ