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「小豆」
「ん?あ、三山君、どうしたの?僕に何かようかな」
「気色悪い話方してんじゃねーよ何が僕だ」
「いたたたたたたた」
むぎゅっ、と頬をつまんで引き上げるのは唯一の友人三山哲平だ。
目じりの吊った切れ長な目にくるくる天然パーマのワカメヘアー、純日本人って感じの普通ボーイ。ただ毒舌注意報は常に表示されている。
哲平は痛がる俺を不審そうに睨みつけながら、その手をぱっと放す。
「ほっぺた腫れてない?ねぇ腫れてない?腫れてない!?」
「るせーよおたふくさんにしてやろうかテメェ。んで、テメェはいつから副会長のファンクラブに入ったんだ?」
「あーんとなー何時だっけ?勧誘されたから入った」
「~っこのあほ!!そんなぽんぽん入ってどうすんだお前ほとんど入ってんだろ!!」
正式に言えば副会長のファンクラブに入ったのはまぁ約一週間と三日前だ。だがそんなどうでもいい情報まで言ってしまえば間違いなく火に油を注ぐ事になるのは明白だ。なので俺はさらっと答えてみたのだが、結果怒鳴られた。
ファンクラブは掛け持ちができる。できるだけ色んな人脈を持って、いい面しておこうと俺は生徒会長以外の役員のファンクラブには全て入っている。
日々集会だなんだと忙しいかわりに、先輩方にいろいろと可愛がってもらっているので役得だと思う。どこのコミュニティでも、上の人間に可愛がられたもん勝ちなのだ。
怒りの火山を噴火させた哲平。俺は適当に宥めようと毛先だけうねってなっている黒髪をくしゃりと撫でた。
「大丈夫だって、俺世渡り上手な子だから」
「んなもん俺が一番知っとるわボケ!!こんの糞猫かぶりが!」
頭を撫でる俺の手をばしっと叩き落した哲平はぷりぷりと怒りながら「お前はいい加減すぎる」だの「もうちょっと常識っつーもんを…」だの。
いいじゃない、誰に迷惑かけてても自分がそれでいいなら、そりゃちょっと被害はうけるかもしれないけど、別に死ぬってわけじゃない。
ただちょっと自分の椅子にブーブークッションをしかけられるようなものだ。
そんな俺の考えに気づいた哲平は深くため息をつくと氷柱のように冷たく言い放った。
「お前なんか刺されてしまえ」
「…えー…」
くる、と踵をかえし席に戻る相手の背中を見つめながらこれは怒ったな、なんて考えてどう機嫌を取るかを考えなくてはと。
これでも同じ部屋で、なおかつ夕飯を自炊で作ってくれる哲平は貴重である。
「猫田君」
哲平の背中を見つめながらどうしようかと考えているとボーイソプラノの声に呼ばれる。
振り返った先に金髪の天使がいる事を予想して俺は柔らかく微笑んだ。
「どうしたの?見上君」
さてさて、仕事いってきます。