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目の前で優しく微笑む相手と同じように穏やかな微笑みを浮かべながら柔らかな声で再度聞いた。
「どうしたの、見上君」
「今日人見様のファンクラブで集会があるんだけど…」
大きな目をぐりっと上目にしながら目で「行くよね?」なんて聞いてくる。
その聞き方は行かないという選択肢を潰した聞き方がよね。
「もちろん行くよ、やだな見上君、僕が忘れてると思ったの?」
「そんなことないよっ一緒に行こうってお誘いしようと思ってたんだっ」
眉をたれさせながらたずねると大きく顔を横に振って否定する。
生徒会書記の人見緑のファンクラブの会員見上凛。
ふわふわの金髪に陶器のような白い肌に大きな目。
神話に出てくる天使のような容姿の見上君もずいぶん人気があるが何かと絡んでくる生徒だ。
(まあ見上君が言いにくるまですっかり忘れてたよね、人見とかちん毛の縮れ具合並みにどうでもいいもんね、言えねーけど。)
目の前で人見についてベラベラ語る相手に笑顔で相槌を打ちながら違う事を考える。
こんなのいつもの事だしまず俺の完璧な笑顔を見破る奴はいない、いなかったんだけど。
ほらいたよ、野性の勘みたいなのがあっちゃう馬鹿が。
さかのぼる事先週。
先週転入してきた神田は異例の三人部屋に割り当てられた。
その部屋にいたのが、お人よしで正直者で面倒見のいい志摩。
かたや乱暴で無愛想で顔のいい八重真人。
まあこの二人に接点はなかったらしいが神田の介入によって一変したらしい。そんな不運な志摩と顔見知り程度の俺はなんとなーく相談を受けていた。
なんとなーく、なんとなーくだけど。
「志摩君、僕は生徒会の皆様のファンだっていったよね」
「そうだけど…だって俺めっちゃ頼られてるしさー…今更突っぱねる事もできねぇっつか…」
「…お人よしも大変だねぇ」
うんうん唸る志摩を何気なく見つめる。ここ最近志摩の相談してくる率が半端じゃない。志摩だって友達がいるはずなのに…あれ、居たっけ。
今日は哲平がいないので食堂で軽くすましていた俺の前でうなだれる志摩。
「幸助!!なーにやってんだ?」
そこでやってきたのが神田だ。にこにこと笑顔で志摩に飛びついた神田に下で志摩が俺にヘルプを出しているが、俺は優しい人間じゃないので笑顔で無視させてもらった。
「猫田と話ししてただけだよ」
それを恨んでか志摩は悟りをひらいたような目でヘッと笑いながら俺を指差した。
神田はきょとんとした顔で俺を見つめ、次にはじけるように笑った。
「ああ!あの笑顔が胡散臭くて気持ち悪いやつな!!よろしくっ」
「は」
「ばっ!!!?初対面の相手に何言ってんの!??」
志摩が何に声を荒げているのかまったくわかっていない様子の神田。
「えーだってそうじゃん、吟は無表情だけどネコタっていっつもニコニコしてるじゃん」
「学校生活が楽しいからだよ?」
「ねっ猫田ごめんなこいつ失礼だけど悪い奴じゃっ」
「うーそだあ!だって全然面白いって顔してねーじゃん!」
けらけらと笑う神田。志摩のフォローもむなしく崩れ落ちていく。
同時に俺の笑顔も崩れ落ちていく。
いやいやがんばれ俺、俺ならいける、やればできる子。
確実に眉間に刻まれていく皺を必死で伸ばしながら慌てふためく志摩にため息を付いた。
神田の馬鹿でかい声になんだなんだと野次馬が群がっている。
いつの間にか俺は幾多の生徒の視線にさらされていた。